浄罪師 ーpresent generationー

弓月下弦

文字の大きさ
上 下
67 / 80
【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実

擬勢と犠牲③

しおりを挟む
「なんで…私が」

掠れた声でそう言うと、オカマの巨体が蒼の前で倒れた。

「おいっ!どういうことだよ!」

慌ててオカマに駆け寄った蒼は信じられないものを目にした。

さっき倒したはずのナムルが、微笑を浮かべて蒼に近づいて来るのだ。

「お前…」

「I would have no way to defeat so easy? (俺がそう簡単に敗北する訳がないだろう?)」

「わざと倒れたふりをしていたのか…」

「Yesそうだ」

信じられないことに、ナムルはわざと倒されたふりをして、隙を伺っていたらしい。

「……あんた」

地面に倒れながら、オカマは声を振り絞って言った。蒼は顔を近づけて、声を聞こうとする。

「私が何とかするから…あんたは西門に行きなさい。そして真雛様を守りなさい」

「無理言うなよ!」

「真雛様が生きていれば、皆生まれ変われるんだから…」

オカマの言う通り、真雛様が生きている限り、使徒たちの「死」は訪れない…

「分かった。でも、どうやって倒す気なんだよ…」

「それは、秘密よ」

小さくウインクをしたオカマは、ゆっくりと立ち上がった。

「早く行きな…」

「じゃあ、頼んだぞ」

すると、蒼の腕をオカマが軽く掴んだ。

「最後に言っておくけど、私はオカマじゃないから…」

「え…」

「私は正真正銘の女ですよ」

そう言って思いっきり蒼を蹴り飛ばした。その力は人間離れしていて、蒼の体を吹き飛ばした。

頭の整理が付かないまま蒼はもの凄いスピードで飛ばされる。

 その直後、背後で爆音が鳴り響いた。

地面に叩きつけられた蒼は、瞬時に後ろを振り向く。

「何で…」

さっきまで、オカマとナムルがいた場所は爆弾の爆発跡のようになっていた。残っているのは、黒焦げと
なったナムルの遺体だけだった。

「まさか…あいつ…自爆したのか…」

遺体がナムルのしか残っていない点から考えると、オカマが自爆したとしか考えられない。確か、彼女の
武器は拳と足だったはずだが、「爆弾」を身につけていたようだ。

自も含めて爆発させたということは、自殺と殺人を犯したという罪になる。蒼は、悔しくてその場に拳を
打ち付けた。

「何で自分を犠牲にするんだよ!」

すると、オカマが言っていたことが脳裏をかすめた。

(でも、戦いに犠牲は付き物でしょ?)

それは、彼女の本望だったのかもしれない。

彼女は自らの魂を闇に捨て、敵を倒した。もう彼女の魂は二度と生まれ変われないのだ。

そう考えると蒼の目から一筋の涙が流れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369
ミステリー
古代エジプト 名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。 しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。 突如奪われた王の命。 取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。 それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。 バトル×ミステリー 新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...