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【参章】とある少女の魂
立ちはだかる壁
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少女の家がある駅は鴉ノ神社からそう遠くなく、電車に乗って一駅で着いてしまった。鴉ノ駅から近いということもあって、相変わらず駅周辺にカラスが群がっていた。歩く度に慌ただしく中に舞うカラス達…地面の至る所にカラスの糞がこびりつきていた。
「これじゃあ、鴉ノ駅と変わんないじゃん」
眉間に皺を寄せて柏木は一生懸命にカラスの糞を避けている。
「全くだよな」
伊吹はカラス目掛けて小石を投げつけた。小石を避けようと、カラスが一斉に飛び立っていく、その後直
ぐに、カラスの黒い羽がハラハラと落ちてきた。これが白鳥か何かの羽だったらどんなにメルヘンティッ
クなのだろう…しかし、カラスの羽となると、正直、不気味だ。
「そう言えば、柏木。昨日学校で、放課後、蒼に話があるとか何とか言っていたよな」
突然、伊吹が変なことを柏木に聞き始めたので、蒼は思わず躓きそうになった。すっかり忘れていたが、
蒼もそのことは気になる。
「ああ、それは…」
蒼と伊吹は息を飲んで柏木をガン見する…
「実は昨日の朝、登校中に、いきなり全ての記憶がフラッシュバックしてね、それで動けなくなっていた
私の元に白羽が来て、秋山の話を私にしてくれたの」
それで、柏木は遅刻寸前だったのか、と蒼は納得した。柏木たる者が寝坊なんかするはずないのだ。そし
て柏木は話を続ける。
「遅刻しそうになった私は、白羽と別れた後、急いで学校に向かったんだけど、その途中で蒼くんと伊吹
くんが秋山先生について何か話しているのが聞こえてきて、もしかしたらこの二人も私と同じで浄罪師の
使徒なのかなって思って…」
蒼の希望と期待は儚く崩れ去っていった。いや、そんなことは既に分かっていた。柏木が蒼に気があるは
ずがないってことくらい…蒼はよく知っていた。
「だから蒼くんに確かめてみたくて、それで…下駄箱でストラップを勝手に取って…後で会いに行く口実に
しようかなって…」
な、なんと!ストラップの件までそう言う理由だったとは!蒼は何だか急に虚しくなった。人生そんなに
甘くないよな…
「そうだったんだ…」
柏木の話を聞いた後、すっかり拍子抜けしてしまった蒼は、カラスの糞で塗れたコンクリートの地面と
睨めっこしながら進んだ。
ほとんど下を向いて歩いていた蒼だが、伊吹の声で、ふと我に戻った。
「ここが、例の清水麻里って奴の家か」
その家はレンガ造りの三階建てで、庭には綺麗な花が植えられてあった。見た感じでは、極普通の家であ
る。
外でウロウロとしていると、突然玄関ドアの向こうに、人の影が見えたので、三人は慌てて近くに停っ
ていた車の影に隠れた。
「行ってきます」
その声と同時に、家から出てきたのは、十代半ばといった感じの少女だった。髪の毛は可愛らしく巻き髪
で、生まれつきといった感じで自然な茶色であった。体は驚くほど細く、転んだら欠けてしまいそうであ
る。
「あんなに華奢な子なのに…」
こちらに気づかず、スタスタと歩いていく少女を、納得のいかない表情で見つめる柏木。
それから三人は、少女に気づかれないように、忍び足で後を追っていく…水たまりを上手く避けながら、飛
んだり跳ねたりしている少女の姿は、とても心に殺意を秘めているようには見えない。
そのか細い足が向かった先は、少女の通う南中学校であった。
南中学校は公立の中学校で、校庭の広さが人気の学校らしい。しかし、セキュリティの強化がされた現
在、他学校の中を見ることは難しく、校舎の周りには、分厚い鉄の壁が立ちはだかっていた。蒼の通う蓮
咲学園は見た目重視のため、鉄の壁は無いが、今や、ほとんどの学校がこの造りをしている。さらに、校
門の横にカードリーダーが設置されていて、生徒は学生証をそこに通さなければ校門を通ることができな
いらしい。
無機質な壁は三人を学校に入れることを許さなかった。
「どうするか…」
落胆する蒼たちに対して柏木が、
