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【肆章】造られた殺意
犯人は誰だ
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―数時間後
「おい、丸山。仕事終わったか」
自分の仕事が終わっていつもの様に声を掛けてくる町田。
「ああ、俺も終わっているよ。そうだ町田…」
「ん?」
町田の能天気な顔を見ると、先の言葉が出てこない…本当に今夜、こいつは俺の秘密を暴露するつもりなの
だろうか…と少々疑問に思い初めた。丸山はそのまま硬直する。
「今日、一杯やらないか?」
驚くことに、町田から誘ってきた。自分が誘うはずだったが、逆に向こうから誘ってくるなんて思いもし
なかった丸山は拍子抜けする。
「あ、ああ…」
ボーっとしている丸山の肩を掴んだ町田は、にこにこ嬉しそうにはしゃいでいた。
丸山と同じ年であるはずの町田は、ずっと若く見える。単に顔が童顔なだけかもしれないが、行動全てが
幼稚なのだ。単純というか、感情がバレバレというか…
いつも通りに笑っている町田を見ていたら、すっかり今日の計画のことを忘れていた。やはり、あの男は
デタラメを言っていただけなのではないか…そう考えてしまっていた。
外は既に薄暗く、太陽はほとんど沈みかけていた。空には早くも月がくっきりと見えていた。珍しく、星
もいくらか見えていた。
「見ろよ!こんなに星が出ているよ!」
相変わらず、ハイテンションな町田に苦笑いの丸山は控えめに夜空を見上げる。
「本当だな、なんかプラネタリウムに来ているみたいだ…」
大きな空を見ていたら、自分がどんなにちっぽけな存在か良くわかる。子供の時に行ったプラネタリウム
の解説を聞いていたら、自分の存在なんて、宇宙から見たらごみ同然なんだと思えた。でも、自分から見
た自分は、そんなものじゃない…
「なあ、町田…」
「何?」
薄暗くてよく見えないが、丸山を見る町田の目は驚く程、純粋だった。
「何でも、ない…」
下を向いた丸山は、そのまま歩き出す。
重たい鎖を全身に身に纏いながら生きてきた人生なんて、他人(宇宙)から見たら、ただの人ごとだ。で
も、自身からすれば、それだけでは済ませられないだろ…
(なあ、お前から見た俺の人生(罪)って…どう見える?)
丸山はそれが言いたかった。
二人が入ったのはいつもの居酒屋だった。会社から数分で着き、つまみも絶品なのだ。おまけに値段も都
会にしては安い。しかも、この居酒屋の前に会社の送迎バスが来るのだ。
時間は一時間に一本と少ないが、これならば、安心して夜遅くまで飲める。今や、有名企業の社員の待遇は素晴らしい。安全第一で、社員が夜、外を歩かないように送迎バスが周辺の居酒屋の前に止まってくれるのだ。
居酒屋の中は繁盛していて、カウンター席しか無かった。仕方ないからそこへ二人で並んで座った。
「何にする?因みに俺は白桃サワーだな」
そう言って、町田は注文をし始めた。町田はいつも最初に白桃サワーを頼む。それを飲んだことの無い丸
山は良く分からないが、きっと町田にとっては美味しいものなのだろう。
ビールしか頼まない丸山にはサワーやカクテルの美味しさがイマイチよく分からないのだ。
「俺はビールで」
やがて、丸山の頼んだビールも届き、二人はほろ酔い気分になり始めていた。
少し、ボーっとする頭で丸山はこれから計画されていた予定を思い出す。
―そうか、これで最後なんだ。こいつと飲むのも…
自分で決めたことなのに、何だか無性に悲しい気持ちになった。ひょっとしたら、町田は俺の秘密をもう
忘れていて、世間に暴露する気なんてないのかもそれない…
しかし、そう思う度に昨夜の灯蛾という男の顔が頭をかすめる。
―でも、どうしてあの男は知っていたんだ…
計画実行まで、その話はするなと口止めをされていたが、どうしても直接本人に確かめられずにはいられ
ない丸山は口を開いた。
「町田…」
既に頬がほんのり赤く染まっている町田は、首を傾げながら丸山を見る。
「はぃ?」
「藤崎学のこと…なんだけどさ…」
『藤崎学』と耳にした途端、町田の表情がガラリと変わった。赤くなっていた頬は今では真っ青である。
「…どうしたんだよ、急に昔の話なんて…」
真剣な眼差しで、丸山は続ける。
「藤崎学も、もし生きていたら今頃、五十七歳だぜ…」
「おい丸山。何が言いたいんだ…あの男のことはもう…」
「五十七歳か…俺たちにはまだずっと先だな…でも藤崎はもうこの世に居ない…年もとらない」
「丸山…」
丸山は隣で青白くなっている町田を見据え、これは全て演技なんだろう?と心の中で問いかける。お前は
今日、俺を裏切るんだろう?
