王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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修羅場

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「エデン、何であんな事しちゃったの?」
 部屋に着くなり聞いてみた。
「何で邪魔したかって?」
 俺は黙って頷く。
「さあ、ヤキモチなんじゃあないですか?」
 エデンはベッドに腰掛けその長い脚を組む。俺はスリットから覗くエデンの太腿に生唾を飲んだ。
「まさか、エデンは俺にヤキモチなんか妬かない」
 言っていて悲しくなるレベルだ。
「恨まれるならまだしも?」
 エデンは俺に向けて軽くシャンパングラスを掲げ、その中身を一気に飲み干す。
「そうだね、認めるよ。その通りさ」
「あーぁ、お酒が無くなっちゃった」
 エデンは空になったグラスを高く掲げた後、それをベッドのサイドテーブルに置いた。
「何杯飲んだの?飲み過ぎじゃない?」
 顔は赤くないみたいだけど、開けっぴろげなところは酔っ払っているからか?
 エデンが酒を煽る姿は初めて見たけど割と開放的な性格になるらしい。
「さあ、でも気持ち悪くはないです。寧ろ目の前が回っていて楽しいくらいですよ」
 そう言ってエデンはそのまま後ろにゴロンと横たわった。
「酔っ払ってるじゃん」
 ヤサカを宥めに戻ろうにもエデンが心配で戻れない。
「水を持ってこようか?」
「まさか、王配様にそんなお手間おかけさせられ……おかけさせられ……られません?」
 エデンは呂律というより、頭が回っていない様だ。多分これ、明日になったら記憶を失っているパターンだな。
 そうしたら、もしかしたら……
 ワンチャンあるかもしれない、とか思うのは男のサガだ。
 いや、駄目だろ。
 でもスリットから覗く太腿が俺を誘っている様に見えて仕方が無い。
 流石に駄目だろ。
「──」
 俺が性欲と葛藤していると、エデンの方から微かに寝息の様なものが聞こえてきて、俺はベッドサイドに立ち、彼女の様子を確認する。
「エデン、寝たの?」
 ベッドに膝を乗り上げると沈んだ反動でエデンの顔が此方を向く。
 目は閉じてるし、深くて規則正しい呼吸をしている。やはりエデンは酔って寝落ちした様だ。きっと、酔っているから余程の事が無い限り起きない。
「エデン?」
 ほら、呼び掛けても起きない。
「エデン?」
 軽く肩をさすっても起きない。
 だったらもっと他の所も触ってみたい。
 エグいキスもしてみたい。
 エデンを舐めてみたい。舐めさせてみたい。
 それから──
 駄目だ。怒涛の如く欲望が噴出し、勝手に気分が盛り上がってしまう。
 駄目だ駄目だ。

 でも止められなかった。

 こんなチャンス、2度と無いと思ってしまったからだ。
 このままエデンを自分の物にして献上品から愛人に昇格させてしまったら良いんじゃないか?
 エデンだって、いずれは俺に囲われるんだ、寧ろ意識の無い時の方が不快感は少なくて済む。
 エデンに意識は無いけど、せめて気持ち良くしてあげれば彼女も体を許してくれる、かも?
 俺は試しにベッドに両手を着いてエデンにキスを試みる。彼女の顔の角度に合わせ、自分の唇を持っていく。
「……んっ」
 唇が触れるか触れないかの所でエデンにそれをかわされた。
 えっ、寝てるのに拒絶された気分だ。
 ちょっと傷付く。
「ぅーん……」
 魘されるエデンの顔が嫌そうな顔に見える。
 体勢的にキスは難しいか。
 それならと俺はエデンの首筋に舌を這わせ、そこに吸い付いて痕を残していく。
 エデンは俺の物だ、誰にも渡さない、そういう印を残したかった。
 エデンの形の良い胸を揉み、そこにもキスマークを残そうとしてある事に気付く──
「……はぁ、これは背中のチャックを開けないと脱がせられないタイプのドレスか」
 万が一、エデンを抱き起こしてチャックを開けて彼女が目覚めてしまったら、夢から覚めるのは俺の方だ。目覚められるのも、せめて挿入してしまってからでないと。
 俺は服の上からエデンの胸をついばみ、片手を彼女のスリットから差し込む。
 ヤバイ、興奮し過ぎて何かが張り裂けそうだ。血が沸騰しているのが分かる。悪い事をしている自覚はあるがドキドキする。
 忍ばせた片手を下着の上から割れ目に沿ってエデンの核心に触れようとした時、突如としてその手を彼女の内腿に挟まれた。
「コラコラ」
 エデンが俺の手を払い除けながら起き上がる。
「なんだ、起きたのか」
 至極ガッカリだ。
「色々と盛り上がっているところ悪いけど、意識の無い女性を抱くのは強姦じゃないですか?」
 エデンは俺を脇へ退かすと脚を組み直し、衣服の乱れを直した。
「忘れたの?エデンは俺の献上品だよ?今、献上の儀をしたっていいんだ」 
 俺は前髪をかき上げ、熱くなった吐息を吐き出す。
「献上の儀だなんて、私は既に処女じゃないのに、本当に形式を重んじているんですね」
「書類上での愛人昇格だなんてつまらないからね」
「酔って寝ている女性を襲うのは虚しくならないんですか?」
「俺は献上品時代から、寝ているエデンを襲いたくてずっと我慢していたから、逆にエキサイティングだったよ」
「エキサイティング、なるどね」
 エデンは俺の下半身を見て納得すると、それを汚い物でも見る様に睥睨した。
「でもそれを言うなら、起きている女性は襲ってもいいのかな?」
 俺が自分を抑え切れずにエデンの両肩を掴むと、彼女は拒むでもなくニヤッと意味深に笑った。
「止めた方がいいですよ?」
 そのタイミングでドアが激しくノックされ、エデンは2度程顎をしゃくって俺に出るよう促した。
「誰かな~?」
 この怒りのノックは恐らくヤサカだろうが、エデンは楽しそうに頬杖を着いている。
「そこで待ってて」
 俺は身なりを整え出入り口の鍵を開けると、ドアノブを捻る前に物凄い勢いでドアが開かれた。
「氷朱鷺っ!!」
 ヤサカが鬼の形相で飛び出し、俺の胸ぐらに掴み掛かる。
「遅いじゃないっ!!何してたの!!まさか形式上の献上品に手を出してたんじゃないでしょうね⁉」
 鬼の形相ではあるが、乱れきった髪やメイクを見るとまるで夜叉だ。
「そんな、介抱していただけです。まさか泥酔している女性を襲う訳ないでしょう?」
「そうですよ、ヤサカ様。氷朱鷺様は恩師に手を出す様な浮ついた方では──」
 ヤサカの後ろからひょっこり顔を出した杵塚だったが、俺の後方を見るなり顔色を青くする。
「随分と騒がれていますが、どうされたんですか?」
「えっ、エデン?」
 待っててって言ったのに、これはもうわざと出て来ただろ。確信犯じゃないか。
 ヤサカはエデンの首にある無数のキスマークを見るなり卒倒した。

 その後現場が修羅場になった事は言うまでもない。
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