もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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245話 「密林ひょろひょろ その3」

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 …………ん? ここは宿屋か。こんな暗かったっけな?

 あー、漏れそう。ちょっとトイレ行こう。すっきりいいい~。

 あれま? 何で酒瓶持ってるんだ?? 蓋開いて空だし、こぼしたのか知らんけど服が酒臭いで。

 にしても宿屋の廊下長いなあ。酔っててフランフランカエスよ。いて、転んだわ。


 それからしばらく歩いていたら何かがおかしいと気付いた。


 …………なんかここ血生臭い。ここ本当に宿屋か?


 今は夢か現実か。どっちか分からなくなってきた。

 少し酔いが醒めたのか、意識がハッキリとしてくる。実はこれが私の一番良い状態。酔いながらも上手く反転し、力を制御出来ているときの感覚だ。今のうちに状況を確認しよう。

 目の前には複数の赤いかたまりがごろごろ転がっている。あっち見てもこっち見てもどこにでもある。

 これは……生き物だ。

 見た所、これは全部動物のようだ。真っ二つだったり細切れにされていたりと酷い。刃物か何かで切り裂かれたかのような鋭い痕がある。ほとんど一撃で絶命しているな。

 しかも死骸はどれも温かい。少し前までは生きていたのだろう。だとすると犯人はまだ近くにいるはず。つまりこれは魔物の仕業だ。それも相当な力があるとみた。


 よってここは宿屋ではない。セルバの森の中だ。それも争いの中心地かよ。


 酔って森に入ってしまったのか? 記憶がないんだが何をやっているんだ私。急いで帰ろう。そして、この魔物の存在を報告した方が良い。多分私でも苦戦しそうな相手だ。

 うっ、急に意識が遠くなってきた。反転状態を保つことは難しい。反転を維持する時間の短さが私の弱点だ。もう問題を対処する時間がないな。あとは任せたぞ、酔っぱらった私……。




 ……はあん? わで戦ってたみたいだどー!

 なんか知らんけど敵を蹴散らし終わっとるもん。

 わでは頭の中で戦いをシミュレートし、敵をボコボコにしちゃったんやな。普段のわでならこんなこと思いつきもせーへん。さすが反転したわでや。わでは夢の中では最強なんやなあ。酒飲まなくてもこういうこと出来るようになりたいわーい。


 ……あだ?


 何か前を横切ったで。一瞬で見えなかったけど、後ろから何かされたんやろう。そういうの反転中やで分かっちゃうんよ。わではただの酔っ払いじゃないんだどー。

 わでが振り返ってみると何かいた。んん? 見たことあるふぉるむやけ……。


「ん? おお。パドヴォ―」


 あれは子供の頃に飼っていた犬でねえか!!

 魔物を村に入れるなとか言ってたやつら全員八つ裂きにし、反対派を黙らせたパドヴォ―。実際は犬でも猫でもない魔物らしいが、おやじが犬ったら犬って言うてたんよ。おやじは相手に軽い物を重く感じさせる"反転"の力があったからな。上下関係叩き込んで大人しくさせて家で飼ってたんだ。とぅげーよな?

 ふうおおおおおお、なんて懐かしい顔だ。もう死んじゃったからこの世にいねえんだよな。でもここは夢の中だから会えちゃうんだな。いえーい!


「元気か~? えさのじかんだかあ?」


 もう二度と会えないと思ってたからなあ。とりあえずいつも通りに話しかけるか。パドヴォ―もわでと同じ状況なんだろうか、久しぶりに会ったからか困ったような表情をしてやがる。戸惑ってる感が出てるぞ。この夢リアルすぎてすげーな!


「散歩だえ。かえってご飯の時間だど!」


 ここは夢だし自由にしていいもんな。存分に可愛がっちゃおう。パドヴォ―が好きだった散歩いくどー!


