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249話 「相談相手間違ってるよ その2」
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「アニーキー、勉強教えてくれー!」
ナンス家の庭にて。魔法の練習をしているアニーキーのもとに、町から友達がやって来たようだ。
「勉強って何の?」
「文字はだいたい出来るようになったんだ。でもそれ以外がダメで……」
「魔法なら教えてもいいよ。最近は風魔法も特訓してるからね。見てく?」
「あ、そこは魔法以外で。実は出来ないのは俺だけじゃないんだ。みんな困ってるんだよ。学園に入る前に少しでもやっとこうってな。頼むよアニーキー」
「そうなの? んー、しょうがないなあ」
「よっしゃー!」
この友達は教会の子供である。アニーキーに頼みごとをしに来たらしい。
「勉強っていつやるの? 明日? それとも明後日?」
「今すぐ着てくれ!」
「え、今から?!」
「おう、いまいま。もうみんな協会で待ってるから」
「急じゃない? まあいいけど」
もうしゃあねえなぁみたいな兄貴面をするアニーキー。それに対し助かるぜこのお人よしめという顔をする友達。なんだかんだお互いの性格を理解し合っていた。良い仲である。
そんな2人のもとへ小さな乱入者が現れる。
「はーい! いく」
「え? メンテも行きたいの? っていつからいたのさ」
「いくー」
メンテである。カフェと2人で外で遊んでいたところ、たまたま庭にいるアニーキーに出くわしたのだ。
「お、アニーキーの弟も来たいのか? 俺は誰でも歓迎だぜ」
「うーん、わかった。カフェさん、メンテのこと頼んでもいい?」
「かしこまりました」
「きゃきゃきゃ!」
◆
その頃の教会。
「働けゴミども」
「いやいや、俺達依頼受けて来ただけなんだが……」
「しっー。今はそっとしとけ」
「マネーノさんの言葉遣いが悪いときは機嫌が良いときなんだよ」
「そうそう、ああいうときは無視しとけばいいんだぜ」
ギルドの依頼を受けた冒険者が3人教会に来ていた。依頼主はマネーノ・キスイダ、このおばさんが教会で一番偉い人である。ただの村人感がすごいが気にしてはいけないぞ。
「いーひっひっひ。というわけでお前らは今日一日、子供の世話を手伝え!」
「おい、あれ大丈夫なのか?」
「だから静かにしとけって」
「話進まなくなるからしゃべるんじゃねえーよ」
「……働けゴミども」
「おい、話戻ったじゃねえか?!」
「お前がしゃべるからだろ」
「あの婆さん分かってやってるよな……」
冒険者達はこの依頼大丈夫なのか? とやや不安げに話を聞くのであった。
「おや、あんたら男しかいないね。何人か女がいるって聞いてたけど……」
「あー、うちの女性メンバーは全員ダウンしてて来れないんだ」
「あいつら昨日まで元気だったんだよ。今日会ったらみんなひどい顔してたわ。なんかお気に入りの男に彼氏が出来たのなんの言って荒れてたらしいぜ」
「あの顔じゃあ子供の前は出せねえよ」
「急に依頼を断るのもあれだと思ってな。とりあえず俺達だけで来たんだがまずかったか?」
「それは困ったね。今日は人手が足りなくて頼んだのよ。でも子供の相手ぐらい男だけでも出来るわよね? 給料分はキッチリ働いてもらうからね。金よ。金金」
こうして子供の相手をし始めたのである。冒険者の男3人はガキの相手なんて余裕だぜーと言い張っていたのだが……。
「ぎゃああああん!」
「ダメだ。何しても全然泣き止まねえ……」
「こっちは目が合うだけで泣くんだが」
「マネーノさん、何かアドバイスとかないか?」
「……ズズズズズ。はぁー。今忙しいから後にしな」
「いや、絶対暇だろ?!」
「ゆったりと何か飲んでやがる?!」
「ひとでなしー!!」
子供達に翻弄され、マネーノさんは全く相手をしてくれない。男達はごたついたという。
「だいたいあんたらの顔が怖いのがいけないんだよ。汚い笑顔なんて見たら泣くに決まってるじゃないの。だから女性優先的の依頼を出してたのにねえ」
