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オマケ

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 3日後のウナの泥抜きが終わったタイミングでカザンはキッチンに立ってアイスピックでウナの目打ちをした。
 ビクビクと飛び跳ね、息を引きとるウナ。俺はそれを見てカザンに狂気を感じる。
「よく、名前をつけた生き物を殺せるな」
「しかもそれを今から食べまーす」
 カザンが抑揚も無く答え、手際良くウナを捌いていく。
「動画配信者みたいに言うな」
「滋養の為だから。勿論、氷朱鷺の分もあるよ」
「え、せっかく捕まえたウナを、いいの?」
 しかもエデン(カザン)の久々の手料理、特別感があるじゃないか。
 俺は満更でもなかった。
「うん。鰻の生き血ー」
「毒あるじゃん」
 こいつ。
「肝は肝吸いにするとして、蒲焼きとウナゼリー、どっちが良い?」
 ウナ、ゼリー?
 咄嗟に画が浮かんだ。
「後者は止めた方がいい。絶対に」
「なんで?」
「嫌な予感がする」
 ここはやはりこの国の王道にしておいた方がいいだろう。
「ふーん、ワカッター」
 ほんとに解ってんのか?

 そんなこんなで巨大鰻の蒲焼きが完成した。
 見た感じは老舗の鰻重と相違ない。ただ通常の何人前分もあるので杵塚を呼んで急遽ウナパーティーを開催する事となった。
「土用の丑の日でもないのにどうされたんですか?」
 鰻重を前に杵塚が疑問に思うのも無理は無い。
「ウナの追悼パーティー、及び慰霊祭、鎮魂祭なんです」
 ダイニングテーブルの俺の隣、杵塚の真向かいに座ったカザンがニコニコしながら答えた。
「食べづらいわ」
 あの、ちょっとかわいいフォルムのあれが蒲焼きになって米に乗っているとは、それだけで食べづらいのに。
「ではいただきますか」
 カザンの号令で各々手を合わせ、鰻重に手をつける。
「お、旨い」
 一口食べると、味はあのお馴染みの蒲焼きの味で臭みは無く、食感は筋トレを頑張った鰻、という感じ。
「美味しいですね。一般的な鰻よりも少し鶏肉寄りですけど。しかもよくこんな綺麗に裁けましたね」
「ハジメテヤッター」
 カザンが米を口に掻き込みながら言った。
 いや、上手すぎだろ。
「捌くのは何でも得意だから」
『何でも』が地味に怖い。
「氷朱鷺は特に美味しく感じられるんじゃないかなあ」
 カザンが白々しく肘で俺の脇腹をつついた。
「何が?」
 こいつの藪から棒はいつだってコワい。
 俺は食べる手を止めて身構えた。

「エデンがウナニーしたウナを食べれてさあ」

 その後、その場が修羅場になった事は言うまでもない。
 そして真相は闇の中。俺は嘘つきな彼を信じたい。

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