もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

文字の大きさ
上 下
254 / 259

254話 「デート? その1」

しおりを挟む
 コノマチの教会にて。


「「……」」


 この日、とある男女が教会に訪れていた。

 男性の方は、動きやすいカジュアルというかラフな服装である。黒いワイドパンツに白いシャツ。歩きやすそうな黒い靴を履いていた。スポーツ選手のような短めの黒髪。一目見るだけで清潔感のある印象を持っていた。モテるかモテないかでいうとどっちとも言えない。そんな雰囲気の友達なり知り合いの男性の顔を思い浮かべて欲しい。それにそっくりなのがこの男性だ。

 女性の方は、なぜかメイド服姿である。メイド服といっても……まあなんだ。召使いだったり学生服のようなそんな目立つ恰好ではない。普通の服にエプロンをしたかのような普段着だ。それが普段着というのもなんだが人の好みにケチをつけないでおこう。仕事を抜け出して来たと間違えられてもおかしくないが。


 男女はまるでお見合いをしているかのような雰囲気で向かい合っていた。お互い緊張しているのか落ち着かないようだ。


 そんなことはさておき、この男女二人よりも目立つ人物がもうひとりいる。

 それは赤ちゃんです。構え構え。甘やかせ~。という1歳の男の子。この子は女性の膝の上に座りながら男性を見ていた。じーっと観察しているようだ。


 女性と男性はお互い見つめ合いながらこう思っていた。



「「……(き、気まずい)」」




 ◆



 時は少し遡り、約1時間前。

 ぐっすり寝たメンテは、体調が元通り。元気元気~!

 対してメンテの近くに女性達は疲労困憊という状況であった。


「メンテちゃん、これな~んだ」
「えぐ?」
「じゃじゃーん。お手紙ですよ~」
「えぐぐぅ~?」


 今メンテと遊んでいるのは、メンテの母親ことレディー。

 昨日今日とメンテは徹底的に甘やかされまくっていた。それは体調が悪かったせいもある。ご機嫌取りをするのよと女性達は死力を尽くして頑張ったのだ!

 おかげで今最高に可愛い笑顔をしている。すこぶる元気なようだ。だが真の狙いは甘やかして喜ばせることではない。ここが勝負どころだわ! とレディーが仕掛けたという。


「読んでみてメンテちゃん」
「こえ?」
「そうよ、これをね。最後まで読めたらご褒美があるわ!」
「はーい! ……おれの、なまえは、ばいく」
「えーっと。そうね、最初から読むのね。えらいわよ」


 レディーの狙いは、この手紙を読ませること。なぜならこれはメンテにしか読めない謎の文字で書かれているからだ。この際読めちゃう不思議さは無視しちゃうのだった。

 この様子を女性達はこっそり見守っていた。始まったわ、ついに手紙の内容が分かるわよ! とそわそわしつつも邪魔にならないよう仕事をしているフリをしていたという。

 メンテは何の疑いなく読み進めていく。ご褒美と聞いてやる気が溢れているようだ。

 ここから読んでねと言ってもなぜか必ず最初から読み始めてしまうメンテ。彼に文章を途中から読むという大人に都合の良い融通は利かないぞ。なにせ彼は1歳という幼い子。あまり頭が良くないアピールを遺憾なく発揮して楽しんでいた。

 本人が可愛いでしょ? 頭悪い方が可愛いがられるとわざとやっているのだが、周囲の人々には年相応の反応に思っていた。演技しようとしまいとただの赤ちゃんにしか見えないので疑う者は皆無である。それより早く先を読んでくれの声が一番多いが、気分を害してはいけないと言葉に出すことはなかった。おかげで1分かからない文章に何十分も時間をかけたという。


「しょくじ」
「そうそう食事ね。食事のあとは?」
「どよー。おひる、どうbまrgま、ばちょは、が43qgbあ」
「……ちょっと待ってね。土曜のお昼ね。そのあとをもう一回言えるかしら?」


 メンテの赤ちゃん感あふれる発音にレディーは苦戦しつつも手紙を読み解いていく。だが聞いているうちにこの子本当に読めてるんだなと思うのであった。


「ここは何って読むのかな?」
「じゅーち」
「じゅーち? いち? それともに?」
「にい」
「にね。土曜で、お昼で、12時ね」
「はーい!」
「そうなの、すごいわメンテちゃん。このばちょっていうのはどこかしら?」
「ぎうお」
「ギルド?」
「はーい!」


