On my deathbed 〜せめて妻と子に看取られて~

弓月下弦

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俺の人生

皺がれた手

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夜の公園は街灯のオレンジ色に照らされていて中の様子がよく分かった。比較的小さめの公園で、遊具はブランコ、滑り台、砂場、鉄棒が設置されていた。とりあえず滑り台に座ると深い溜息をついた。

「はぁぁぁ…」

俺の身体を乗せたブランコはため息の反動で少し揺れた。

(キーキーキー)

他に物音ひとつしない公園内にブランコの虚しい音が響き渡った。どうやら今夜はここで過ごさなくてはいけないらしい…これから先もこんな感じで生きていかなくてはいけないのだろうか…いや…そんなはずはない、有り得ない、やはりこれは夢で、目が覚めて、元の世界に戻れているはずだ。だって今の自分は他人なのだから…こんな数奇なことが現実に起こる訳がない、もしこれが本当なら、元の俺は今どこに居るんだ?今まで暮らしてきた世界はどこに行っちまったんだ?妻は?雅史は無事なのか?まさか全て消えたってことないよな…

数十分間、ブランコを無心に漕いだ俺は、眠くなったので横になろうと仕方なく、ベンチへ向かった。ベンチの板はひんやりと冷たく、老体の俺には地獄のようだった。とてもではないが、こんなところでは眠れない…しかし、しばらく横たわっていると自然に瞼が下がっていき、意識が遠のいていった。

はっと意識が戻って目を開けると、既にあたりは薄明るくなっていた。公園の時計台は朝の六時を指していた。

「嘘だろ…」

俺は公園にまだいるのか…手を改めて見るとそこには皺がれた老人の手があった。俺はもうこの身体で一生過ごさなくてはいけないのだろうか…もう終わりだ…

―グルルルル

腹の中からものすごい音がして、全身が細かく震えた。腹が空き過ぎて、気持ち悪くなった。ここまで空腹になったのは生まれて初めてである。このままだと死にそうだったので俺はひとまず食べ物を買いに出かけた。
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