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【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実
罪多き悪魔
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「どうですか、これがあなたから奪っていた記憶の全てです」
真雛はそう言うと、蒼の額から手を離した。
「真雛様…あなたはあの時の雀だったのですね」
「そうです」
「そうか、俺はこの世に居てはいけない人間なんだね」
「私のせいでこんなことに…」
「真雛様のせいじゃないさ」
全てを思い出した蒼は驚く程冷静だった。
「どうだ蒼?俺と一緒に真雛を倒して、浄罪師にならないか?」
灯蛾は、蒼の耳元に近寄ると、小声でそう言った。
「俺はそこまでして生き残りたいとは思わないよ」
「どうしてだ?蒼…お前はこのままだと二度と生まれ変われないんだぞ?」
信じられないと言った表情で蒼を見る灯蛾を蒼は軽くあしらう。
「最後まで、人間でいたいんだ」
「なんだと?」
蒼は灯蛾を睨みつけると、地面に転がっていた刀を拾った。
「灯蛾、俺はお前を倒せるかもしれない。この刀では無理でも俺はお前の息の根を止める」
「ダメです…蒼…そんなことをしたら完全に魂が…」
「もう遅いですよ、真雛様。俺の魂はあの時に終わったのです」
「そんな…」
蒼は間髪入れずに、灯蛾に刀を向けて襲いかかる。
「俺を殺す気か」
「お前は俺の母親も殺した。殺す理由はそれで十分だ」
「ふん、まあ良い」
灯蛾も剣を持つ手に力を込め、蒼に襲いかかる。
刀と剣が交差する音が耳に響く。金属の擦れる音は、非常に不快な音を奏でた。
両者とも対等な力で、なかなか決着が付かない…
全ての記憶を手にした蒼は、Sランク使徒の技を完全に取り戻していた。
灯蛾が放つ炎の渦も蒼は軽々と蹴散らす。
まるで灯蛾の動きを全て読んでいるかのような蒼は、徐々に灯蛾を追い詰めていく。
「懐かしいな、蒼…まるで昔のお前の動きだ」
「お前もな」
蒼は刀で灯蛾の剣を取り払うと、直ぐに刀を目の前に充てがった。灯蛾の赤い目が刃先を見つめる。
「どうした…俺を殺せよ…」
しかし、蒼の刀はそれ以上前に進まない。灯蛾との記憶が蒼の手を止めていた。
「どうしてかな、手が動かないんだ…」
すると、灯蛾が蒼に向かって飛び込んできた。慌てて刀の刃を逸らそうとするが、間に合わず、灯蛾の首
筋に深く突き刺さった。蒼の手首に生ぬるい液体が流れ落ちる。
「…あ…ああ」
灯蛾は苦しそうに首を抑えると、その場に崩れ落ちた。
すると、倒れた灯蛾の後ろから、思いもしなかった人物が現れて、蒼は言葉を失う。
「鞍月くん。気づかせてくれてありがとう」
そう言って微笑んだのは拝島であった。どうやら、拝島が灯蛾の背中を押したようだ。
「どうして、拝島がここに…」
「僕、気がついたんだ。自分がヘレティックなんかじゃないってことに」
「…拝島」
「兄さんは事故なんかじゃなかった。白羽から全て聞いたよ」
拝島は白羽から、自分のせいで事故死したと思っていた兄は他殺だったと告げられたようだ。
「拝島。お前、とうとう気がついたのか…」
灯蛾は血の滴る首筋を抑えながら、拝島を睨みつける。その瞳は赤黒く濁っていて、人間とは思えない奇
怪さを放っていた。
血だらけでも不気味な表情で笑っている灯蛾は掠れた声でこう言った。
「でもまぁ…ちょうど良い所に来た」
灯蛾の言った言葉の意味が全く分からない蒼と拝島は瞬時に身構える。
「どういう意味だ…灯蛾」
「お前たちでは、俺は殺せない…」
そう言った直後、灯蛾の体が大きく痙攣し始め、赤黒い瞳は鮮やかな紅に変化した。
「な…何が起きているんだ」
蒼は後ずさりながら、様子が明らかにおかしい灯蛾を見つめる。
痙攣していた灯蛾の体は、一瞬停止し、その後すぐに大きく膨張し始めた。まるで体内から細胞が急速に
分裂を起こしているかのように、ボコボコと不規則に肉体が膨れ上がっていくのである。その異常な光景
