浄罪師 ーpresent generationー

弓月下弦

文字の大きさ
上 下
65 / 80
【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実

擬勢と犠牲①

しおりを挟む
しかし、目に飛び込んできたのは、とんでもない光景だった。

「Unbelievable!(信じられない!)」

「私はただのガキじゃないわ…あんたの嫌いな浄罪師の使徒よ」

槍を構え直す少女は先程の不安な顔なんて一切持っておらず、自信と決意に満ち溢れていた。

何が起こったのか分からない蒼はただその光景を見ているしか出来なかった。

「あの子は槍の名士よ。銃弾なんて槍一つで防げるわ」

「銃弾を防いだ…」

あの小さな少女は銃弾を槍一本で防いだというのか。

すると、大男は懲りずに銃を発泡し始めた。しかし、銃弾は小さい少女の体には当たることなく、全て槍
によって交わされていく…

「Fucking brat!(くそ餓鬼が!)」

大男は英語でそう言うと、少女に向けて蹴りを入れた。

銃に気を取られていた少女は蹴り込まれた足に気がつかず、そのまま蹴り飛ばされてしまう。

少女は数メートル先に飛ばされ、苦しそうに咳をしながらよろよろと立ち上がる。

「てめぇ!」

蒼は刀を握りながら、大男に向かって走り出した。

しかし、相手は銃を持っている。当然、銃弾を交わすスキルなど持っていない蒼は、刀を構えると、銃が
発せられる前に振り下ろした…

「Drop dead(死ね)」

しかし、蒼が刀を振り下ろす手前で男は銃の引き金を引いていた。

大きな音を立ててあの嫌な音が響く。蒼の耳に一番響いたその音は鼓膜を小刻みに揺らした。

「痛て…」

幸い銃は蒼の頬をかすめただけで命中はしなかった。頬から流れる血を指で拭うと、大男を睨みつけた。

「Are you a boy of then?(お前はあの時の少年か?)」

大男はそう言うと被っていたフードを取り払った。フードに隠された素顔は予想通り彫りの深い顔であっ
た。

あの時の少年…蒼は首を傾げる。

「もしかして、あの時俺を襲った奴じゃ…」

記憶を戻す前、母親の墓参りに行ったあの時、襲って来た男の事を思い出した蒼ははっと息を飲む。

「It is a correct answer(正解だ)」

そう聞いた蒼は、構えながら後ずさる。

「なら、尚更お前を倒さなきゃな」

そう言うと、蒼は体を回転させながら、刀を振り回し、男に向かっていった。

目にも止まらぬ速さで動く蒼に狙いが定まらない男は、銃をただ握っているだけでなかなか発泡しない。

「ここだっ!」

男に狙いを定めた蒼は、思いっきり刀を振り下ろす。

しかし、男は刀を軽々と交わし、代わりに蒼の頭部に銃口を突きつけた。

「くっ…」

「Finished now (これで終わりだ)」

と、その時。男の体が蒼から引き離された。何事かと蒼は目を開くと、目の前にあのオカマが仁王立ちし
ていた。

 どうやら、オカマが大男を殴ったらしい。

「助かったよ…」

オカマに続いて他の使徒も男に向かって攻撃を仕掛けだした。

「 Oh my God! (ああ、神様!)」

男はそう言うと、指を口元へ持って行って…

その直後、辺り一面に男が鳴らした指笛の音が響き渡った。何事かと、使徒達の動きが一瞬止まる。する
と前方から30人程度の人間が走って来るのが見えた。

「くそ、やっぱり仲間付きだよな…」

蒼は苦い顔をすると、気を取り直してもう一度、刀を強く握り直す。

「いいかっ!人数なんか関係ないぞ!全力で挑むんだ!」

蒼の一声で、他の使徒たちも、3倍はいる敵の群れに向かって突き進む。

刀を器用に使って敵の攻撃を何度も交わす蒼。敵の人数は4人…もう自分の身を守ることで精一杯であっ
た。

「I am surprised that you were S rank(お前がSランクだとは驚いたな)」

背後で、あの男の声がすると、耳元にカチンと、何かが突きつけられた。

「……、」

黙って横を見ると、不気味に笑っている顔の大男が見えた。

「I will kill you(お前を殺す)」

「そうはさせない」

刀を持っていない方の手で、蒼は瞬時に銃口の向きを変える。その直後、銃が発泡し、弾が蒼を襲ってい
た敵の一人に命中した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

処理中です...