「フフッ。今は土曜の11時40分ね。…………カフェちゃあああああああああああん!!」




 ……ということがあった。悲しい事件になりかけたと言う人もいる。

 全く持って時間がなかったカフェはオシャレをする暇がほぼなく、仕事をしていたそのままの恰好で外に飛び出したのだ。それと通訳が必要なんじゃないかという意見でメンテを連れて出て行ったという。ほぼ赤ちゃん言葉なので役に立つかは未知数であるが。

 あとの仕事は私たちに任せなさい! あなたはあなたで頑張るのよと皆に応援され、カフェは約束の時間内になんとかギルドにたどり着けたのだ。彼女を見送るときに一番目が輝いていたのはレディーだったりする。キッサにいたってはヤバい、これもう終わったわねと暗い表情をしていたが。



 待ち合わせ場所であるギルドの建物の前にたどり着くカフェとメンテ。

 ギルドと言っても待ち合わせ場所はどこになるのか。中なのか外なのか。それともギルド近くの店なのか。そもそもメンテが読んだという手紙の信憑性が気になるところなカフェ。レディー様に言われたからには町には行くしかない。とりあえずこの手紙をくれた男性と話せば皆の誤解も解けるでしょう。これもメイドの仕事ですねという気楽な気分である。

 そんな理由で、カフェはデートに誘われているという自覚が全くないのだ。鈍感というか相手のことが分からな過ぎてそういう気持ちになれなかったのだろう。ただでさえ結婚への理想が高いのに自らハードルを高めていることに気付いているのだろうか?


「確認だけして帰りましょうか」


 どうせあの異国の男はいないだろう。いないなら手紙の内容は間違っていたと報告すれば問題ない。どうせ冷やかしか何かだったのでしょう。そう思っていたのだが……。


「――! bn,mq50hq35k!!」
「?!」


 ギルドの入り口から外に出て来た男性は、カフェに気付くと手を振って近づいて来たのである。

 え? 本当にいるのですか?? とびっくりするカフェである。


「babj4g53jg3o5lllbyjwj5ih6qy5-0!」
「え、えっとですね……」


 カフェの前に来て何かを言う男性。やっぱり言葉が分からない。何か喜んでいるのは分かるけど何と返事をすればいいのだろう。というかこっちの言葉は通じるの? と困惑するカフェ。

 そんなカフェの様子を見て頭をかく男性。顔を赤くして何かをしゃべっている。何か失敗して恥ずかしいという感情だろうか。

 さてさて、そんな二人はどうするのか。

 男性は手紙を読んで貰えたんだねという明るい表情なのだが、カフェに至っては目的や予定をほとんど知らない。というのも最後まで手紙を読んでいないからだ。メンテが頭の悪さを演技で発揮しまくった結果、時間がないと知った大人達が大慌てしたのである。準備時間20分でよくたどり着いたものだ。


「「……」」


 二人がどうしよう。何の会話をすればいいんだ? とぎこちない空気が流れる中。動いたのはやりあの赤ちゃんである。


「かふぇえええい!」
「? どうなさいましたかメンテ様」
「いく」
「どこに行きたいのですか? 今お話し中なのですが」
「かねのなるあれ」
「…………えっと、どこでしょうか。あっちですか? ああ、お金ですか。教会に行きたいのですね」
「はーい!」


 あ、男を無視してついメンテ様としゃべり込んでしまったわ。失礼なことしてしまったのでは? と思うカフェ。だが男の人はびっくりするような目でメンテを見つめていたという。怒っていないようだ。

 それより金でどこに行きたいのか通じるのはいかがなものだろうか?


 こうして教会に向かう3人。ちなみにメンテは抱っこ紐をされているのでノロノロ歩いたりはしない。あとは邪魔にならないように静かなものであった。

 教会に着くと、出迎えてくれたのは子供達。その子供たちが呼んで来たのはマネーノ。カフェはマネーノに中に入りたいことと、この男の人について聞いてみたがよく分からないということだった。


 それから男性、カフェ、メンテの3人は個室というかドアで区切ってある部屋に入った。

 チラチラとドアの隙間から子供がこちらの様子を伺っている。これドアの意味なくない? 本当にここに来てよかったのだろうかと思う男性。目的もよく分かっていないのに男は何も文句言わずについて来た。これ正解だったのか? あと何を話せばいいのか悩むカフェ。それと特に何も考えてないメンテ。皆計画性がなく行き当たりばったりだった。


 そして、冒頭に至る。


 3人はどうなってしまうのか。次回からはメンテ視点で見てみよう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

処理中です...