に、二人は硬直した。
「俺ハ、ダレにも殺せナイ…」
その声は人間のモノでは無かった。聞きづらく、壊れたロボットが発する異常音に近かった。
すると、灯蛾の背中が大きく盛り上がって、中から赤黒い羽のようなものが生えだした。その羽は脊椎動
物が持つような羽ではなく、どちらかと言えば、昆虫が持つそれに近かった。薄く伸びた羽に血管のよう
な線が伸びており、先端は鋭く尖っている。あれで突き刺されたら一瞬にして終わりであろう。
「灯蛾…とうとう人間を捨てたのですね」
後ろから真雛がそう言いながら近づいてきた。蒼と拝島は動揺してただ変わりゆく灯蛾の体を見ることし
か出来無い。
「人間を捨てた?」
「もう数え切れない程の罪が重なっていた灯蛾は、いつ悪魔化が起きてもおかしくない状態でした」
「悪魔化…」
「恐らく、首筋に与えた致命傷が、引き金になったのでしょう」
拝島は己の手を見つめながら、震えだした。
「僕が原因なのか…」
「こうなることは決まっていました。もう灯蛾を本当に倒すしか選択肢がありませぬ」
「あれを…倒すってのかよ」
人間の数十倍以上の大きさになった灯蛾を見上げて、蒼は茫然と立ち尽くした。
「我も共に戦います」
真雛はそう言うと、右腕を前に突き出した。真雛の手からバリアが張られ、そのまま三人を包み込んだ。
バリアが完全に張られた直後、悪魔化した灯蛾の口から大量の粘液が吐き出された。深緑色のその液体は
粘り気が強く、バリアに当たった瞬間にボタボタと音を立てながら地面に落ちていった。
「うわ…なんだこの液体は」
「高酸度の胃液だと考えられます。人間の皮膚に触れた途端、骨まで溶かすでしょう」
真雛は両手でバリアを貼り続けながら、蒼白している蒼にさらりと言った。
「冗談きついな…」
液体を吐き出した灯蛾は、こちらが無事であるということを確認すると、獣のような巨体を走れせて突進
してきた。所々硬い甲羅で覆われた皮膚は、走る度に金属が擦れた時のような不快音が響いた。甲羅の隙
間から見えた彼の皮膚は蛆に犯されていて、腐った血肉の塊のようだった。
「真雛様!このままだと直撃します!」
叫ぶ蒼とは対象的に真雛は冷静な声で、
「バリアは直ぐには解けませぬ、解けた時は頼みましたよ」
真雛はそう言うと、蒼を見て微笑んだ…
真雛はそう言うと、蒼の額から手を離した。
「真雛様…あなたはあの時の雀だったのですね」
「そうです」
「そうか、俺はこの世に居てはいけない人間なんだね」
「私のせいでこんなことに…」
「真雛様のせいじゃないさ」
全てを思い出した蒼は驚く程冷静だった。
「どうだ蒼?俺と一緒に真雛を倒して、浄罪師にならないか?」
灯蛾は、蒼の耳元に近寄ると、小声でそう言った。
「俺はそこまでして生き残りたいとは思わないよ」
「どうしてだ?蒼…お前はこのままだと二度と生まれ変われないんだぞ?」
信じられないと言った表情で蒼を見る灯蛾を蒼は軽くあしらう。
「最後まで、人間でいたいんだ」
「なんだと?」
蒼は灯蛾を睨みつけると、地面に転がっていた刀を拾った。
「灯蛾、俺はお前を倒せるかもしれない。この刀では無理でも俺はお前の息の根を止める」
「ダメです…蒼…そんなことをしたら完全に魂が…」
「もう遅いですよ、真雛様。俺の魂はあの時に終わったのです」
「そんな…」
蒼は間髪入れずに、灯蛾に刀を向けて襲いかかる。
「俺を殺す気か」
「お前は俺の母親も殺した。殺す理由はそれで十分だ」
「ふん、まあ良い」
灯蛾も剣を持つ手に力を込め、蒼に襲いかかる。
刀と剣が交差する音が耳に響く。金属の擦れる音は、非常に不快な音を奏でた。
両者とも対等な力で、なかなか決着が付かない…
全ての記憶を手にした蒼は、Sランク使徒の技を完全に取り戻していた。
灯蛾が放つ炎の渦も蒼は軽々と蹴散らす。
まるで灯蛾の動きを全て読んでいるかのような蒼は、徐々に灯蛾を追い詰めていく。
「懐かしいな、蒼…まるで昔のお前の動きだ」
「お前もな」
蒼は刀で灯蛾の剣を取り払うと、直ぐに刀を目の前に充てがった。灯蛾の赤い目が刃先を見つめる。
「どうした…俺を殺せよ…」
