もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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248話 「相談相手間違ってるよ その1」

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「メンテくん。ちょっといいかな~?」
「はーい!」
「誰かいい人知らない? できればカッコいい男の人がいいなあ。背が高くてお金持ちとかが希望なんだけど……」
「えぐ~?」


 ここは子供部屋。メンテに相談を持ち掛けるメイドがいた。そのメイドは手の指を絡み合わせて祈るようなポーズをしている。結構本気である。が、どう考えても話す内容も相手も間違っている。


「実はコノマチにカッコいいなあって男性がいたんだ。ジモトノ工務店ってお店で働いているコームさんっていうの。若くしてお店を継いだ人でね、仕事熱心で笑顔が反則的に素敵なの。うちで働いてる女の子はみんな応援してたというか推してたんだよね。でも最近お付き合いを始めたんだって。びっくりしちゃった。私もみんなもコームさん狙ってたんだよ? いつかあの人とお付き合いしたいって。でも誰かに先を越されちゃってショックでショックで……。だから新しい推しというか恋を始めたいんだよね」
「えぐ……」


 なぜ僕に言うんだろう? と不思議な顔をするメンテ。こんな赤ちゃんが話し相手でいいのだろうか。聞き流そうかなあとあまり興味なさげである。


「メンテくんって最近恋のキューピットになったんでしょ? 私知ってるよ~」
「えぐぅ??」
「私も出会いが欲しいなってメンテくんにお願いしたいんだ。……裏切り者を教えるので私のお手伝いをして下さい!」
「…………えぐ?」キリッ


 急に凛々しい顔になるメンテ。裏切り者? それは排除せねばと真剣に彼女の話に食いついた。さっきまでの態度とはえらい違いである。


「実は私調べなんですけど、その裏切り者はコームさんを抜け駆けして奪ったんです。しかもコームさんを盗んだだけではなく、裏ではコソコソと悪事を働いているんですよ。メンテくんも知ってる悪い女です。その人はなんとこの家でメイドとして働いています。彼女の名前は――――」

 ドスッ!

「うっ?!」バタッ
「ふう、危なかった。メンテくん大丈夫でしたか?」


 裏切り者の名前を言う直前にメイドは倒れ伏せた。後ろから首を思いっきり叩かれたのだ。それは口封じをするかのごとく、一切容赦のない一撃であった。

 そしてメンテの前に現れたのは、最近よく見かけるメイドである。


「彼女の甘言に騙されてはいけません。メンテくんは今騙されそうになったのです」
「えぐ~?」
「彼女は嘘付きです。裏切り者の正体を知りません。なぜなら彼女こそが本当の裏切り者だったからです!」
「え、えぐっ?!」


 な、なんだってー?! みたいな顔をするメンテ。とてもカワイイ。


「自分の悪事を他人に押し付けるとは何て卑劣な女でしょう。それに彼女はコームさんと会話をしたことすらありません。ずっと遠くから見ていただけのただの傍観者。ただの嫉妬です!」
「ちっと?」
「そうです。彼女は何もしていないんですよ。努力すらしてない人に幸運は訪れません。私のパートナーを奪おうなんてとんでもない妄想女です」


 必死に弁明し、難を逃れようとしていた。彼女はコームさんと付き合っているメイドだ。名前は――。


 ドーンッ!

「ぐぬえっ?!」バタッ
「何をやっているのですか。ここは土足厳禁ですよ。廊下から追ってみれば全くもう……」


 名前を紹介する前にメイドが倒れ伏せた。頭を思いっきりドーンと叩かれたのだ。メイドを倒したのはカフェ。このナンス家のメイド長である。


「メンテ様、今彼女と何のお話をしていましたか?」
「かれち(彼氏)」
「かれち? ……彼氏のことでしょうか?」
「はーい!」
「そうですか。そういえば最近推しが女を作ったと騒いでいる方がいましたねえ……」
「こえ?(この人)」
「そうです、騒いでいたのはこの方ですね。完全に気絶していますが。それより問題はこっちのメイドです。あなたはいつまで寝ているのですか? 見なさい、あなたのせいで廊下も部屋も土まみれですよ。早く掃除なさい。あとそっちの気絶しているメイドを休憩室に運ぶように」
「ひゃ、ひゃい……」


 頭を叩かれたメイドはフラフラと立ち上がり、気絶したメイドを運びながら掃除道具を取りに行くのであった。


「ああ見えて彼女は耳が良いのです。外から駆け付けるなんて何か不都合なことがあったのかもしれませんね。……ところでメンテ様が彼氏の相談を受けていたのは本当ですか?」
「はーい!」
「私に誰かオススメするような殿方はいませんか? もしもでもよいので」
「えぐ~?」
「そこを何とかお願いします。誰でもいいので」
「ん~。はーい! あえ」
「あ、あっちの方角に私の運命の人が?! …………っ!?」


 メンテの指を差した方角を振り向くカフェ。そこには口を半開きにしたキッサがいた。彼女はカフェの母親であり、今はナンス家の相談役だ。誰が廊下を汚したのよと犯人を捜しているうちに子供部屋にたどり着いたのだ。そして、たまたま話し声が聞こえてしまったようだ。

 娘が彼氏を探しているわね。そこは嬉しいのよ。ちゃんと将来を考えているようで安心したわ。でも相談相手がメンテくんって……。いくらなんでもなりふり構わなすぎるわ。メンテくん何歳だと思ってるの? まだ言葉も理解してないわよ。あの子頭打ったのかしらねえ。やっぱ不安の方が膨らむわね。

 ……とキッサは嬉しいような嬉しくないようなどっちつかずの微妙な顔をしていた。そして、キッサは子供部屋からゆっくり出て行った。何も触れずにそっと優しく。


「…………」←カフェ
「キッチャいった(キッサいたね)」
「誰もいませんでしたよ。床が汚れているのでお外で遊びましょうか?」
「キッチャ、キサ、ギッサ、キッザ、キッサー!!」


 気まずい雰囲気の中、空気を読まない赤ちゃんだけはしゃいでいたという。相談相手間違えちゃったね、頑張れカフェ! おしまい、ちゃんちゃん。

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