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エデンという名の誰か
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エデンに杉山さんの死を告げてからというもの、彼女の雰囲気は何処と無く変わった。具体的に何処という訳でもないが、何か、こう、ずっと一緒に暮らしてきた自分だから解る違和感というものがあり、婚約者を失った状況下において『それ』はとても不自然に感じた。
「エデン、今日は何をしていたの?」
夕方、公務を早めに切り上げてエデンの部屋に入ると、彼女はブロックメモで折った大量のミニサイズの家に囲まれて体育座りをしていた。
「折り紙」
エデンは平然と立ち上がり、俺の上着を脱がし、それを壁のフックに掛けてくれる。
「約束の物は持って来てくれましたか?」
「ん?ああ、勿論」
俺は後方にいる杵塚に向かって手を差し出し、彼からナイロン袋を受け取ると、それをそのままエデンに手渡す。
「良かった。ありがとうございます」
エデンは袋の中のブロックメモを確認するなり口角を上げて俺の方を振り返った。
何がありがとうなのか?
これが毎日のルーティンになっている。
「ブロックメモでいいの?ちゃんとした折り紙ならいくらでも手配するよ?」
「これで慣れてますから」
『これ』と言ってエデンは袋から取り出したブロックメモでまた家を折り始める。この折り紙の家は四角い紙風船に三角折にした屋根が乗った簡易的な物だが、大量のブロックメモを使って作られた大量の家は足の踏み場も無い程日々生産されていく。俺がそれを毎日ゴミ袋に詰めて処分している。そして何故杵塚が処分せず、俺が直々に処分するのかと言うと、エデンがそれを許さないからだ。
ちょっとした狂気だな。
しかし不安定になった心を立て直す為には必要な事なのだろう。
俺はエデンが家を生産する脇でその家をせっせと片付ける。
毎日一生懸命作った物を捨てられても怒らないというのが不思議だ。
別に片付けやエデンの世話をするのは苦ではないし、寧ろ喜んでやるが、自分で彼女の精神を破壊した手前、ちょっと心配ではある。自殺防止の為に刃物やら紐の類は置いていないが、エデンにそういった兆候が全くと言っていい程無いのも逆に不自然というか、見守る俺としては複雑な心境だ。
「折り紙以外でやりたい事はないの?」
ある程度家を片付け、俺は折り紙に没頭するエデンの隣にしゃがみ込む。この時、エデンの背中を撫でても彼女は怒らない。何故なら折り紙に没頭しているから。それを良い事に俺はここぞとばかりに彼女の背中をさするのだ。
かわいいなあ。
華奢で、軟らかくて、温かい。エデンは杉山さんにしか心も体も許さなかったのに、戦場の虎と恐れられた彼女にこうもやすやすと触れるなんて夢みたいだ。エデンの変わりっぷりは心配だが、安心して彼女に触れるのは単純に嬉しい。何より嫌がられないのがまた堪らない。
しかし杉山さんもこんな気持ちだったのか、とか思うとやっぱり妬ける。
でも、まあ、子供がえりしたエデンを可愛がるのも良いかもしれない。
「今度、王室で社交パーティーがあるんですよね?」
エデンが家の屋根部分を爪で折りながら尋ねた。
「え、菖蒲さんから聞いたの?」
エデンの監視も兼ね、柳とコンビ解散した菖蒲を彼女の遊び相手に付けていたが、そこから情報が漏れたのか。
「うん。私も行ってみたい」
「え?」
なんで?
俺は驚きを隠せなかった。
「そういうタイプだったっけ?」
少なくとも俺の知るエデンは表舞台を嫌う人間だった。
「毎日同じ様なシャツを着て、ずっとここで折り紙を折るのも気が滅入るじゃないですか」
じゃあなんで折ってるの?
「いや、折り紙は止めて他の事をしてもいいんだよ?」
俺はエデンの背中をポンポンと優しく叩く。
しかしかわいいなあ。
「だから気晴らしに綺麗なドレスを着て社交パーティーを見てみたいんです」
極端だな。極端過ぎる。ゼロ百だ。
日の当たらない場所でこんな事ばかり続けていた反動なのか?