そうして、丸山はどんどんあの日の記憶を蘇らせる。一つ、一つ丁寧に
「おい、丸山。仕事終わったか」
自分の仕事が終わっていつもの様に声を掛けてくる町田。
「ああ、俺も終わっているよ。そうだ町田…」
「ん?」
町田の能天気な顔を見ると、先の言葉が出てこない…本当に今夜、こいつは俺の秘密を暴露するつもりなの
だろうか…と少々疑問に思い初めた。丸山はそのまま硬直する。
「今日、一杯やらないか?」
驚くことに、町田から誘ってきた。自分が誘うはずだったが、逆に向こうから誘ってくるなんて思いもし
なかった丸山は拍子抜けする。
「あ、ああ…」
ボーっとしている丸山の肩を掴んだ町田は、にこにこ嬉しそうにはしゃいでいた。
丸山と同じ年であるはずの町田は、ずっと若く見える。単に顔が童顔なだけかもしれないが、行動全てが
幼稚なのだ。単純というか、感情がバレバレというか…
いつも通りに笑っている町田を見ていたら、すっかり今日の計画のことを忘れていた。やはり、あの男は
デタラメを言っていただけなのではないか…そう考えてしまっていた。
外は既に薄暗く、太陽はほとんど沈みかけていた。空には早くも月がくっきりと見えていた。珍しく、星
もいくらか見えていた。
「見ろよ!こんなに星が出ているよ!」
相変わらず、ハイテンションな町田に苦笑いの丸山は控えめに夜空を見上げる。
「本当だな、なんかプラネタリウムに来ているみたいだ…」
大きな空を見ていたら、自分がどんなにちっぽけな存在か良くわかる。子供の時に行ったプラネタリウム
の解説を聞いていたら、自分の存在なんて、宇宙から見たらごみ同然なんだと思えた。でも、自分から見
た自分は、そんなものじゃない…
「なあ、町田…」
「何?」
薄暗くてよく見えないが、丸山を見る町田の目は驚く程、純粋だった。
「何でも、ない…」
下を向いた丸山は、そのまま歩き出す。
重たい鎖を全身に身に纏いながら生きてきた人生なんて、他人(宇宙)から見たら、ただの人ごとだ。で
も、自身からすれば、それだけでは済ませられないだろ…
(なあ、お前から見た俺の人生(罪)って…どう見える?)
丸山はそれが言いたかった。
二人が入ったのはいつもの居酒屋だった。会社から数分で着き、つまみも絶品なのだ。おまけに値段も都
会にしては安い。しかも、この居酒屋の前に会社の送迎バスが来るのだ。
時間は一時間に一本と少ないが、これならば、安心して夜遅くまで飲める。今や、有名企業の社員の待遇は素晴らしい。安全第一で、社員が夜、外を歩かないように送迎バスが周辺の居酒屋の前に止まってくれるのだ。
居酒屋の中は繁盛していて、カウンター席しか無かった。仕方ないからそこへ二人で並んで座った。
「何にする?因みに俺は白桃サワーだな」
そう言って、町田は注文をし始めた。町田はいつも最初に白桃サワーを頼む。それを飲んだことの無い丸
山は良く分からないが、きっと町田にとっては美味しいものなのだろう。
ビールしか頼まない丸山にはサワーやカクテルの美味しさがイマイチよく分からないのだ。
「俺はビールで」
やがて、丸山の頼んだビールも届き、二人はほろ酔い気分になり始めていた。
少し、ボーっとする頭で丸山はこれから計画されていた予定を思い出す。
―そうか、これで最後なんだ。こいつと飲むのも…
自分で決めたことなのに、何だか無性に悲しい気持ちになった。ひょっとしたら、町田は俺の秘密をもう
忘れていて、世間に暴露する気なんてないのかもそれない…
しかし、そう思う度に昨夜の灯蛾という男の顔が頭をかすめる。
―でも、どうしてあの男は知っていたんだ…
計画実行まで、その話はするなと口止めをされていたが、どうしても直接本人に確かめられずにはいられ
ない丸山は口を開いた。
「町田…」
既に頬がほんのり赤く染まっている町田は、首を傾げながら丸山を見る。
「はぃ?」
「藤崎学のこと…なんだけどさ…」
『藤崎学』と耳にした途端、町田の表情がガラリと変わった。赤くなっていた頬は今では真っ青である。
「…どうしたんだよ、急に昔の話なんて…」
真剣な眼差しで、丸山は続ける。
「藤崎学も、もし生きていたら今頃、五十七歳だぜ…」
「おい丸山。何が言いたいんだ…あの男のことはもう…」
「五十七歳か…俺たちにはまだずっと先だな…でも藤崎はもうこの世に居ない…年もとらない」
「丸山…」
丸山は隣で青白くなっている町田を見据え、これは全て演技なんだろう?と心の中で問いかける。お前は
今日、俺を裏切るんだろう?
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