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【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実
お前も同類なんだよ
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蒼は真雛の危険を感じ、灯蛾に向かって、刀を突き刺そうと走り出した。
灯蛾は、真雛に夢中で蒼の存在に気づいていない。
せめて時間稼ぎにでもなれば、と蒼は勢い良く灯蛾の背中に刀を突き立てる。
「あああああああ」
その刃は刺さるはず無かった。人間を刺せないはずだった。
けれど…
灯蛾の背中の中央に突き刺さった刀はズブズブと音を立てて深く刺さっていく。
蒼は初めて知るその感覚に手に入れていた力を弱める。
「お前。良くも俺の体に傷を…」
灯蛾は蒼を見るなり持っていた剣を振り切った。
慌てて、避けた蒼は血だらけの灯蛾を見て、絶句する。
刀が背中から腹部にかけて見事に串刺しになっている灯蛾はそれでも尚、動いていた。
「どうして、だって…人間は斬れないはずだろ」
すると灯蛾は、
「どうやら、俺は純粋な人間じゃなくなったようだな…半分悪魔にでもなったか」
物を斬った時よりは斬れ味が良くなかった。
それは、灯蛾にまだ少し人間の性質が残っているということだ。では、灯蛾を殺したら、それは殺人にな
るのだろうか…蒼の足はガクガクと震えた。
そんな蒼とは対称的に、自分に刺さっている刀を引き抜き、放り投げた灯蛾は少しも苦しそうな顔をせ
ず、蒼を見据えていた。
「やはり俺は悪魔になったみたいだ…」
すると、真雛は灯蛾の肩を掴んで思いっきりねじ伏せた。
「お前…一体、何人の人間を殺した?」
へらへら笑っている灯蛾に真雛は怒りをぶつける。
「さあな、数え切れねぇよ」
「この悪魔がっ!」
「お前だって、俺と同類じゃねぇか?あんな奴の為に世界を犠牲にしたんだからよ」
真雛は灯蛾の言葉を聞くと、一気に顔色を悪くして、
「黙りなさい!」
「鞍月蒼、お前のせいで世界はこうなったんだよ」
蒼は灯蛾の言っている意味が分からず、その場に立ち尽くす。
「…どういう意味だ」
「止めなさい!」
大声で叫ぶ真雛を差し置いて、灯蛾は続ける。
「この浄罪師はな、殺人を犯したお前の魂を捨てきれないで再利用したんだ」
誰かに胸をぐっと掴まれたような感覚が蒼を襲った。
「俺の魂…?」
「蒼、この者の言うことは全て嘘です!」
必死に取り繕う真雛に蒼は、
「真雛様…?俺は殺人者なのですか?」
蒼白とした表情で問いかけた。
「違います!」
「いいや、お前は人を殺した」
灯蛾は、真雛に押さえつけられながら、蒼を見上げる。
「俺は…俺…は」
「そして真雛は、浄罪師の使徒としてお前を迎え入れたんだよ」
真雛はその場に泣き崩れた。
「でも、一度殺人を犯したお前の魂は、再び過ちを繰り返そうとした」
「繰り返そうとした?」
「そうだ。それで真雛が…」
すると、真雛はよろよろと立ち上がって、蒼に歩み寄った。
「もういいです、灯蛾。蒼の記憶を全て戻します」
そう言って、真雛は蒼の額に手を置いた。
「これで全て思い出します…」
真雛が言葉を放った直後、額に熱いものが流れ込んできてあの時の記憶が映し出され…
灯蛾は、真雛に夢中で蒼の存在に気づいていない。
せめて時間稼ぎにでもなれば、と蒼は勢い良く灯蛾の背中に刀を突き立てる。
「あああああああ」
その刃は刺さるはず無かった。人間を刺せないはずだった。
けれど…
灯蛾の背中の中央に突き刺さった刀はズブズブと音を立てて深く刺さっていく。
蒼は初めて知るその感覚に手に入れていた力を弱める。
「お前。良くも俺の体に傷を…」
灯蛾は蒼を見るなり持っていた剣を振り切った。
慌てて、避けた蒼は血だらけの灯蛾を見て、絶句する。
刀が背中から腹部にかけて見事に串刺しになっている灯蛾はそれでも尚、動いていた。
「どうして、だって…人間は斬れないはずだろ」
すると灯蛾は、
「どうやら、俺は純粋な人間じゃなくなったようだな…半分悪魔にでもなったか」
物を斬った時よりは斬れ味が良くなかった。
それは、灯蛾にまだ少し人間の性質が残っているということだ。では、灯蛾を殺したら、それは殺人にな
るのだろうか…蒼の足はガクガクと震えた。
そんな蒼とは対称的に、自分に刺さっている刀を引き抜き、放り投げた灯蛾は少しも苦しそうな顔をせ
ず、蒼を見据えていた。
「やはり俺は悪魔になったみたいだ…」
すると、真雛は灯蛾の肩を掴んで思いっきりねじ伏せた。
「お前…一体、何人の人間を殺した?」
へらへら笑っている灯蛾に真雛は怒りをぶつける。
「さあな、数え切れねぇよ」
「この悪魔がっ!」
「お前だって、俺と同類じゃねぇか?あんな奴の為に世界を犠牲にしたんだからよ」
真雛は灯蛾の言葉を聞くと、一気に顔色を悪くして、
「黙りなさい!」
「鞍月蒼、お前のせいで世界はこうなったんだよ」
蒼は灯蛾の言っている意味が分からず、その場に立ち尽くす。
「…どういう意味だ」
「止めなさい!」
大声で叫ぶ真雛を差し置いて、灯蛾は続ける。
「この浄罪師はな、殺人を犯したお前の魂を捨てきれないで再利用したんだ」
誰かに胸をぐっと掴まれたような感覚が蒼を襲った。
「俺の魂…?」
「蒼、この者の言うことは全て嘘です!」
必死に取り繕う真雛に蒼は、
「真雛様…?俺は殺人者なのですか?」
蒼白とした表情で問いかけた。
「違います!」
「いいや、お前は人を殺した」
灯蛾は、真雛に押さえつけられながら、蒼を見上げる。
「俺は…俺…は」
「そして真雛は、浄罪師の使徒としてお前を迎え入れたんだよ」
真雛はその場に泣き崩れた。
「でも、一度殺人を犯したお前の魂は、再び過ちを繰り返そうとした」
「繰り返そうとした?」
「そうだ。それで真雛が…」
すると、真雛はよろよろと立ち上がって、蒼に歩み寄った。
「もういいです、灯蛾。蒼の記憶を全て戻します」
そう言って、真雛は蒼の額に手を置いた。
「これで全て思い出します…」
真雛が言葉を放った直後、額に熱いものが流れ込んできてあの時の記憶が映し出され…
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