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【肆章】造られた殺意

お前に俺は殺せない

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「それと、良いことを教えてやろう」

「何だよ?」

「白羽って言う白い鴉。こっちのモノになったよ」

白羽と聞いた蒼は目を見開く。

「おっと、油断しちゃいけないね。鞍月くん」

動揺をしていた蒼目掛けて、左手に握ったままの短剣を突き刺してくる。

咄嗟に、刀で交わそうとするが、タイミングを外してしまい、左腕を刃がかすめてしまった。

「ははは、こんな小さな短剣の方が、お前の大きな刀より有能だな」

「くっ…拝島」

滴り落ちる紅。真っ赤に腫れた腕の真ん中に引かれた一筋の紅い線は痛々しかった。

「だからお前はここで…」

「殺せるのか?」

思わぬ蒼の問いに戸惑いを隠せない拝島は、はっと息を飲み、一歩下がった。

しかし、離れようとする拝島の腕を蒼は強く掴んだ。

そして、自分の首にその短剣を充てがう。何故だかその時、拝島の手首は小刻みに震えていた。

「どうして、そんなことをするんだよ…」

「お前には、人を殺せないはずだ」

「何?」

「じゃあ、早く俺を殺せよ。手加減しないで。さっきだって俺の心臓目掛けて刺せば良かったものの、何
故腕にした?」

「なっ!」

歯を食いしばって、怒りと恐怖の混ざった表情を浮かべた拝島。

―拝島は戦っている最中全く蒼の急所を狙って来なかった。

「さあ、どうした?今なら俺を殺せるぞ?」

しかし、そう言う蒼の中でも、不安はやはりある。もし、拝島が豹変したら最後…自分の知っている拝島で
なくなっていたら…殺されてしまう。蒼の表情は強ばる。

 一方、拝島の手首の震えは治まらない。

とうとう、膝から崩れ降りてしまった。

「どうして…僕は…できないんだ…これでは、ヘレティックとして失格だ」

頭を抱えて、蹲ったままの拝島に蒼は言う。

「お前はヘレティックなんかじゃない…人殺しなんてしてないんだ」

「そんなはずはない!姉さんは僕が殺したんだ!」

抱えていた頭を戻し、這うようにして起き上がった拝島は、狂ったように駆け出す。

「おい、拝島!」

「俺は殺人者なんだぁぁぁぁぁ」

酷く悲しそうに泣き叫んだ拝島は蒼の目の前から消え去った。
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