「俺達じゃどうしようもねえじゃねえか?!」
「よりによってなぜ俺らに年少クラスの世話を頼むんだよ?! おかしいだろ!」
「みんな泣き止まないしミルクも飲んでくれねえよ」
依頼主は偉いのだ。こっちは金払ってる、しっかり働けと文句は受け付けないマネーノである。
「うるさいねえ。こっちは一番小さい子の面倒見てるから大変なの。この子たちの相手はあんたらには絶対無理だから私がやるしかないんだよ。見た感じあんたら全員育児は初めてなんでしょ? もたつきすぎよ。たまには冒険者以外のランクも磨いたらどうなの? どうせ他のランクはひとつも上げてないんでしょ」
「な、なんで分かるんだよ……」
「せめて俺達の相手もう少し大きい子にしてくれないか? そっちならまだ相手出来るかもしれん」
「そうだそうだ。人見知りがひどすぎて何も出来ねえよ」
「しゃべれないから何考えてるのか全然分からんしな」
「はいはい、文句言わない。ある程度大きくなった子の相手は、年長の子らにやらせてるから大丈夫なの。それに助っ人呼んだからね。問題はこっちのまだしゃべれない幼児たちよ。さすがに私ひとりじゃ無理だから依頼を頼んだのにねえ。来たのが不慣れな男どもなんだから困ったもんだよ」
教会も人手不足で大変なのである。ちなみにギルドには上げられるランクの項目が複数ある。冒険者以外だと商業関連が有名だ。教会から依頼を受けたこの3人の男達は冒険者のランクしか上げてなかったりする。そこをマネーノに見抜かれるのであった。こう見えて人を見る目はあるようだ。
男達が苦戦している中、マネーノに大きい子供が近づいて行った。教会に住む年長の子である。なにか伝えたいことがあるようだ。
「マネーノ婆ちゃん。アニーキー連れて来たぜ!」
「お、ちゃんと連れて帰って来たの。偉いわよ」
「じゃあ俺あっちで勉強してくるわ」
「はいはい、いってらっしゃい」
この子供は、先程ナンス家に向かった子だ。助っ人ことアニーキーに遊びに来てもらうように頼んだのである。無事連れて来てくれたので安心するマネーノであった。
「助っ人が来たからあっちは大丈夫ね。走り回らないよう勉強させるでしょう。それよりあんたら早く慣れなさい。冒険者やってるなら体力あるでしょ。あら、眠くなったの。よちよち。私はこの子を寝かせてくるから隣の部屋にいるわね」
「おいおい、マネーノさん行っちまったぜ」
「分からねえことは誰に聞けばいんだよ……」
「オムツってどうやって交換するんだ??」
「知らん。俺に効いても無駄だぞ」
「まずオムツの場所どこだよ」
「マネーノさん、マネーノさん! やっべ、返事ねえ」
「なんか隣の部屋からボリボリって食い物食ってるような音がするぞ……」
「実はあの人ひとりで余裕なんじゃないか?!」
冒険者の男達は慣れない育児に翻弄されたという。そんな中、ひと際目立つ謎の子供が男達の傍にやってきた。みながハイハイしている中、この子だけ立って歩いているのだ。
「あれ? あんな子いたか??」
「さあ。覚えてない」
「いた……かもしれねえなあ」
「はーい!」
「うお?! この子返事した。しかもしゃべれるぞ」
「おお、本当だ」
「みんな同じに見えて成長具合は違うんだなあ」
この謎の赤ちゃんは、赤ちゃんの中では頭が良い赤ちゃんである。なので多少の会話は出来るのだ。
「えっと、何君か分からないけど手伝ってくれねえか? まあ言っても分からないかなあ」
「はーい! てちゅだう」
「まじか?! 君は言葉が通じるのかよ。な、ならこの子なんだが……。なんで泣いてるか分かるか?」
「ねう。ねうい」
「ね、ねう? ……寝るってことか?」
「はーい!」
「そうなのか。じゃあ寝かしつけなきゃいけねえのか。でもどうやって……」
「だっこ」
「抱っこしたらいいのか? ほれほれ。……おお、なんだかいい感じだ。目がトロンとしてきたぞ」
「せ、先生! 俺にもいろいろ教えてくれ!」
「こっちにも頼む!」
「はーい! えぐえっぐ」
なぜか言葉の通じる赤ちゃんに物事を頼む冒険者の男達。もうお分かりだと思うが、この謎の赤ちゃんの正体はメンテである。