「はよいくで~」
「にゃ」
「あんで? パドヴォ―なんだか猫みてえな声だなあ」
「ぉぱぃ?」
「なんだ聞き間違えかー。かえるどー!」
「にゃー!」


 実はわで、子供だった昔のことをあんまよく覚えてねえんだ。パドヴォ―ってこんな声してたか? でもこの夢ってわでの記憶から生まれたもんだろ? ならこれが正解なんだろな。

 散歩しながら死んだあとのことでも聞いてみるか。パドヴォ―は賢いからリードを付ける必要はねえんだよ。わでに合わせて横にピッタリついて来る賢い犬よ。


「パドヴォ―。毛が短かくなったかー?」
「にゃ」


 しっかりと返事をくれる。すげえなこの夢。パドヴォ―って確か飯のときだけ素直だったのにずっと可愛くなっとるわ。これノスタルジアを感じるってやつ? 思い出が美化されとるよ。


「うちにいる頃は茶色かったのにだいぶ汚れたなあ」
「にゃ」


 少しずつ思い出して来たのか、パドヴォ―の容姿がだんだんハッキリしてきた。わでの記憶がよみがえてきたんかな?


「帰ったらきれいきれいすっど。にしても右のほねもあでだよなあ」
「にゃ?」


 パドヴォ―は昔怪我したことあったんだわ。治ったら骨が太くなって強くなってた。あんときは魔物ってこうなんかと思ったなあ。なんか完全に腕が骨っぽいけどここは夢。気にせんとこ―。


「そうそう。おっきいでここ」
「にゃ?!」


 っふううううう、なんかイメージ通りのパドヴォ―になって来たどー!


「にしても久しぶりだなあ。パドヴォ―のくさなたれ顔なんだっけ。おげ、気持ち悪ううう。ちょっと休憩すだっふっふー」
「にゃあ」


 酔いの吐き気まで夢の中で再現してほしくねえ。リアルすぎる夢もあれだわ。

 なんか犬というよりだんだん凶悪なアンデッドになったど。まあ実際死んでるし。夢と現実のはいぶりっど犬の誕生や! なんてな。


「なんかパドヴォ―いきいきしてるなあ。だんだだん。だんだだん」
「にゃ~?」


 なんやこの夢。なんでも思い通りで楽しすぎるやろー。もう歌うしかなかろうに!

 はあ。そういえばパドヴォ―は村を守って死んじまったんだよな。あんとき受けた毒のせいでなあ。思い出すと悲しくなっちゃう。涙出ちゃうって。わでが褒めたる。お前ほどかっこいい犬はいないよ。だから夢の中では毒耐性も持っとけよ。え、もう持ってる? そうなんか。

 よしよし。毛づくろいしちゃるよ。ブラシ好きやっただろ。え? そう酒臭そうな顔せんといてよ。この夢の再現度本当すげええええええ。

 ふう、結構散歩したなあ。そろそろ家に着くじゃろ。ほら、わでが子供の頃住んでた家が見えて来た。わでが願えば目の前に現れるんよ。ここは夢の世界やでな。


「はあ、ねるどパドヴォ―」
「にゃ(起きて起きて)」ビシビシ
「ふわ?! ここは便所か。ベッドどこだでー」


 ふげぇあ?!

 まだ散歩がしたいのかパドヴォ―が何度も叩いてくる。寝室に着いたと思ったらトイレのある部屋に移動してたわ。まだ遊び足りないのか? 夢の中でも元気やなあ。勝手にわでの夢の場面を変えるなんてやんちゃなやっちゃ。



 んあ?



 どうしたパドヴォ―。急に光だして。うわっ、なんか空に光がゆっくり飛んでったど。何やろうあれ。どこまでいくんやろうな? まあ夢だしええか。

 うおっ!?

 上見て歩いてたら足が滑った。いてっ。頭を打ったのか強い衝撃でクラクラする。

 ああ、だんだんパドヴォ―がぐにゃぐにゃして遠くに離れていくな。楽しい夢の時間はもう終わりかあ……。
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