王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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カザンの決定

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 僕は杉山さんの事が好きで、恩人の彼を心から尊敬していた。

 でも、なんで今になって気付いたんだろう?

 僕は杉山さんの事が好きで、恩人の彼を心から尊敬している、けれど──

 僕は、僕は……

 春臣を選んだ。

 神の御前で春臣から指輪をはめられる時、ふと彼から『いいのか?』と小声で尋ねられ、僕はとてつもなく重い十字架を背負う覚悟をした。
「ゥナ……」
 今日、ここに杉山さんが来た事実は、僕が墓場まで持って行く。
 でも春臣と誓いのキスをした時、自分の意志に反して涙が溢れた。
 これは、何も知らない筈のエデンの涙だったんじゃないだろうか。
「悲しいのか?」
 厳かな式の最中なのに春臣が心配して僕の涙を手で拭ってくれた。
「ごめんなさい、感極まっちゃって」
「……そうか、疲れただろう、あと少しだから」
 春臣は僕の手を引いて退場をエスコートし、僕らは教会の出口で来場者達から祝福のライスシャワーを浴びた。

 無事に式を終え、僕らは夜の祝宴パーティーまで待機する事になり、自宅へと戻る。
「体調はどうだ?」
 春臣は僕を気遣い、手を取って寝室のベッドに座らせてくれた。
「うん、大丈夫……」
 体調はなんてことはなかったが、如何せん、身を突き刺す様な罪悪感で流石の僕も元気が出なかった。
「ドレスを脱がせるから」
「え?」
「変な意味じゃない。マタニティ仕様と言えど、ドレスは体を締め付けるだろ?疲れただろうから、楽な部屋着に着替えて横になれ」
 突然何を言い出すのかと思ったけど、普通に考えてそりゃそうか。身が入ってなくて全然何にも考えられなかった。
 杉山さんは今、何を思っているだろう?
 絶望?
 僕のせいでエデンを恨んでいるかもしれない。
 僕は抜け殻のまま春臣に着替えさせられ、気が付くと部屋着でベッドに寝かされていた。
「エデン」
 春臣はベッドに腰掛け、僕の乱れた髪を裏拳で撫でる様に整えてくれる。
「……ん?」
 改まって、どうしたんだろう?
「ありがとう。ごめんな」
「え?」
 その相反する言葉と春臣の切ない声音が普段とは違う雰囲気を醸していて、僕は頭を持ち上げかけたが、それを春臣にやんわり戻された。
「じゃあ、隣の部屋で仕事してるから、何かあったら呼んで」
「え、うん」
「ウナ?」
「ウ、ウナ」
 春臣に聞き返され、僕は納得せざるを得なかった。
 春臣が部屋を出た後、僕はムクッと起きて、ふらふらとクローゼットの引き出しから杉山さんの指輪を取り出す。
 僕の左手の薬指には春臣から貰ったダイヤの指輪がはめられていて、杉山さんから貰った指輪の居場所はもう無い様に思われた。
 杉山さんと完全に決別した事をエデンは知らない。春臣と結婚した今、エデンはこれをどうするだろう?
 少なくともこればっかりは僕が勝手に決められないよな。
 僕は薄暗い室内で間接照明に杉山さんの指輪を照らした。
「えっ?」
 指輪の内側で2つの煌めく物が弱々しい光を反射させる。
「内側にはエデンの瞳と同じ色のブルーダイヤが埋め込まれてるって言ってたのに……」
 その内側には件のブルーダイヤと、杉山さんの瞳の色をした薄い翠の宝石が身を寄せ合う様に並び、隣には『永遠に一緒に』と刻印が掘られていた。多分、子供が産まれたら、この指輪には3つ目の宝石が追加される事だろう。

 あぁ、僕は──

 3人の人間の人生を奪ったんだ。

 そう思った。
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