メンテの言うとおりにすると、なぜか初心者でも赤ちゃんの相手が出来るようになる。こうしてマネーノ不在の中、男達だけでしっかり仕事を乗り切ったのである。
「おお、全員寝ちまったぜ」
「なんとか俺らだけで面倒見れたな」
「ありがとう。名前分からないなんとか君」
「はーい!」
仕事をやりきり満足気なメンテと男達であった。
「おや? 静かになったと思ったらみんな寝かせちゃったのかい? やればできるじゃないの」
「お、マネーノさん。聞いてくださいよ、この子が手伝ってくれたんです」
「この子?」
「はーい! えぐえぐ」
「あら、メンテくん来てたのね。……メ、メンテくん?!!!!!」
「この子メンテくんっていうのか」
「ありがとなメンテくん」
「メンテくん助かったよ」
この子の名前が分かった男達は、メンテを可愛がったという。が、1人だけ様子がおかしかった。マネーノだ。
「た、たたた大変よ。始まるわよ」
「どうしたんだマネーノさん?」
「そんな慌てなくてもみんな寝てるぜ」
「俺達も慣れて来たし大丈夫でしょ。それにメンテくんは頼りになるぞ」
「えぐえぐ~……おっぱい」
「ひぃいいいい?!」←マネーノ
メンテがおっぱいと言った瞬間、今まで寝ていた全ての赤ちゃんがほぼ同時に目を覚ました。そして、一斉に泣き始めたという。
「な、なにが起こったんだ??」
「分からんって」
「マネーノさん? 何ですかこれ??」
「……始まったわよ。地獄のミルクタイムが!! あんたら、すぐに準備して。私がミルクを作るからみんなに飲ませるのよ。早く!!」
「ミルク? さっき飲んでくれなかったけど……」
「いいから早く!!」
大人達は急いで準備をし始めた。だが、人数が足りずに間に合わなかった。そこで暇そうな年中や年長の子供にも応援を頼んだという。
「どうしてこんな一斉に赤ちゃんが泣くんだ?」
「それはメンテくんが来たからよ」
「メンテくんが?」
「メンテくんが来るとね、理由は分からないけど一斉に赤ちゃんたちがミルクを飲みだすの。早くしろって大暴れで大変よ。本当この現象は何なのかしらね」
「たまたまじゃね?」
「だろうな」
「俺もメンテくんのせいじゃないと思うわ」
「そんなどうでもいいことしゃべってないで手を動かしなさい。あんたら年長の子供らに負けてるわよ? 子供ですら赤ちゃんの相手が出来るのにあんたらときたら不甲斐ないわね」
「んな言われても困るぜ」
「ミルクは初めてなんだよ」
「大目に見てくれ」
そんなマネーノと冒険者の男達の会話を聞いていたのか、近くにいた大きめの子供達にいろいろ言われ始めた。
「おっちゃん達へたくそだな」
「メンテくんに頼んでるの笑っちゃった」
「先生! とか言ってたね」
「赤ちゃんに頼るなんてやべーよ。ぶふっ」
「せめて俺達か大人に相談しろよ」
「頭悪すぎだろ」
「「「んぬぬっ」」」
言われ放題な冒険者の男達。子供は遠慮なんてしないのだ。
「せめてカフェさんに聞けばいいのにな」
「それな」
「ね~」
「「「カフェさん?」」」
「さっきからおっさんの後ろにいるじゃん」
「まだ気づいてないのかよ」
「まじかよ」
「「「後ろ? ……うおっ?!」」」
振り返るとメイドが立っていたという。カフェである。
「め、召使い?」
「いつからいたんだ??」
「全然気付かなかったぞ?!」
「ずっといたのにね」
「メンテくんとアニーキーの保護者だもんな」
「俺達ずっとドアの隙間から覗いて見てたけど、おっちゃんたち本当に気付いてなかったんだ」
「わざとやってるのかと思ってた」
「本当に冒険者かよ」
「ただのおじさんじゃん」
「マネーノさんですら気付いてたのにね」
「だせー」
ずっと冒険者の男達の近くにいたカフェ。メンテと一緒に部屋に入って来たのだが、気配を消していたため男達は誰も気付かなかった。これぐらいメイドなら出来て当然。メンテに危害を加えないかの監視をしていたのである。
アニーキーの勉強会に参加していない子供達はずっとカフェと冒険者の様子を見ており、いつ気付くのか今か今かと待っていたという。どうやら気配を感じ取れなかったのは男達だけのようだ。そのため子供達にボロクソ言われるのであった。馬鹿にされてるとも言う。
