もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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256話 「デート? その3」

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「まずは昼食にしましょう」


 そう言って一旦僕を床におろすカフェ。するとカフェさんが胸のあたりから弁当袋? らしき物が出て来ました。


「えぐ?!」
「ぶふっ?!」


 驚く僕と思わず噴き出したとみられるバイク。

 なんだその取り出し方と思った僕はカフェさんの服を見ます。メンテ鑑定アイ発動!


 こ、これは……?!


 なんていうことだ。このメイド服、いつも来ているやつと少し違うぞ?!

 胸の近くというかほぼ裏生地側にポケットらしきものがあり、そこにわざわざ弁当を収納していたとでもいうのか??

 しかも取り出すときにチラッっと一瞬だけ胸がはだける仕様になっている。

 お、恐ろしい。あのカフェさんが何も意識せずこれをやってのけたとでもいうのか……?!


 ふう、落ち着け僕。チラリとバイクを見ると、彼も何かを考えている顔をしている。

 分かる。僕には分かるぞ。これはカフェの色仕掛けによる攻撃。

 バイクはどう反応すればいいのか戸惑っている。効いてる効いてる。ジャブが効いてる!

 そういえば今朝、カフェが同僚にほつれのあった服を直して貰ったと言っていたような気がする。まさかだと思うけど、そのときに空間を拡張するポケットを取り付けたのではないか?

 つまりこれは誰かによる入れ知恵なのか??

 真相は分からないが、このデートに本気なのは分かりました。


「……どうなさいましたか?」
「ばいく」
「うえ?! いえ、なんでもないですよ。て、手作りですかこれ全部?」
「かふぇ、てぢゅくり?」
「そうですね。手作りですよ(ナンス家は毎日手作りですからね。私はそれを詰めて持って来ただけですが)」
「はーい! てづぐり」
「へえ、そうなんですね(これ全部、俺のために……?)」


 何事もなかったかのように装うバイク。目が泳いでるけどね。そりゃいきなり胸チラされたらびっくりするって。

 カフェさんは? な顔をしつつも机の上に弁当箱を並べて行きます。みんなで食べれるようにいっぱい持って来たんだね。10人分ぐらいある気がするけど。


「これもこれも手作りだと……?! しかもこの弁当箱や水筒、俺の国の物とそっくりだ。これがご飯でこっちはハンバーグ、卵焼きや唐揚げ。ウインナーに焼きそばに煮物みたいなものがあるな。み、味噌汁にサンドイッチ?! ま、まだまだ出て来る。どう考えても袋のサイズと量が違っている。あの袋はいわゆるアイテムボックスみたいな道具か? そんな便利なものがこっちの世界にはあるのか。にしてもここで懐かしい料理が食べれるとは思わなかったなあ。やっぱりこの国の文化は俺の国と……ブツブツ」


 顔どころか声で全部出てるぞと言いたくなった僕です。

 そんなバイクをじっと見ていたらハッとした顔をし、こちら側に話しかけてきました。


「まさかお昼を作ってくれていたなんて。どこか近くのお店に食べに行こうと思ってましたよ。最初は幼稚園に着いてびっくりしましたが、これはこれでいいものですね。もしかしてその恰好、今日ここのお仕事中でしたか? それだったら申し訳ないです」
「ちゃう」
「え、違う?(やっぱこの子、俺の言葉理解してる)」
「めーど」
「めーど? ……メイド?(服装的にそうかな?)」
「はーい。かふぇ、めーど」
「へー、カフェさんはメイドなんだ。いや、メイドって何だ……?」


 ん? バイクはカフェさんのこと教会の職員と勘違いしているようだぞ。

 そういえば初めてバイクを見た時、ここに僕とアニーキーとカフェさんが遊びに来ていたなあ。


「メンテ様。今バイクさんは何とおっしゃていましたか?」
「かふぇ、ここ、めーど、ちゃう」
「私がここでメイドとして働いている勘違いしてたんでしょうか?」
「はーい!」
「なるほど……。確かに間違われるかもしれませんね(着て来る服失敗したかもしれません)」