「そうだな、エデンのドレス姿は見てみたいんだけど……」
社交パーティーに愛人が出席するのは珍しくはないが、いかんせん嫉妬深い正妻の目がある。俺に対するヤサカの風当たりが強くなるのは良いが、あれがエデンに嫌がらせしないとも限らない。
「お願いです。少しだけ」
エデンがやっと俺と目を合わせてくれたかと思うと、両手を合わせて俺に懇願してきた。
ここでドキドキしてしまう自分が情けない。
「いいよ。でも端っこの方で、少しだけだよ?」
「良かった。ありがとうございます」
エデンの機嫌が良さそうなので試しに彼女の頭を撫でてみると、それは意外とあっさり受け入れられ、それどころか擦り寄ってくる様な印象さえあった。
ドキドキする。
杉山さんの事があってまだ間もないから我慢しているが、杵塚がいなかったらどうなっていたか解らない。
エデンはまだ献上の儀もしていないし、自分を戒める為にも杵塚の同伴は欠かせない。彼は俺の性欲の抑止力だ。
それに何より、ここまでエデンを追い込んでおいてなんだが、そういった事で彼女を怖がらせたくない。少しずつ、着実に俺に慣らしていかないと。
「何色で、どんなドレスが良い?」
エデンならきっと何を着ても似合う。俺の好みとしては深くスリットの入ったタイトなやつだけど、エデンには人前でそれを着てほしくない。
「赤で、胸がざっくり開いたやつ」
1番意外な答え。
「え、それはちょっと」
俺は苦笑いした。
自分は見たいけれど、他の男の目には絶対触れさせたくない格好だ。
人前に出るならなるべく目立たない、大人しくて上品な物が良い。その方がエデンにも似合う気がする。
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ、エデンが他の男に性的な目で見られたくないし、俺自身も目のやり場に困るから」
そんなに純粋な目で見つめられると邪な身としてはなんだか答え辛い。
「目のやり場ですか、じゃあ、ワンピースで黒のタイト」
「え、タイトなの?」
人前でエデンの体のラインが出るのは嫌だな。
「私も大人ですから、可愛らしいAラインのドレスは似合わないんですよ。菖蒲も、エデンは骨格ウェーブだからタイトなのが似合うって」
「えぇ……」
エデンに菖蒲を付けたのは悪影響だったか。
けど、これくらいなら──
エデンに塞ぎ込まれるよりは全然良い。
「仕方無いな」
「ありがとうございます」
エデンは自分から頼み込んだ割にあまり感情を感じられない笑顔で返してきた。
「それからミクに会わせてもらってもいいですか?」
「ミク?」
あまり仲の良い感じではなかったのに?
「妹ですから。元気にしているか気になって」
家族思いのエデンの事、当然と言えば当然の申し出か。
「いいよ。じゃあ、もう家を作るのは止めてご飯にしよう。それが済んだらミクに会わせてあげる」
「はい」
エデンは俺の言葉を合図にパタリと折り紙を止め、ダイニングテーブルに着くと、杵塚から渡された箸を構え、食事が配膳されるのを今か今かと待っている。
この間から随分と食に前のめりなんだよな。
「カルボナーラが食べたいって言ってたよね?」
杵塚が手配していたカルボナーラを俺の手からエデンに渡す。
「うん、カルボナーラ、ピザ、ピロシキ、水餃子、カルビ、ユッケ、かりんとう──」
エデンはぶつくさと独り言を言いながら子供みたいにカルボナーラを頬張る。
「え、ちょちょちょちょちょ、増え過ぎだし、それだとファットになっちゃうよ?」
この食欲、心配になるレベルだ。そして調教師までしていた人とは思えぬ礼儀作法。本当に子供がえりでもしたのか?
「どうせ太らないし」
エデンはモグモグとハムスターみたいにカルボナーラにがっついている。
絵に描いた様な食いしん坊だな。まるで何日もご飯を食べていなかったみたいだ。毎日3食、おやつまで与えているのに余程お腹が空いていたのか?
育ちの割に普段は上品なのに、こんなエデン初めてだ。
「太らないの?」
「太らない」
断言した。
「奥歯が無いのにかりんとうとか」
「砕いて食べる」
「それはかりんとうじゃなくて粉だよ」
ほぼ黒糖だろ。
エデンはあまり甘過ぎる物を好まないのに、食の好みもガランと変わった。性格も無鉄砲で奔放、更に破天荒だ。真逆と言っても過言ではない。
別にエデンはエデンだから嫌いじゃないけど、困惑はするよな。
「あぁ、そうそう、あれは家じゃないですよ」
エデンはカルボナーラのベーコンだけを次々フォークに刺していく。
子供っぽい食べ方だ。いつものエデンなら淡々とロボットみたいに栄養補給するのに。
「家じゃないの?」
「犬小屋です」
エデンはフォークに纏めたベーコンを天を仰ぐ様に食べた。
これは調教し直さないと駄目じゃないか?