「あまりにも鈍感なうえ、メンテ様に必死に頼む姿を見て笑ってしまいそうになりました。頼りにならない男どもですね」←カフェ
「働けゴミども。金返せ……えぐ」←メンテ
「さすがメンテ様、素晴らしいお言葉ですよ」
「はーい!」
「おいおい、変なこと教えてるぞ」
「それよりあの言葉覚えさせていいのか? マネーノさんの真似してるんだが」
「あの保護者やべえ……」
カフェの言動にドン引きする冒険者の男達。そんな3人は小声で話し始めた。
「あの娘やばくね? 見た瞬間、俺より強いって冒険者の勘が訴えてるんだが……」
「ああ、俺達一応Cランクの冒険者パーティーなのになあ」
「しかもあれ俺達より年下だろ? 自信なくなっちゃうぜ」
「何より綺麗な見た目に反して中身が伴ってなくないのがねえのが残念だ」
「言動いかれてるもんな」
「あれに惚れた男は大変だぞ。絶対尻に敷かれるわ」
「無理無理無理。よっぽどのことがねえとあんなの選ばないって」
「だな。コノマチにそんなバカな頭のやついねーか」
「もし結婚したらあれだ、人生の墓場にようこそってな」
「「「はははは!」」」
ズドッ!!
「……ん? 何か今すごい音がしなかったかい?」←マネーノ
「マネーノさん。この人たちがサボって寝ていますね。私もお手伝いましょうか?」
「あらカフェちゃん、手伝ってくれるの? ありがたいわね」
「このゴミどもの依頼料は半額にしてもよいかと思いますよ。邪魔なので外に放り投げましょうか? それとも土に埋めて来た方がよいでしょうか」
「そこまでしなくていいわよ。まあ慣れないことで疲れたんでしょうね。休んでる時間分は減らしておくけど」
こうして教会という名の保育園の平和は守られた。子供たちもアニーキーとメンテが帰るまでなぜか大人しかったという。不思議なこともあるものだ。
というわけで相談や雑談する相手は選びましょう。頑張れカフェ! きっといい人に出会えるはずだ!! ……たぶん。
ナンス家の庭にて。魔法の練習をしているアニーキーのもとに、町から友達がやって来たようだ。
「勉強って何の?」
「文字はだいたい出来るようになったんだ。でもそれ以外がダメで……」
「魔法なら教えてもいいよ。最近は風魔法も特訓してるからね。見てく?」
「あ、そこは魔法以外で。実は出来ないのは俺だけじゃないんだ。みんな困ってるんだよ。学園に入る前に少しでもやっとこうってな。頼むよアニーキー」
「そうなの? んー、しょうがないなあ」
「よっしゃー!」
この友達は教会の子供である。アニーキーに頼みごとをしに来たらしい。
「勉強っていつやるの? 明日? それとも明後日?」
「今すぐ着てくれ!」
「え、今から?!」
「おう、いまいま。もうみんな協会で待ってるから」
「急じゃない? まあいいけど」
もうしゃあねえなぁみたいな兄貴面をするアニーキー。それに対し助かるぜこのお人よしめという顔をする友達。なんだかんだお互いの性格を理解し合っていた。良い仲である。
そんな2人のもとへ小さな乱入者が現れる。
「はーい! いく」
「え? メンテも行きたいの? っていつからいたのさ」
「いくー」
メンテである。カフェと2人で外で遊んでいたところ、たまたま庭にいるアニーキーに出くわしたのだ。
「お、アニーキーの弟も来たいのか? 俺は誰でも歓迎だぜ」
「うーん、わかった。カフェさん、メンテのこと頼んでもいい?」
「かしこまりました」
「きゃきゃきゃ!」
◆
その頃の教会。
「働けゴミども」
「いやいや、俺達依頼受けて来ただけなんだが……」
「しっー。今はそっとしとけ」
「マネーノさんの言葉遣いが悪いときは機嫌が良いときなんだよ」
「そうそう、ああいうときは無視しとけばいいんだぜ」
ギルドの依頼を受けた冒険者が3人教会に来ていた。依頼主はマネーノ・キスイダ、このおばさんが教会で一番偉い人である。ただの村人感がすごいが気にしてはいけないぞ。
「いーひっひっひ。というわけでお前らは今日一日、子供の世話を手伝え!」
「おい、あれ大丈夫なのか?」
