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237話 「うちの猫が脱走してる?!」
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私はナンスの店で働いているメイドです。
いや、今日はメイドのお仕事ですが正しいかな? 私の職場では商品を作る人以外は基本的に何でもやります。
最近は店のレジ作業ばっかりでした。
レジっていうのは、レジなんとかというお金の管理をする最新の魔道具のことです。子供がこれを見て名付けたのですが、誰もレジの二文字しか聞き取れませんでした。だから皆レジと呼んでいます。
このレジの魔道具が導入されたおかげで支払いがスムーズになりました。このレジを使って会計業務をするのが最近の役割でしたね。
申し遅れました。私の名前は……あ?! やっぱり秘密で。
何でと言われるとこちらも困ります。最近メイドの間では「裏切り者」という仕事をサボったりなすり付ける人がいるそうです。
仲が良い同僚の話を聞く限り、関わるとろくなことにならなさそうです。顔とか名前を覚えられないよう立ち振る舞いましょう。出来れば中立の立場で傍観していたいです。
「行ってきまーす」
今私が住んでいるのは、おじいちゃんおばあちゃんのお家です。
私は王都出身の王都育ち。王都のナンスの店で採用されました。王都の店で働くものだと思っていたら、あなたはコノマチの店ねと言われてびっくりしました。
現在一緒に住んでいる母方のおじいちゃんおばあちゃんが、コノマチのご近所さんということで就職出来たみたいです。完全に縁故採用ですね。その分しっかり働いて恩を返そうと思っています。
身支度よし、鍵はおじいちゃんがいるからいいか。窓は一応閉めておこう。
今日も頑張るぞと玄関から出てナンス家に向かう道の途中……。
「にゃ?」
「……?!」
ま、またうちの猫が脱走してる?!
この猫の名前はムギ。小麦のような見た目から皆にムギちゃんって呼ばれています。
私がコノマチに引っ越して来る数か月前からおじいちゃんおばあちゃんの家にいるそうです。なんでも畑にいたのを保護したのだとか。
最近勝手に外に出るようになりましたが、夜には戻って来るので今のところ問題はないです。誰が近くにいても自分の好きなようにしている。そんな自由奔放な猫です。
でも問題はそこではありません。
……ムギちゃん、あなたさっきまで家の中にいたよね?!
ドアを閉めるときムギちゃんがごろんと寝転んでる姿を確認してから出たからね?
それなのになんで毎回毎回私より先にいるわけ??
どんな手段を使っているの???
「というわけでメンテくん、出番だよ!」
「えぐ~?」
猫と言えばメンテくん。私が知る限り一番猫に好かれています。彼ならムギちゃんがどこから家の外に出ているか分かると期待し、散歩のついでに私の住む家まで連れて来ました。
メイドの仕事をこなしつつ家の問題も片付ける。いい作戦だと思いませんか?
まあもう少ししたらメンテくんのお昼ご飯があるので、短い時間の勝負となりそうですが。
「メンテくん、猫のムギちゃんが勝手に家から出ちゃうの。きっとこのお家のどこかに穴が開いてるんだよ。ということで一緒に穴探しゲーム!」
「はーい!」
私の言葉を正確に理解しているのか分かりませんが、楽しそうなメンテくん。
遊び感覚でこの家の問題部分を見つけて貰おうと思います!
この家は結構年季が入っています。何回か改装しているらしいので、どこかの空間に隙間があっても不思議ではありません。メンテくんは体が小さいから大人では気付かないところも見つけられるはずです。
「メンテくん、見つかった?」
「ほーれほれ」
「きゃきゃきゃ!」
「おじいちゃん……」
開始2分ぐらいでしょうか。気が付いたらおじいちゃんがメンテくんと遊んでいました。
最初おじいちゃんは、メンテくんとは挨拶しかしたことがないから不安って言っていました。それなのにもう慣れ親しんでいます。メンテくんは人見知りしないから誰とでもすぐ仲良くなるよね。
いやいや、おじいちゃん篭絡されるの早すぎない?
「おじいちゃんも一緒に探してよ」
「そんなこと言われても心当たりがなくてなあ」
「じゃあムギちゃんがどうやって外に出てるか分かる?」
「分からん」
「この家古いんだからどこかに隙間があるんだよ。泥棒とか入って来たら危ないでしょ」
しょうがないなあと言いながらもおじいちゃんも穴探しを手伝ってくれました。
おじいちゃんは農家なのでほぼ毎日のように畑にいます。家の鍵なんか閉めません。
田舎なので知り合いしか来ないとか言われてもコノマチ結構大きいからね? ナンスの店があるところなんて王都の人通りとほぼ一緒です。
コノマチは昔と比べたらすごく発展してます。引っ越しして来たとき変化にびっくりしました。年々人口が増加してるのおじいちゃん分かってるのかな? これからは防犯対策が大事です。
「メンテくん、おじいちゃん。何か見つかった?」
「これ食べるか?」
「はーい!」
「おじいちゃん?!」
お、おじいちゃんがお菓子をあげてる?!