菖蒲に任せて良いものか?
「なんであんなに犬小屋ばかり作るの?たまには鶴でも折ったら?」
あの犬小屋に対する執着は異常じゃないか?
「鶴なんか作って何の意味があるんですか?」
エデンはフォークの先でカンカンと皿をつついた。
「犬小屋には意味が?」
「…………………無いですよ」
長い沈黙と真顔の後、エデンは小声でそう言い放った。
「?」
その後エデンは早急にカルボナーラとデザートのプリンを平らげ、ミクとの面会に向かう。
「エデン、本当に大丈夫?ミクは思春期ど真ん中で反抗期でもあるから──」
俺はミクの部屋の前に立ったエデンに注意を促した。
無理して(?)会う事もないんじゃないかな?
ミクの、エデンに対する態度はあまり褒められたものじゃなかった。エデンが傷つけられるだけなんじゃないだろうか?
「大丈夫大丈夫、姉妹なんですから、熱い抱擁でも交わしますよ。お二人はここで待っていて下さい」
そう言うとエデンは俺と杵塚を置いてさっさと部屋に入って行ってしまった。
「大丈夫かなあ……」
「エデン様は冷静な方ですから、大丈夫ですよ」
「まあ、それもそうか」
エデンはただでさえメンタルが崩壊しているのに、これ以上打ちのめされないといいけど。
──そんな心配をよそに、暫くするとドアの向こうからドタバタと大きな物音が聞こえてきた。
「随分お元気ですが、兄弟喧嘩でもしているのでしょうか……?」
流石の杵塚もタジタジする程、中の様子は賑やかだ。
「ミクが暴れて物でも投げてるんじゃあ──」
そう思った時、中から微かに悲鳴が聞こえてきた。
「助けてっ‼殺されるっ‼」
──と。
しかしそれはエデンの悲鳴ではなく、ミクのものだった。
「エデン、今日は何をしていたの?」
夕方、公務を早めに切り上げてエデンの部屋に入ると、彼女はブロックメモで折った大量のミニサイズの家に囲まれて体育座りをしていた。
「折り紙」
エデンは平然と立ち上がり、俺の上着を脱がし、それを壁のフックに掛けてくれる。
「約束の物は持って来てくれましたか?」
「ん?ああ、勿論」
俺は後方にいる杵塚に向かって手を差し出し、彼からナイロン袋を受け取ると、それをそのままエデンに手渡す。
「良かった。ありがとうございます」
エデンは袋の中のブロックメモを確認するなり口角を上げて俺の方を振り返った。
何がありがとうなのか?
これが毎日のルーティンになっている。
「ブロックメモでいいの?ちゃんとした折り紙ならいくらでも手配するよ?」
「これで慣れてますから」
『これ』と言ってエデンは袋から取り出したブロックメモでまた家を折り始める。この折り紙の家は四角い紙風船に三角折にした屋根が乗った簡易的な物だが、大量のブロックメモを使って作られた大量の家は足の踏み場も無い程日々生産されていく。俺がそれを毎日ゴミ袋に詰めて処分している。そして何故杵塚が処分せず、俺が直々に処分するのかと言うと、エデンがそれを許さないからだ。
ちょっとした狂気だな。
しかし不安定になった心を立て直す為には必要な事なのだろう。
俺はエデンが家を生産する脇でその家をせっせと片付ける。
毎日一生懸命作った物を捨てられても怒らないというのが不思議だ。
別に片付けやエデンの世話をするのは苦ではないし、寧ろ喜んでやるが、自分で彼女の精神を破壊した手前、ちょっと心配ではある。自殺防止の為に刃物やら紐の類は置いていないが、エデンにそういった兆候が全くと言っていい程無いのも逆に不自然というか、見守る俺としては複雑な心境だ。
「折り紙以外でやりたい事はないの?」
ある程度家を片付け、俺は折り紙に没頭するエデンの隣にしゃがみ込む。この時、エデンの背中を撫でても彼女は怒らない。何故なら折り紙に没頭しているから。それを良い事に俺はここぞとばかりに彼女の背中をさするのだ。
かわいいなあ。
華奢で、軟らかくて、温かい。エデンは杉山さんにしか心も体も許さなかったのに、戦場の虎と恐れられた彼女にこうもやすやすと触れるなんて夢みたいだ。エデンの変わりっぷりは心配だが、安心して彼女に触れるのは単純に嬉しい。何より嫌がられないのがまた堪らない。
しかし杉山さんもこんな気持ちだったのか、とか思うとやっぱり妬ける。
でも、まあ、子供がえりしたエデンを可愛がるのも良いかもしれない。
「今度、王室で社交パーティーがあるんですよね?」
エデンが家の屋根部分を爪で折りながら尋ねた。
「え、菖蒲さんから聞いたの?」
エデンの監視も兼ね、柳とコンビ解散した菖蒲を彼女の遊び相手に付けていたが、そこから情報が漏れたのか。
「うん。私も行ってみたい」
「え?」
なんで?