「だから静かにしとけって」
「話進まなくなるからしゃべるんじゃねえーよ」
「……働けゴミども」
「おい、話戻ったじゃねえか?!」
「お前がしゃべるからだろ」
「あの婆さん分かってやってるよな……」
冒険者達はこの依頼大丈夫なのか? とやや不安げに話を聞くのであった。
「おや、あんたら男しかいないね。何人か女がいるって聞いてたけど……」
「あー、うちの女性メンバーは全員ダウンしてて来れないんだ」
「あいつら昨日まで元気だったんだよ。今日会ったらみんなひどい顔してたわ。なんかお気に入りの男に彼氏が出来たのなんの言って荒れてたらしいぜ」
「あの顔じゃあ子供の前は出せねえよ」
「急に依頼を断るのもあれだと思ってな。とりあえず俺達だけで来たんだがまずかったか?」
「それは困ったね。今日は人手が足りなくて頼んだのよ。でも子供の相手ぐらい男だけでも出来るわよね? 給料分はキッチリ働いてもらうからね。金よ。金金」
こうして子供の相手をし始めたのである。冒険者の男3人はガキの相手なんて余裕だぜーと言い張っていたのだが……。
「ぎゃああああん!」
「ダメだ。何しても全然泣き止まねえ……」
「こっちは目が合うだけで泣くんだが」
「マネーノさん、何かアドバイスとかないか?」
「……ズズズズズ。はぁー。今忙しいから後にしな」
「いや、絶対暇だろ?!」
「ゆったりと何か飲んでやがる?!」
「ひとでなしー!!」
子供達に翻弄され、マネーノさんは全く相手をしてくれない。男達はごたついたという。
「だいたいあんたらの顔が怖いのがいけないんだよ。汚い笑顔なんて見たら泣くに決まってるじゃないの。だから女性優先的の依頼を出してたのにねえ」
「俺達じゃどうしようもねえじゃねえか?!」
「よりによってなぜ俺らに年少クラスの世話を頼むんだよ?! おかしいだろ!」
「みんな泣き止まないしミルクも飲んでくれねえよ」
依頼主は偉いのだ。こっちは金払ってる、しっかり働けと文句は受け付けないマネーノである。
「うるさいねえ。こっちは一番小さい子の面倒見てるから大変なの。この子たちの相手はあんたらには絶対無理だから私がやるしかないんだよ。見た感じあんたら全員育児は初めてなんでしょ? もたつきすぎよ。たまには冒険者以外のランクも磨いたらどうなの? どうせ他のランクはひとつも上げてないんでしょ」
「な、なんで分かるんだよ……」
「せめて俺達の相手もう少し大きい子にしてくれないか? そっちならまだ相手出来るかもしれん」
「そうだそうだ。人見知りがひどすぎて何も出来ねえよ」
「しゃべれないから何考えてるのか全然分からんしな」
「はいはい、文句言わない。ある程度大きくなった子の相手は、年長の子らにやらせてるから大丈夫なの。それに助っ人呼んだからね。問題はこっちのまだしゃべれない幼児たちよ。さすがに私ひとりじゃ無理だから依頼を頼んだのにねえ。来たのが不慣れな男どもなんだから困ったもんだよ」
教会も人手不足で大変なのである。ちなみにギルドには上げられるランクの項目が複数ある。冒険者以外だと商業関連が有名だ。教会から依頼を受けたこの3人の男達は冒険者のランクしか上げてなかったりする。そこをマネーノに見抜かれるのであった。こう見えて人を見る目はあるようだ。
男達が苦戦している中、マネーノに大きい子供が近づいて行った。教会に住む年長の子である。なにか伝えたいことがあるようだ。
「マネーノ婆ちゃん。アニーキー連れて来たぜ!」
「お、ちゃんと連れて帰って来たの。偉いわよ」
「じゃあ俺あっちで勉強してくるわ」
「はいはい、いってらっしゃい」
この子供は、先程ナンス家に向かった子だ。助っ人ことアニーキーに遊びに来てもらうように頼んだのである。無事連れて来てくれたので安心するマネーノであった。
「助っ人が来たからあっちは大丈夫ね。走り回らないよう勉強させるでしょう。それよりあんたら早く慣れなさい。冒険者やってるなら体力あるでしょ。あら、眠くなったの。よちよち。私はこの子を寝かせてくるから隣の部屋にいるわね」
「おいおい、マネーノさん行っちまったぜ」
「分からねえことは誰に聞けばいんだよ……」