孫の私よりメンテくんのこと甘やかしすぎじゃない??
まあ可愛いから気持ちは分かるよ。気持ちはね?
あとメンテくんはもう少ししたらお昼ご飯あるから何でも勝手にあげないで。メンテくんはチョロい子だから何でもかんでもすぐ受け取っちゃうよ?
「このぐらいの子とあまり触れ合う機会がなかったか、ついつい甘やかしたくなるんだよ。孫は年に数日ぐらいしか会えんかったからなあ。会うたびに大きくなって最初誰だか分からないんだ。嬉しいんだか悲しいんだかなあ」
「その文句はおかあさんに言って」
私のおかあさんはコノマチ生まれです。結婚を機に王都に移住してそのまま向こうで暮らしており、年に1回コノマチに帰るか帰らないかでした。
田舎は好きじゃないと言ってたからコノマチのおじいちゃんおばあちゃんと遊んだ記憶は少ないんだよね。
いろいろ複雑な思いはあるけど穴探しを再開します。絶対どこかにあるからね。メンテくんがいるチャンスは活かしたいです。
「うーん。ないなあ。壁じゃなくて床に問題があるのかな? どこか剥がせるとか」
「あらメンテくん来てたの。これ食べる?」
「はーい!」
「「「「「ざわざわ」」」」」
「……なんかいっぱいいる」
いつの間にかおばあちゃんが帰って来ており、メンテくんを甘やかしていました。
おばあちゃんいつも近所のじじばば達とおしゃべりばかりしています。今日も朝から元気にしゃべってました。そんなおばあちゃんが近所のじじばば達を引き連れて帰って来ました。
「あらカワイイ」
「あなたメンテくんよね? おばちゃんのこと覚えてる?」
「元気な子がおるわい」
「大きくなったのう」
「はーい! がばくんえぐえ!」
「あらあら。元気でちゅね」
「さっきから子供の声が聞こえてたから何事かと思ったのよ」
「みんなで来ちゃった」
どうやらメンテくん目当てに近所のじじばば達が大集合したようです。
それにしてもメンテくん語彙力の低下がすごいです。おかげで赤ちゃん感が増しに増しています。それがこのぐらいの年齢の人に刺さってる感じがします。メンテくんには老人キラーの素質がありますね。
多分穴を捜すゲームのこと忘れているよね? メンテくん楽しそうだからしばらく見守りましょう。
「あなたずっとメンテくんと遊んでいたの? 子供の気持ちは分からんとか言っていたのに」
「ひ孫が生まれた時の練習も兼ねてな。だいぶ慣れたぞ」
「はあ、いつ見れるのかしらねえ? あの子相手いないから……」チラッ
「まだまだ先になりそうだ」チラッ
「……」
チラチラこちらを見てしゃべるおじいちゃんもおばあちゃん。
何も言い返せないのがつらい!
「誰か紹介した方がええんでねえか」
「そうだな。誰か良さそうな知り合いいるか?」
「うちの子のせがれでもどうだえ?」
「工務店で働いとるあの子も中々凛々しいぞ」
「ああ、あの若い子ね」
ぐぬぬ……。
近所の人まで巻き込みやがって。これだから田舎ってやつは。
今ならおかあさんの気持ちが分かる気がします。
このように色々ありつつ、近所の人にも家の周りに何か変なところがないか手伝って貰いました。
その結果、何も見つかりませんでした。
「いっぺん今朝の状況を再現してみたらどうだ? そしたら分かるかもしれん」
「いや、今ムギちゃんいないから……」
「にゃあ?」
「え?!」
いつの間にかムギちゃんが帰っていました。というかどうやって中に入ったの??
え、さっきからずっといた?
玄関開けっぱなしだったから帰って来たのに気付いてなかったのって?