俺は驚きを隠せなかった。
「そういうタイプだったっけ?」
少なくとも俺の知るエデンは表舞台を嫌う人間だった。
「毎日同じ様なシャツを着て、ずっとここで折り紙を折るのも気が滅入るじゃないですか」
じゃあなんで折ってるの?
「いや、折り紙は止めて他の事をしてもいいんだよ?」
俺はエデンの背中をポンポンと優しく叩く。
しかしかわいいなあ。
「だから気晴らしに綺麗なドレスを着て社交パーティーを見てみたいんです」
極端だな。極端過ぎる。ゼロ百だ。
日の当たらない場所でこんな事ばかり続けていた反動なのか?
「そうだな、エデンのドレス姿は見てみたいんだけど……」
社交パーティーに愛人が出席するのは珍しくはないが、いかんせん嫉妬深い正妻の目がある。俺に対するヤサカの風当たりが強くなるのは良いが、あれがエデンに嫌がらせしないとも限らない。
「お願いです。少しだけ」
エデンがやっと俺と目を合わせてくれたかと思うと、両手を合わせて俺に懇願してきた。
ここでドキドキしてしまう自分が情けない。
「いいよ。でも端っこの方で、少しだけだよ?」
「良かった。ありがとうございます」
エデンの機嫌が良さそうなので試しに彼女の頭を撫でてみると、それは意外とあっさり受け入れられ、それどころか擦り寄ってくる様な印象さえあった。
ドキドキする。
杉山さんの事があってまだ間もないから我慢しているが、杵塚がいなかったらどうなっていたか解らない。
エデンはまだ献上の儀もしていないし、自分を戒める為にも杵塚の同伴は欠かせない。彼は俺の性欲の抑止力だ。
それに何より、ここまでエデンを追い込んでおいてなんだが、そういった事で彼女を怖がらせたくない。少しずつ、着実に俺に慣らしていかないと。
「何色で、どんなドレスが良い?」
エデンならきっと何を着ても似合う。俺の好みとしては深くスリットの入ったタイトなやつだけど、エデンには人前でそれを着てほしくない。
「赤で、胸がざっくり開いたやつ」
1番意外な答え。
「え、それはちょっと」
俺は苦笑いした。
自分は見たいけれど、他の男の目には絶対触れさせたくない格好だ。
人前に出るならなるべく目立たない、大人しくて上品な物が良い。その方がエデンにも似合う気がする。
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ、エデンが他の男に性的な目で見られたくないし、俺自身も目のやり場に困るから」
そんなに純粋な目で見つめられると邪な身としてはなんだか答え辛い。
「目のやり場ですか、じゃあ、ワンピースで黒のタイト」
「え、タイトなの?」
人前でエデンの体のラインが出るのは嫌だな。
「私も大人ですから、可愛らしいAラインのドレスは似合わないんですよ。菖蒲も、エデンは骨格ウェーブだからタイトなのが似合うって」
「えぇ……」
エデンに菖蒲を付けたのは悪影響だったか。
けど、これくらいなら──
エデンに塞ぎ込まれるよりは全然良い。
「仕方無いな」
「ありがとうございます」
エデンは自分から頼み込んだ割にあまり感情を感じられない笑顔で返してきた。
「それからミクに会わせてもらってもいいですか?」
「ミク?」
あまり仲の良い感じではなかったのに?