「オムツってどうやって交換するんだ??」
「知らん。俺に効いても無駄だぞ」
「まずオムツの場所どこだよ」
「マネーノさん、マネーノさん! やっべ、返事ねえ」
「なんか隣の部屋からボリボリって食い物食ってるような音がするぞ……」
「実はあの人ひとりで余裕なんじゃないか?!」
冒険者の男達は慣れない育児に翻弄されたという。そんな中、ひと際目立つ謎の子供が男達の傍にやってきた。みながハイハイしている中、この子だけ立って歩いているのだ。
「あれ? あんな子いたか??」
「さあ。覚えてない」
「いた……かもしれねえなあ」
「はーい!」
「うお?! この子返事した。しかもしゃべれるぞ」
「おお、本当だ」
「みんな同じに見えて成長具合は違うんだなあ」
この謎の赤ちゃんは、赤ちゃんの中では頭が良い赤ちゃんである。なので多少の会話は出来るのだ。
「えっと、何君か分からないけど手伝ってくれねえか? まあ言っても分からないかなあ」
「はーい! てちゅだう」
「まじか?! 君は言葉が通じるのかよ。な、ならこの子なんだが……。なんで泣いてるか分かるか?」
「ねう。ねうい」
「ね、ねう? ……寝るってことか?」
「はーい!」
「そうなのか。じゃあ寝かしつけなきゃいけねえのか。でもどうやって……」
「だっこ」
「抱っこしたらいいのか? ほれほれ。……おお、なんだかいい感じだ。目がトロンとしてきたぞ」
「せ、先生! 俺にもいろいろ教えてくれ!」
「こっちにも頼む!」
「はーい! えぐえっぐ」
なぜか言葉の通じる赤ちゃんに物事を頼む冒険者の男達。もうお分かりだと思うが、この謎の赤ちゃんの正体はメンテである。
メンテの言うとおりにすると、なぜか初心者でも赤ちゃんの相手が出来るようになる。こうしてマネーノ不在の中、男達だけでしっかり仕事を乗り切ったのである。
「おお、全員寝ちまったぜ」
「なんとか俺らだけで面倒見れたな」
「ありがとう。名前分からないなんとか君」
「はーい!」
仕事をやりきり満足気なメンテと男達であった。
「おや? 静かになったと思ったらみんな寝かせちゃったのかい? やればできるじゃないの」
「お、マネーノさん。聞いてくださいよ、この子が手伝ってくれたんです」
「この子?」
「はーい! えぐえぐ」
「あら、メンテくん来てたのね。……メ、メンテくん?!!!!!」
「この子メンテくんっていうのか」
「ありがとなメンテくん」
「メンテくん助かったよ」
この子の名前が分かった男達は、メンテを可愛がったという。が、1人だけ様子がおかしかった。マネーノだ。
「た、たたた大変よ。始まるわよ」
「どうしたんだマネーノさん?」
「そんな慌てなくてもみんな寝てるぜ」
「俺達も慣れて来たし大丈夫でしょ。それにメンテくんは頼りになるぞ」
「えぐえぐ~……おっぱい」
「ひぃいいいい?!」←マネーノ
メンテがおっぱいと言った瞬間、今まで寝ていた全ての赤ちゃんがほぼ同時に目を覚ました。そして、一斉に泣き始めたという。
「な、なにが起こったんだ??」
「分からんって」
「マネーノさん? 何ですかこれ??」
「……始まったわよ。地獄のミルクタイムが!! あんたら、すぐに準備して。私がミルクを作るからみんなに飲ませるのよ。早く!!」
「ミルク? さっき飲んでくれなかったけど……」
「いいから早く!!」
大人達は急いで準備をし始めた。だが、人数が足りずに間に合わなかった。そこで暇そうな年中や年長の子供にも応援を頼んだという。
「どうしてこんな一斉に赤ちゃんが泣くんだ?」
「それはメンテくんが来たからよ」
「メンテくんが?」
「メンテくんが来るとね、理由は分からないけど一斉に赤ちゃんたちがミルクを飲みだすの。早くしろって大暴れで大変よ。本当この現象は何なのかしらね」
「たまたまじゃね?」
「だろうな」
「俺もメンテくんのせいじゃないと思うわ」
「そんなどうでもいいことしゃべってないで手を動かしなさい。あんたら年長の子供らに負けてるわよ? 子供ですら赤ちゃんの相手が出来るのにあんたらときたら不甲斐ないわね」
「んな言われても困るぜ」
