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私の人生
私は今、過去にいる
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―黒の視界が赤に変わった。
瞼を再び開けると、そこはどこかのレストランであった。床は大理石で、天井には豪華なシャンデリアがいくつかぶら下がっていた。テーブルには赤ワインとグラタンが二つずつ置かれている。私には訳が分からなかった。何故、駅前のベンチの下からこんな豪華なレストランに移動しているのだ?私は夢を見ているのか?大体、目の前に居る短髪で黒縁メガネの二十代後半らしき男は誰だ?
「雄二、今日はお前に話があって、ここに呼んだんだ」
この声…どっかで聞いたことがあるような…因みに雄二とは私の名前である。
「あ…え?」
状況が全く掴めない私は首を傾げた。七十五歳の私の脳は今にも故障しそうである。
すると突然その男は頭を下げてこう言った。
「頼む。俺の借金の保証人になってくれ」
借金の保証人…まさか…こいつって…
「正蔵?お前なのか」
「は?」
正蔵は目を丸くした。
「正蔵!お前のせいで!」
無意識に怒りがこみ上げた私は彼に掴みかかった。席を立ってから、私は自分の体の異変に気が付いた。体が妙に軽いのだ。まるで若返ったかのように…
「どどど、どうしたんだよ。雄二、いきなり…」
正蔵の肩から手を離した私は、自分の手をまじまじと見てみる。その手は皺だらけの手のひらではなく、二十代のハリのある手のひらだった。そこで私は確信した。
ここはあの日、私が借金の保証人にさせられた日だと…
でもいったいどうやって?これは現実に起こっていることなのか、だとしたら…
「いや、今のことは気にしないでくれ」
私は、一旦落ち着いてみることにした。過去に戻ったという事は、もしかしたら未来を変えられるかもしれない、しかも、借金の保証人になった日に戻ったということは、断りさえすれば借金を免れる。私は神様に見捨てられていなかった…ああ神よ、ありがたや、ありがたや…
改めて周囲を見渡すと他の客が私のことをじっと見ている…私がいきなり怒鳴りだし、正蔵に掴みかかったからだろう…
「お前、大丈夫か?正気か」
「すまない、きっとこのワインのせいだよ」
私はとっさにワインのせいにした。
「…でもお前、まだ一口もそれ飲んでないだろう?」
しまった。まだ私はワインを飲んでいないのか、
「冗談だよ、冗談。ところで借金の保証人って…」
「まったく、驚かせるなよな…実は、俺もお前みたいに自分の会社を設立しようと思っているんだ。でも、そのための資金が足りなくて…借金をしようと思って…」
正直、私が正蔵を驚かせたというより、彼の依頼内容の方が千倍驚きだ。大体、大会社で働いているのに何故自分の会社が欲しいのだろうか…人間の欲は計り知れないものである。
「やめとけ…借金なんてしたらもう終わりだぞ、なにせお前が今借りようとしているところは闇…」
『闇金』と言いかけて私は慌てて口を噤んだ。どうやら私は過去に戻っているらしかった。ということは、軽々と話すと、色々とまずい気がする。大体信じてもらえるはずがない。
「とにかく、借金なんてするな。私は借金をして散々な目にあった奴をよく知っている」
もちろん自分のことだ。
瞼を再び開けると、そこはどこかのレストランであった。床は大理石で、天井には豪華なシャンデリアがいくつかぶら下がっていた。テーブルには赤ワインとグラタンが二つずつ置かれている。私には訳が分からなかった。何故、駅前のベンチの下からこんな豪華なレストランに移動しているのだ?私は夢を見ているのか?大体、目の前に居る短髪で黒縁メガネの二十代後半らしき男は誰だ?
「雄二、今日はお前に話があって、ここに呼んだんだ」
この声…どっかで聞いたことがあるような…因みに雄二とは私の名前である。
「あ…え?」
状況が全く掴めない私は首を傾げた。七十五歳の私の脳は今にも故障しそうである。
すると突然その男は頭を下げてこう言った。
「頼む。俺の借金の保証人になってくれ」
借金の保証人…まさか…こいつって…
「正蔵?お前なのか」
「は?」
正蔵は目を丸くした。
「正蔵!お前のせいで!」
無意識に怒りがこみ上げた私は彼に掴みかかった。席を立ってから、私は自分の体の異変に気が付いた。体が妙に軽いのだ。まるで若返ったかのように…
「どどど、どうしたんだよ。雄二、いきなり…」
正蔵の肩から手を離した私は、自分の手をまじまじと見てみる。その手は皺だらけの手のひらではなく、二十代のハリのある手のひらだった。そこで私は確信した。
ここはあの日、私が借金の保証人にさせられた日だと…
でもいったいどうやって?これは現実に起こっていることなのか、だとしたら…
「いや、今のことは気にしないでくれ」
私は、一旦落ち着いてみることにした。過去に戻ったという事は、もしかしたら未来を変えられるかもしれない、しかも、借金の保証人になった日に戻ったということは、断りさえすれば借金を免れる。私は神様に見捨てられていなかった…ああ神よ、ありがたや、ありがたや…
改めて周囲を見渡すと他の客が私のことをじっと見ている…私がいきなり怒鳴りだし、正蔵に掴みかかったからだろう…
「お前、大丈夫か?正気か」
「すまない、きっとこのワインのせいだよ」
私はとっさにワインのせいにした。
「…でもお前、まだ一口もそれ飲んでないだろう?」
しまった。まだ私はワインを飲んでいないのか、
「冗談だよ、冗談。ところで借金の保証人って…」
「まったく、驚かせるなよな…実は、俺もお前みたいに自分の会社を設立しようと思っているんだ。でも、そのための資金が足りなくて…借金をしようと思って…」
正直、私が正蔵を驚かせたというより、彼の依頼内容の方が千倍驚きだ。大体、大会社で働いているのに何故自分の会社が欲しいのだろうか…人間の欲は計り知れないものである。
「やめとけ…借金なんてしたらもう終わりだぞ、なにせお前が今借りようとしているところは闇…」
『闇金』と言いかけて私は慌てて口を噤んだ。どうやら私は過去に戻っているらしかった。ということは、軽々と話すと、色々とまずい気がする。大体信じてもらえるはずがない。
「とにかく、借金なんてするな。私は借金をして散々な目にあった奴をよく知っている」
もちろん自分のことだ。
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