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【参章】とある少女の魂
敵対
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人差し指を額に向けると、蒼は拝島を押しのけて、後ろで固まっている少女とロープに縛られている母親らしき人物に近づいた。
「邪魔しないでっ」
少女はそう叫ぶと、持っていたロープを母親の首に掛けた。母親は引きつった顔をしている。
「人殺しなんて辞めろ。君の魂はまだ綺麗なんだ…だから…」
しかし、蒼の言葉を遮るように、
「私の心はもう綺麗なんかじゃないわ、もう…」
最後の方はほとんど涙声となっていた。少女は握っている手に力を込めた。
「助けて…」
母親は蒼に向けて手を差し出した。
「この女は私を差別した。私は虐待されてきたの…こんな女死んでも私に罰は当たらないわ」
虐待…蒼は戸惑った。少女は母親から虐待されていたのか。昨日見たあの傷、あれは母親が傷つけたものだった。
この少女は心に深い傷を負った。それも母親のせい…
「なぁ、鞍月くん。殺人は悪いことかもしれない。でも、この子はこのまま一生この母親のもとで暮らさなきゃいけないのか?この母親は人間として最低だ。少女も母親の死を望んでいる」
拝島は蒼の肩を掴むと、囁くように言った。蒼は動く事が出来なかった。少女の魂を救うためにここまでやって来た。しかし今、蒼がしようとしていることは果たして少女を救えるのか?
その時、蒼の頭にある言葉が浮かんだ。
< 決して人を殺すな >
真雛が言った言葉。例えどんな理由があったとしても人が人を殺めることは間違っている。
彼はもう迷わない…
蒼は目にも止まらぬ速さで刀を母親目掛けて振り下ろした。予想外の行動に母親は叫び、少女は目を見開いた。
だがしかし、蒼の刀は母親の胴体を傷つけることなく、綺麗にロープだけを斬った。
何が起こっているか分からない母親はキョトンとしている。
「逃げて下さい。そしてもう二度と帰って来ないで下さい…死にたくないなら」
母親は蒼の言ったとおり、慌てて家を出ていこうとした。
しかし、またもや拝島が邪魔をする。
「鞍月くん…悪いがそうはさせないよ」
拝島は懐からナイフを取り出すと、蒼に襲いかかってきた。
必死で攻撃をかわす蒼。しかし拝島は一歩も譲らない。
「拝島…お前も浄罪師の使徒だったんだろ?そうだよなっ?!」
「それは過去の話だ。今は魂の汚れたヘレティックさ」
振り回されたナイフの刃が蒼の頬をかすめる。流れ出す一筋の血液…
「どうしてヘレティックなんかに…」
すると、蒼の喉元直前で刃が止まった。
「人を殺したからだよ…」
「拝島…」
拝島の目には涙が大量に溢れていた。何だろう…この気持ちは。拝島の心が見えたような…不思議な感覚に襲われた。計り知れないほどの悲しみ…蒼の知らない拝島。
「だから僕は浄罪師の使徒なんかじゃない、君たちの敵なんだ」
拝島はそう言うと、蒼の背中に移動した。喉元に当てられ続ける刃…
「いずれ灯蛾様が真雛を倒しに行くだろう」
灯蛾様…恐らくヘレティックのボスであろう。そいつが真雛を狙っているということか。
その直後、後ろで黒羽の声がした。
「拝島、いい加減に気づいたらどうなんじゃ?」
「ちっ」
拝島は黒羽を見るなり、逃げるように家を飛び出した。黒羽もその後を追う。
開放された蒼は膝から落ち、そのまま気を失った。
「邪魔しないでっ」
少女はそう叫ぶと、持っていたロープを母親の首に掛けた。母親は引きつった顔をしている。
「人殺しなんて辞めろ。君の魂はまだ綺麗なんだ…だから…」
しかし、蒼の言葉を遮るように、
「私の心はもう綺麗なんかじゃないわ、もう…」
最後の方はほとんど涙声となっていた。少女は握っている手に力を込めた。
「助けて…」
母親は蒼に向けて手を差し出した。
「この女は私を差別した。私は虐待されてきたの…こんな女死んでも私に罰は当たらないわ」
虐待…蒼は戸惑った。少女は母親から虐待されていたのか。昨日見たあの傷、あれは母親が傷つけたものだった。
この少女は心に深い傷を負った。それも母親のせい…
「なぁ、鞍月くん。殺人は悪いことかもしれない。でも、この子はこのまま一生この母親のもとで暮らさなきゃいけないのか?この母親は人間として最低だ。少女も母親の死を望んでいる」
拝島は蒼の肩を掴むと、囁くように言った。蒼は動く事が出来なかった。少女の魂を救うためにここまでやって来た。しかし今、蒼がしようとしていることは果たして少女を救えるのか?
その時、蒼の頭にある言葉が浮かんだ。
< 決して人を殺すな >
真雛が言った言葉。例えどんな理由があったとしても人が人を殺めることは間違っている。
彼はもう迷わない…
蒼は目にも止まらぬ速さで刀を母親目掛けて振り下ろした。予想外の行動に母親は叫び、少女は目を見開いた。
だがしかし、蒼の刀は母親の胴体を傷つけることなく、綺麗にロープだけを斬った。
何が起こっているか分からない母親はキョトンとしている。
「逃げて下さい。そしてもう二度と帰って来ないで下さい…死にたくないなら」
母親は蒼の言ったとおり、慌てて家を出ていこうとした。
しかし、またもや拝島が邪魔をする。
「鞍月くん…悪いがそうはさせないよ」
拝島は懐からナイフを取り出すと、蒼に襲いかかってきた。
必死で攻撃をかわす蒼。しかし拝島は一歩も譲らない。
「拝島…お前も浄罪師の使徒だったんだろ?そうだよなっ?!」
「それは過去の話だ。今は魂の汚れたヘレティックさ」
振り回されたナイフの刃が蒼の頬をかすめる。流れ出す一筋の血液…
「どうしてヘレティックなんかに…」
すると、蒼の喉元直前で刃が止まった。
「人を殺したからだよ…」
「拝島…」
拝島の目には涙が大量に溢れていた。何だろう…この気持ちは。拝島の心が見えたような…不思議な感覚に襲われた。計り知れないほどの悲しみ…蒼の知らない拝島。
「だから僕は浄罪師の使徒なんかじゃない、君たちの敵なんだ」
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その直後、後ろで黒羽の声がした。
「拝島、いい加減に気づいたらどうなんじゃ?」
「ちっ」
拝島は黒羽を見るなり、逃げるように家を飛び出した。黒羽もその後を追う。
開放された蒼は膝から落ち、そのまま気を失った。
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