「ミルクは初めてなんだよ」
「大目に見てくれ」
そんなマネーノと冒険者の男達の会話を聞いていたのか、近くにいた大きめの子供達にいろいろ言われ始めた。
「おっちゃん達へたくそだな」
「メンテくんに頼んでるの笑っちゃった」
「先生! とか言ってたね」
「赤ちゃんに頼るなんてやべーよ。ぶふっ」
「せめて俺達か大人に相談しろよ」
「頭悪すぎだろ」
「「「んぬぬっ」」」
言われ放題な冒険者の男達。子供は遠慮なんてしないのだ。
「せめてカフェさんに聞けばいいのにな」
「それな」
「ね~」
「「「カフェさん?」」」
「さっきからおっさんの後ろにいるじゃん」
「まだ気づいてないのかよ」
「まじかよ」
「「「後ろ? ……うおっ?!」」」
振り返るとメイドが立っていたという。カフェである。
「め、召使い?」
「いつからいたんだ??」
「全然気付かなかったぞ?!」
「ずっといたのにね」
「メンテくんとアニーキーの保護者だもんな」
「俺達ずっとドアの隙間から覗いて見てたけど、おっちゃんたち本当に気付いてなかったんだ」
「わざとやってるのかと思ってた」
「本当に冒険者かよ」
「ただのおじさんじゃん」
「マネーノさんですら気付いてたのにね」
「だせー」
ずっと冒険者の男達の近くにいたカフェ。メンテと一緒に部屋に入って来たのだが、気配を消していたため男達は誰も気付かなかった。これぐらいメイドなら出来て当然。メンテに危害を加えないかの監視をしていたのである。
アニーキーの勉強会に参加していない子供達はずっとカフェと冒険者の様子を見ており、いつ気付くのか今か今かと待っていたという。どうやら気配を感じ取れなかったのは男達だけのようだ。そのため子供達にボロクソ言われるのであった。馬鹿にされてるとも言う。
「あまりにも鈍感なうえ、メンテ様に必死に頼む姿を見て笑ってしまいそうになりました。頼りにならない男どもですね」←カフェ
「働けゴミども。金返せ……えぐ」←メンテ
「さすがメンテ様、素晴らしいお言葉ですよ」
「はーい!」
「おいおい、変なこと教えてるぞ」
「それよりあの言葉覚えさせていいのか? マネーノさんの真似してるんだが」
「あの保護者やべえ……」
カフェの言動にドン引きする冒険者の男達。そんな3人は小声で話し始めた。
「あの娘やばくね? 見た瞬間、俺より強いって冒険者の勘が訴えてるんだが……」
「ああ、俺達一応Cランクの冒険者パーティーなのになあ」
「しかもあれ俺達より年下だろ? 自信なくなっちゃうぜ」
「何より綺麗な見た目に反して中身が伴ってなくないのがねえのが残念だ」
「言動いかれてるもんな」
「あれに惚れた男は大変だぞ。絶対尻に敷かれるわ」
「無理無理無理。よっぽどのことがねえとあんなの選ばないって」
「だな。コノマチにそんなバカな頭のやついねーか」
「もし結婚したらあれだ、人生の墓場にようこそってな」
「「「はははは!」」」
ズドッ!!
「……ん? 何か今すごい音がしなかったかい?」←マネーノ
「マネーノさん。この人たちがサボって寝ていますね。私もお手伝いましょうか?」
「あらカフェちゃん、手伝ってくれるの? ありがたいわね」
「このゴミどもの依頼料は半額にしてもよいかと思いますよ。邪魔なので外に放り投げましょうか? それとも土に埋めて来た方がよいでしょうか」
「そこまでしなくていいわよ。まあ慣れないことで疲れたんでしょうね。休んでる時間分は減らしておくけど」
こうして教会という名の保育園の平和は守られた。子供たちもアニーキーとメンテが帰るまでなぜか大人しかったという。不思議なこともあるものだ。
というわけで相談や雑談する相手は選びましょう。頑張れカフェ! きっといい人に出会えるはずだ!! ……たぶん。
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※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
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