しかし、蒼の刀はそれ以上前に進まない。灯蛾との記憶が蒼の手を止めていた。
「どうしてかな、手が動かないんだ…」
すると、灯蛾が蒼に向かって飛び込んできた。慌てて刀の刃を逸らそうとするが、間に合わず、灯蛾の首
筋に深く突き刺さった。蒼の手首に生ぬるい液体が流れ落ちる。
「…あ…ああ」
灯蛾は苦しそうに首を抑えると、その場に崩れ落ちた。
すると、倒れた灯蛾の後ろから、思いもしなかった人物が現れて、蒼は言葉を失う。
「鞍月くん。気づかせてくれてありがとう」
そう言って微笑んだのは拝島であった。どうやら、拝島が灯蛾の背中を押したようだ。
「どうして、拝島がここに…」
「僕、気がついたんだ。自分がヘレティックなんかじゃないってことに」
「…拝島」
「兄さんは事故なんかじゃなかった。白羽から全て聞いたよ」
拝島は白羽から、自分のせいで事故死したと思っていた兄は他殺だったと告げられたようだ。
「拝島。お前、とうとう気がついたのか…」
灯蛾は血の滴る首筋を抑えながら、拝島を睨みつける。その瞳は赤黒く濁っていて、人間とは思えない奇
怪さを放っていた。
血だらけでも不気味な表情で笑っている灯蛾は掠れた声でこう言った。
「でもまぁ…ちょうど良い所に来た」
灯蛾の言った言葉の意味が全く分からない蒼と拝島は瞬時に身構える。
「どういう意味だ…灯蛾」
「お前たちでは、俺は殺せない…」
そう言った直後、灯蛾の体が大きく痙攣し始め、赤黒い瞳は鮮やかな紅に変化した。
「な…何が起きているんだ」
蒼は後ずさりながら、様子が明らかにおかしい灯蛾を見つめる。
痙攣していた灯蛾の体は、一瞬停止し、その後すぐに大きく膨張し始めた。まるで体内から細胞が急速に
分裂を起こしているかのように、ボコボコと不規則に肉体が膨れ上がっていくのである。その異常な光景
に、二人は硬直した。
「俺ハ、ダレにも殺せナイ…」
その声は人間のモノでは無かった。聞きづらく、壊れたロボットが発する異常音に近かった。
すると、灯蛾の背中が大きく盛り上がって、中から赤黒い羽のようなものが生えだした。その羽は脊椎動
物が持つような羽ではなく、どちらかと言えば、昆虫が持つそれに近かった。薄く伸びた羽に血管のよう
な線が伸びており、先端は鋭く尖っている。あれで突き刺されたら一瞬にして終わりであろう。
「灯蛾…とうとう人間を捨てたのですね」
後ろから真雛がそう言いながら近づいてきた。蒼と拝島は動揺してただ変わりゆく灯蛾の体を見ることし
か出来無い。
「人間を捨てた?」
「もう数え切れない程の罪が重なっていた灯蛾は、いつ悪魔化が起きてもおかしくない状態でした」
「悪魔化…」
「恐らく、首筋に与えた致命傷が、引き金になったのでしょう」
拝島は己の手を見つめながら、震えだした。
「僕が原因なのか…」
「こうなることは決まっていました。もう灯蛾を本当に倒すしか選択肢がありませぬ」
「あれを…倒すってのかよ」
人間の数十倍以上の大きさになった灯蛾を見上げて、蒼は茫然と立ち尽くした。
「我も共に戦います」
真雛はそう言うと、右腕を前に突き出した。真雛の手からバリアが張られ、そのまま三人を包み込んだ。
バリアが完全に張られた直後、悪魔化した灯蛾の口から大量の粘液が吐き出された。深緑色のその液体は
粘り気が強く、バリアに当たった瞬間にボタボタと音を立てながら地面に落ちていった。
「うわ…なんだこの液体は」
「高酸度の胃液だと考えられます。人間の皮膚に触れた途端、骨まで溶かすでしょう」
真雛は両手でバリアを貼り続けながら、蒼白している蒼にさらりと言った。
「冗談きついな…」
液体を吐き出した灯蛾は、こちらが無事であるということを確認すると、獣のような巨体を走れせて突進
してきた。所々硬い甲羅で覆われた皮膚は、走る度に金属が擦れた時のような不快音が響いた。甲羅の隙
間から見えた彼の皮膚は蛆に犯されていて、腐った血肉の塊のようだった。
「真雛様!このままだと直撃します!」
叫ぶ蒼とは対象的に真雛は冷静な声で、
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