 説明するの難しいからてきとーな返事をしたらカフェに通じてしまった。今日の彼女は冴えてる気がする。てきとーな言葉で通訳しちゃってもよさそうだ。

 この後、3人でお弁当を食べました。もちろん僕はカフェにご飯を食べされてもらったよ。バイクはね、なんかすっごいがっついて食べてました。


「うまい! あああ、この味付けすごく懐かしい。ずっと食べたかった味だ。久々にお腹いっぱい食べられる。カフェさんは料理が上手なんだなあ」
「……メンテ様、今バイクさんは何と?」
「うまい」
「そうですか。それはよかったです」
「あとかふぇちゅき(あとカフェの味付け好きなんだって)」
「ふえっ!?(こ、告白ですか?!)」
「ずっと、たべたい(ずっと食べていたいとも言ってる)」
「あ、あなたの料理をこれからもずっと食べていきたい?!(いきなりのプロポーズ?!)」
「えぐ?」


 ん? なんかカフェさんの様子が変だな。


「そ、そうですか。なかなか大胆なこと言うお方ですね。メンテ様、お口が汚れていますのでふきふきしますね(落ち着くのよ私)」
「えぐ」


 よく分かりませんが、昼食は満足いく結果になったのではないでしょうか。弁当を片づけるときにバイクさんはまた噴き出していましたが。


 ◆


 さあて、ここからが本題。

 バイクの目的とやらをしっかり聞き出そうじゃないか。カフェさんの膝の上に乗り、カフェさんと一緒にバイクを見つめる僕です。さあ、かかって来い!


「カフェさんのお弁当おいしかったです。さっそくなんですが、その子は例の子でいいんですかね?」
「「……?」」


 例の子?


「……あれ、話が通じてない? 手紙に書いたと思うんだけど。もしかして君はカフェさんのお子さんかな?」
「ちゃう」
「ち、違う? カフェさんの子じゃないのか。君はここに住んでるの?」
「ちゃう」
「えっ? じゃあ君ってどこの子なの??」
「しごと」
「仕事? カフェさんの?」
「えぐ」
「そっか、カフェさんって育児関係の仕事してるのか。メイド、メイドだもんなあ。う~ん……」


 カフェさんがこちらを向いて聞きたそうにしていますが、上手に説明出来る気がしないので通訳はあとにしよう。


「質問変えようかな。君は俺の言葉分かるんだよね?」
「はーい!」
「おお、やっぱりだ! 君今何歳なの? というかお名前教えて欲しいな。君呼びなのはあれだし(さっきから見ていた感じ、この子がカフェさんに通訳してるんだろうな。詳しく聞いてみたい)」
「えぐ~?」
「あれ? この反応どっち??(分かってるの? 分かってないの??)」


 必殺技たる可愛い声を出したら困惑するバイクです。

 というか僕も困惑してますが。なぜかバイクは僕を例の子と言って食い付いて来たからね。カフェさんに用があるんじゃないの?

 それはさておき、今の質問にはどう答えた方がいいのでしょう。こういうときは赤ちゃんっぽく大人に聞いてみよう。ダメならダメ、いいなら僕のことを教えるとしますか。


「かふぇ、なんちゃい(僕何歳?)」
「私に年齢を聞いているのですか?」
「はーい!」
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよとお伝えください」
「……えぐ。ばいく、ころすぞ」
「えっ、めっちゃ怒ってる?!(名前聞いちゃダメだったの?!)」←バイク


 まあカフェさんの言葉を訳せばこんな感じでしょう。


「分かった。まだ会ったばかりだし、お互いのこともっと知ってから話そうか(まあ普通警戒するよなあ)」


 なんか勝手に納得しているバイクです。


「メンテ様、バイクさんは何と?」
「ばいく、しりたい」
「知りたい?!(私のことを?!)」
「おたがい」
「お、お互いのことを?! ……それは時期早々ではありませんかね(心の準備がまだです)」


