囚われのカルマ

弓月下弦

文字の大きさ
上 下
3 / 7
第一章 アンダーグラウンドへ

1-3 アンダーグラウンド

しおりを挟む
アンダーグラウンド。
それはこの汚れた世界を正すために造られた巨大組織。
本来なら同種の殺し、すなわち殺人を犯すとその魂は汚れ、死後神により抹消される。もしくは死神達の餌になるとされていた。しかし、今から約300年前に神である浄罪師は姿を消した。

魂の清らかさを保つ浄罪師が消えた後、殺人者の魂は処分されることなく輪廻転生を繰り返した。当然、罪を何度も重ねた魂を持つ人間は生まれながらにして潜在殺意を持っていることになる。

彼らは己に定められた悲惨な運命に抗うことは出来ず、人を殺し続ける殺戮兵器だ。

そんな彼らは「囚われのカルマ」と呼ばれ、人々から恐れられた。

そこで、清らかな魂を持って生まれた一部の人間から造られたアンダーグラウンドという組織に所属する者によって囚われのカルマ達の捕獲が始まった。
殺しはせず、あくまで捕獲だが、捕まった者は地下牢獄に収容され、血に飢えた仲間に近いうちに殺される運命を辿る。そこで命を落とした者の魂は死神によって狩られる。狩られた魂は二度と生まれ変わらず死神の体の一部になるという。


なんとも残虐なやり方だが、こうでもしなければこの世は更に秩序が乱れ、やがて崩壊する。

しかし、浄罪師が姿を消した今、こんなやり方では完全に汚れた魂をこの世から排除するのは不可能に近い。所詮、雀の涙なのだ。一刻も早く浄罪師を見つけ出して封印を解く必要が我々人類には必要だ。

噂によると浄罪師は反逆者によって何処かに封印されているそうだ。その反逆者とは恐らく人を殺した人間だろう。生まれ変わることのできない運命に抗い、浄罪師を消したと考えられる。そいつは今もこの地にいるはずだ。
体は生まれ変わっているだろうが、そいつの魂を持ったやつを探して浄罪師の封印を解く必要がある。
生まれ変わって記憶をなくしている可能性はあるが、諸説によれば一部の囚われのカルマは記憶を受け継いで生まれ変わっているとされている。恐らく彼らはかつて浄罪師となんらかの関係があり、そうなっているのだろう。

いずれにせよ、俺はこの世の中を変えるためにここに来た。



※※※


程なくして、第1試練の説明が始まった。なにやら3名のスタッフの内、1人が俺たちが着させられている純白の衣を手にとって掲げた。今思ったが、この3名のスタッフは何者なんだろうか。フードを被っていて顔が見えないから、何も分からない。声を聞く限りでは1人は女性のようだが、あとの二人は無言のせいで性別さえ不明だ。

「第1試練は別名『己の衣を血で染めるべからず』です。簡単に説明しますと、これから1ペアごとに課題を与えます。外の世界でその課題をクリアする中、あなた方が今来ているアンダーグラウンドの証である純白の衣を一切血で染めてはならないということです。他人の血はもちろんのこと、自分の血でさえも染めてはなりません」

説明係の女性スタッフが掲げられている衣を指差しながらそう説明した。
ここのルールは「決して人を殺してはいけない」だ。そもそも、人殺しをしたら魂が汚れてアンダーグラウンドを追放される。いや、追放じゃない。おそらく噂の地下牢獄に閉じ込められるのだろう。俺たちは清らかな魂を持つことが第一条件だ。罪にとらわれず、正義を振りかざせる安全な人間でなくてはいけない。なるほど、今回の試練は俺たちが今後も「殺人」を犯すことのない安全な人材であることを確認するためのものか。

「自分の血さえダメなんですね。外の世界で怪我も出来ないなんてどうクリアしたら良いのでしょうか」

横で不安げな顔をしたハルさんが呟いた。その不安な表情もまた可愛い。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

「二人で力を合わせればきっとうまく行きますよ!」

「そうですね、すみません。ぼくネガティブで」

ハルさんはどうやらボク少女のようだ。ますます可愛い。
これはこの課題で俺の自慢の武装術を伝授して、彼女を守り、良いところを見せつけるチャンスだ。

「それでは、これからそれぞれに課題を与えます」

※※※

俺たちに渡された課題は、「連続殺人鬼アンリ・ベルガモットを捕らえる」という内容だった。
まあ、予想通りといったことろだ。アンダーグラウンドの隊員の仕事と言えば罪人の捕獲。これからの任務に直結する課題で実に効率がよい。問題は相手の罪の深さと戦闘能力の高さだが、、、


「レイさん、アンリという人はどうやら9歳の少女のようですね。戦闘力は高そうではないですが、なんだか少女相手に気が引けますね、、、」


「9歳で連続殺人鬼、、、?うん?説明欄にブラッドアイ保持者ってあるぞ」

「本当だ、、!この子は前世からの大罪を背負った悲しい『囚われのカルマ』の一人ですね。」

殺した同種の数が100を越えるとその魂の所持者の瞳は赤く染められ、ブラッドアイと呼ばれている。
生まれながらにしてブラッドアイのパターンが大半であるから、恐らくこのアンリという少女も生まれながらにして殺人鬼だったということか。

「本来なら、ブラッドアイの捕獲はプロの仕事ですが、その少女はまだ幼く力も大してございません。ですから、入隊試験に合格したお二人が力を合わせれば、捕らえることができるはずです」


スタッフはそういうが、相手は連続殺人鬼。やはり、生まれて持った呪いには逆らえなかったのか。
けれど、9歳という幼さでどうやって殺人を?ブラッドアイは人間を越えた力を持った化け物だと噂されているが、この少女も超人的な力を持っているのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

罪人がいつか神様をぶん殴る異世界譚

智恵 理侘
ファンタジー
 日頃から生きていくために罪を重ねてきた牧島重蔵(まきしまじゅうぞう)は気がつくと異世界へ、それも少女にされていた。混乱する中、振り返ると自分は既に死んだ事、そしてこのような状況に追いやられているのは書物神のせいだと思い出す。流れに身を任せて過ごすと北区の領主に拾われ、孤児院で過ごすがこれは書物神の作った世界――物語が静かに始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

Be The Ace! ~転生チートで世界征服!?~ アルファポリス用

荒波
ファンタジー
東郷樹(いつき)はパイロットを志望して防衛大学校に入るもその夢を断たれてしまう。 失意の樹はロープ1本持って富士の樹海へ行き、そこで死神ストナタと出会う。 チート能力を付けるから異世界で活躍して来いというストナタに空が飛べるならと応じる樹。 異世界に来たらエルフ3:ハーピー1のクォーターの女の子にTS転生。 混血児と言うことで村では白眼視される。 しかし、ハーピーと恋をしたエルフの祖父に稽古を付けてもらったら急成長。 魔法使いなら杖!杖なら魔砲少女でしょと自重せずレプリカを作成。 魔法陣も研究したら撃てました!みんな大好きSLBの似非バージョン。 私服を作れば魔砲少女のコスプレ!? 魔王の新設する空軍に入り込んで謀略を張り巡らしつつ、現場に出ては人間たちをせん滅する。 目指すは魔も人も統べる世界征服だ!  PIXIVで一七夜月さん(http://www.pixiv.net/member.php?id=9208359)に表紙を描いてもらいました。  文字はなのはフォントを使用しております。  ありがとうございます。

処理中です...