「こっそり、侵入するしかないね」
まさかの侵入案、蒼と伊吹は息を飲んで、柏木を見た。彼女の大きな瞳は目の前に立ちはだかった壁を睨
みつけていた。彼女はやるな、と蒼は確信した。
「これじゃあ、鴉ノ駅と変わんないじゃん」
眉間に皺を寄せて柏木は一生懸命にカラスの糞を避けている。
「全くだよな」
伊吹はカラス目掛けて小石を投げつけた。小石を避けようと、カラスが一斉に飛び立っていく、その後直
ぐに、カラスの黒い羽がハラハラと落ちてきた。これが白鳥か何かの羽だったらどんなにメルヘンティッ
クなのだろう…しかし、カラスの羽となると、正直、不気味だ。
「そう言えば、柏木。昨日学校で、放課後、蒼に話があるとか何とか言っていたよな」
突然、伊吹が変なことを柏木に聞き始めたので、蒼は思わず躓きそうになった。すっかり忘れていたが、
蒼もそのことは気になる。
「ああ、それは…」
蒼と伊吹は息を飲んで柏木をガン見する…
「実は昨日の朝、登校中に、いきなり全ての記憶がフラッシュバックしてね、それで動けなくなっていた
私の元に白羽が来て、秋山の話を私にしてくれたの」
それで、柏木は遅刻寸前だったのか、と蒼は納得した。柏木たる者が寝坊なんかするはずないのだ。そし
て柏木は話を続ける。
「遅刻しそうになった私は、白羽と別れた後、急いで学校に向かったんだけど、その途中で蒼くんと伊吹
くんが秋山先生について何か話しているのが聞こえてきて、もしかしたらこの二人も私と同じで浄罪師の
使徒なのかなって思って…」
蒼の希望と期待は儚く崩れ去っていった。いや、そんなことは既に分かっていた。柏木が蒼に気があるは
ずがないってことくらい…蒼はよく知っていた。
「だから蒼くんに確かめてみたくて、それで…下駄箱でストラップを勝手に取って…後で会いに行く口実に
しようかなって…」
な、なんと!ストラップの件までそう言う理由だったとは!蒼は何だか急に虚しくなった。人生そんなに
甘くないよな…
「そうだったんだ…」
柏木の話を聞いた後、すっかり拍子抜けしてしまった蒼は、カラスの糞で塗れたコンクリートの地面と
睨めっこしながら進んだ。
ほとんど下を向いて歩いていた蒼だが、伊吹の声で、ふと我に戻った。
「ここが、例の清水麻里って奴の家か」
その家はレンガ造りの三階建てで、庭には綺麗な花が植えられてあった。見た感じでは、極普通の家であ
る。
外でウロウロとしていると、突然玄関ドアの向こうに、人の影が見えたので、三人は慌てて近くに停っ
ていた車の影に隠れた。
「行ってきます」
その声と同時に、家から出てきたのは、十代半ばといった感じの少女だった。髪の毛は可愛らしく巻き髪
で、生まれつきといった感じで自然な茶色であった。体は驚くほど細く、転んだら欠けてしまいそうであ
る。
「あんなに華奢な子なのに…」
こちらに気づかず、スタスタと歩いていく少女を、納得のいかない表情で見つめる柏木。
それから三人は、少女に気づかれないように、忍び足で後を追っていく…水たまりを上手く避けながら、飛
んだり跳ねたりしている少女の姿は、とても心に殺意を秘めているようには見えない。
そのか細い足が向かった先は、少女の通う南中学校であった。
南中学校は公立の中学校で、校庭の広さが人気の学校らしい。しかし、セキュリティの強化がされた現
在、他学校の中を見ることは難しく、校舎の周りには、分厚い鉄の壁が立ちはだかっていた。蒼の通う蓮
咲学園は見た目重視のため、鉄の壁は無いが、今や、ほとんどの学校がこの造りをしている。さらに、校
門の横にカードリーダーが設置されていて、生徒は学生証をそこに通さなければ校門を通ることができな
いらしい。
無機質な壁は三人を学校に入れることを許さなかった。
「どうするか…」
落胆する蒼たちに対して柏木が、
「こっそり、侵入するしかないね」
まさかの侵入案、蒼と伊吹は息を飲んで、柏木を見た。彼女の大きな瞳は目の前に立ちはだかった壁を睨
みつけていた。彼女はやるな、と蒼は確信した。
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