 カフェさんは個人情報は相手を見極めてから話すべき。そう言いたいようですね。僕の名前は言わないでおこう。

 そんなやり取りをしていたら、バイクはこっちを見ていました。この人、僕が通訳してるの見抜いているようだ。この男、出来るタイプだな。


「えっともういいのかな? 俺ね、いろいろな国を旅してるんだ。でもどこに行っても俺の故郷の言葉を分かる人が誰一人として見当たらなくて困ってたんだ。言葉も文字も未だに何一つ分からなくてさ。まるで別の世界に取り残されたような気分だよ。そんなときにこの町に来たら幼稚園から懐かしい言葉が聞こえて来てね。やっと見つけた! って思わずテンションが上がったよ。だから俺の故郷に関係ある人がいるかもしれないと思って手紙を書いて彼女、カフェさんに渡したんだ。まさかこんなに早く見つけてくれるなんて思わなかったよ。今日は事情を説明して、人探しに協力して欲しいなと思って食事に誘ったんだけどね」


 僕が言葉を挟む暇なく、ぐいぐいと来るバイク。顔近いよー。机の上に身体乗っちゃダメだよー。

 とりあえず食事に誘った理由と僕がいても驚かなかった理由は判明しましたね。人探しが目的で、探し人が僕だったみたいなね。バイクの話はまだ続きます。


「まさか言葉が通じる相手がこんな小さい子だとは思わなかったよ。こうやって会話が成立するのも数年ぶりだ。コミュニケーションとれるってこんなに嬉しいものだったんだね! 君たちに会うまで会話は一生無理なものだって諦めかけてたよ」


 数年しゃべってない? そりゃ深刻な頭の悪……ごほん。大変な旅をしていたようだ。


「ところで君は誰にその言葉を教えて貰ったの?」
「えぐ~?」
「そうだね。分からないよね。んー……なら君のお父さんかお母さんに会えるかな? 君が誰に言葉を教えて貰ったのか知りたいんだ。多分その人が俺の国の関係者とか知り合いだと思うんだよね。俺いつか普通に会話が出来るようになりたいんだ。いろいろな国を見て来たけど、この世界って悪くないんだよね。別に故郷に帰らなくてもいいかなと思ってるぐらいだし」


 身を乗り出して僕に迫るバイク。これは本気の目です。誰ともコミュニケーションとれないって困りますよね。僕はまだ赤ちゃんだからしゃべれなくてもあれだけどバイクは大人。相当苦労をしてきたことでしょう。

 これでバイクの目的はハッキリしました。デートじゃなく、純粋に人探し。デートではなかったみたいです。

 話が長すぎて簡単にまとめられないなあ。でも今の冴えてるカフェさんなら理解出来るだろう。そう信じてカフェを見つめる僕です。


「かふぇ」
「はい、メンテ様。今度は何と?」
「ばいく、まんま、ぱぱあ。あいたい(バイクが僕のママとパパに会いたいんだって)」
「……えっ?! い、いきなりですか?!(いくらなんでも積極的すぎません?! 私の両親に会いたいって彼は本気で言っているのですか??)」
「はーい!」
「それはちょっと難しいですね。予定もあるでしょうし……(まだ知り合ったばかりですから)」


 アポなしは困るって顔をするカフェ。ん、なんか顔赤くない? 気のせいかな。

 とりあえずバイクには今日はダメだと伝えます。すると僕の意図をすぐ理解してくれました。やはり彼は言葉以外のスペックは高めなのではないか? 何かタクシーに通ずるものを感じる。


「そっか。ご両親は忙しい人なんだね。また別の日にでもどうだろ? しばらくここに滞在する予定なんだ」
「はーい! かふぇ」
「はい、メンテ様」
「ばいく、でーと。また、したい」
「ふぇ?!(もう次回の約束を?! 私のどこが気に入ったんでしょうか?)」


 ん? なんかカフェさん驚きすぎじゃない??


 こうしてカフェバイクとの出会いは問題なく終えたのである。途中で教会の子供たちが乱入してきてデートデートいじられたり、マネーノに雑用を押し付けられたバイクが大変なことになってたけどね。それは別のお話ってことで。
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