「妹ですから。元気にしているか気になって」
家族思いのエデンの事、当然と言えば当然の申し出か。
「いいよ。じゃあ、もう家を作るのは止めてご飯にしよう。それが済んだらミクに会わせてあげる」
「はい」
エデンは俺の言葉を合図にパタリと折り紙を止め、ダイニングテーブルに着くと、杵塚から渡された箸を構え、食事が配膳されるのを今か今かと待っている。
この間から随分と食に前のめりなんだよな。
「カルボナーラが食べたいって言ってたよね?」
杵塚が手配していたカルボナーラを俺の手からエデンに渡す。
「うん、カルボナーラ、ピザ、ピロシキ、水餃子、カルビ、ユッケ、かりんとう──」
エデンはぶつくさと独り言を言いながら子供みたいにカルボナーラを頬張る。
「え、ちょちょちょちょちょ、増え過ぎだし、それだとファットになっちゃうよ?」
この食欲、心配になるレベルだ。そして調教師までしていた人とは思えぬ礼儀作法。本当に子供がえりでもしたのか?
「どうせ太らないし」
エデンはモグモグとハムスターみたいにカルボナーラにがっついている。
絵に描いた様な食いしん坊だな。まるで何日もご飯を食べていなかったみたいだ。毎日3食、おやつまで与えているのに余程お腹が空いていたのか?
育ちの割に普段は上品なのに、こんなエデン初めてだ。
「太らないの?」
「太らない」
断言した。
「奥歯が無いのにかりんとうとか」
「砕いて食べる」
「それはかりんとうじゃなくて粉だよ」
ほぼ黒糖だろ。
エデンはあまり甘過ぎる物を好まないのに、食の好みもガランと変わった。性格も無鉄砲で奔放、更に破天荒だ。真逆と言っても過言ではない。
別にエデンはエデンだから嫌いじゃないけど、困惑はするよな。
「あぁ、そうそう、あれは家じゃないですよ」
エデンはカルボナーラのベーコンだけを次々フォークに刺していく。
子供っぽい食べ方だ。いつものエデンなら淡々とロボットみたいに栄養補給するのに。
「家じゃないの?」
「犬小屋です」
エデンはフォークに纏めたベーコンを天を仰ぐ様に食べた。
これは調教し直さないと駄目じゃないか?
菖蒲に任せて良いものか?
「なんであんなに犬小屋ばかり作るの?たまには鶴でも折ったら?」
あの犬小屋に対する執着は異常じゃないか?
「鶴なんか作って何の意味があるんですか?」
エデンはフォークの先でカンカンと皿をつついた。
「犬小屋には意味が?」
「…………………無いですよ」
長い沈黙と真顔の後、エデンは小声でそう言い放った。
「?」
その後エデンは早急にカルボナーラとデザートのプリンを平らげ、ミクとの面会に向かう。
「エデン、本当に大丈夫?ミクは思春期ど真ん中で反抗期でもあるから──」
俺はミクの部屋の前に立ったエデンに注意を促した。
無理して(?)会う事もないんじゃないかな?
ミクの、エデンに対する態度はあまり褒められたものじゃなかった。エデンが傷つけられるだけなんじゃないだろうか?
「大丈夫大丈夫、姉妹なんですから、熱い抱擁でも交わしますよ。お二人はここで待っていて下さい」
そう言うとエデンは俺と杵塚を置いてさっさと部屋に入って行ってしまった。
「大丈夫かなあ……」
「エデン様は冷静な方ですから、大丈夫ですよ」
「まあ、それもそうか」
エデンはただでさえメンタルが崩壊しているのに、これ以上打ちのめされないといいけど。
──そんな心配をよそに、暫くするとドアの向こうからドタバタと大きな物音が聞こえてきた。
「随分お元気ですが、兄弟喧嘩でもしているのでしょうか……?」
流石の杵塚もタジタジする程、中の様子は賑やかだ。
「ミクが暴れて物でも投げてるんじゃあ──」
そう思った時、中から微かに悲鳴が聞こえてきた。
「助けてっ‼殺されるっ‼」
──と。
しかしそれはエデンの悲鳴ではなく、ミクのものだった。
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