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献上品狩り

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 あれから毎日、俺は例の切り株の所で殺し屋を待ったが、待てど暮らせど彼女は現れず、指輪の存在も相まってどんよりとした日々を送った。
 まさか指輪を贈った(?)相手と共に駆け落ちでもしたとか?
 それともシンプルに俺に会いたくなかった?
 なんかモヤモヤするな。真相がわからないだけに落ち着かない。
 これまで出会った事無い様な変な奴だったし、あれは幽霊か幻だったんじゃあないだろうかと考えていた所に現王の父から呼び出しがあり、俺は上階にある父の応接室に向かった。

「改まってお話とは、どうされたんですか?」
 父と俺は向き合って革張りのソファーに座り、よそよそしく会話を始める。
 親子の会話が応接室とは、不思議な家庭環境だ。
「もうすぐ即位式だったな?」
 まるで悪代官かマフィアのボスみたいなヒール顔の父が煙草に火を着けるタイミングでそう切り出した。
「そうですね」
 何となく話の議題が想像出来た。
「昨日、ヤサカから懐妊の知らせを受けた」
「へえ」
 初耳だ。
 ご世継ぎ問題に直結してくる話だったが、俺はどこか他人事の様にそれを聞いていた。
「性別はまだ判っていないが、男なら、ゆくゆくはこの国を背負っていく可能性もある」
 父はめでたい話題とは思えない程ため息じみた紫煙を吐く。
「そうなりますね」
「俺としては、第1王子のお前の息子にこの国を任せたいと思っている」
 またプレッシャーか。
 俺は産まれた頃からずっと、父からこんなプレッシャーを受けて育った。最近はそれに些か疲れてきている。
「それで、伴侶のメドは立っているのか?」
 この台詞なんかは耳にタコが出来るくらい言われ続けてきたものだ。
「まあ、それなりに」
 俺のこの返しだって今やテンプレート化している。
「いつもその調子で全く話が進んでいないじゃないか」
 父は苛立った様子で先っぽしか吸っていない煙草を八つ当たりするみたいに灰皿に押し付けた。
 そろそろこの言い訳も効かなくなってきたな。でも気が乗らないのだから仕方が無いじゃないか。
「そんな事は無いですよ」
 その場しのぎの弁解も苦しくなってきた。
「いいか、相手は誰でもいいから即位式までに婚約しろ」
 即位式まで1ヶ月をきってるじゃないか。絶体絶命、よもや王手か。
「はい」
 もはや潔く首を縦に振るしかなくなっていた。

「誰でもいいから、か」

 父との対談が終わり、俺は自室の書斎で1度も開く事の無かった献上品の資料を広げていた。
 上から順に顔写真とプロフィールを2、3枚眺めたところでふと殺し屋の顔が頭に浮かぶ。
 あいつ!
 そうだ、そう言えばあいつ、献上品じゃないか。
 認識はしていたが、献上品制度を利用する気がなかった為に殺し屋も婚約候補に入っている事をすっかり忘れていた。
 何故か俺の心が躍った。
「あいつ、名前はなんていうんだ?」
 名前がわからない為、俺は片っ端から資料の顔写真を確認していく。

「無いな」

 資料を2周したがそれらしい人物はいなかった。
「何で無いんだ?まさか登録されてないのか?」
 殺し屋が元調教師という事で調教師の登録書類を確認しようとも思ったが、調教師側の資料に顔写真は無い。
「それはそうか。かと言って今更他の者は考えられないし、どうしたもんか」
 暫く考えた後、俺は側近を呼んで共に女子の献上品フロアへと向かい、端から端まで一人一人献上品達の顔を確認していった。
「え、あの人が第1王子⁉」
「初めて見た」
「わ、男前」
 一瞬にして献上品フロアがそのように色めき立ち、見物人で溢れ返る。
「これで全員か?」
 俺が側近の矢本に確認すると、彼は老眼鏡を中指で押し上げながら『ここにいるのが全てですが?』と言った。
「どなたかお探しですか?」
「いや、いないならいい」
 もし殺し屋が不法に城に侵入していたとしたら、ここで俺が真相を語れば彼女が罰せられる可能性がある。
 7割ハッタリ、5割でまかせというのが真実味を帯びてきたな。
 あいつは一体、何者なんだ?
 何処に行ったら会える?
 本当に存在しているのか?
 疑心暗鬼のまま俺は年頃の使用人達を集め、そこでも殺し屋捜索を行ったが、やはりそれらしい人物はいなかった。

 それから月日は経ち、相変わらず殺し屋を発見する事は叶わず、とうとうトライアルをすっ飛ばし、献上の儀前日がきてしまった。
「春臣様、気が向かないのは分かりますが、今宵のお相手に1人、献上品をお選び下さい」
 書類整理の仕事中、矢本が何十枚もの木札を並べたお盆を持って俺に迫ってきた。木札には1枚につき1人の名前が記されており、俺がそれをひっくり返す事で夜伽の相手が決まる。俺はそれを1番取りやすかったという理由だけで手元の木札をひっくり返した。
「これでいい」
 こんな事で将来の王妃を決めるというのも気が引けたが、とにかく木札をひっくり返さない事には矢本も引かないだろうと付け焼き刃でそうしてしまった。それに気が合わなければまたこれを繰り返せばいいか、なんて惰性もあった。
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