はい、全然気付きませんでした。私だけだって? そんなまさか。冗談上手ですね。
まあいろいろとムギちゃんへの疑問は残りましたが、集まった皆さんの前で今日の朝の再現をしてみます。家の中と外とに分かれてムギちゃんの様子をみんなに見て貰いました。
「こんな感じで外に出たの。そうしたらムギちゃんが道を歩いて……」
すると皆黙って私のことを見ていました。
な、何その優しい目? 何か言って欲しいです。
「いやな、ドアを閉める瞬間ムギが外に飛び出していったぞ」
「え?」
「足元通ったのに気付かなかったのか?」
「ムギって足早いんだなあ」
「すごかったな。一瞬でぴゅっ~とな」
「まあ相手は猫だししょうがない」
「いつもこっそり外に出てるんだろうな」
「誰にでも気付かないことはあるべ」
「ええ……」
ムギちゃんってそんなこと出来たの? いつもあの隅っこでじっとしてるイメージあるけど。
私がムギちゃんの方を見ると、外で様子を見ていたメンテくんの足元にいました。
なんだ。メンテくんに会いに行ったのか。やっぱメンテくんは猫に好かれる体質なようです。
「……昼の準備するべ」
「そうだなあ。帰るか」
「またなあ」
「お邪魔したなあ」
「また明日ね」
何事もなかったかのように話題を逸らしつつ、近所のじじばば達は帰って行きました。その気遣いが逆に痛かったです。
私間抜けな子だと思われてない?? でもムギちゃんが出る瞬間全く気付かなかったのも事実です。
ぐぬぬ……。
散歩はお終いにして帰りましょう。そろそろメンテくんの昼ご飯の時間です。遅れたら大変ですからね。
「メンテくん。おーい。メンテくん」
「だーどばーれ(猫ドアの存在バレなくてよかった)」
「にゃあ(あの人間は昔からどんくさいにゃ。それより飯いかないの?)」
「えぐ?(え、もうそんな時間?)」
「にゃ(そうにゃ。呼んでるにゃろ?)」
「メンテくん聞こえてる? お家に帰るよー」
「はーい!」
「にゃあ!」
「いや、ムギちゃんは行かないから。え? メンテくんムギちゃん連れて帰りたいの? 本当仲が良いねえ。しょうがない。一緒に行こうか」
こうして家に穴がないことが分かり、私の悩みがなくなったのでした!
メンテくんの昼ご飯の後、一緒にお昼寝タイムです。メンテくんは誰かが横にいないと寝られないから合法的にお昼寝出来ます。メンテくん当番のときはみんな堂々とサボってますよ。
そして、おやつの時間になり……。
「やったー。今日のおやつは何ですか?」
メイドのお仕事だとお昼におやつタイムがあるんです。しかも無料。私の楽しみのひとつです!
「ありませんよ」
「え?」
「ムギでしたっけ? あなたの家で飼っている猫。首輪にムギちゃんと書かれていた猫が欲しがっていたのであげました」
「は?」
「あの子、全部食べちゃいましたよ。すごくおいしそうでした」
「ムギぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
家に帰ってからムギちゃんを家から出させない方法をいろいろ試しました。メイドの仕事があるときは特に念入りに家に閉じ込めています。絶対におやつは渡しません!
……ですが、今のところ全て失敗しています。何で?!
やっぱりどこかに秘密の抜け道とか穴でもあるんじゃないでしょうか?
それよりムギちゃんが私のおやつの時間を知っているのはなぜでしょう。毎回私のおやつのたび現れるので気が気ではありません。脱走猫から私のおやつを狙うハンターになってしまいました。
こうして私の新たな悩みが増えたのでした。
いや、今日はメイドのお仕事ですが正しいかな? 私の職場では商品を作る人以外は基本的に何でもやります。
最近は店のレジ作業ばっかりでした。
レジっていうのは、レジなんとかというお金の管理をする最新の魔道具のことです。子供がこれを見て名付けたのですが、誰もレジの二文字しか聞き取れませんでした。だから皆レジと呼んでいます。
このレジの魔道具が導入されたおかげで支払いがスムーズになりました。このレジを使って会計業務をするのが最近の役割でしたね。
申し遅れました。私の名前は……あ?! やっぱり秘密で。
何でと言われるとこちらも困ります。最近メイドの間では「裏切り者」という仕事をサボったりなすり付ける人がいるそうです。
仲が良い同僚の話を聞く限り、関わるとろくなことにならなさそうです。顔とか名前を覚えられないよう立ち振る舞いましょう。出来れば中立の立場で傍観していたいです。
「行ってきまーす」
今私が住んでいるのは、おじいちゃんおばあちゃんのお家です。
私は王都出身の王都育ち。王都のナンスの店で採用されました。王都の店で働くものだと思っていたら、あなたはコノマチの店ねと言われてびっくりしました。
現在一緒に住んでいる母方のおじいちゃんおばあちゃんが、コノマチのご近所さんということで就職出来たみたいです。完全に縁故採用ですね。その分しっかり働いて恩を返そうと思っています。
身支度よし、鍵はおじいちゃんがいるからいいか。窓は一応閉めておこう。
今日も頑張るぞと玄関から出てナンス家に向かう道の途中……。
「にゃ?」
「……?!」
ま、またうちの猫が脱走してる?!
この猫の名前はムギ。小麦のような見た目から皆にムギちゃんって呼ばれています。
私がコノマチに引っ越して来る数か月前からおじいちゃんおばあちゃんの家にいるそうです。なんでも畑にいたのを保護したのだとか。
最近勝手に外に出るようになりましたが、夜には戻って来るので今のところ問題はないです。誰が近くにいても自分の好きなようにしている。そんな自由奔放な猫です。
でも問題はそこではありません。
……ムギちゃん、あなたさっきまで家の中にいたよね?!
ドアを閉めるときムギちゃんがごろんと寝転んでる姿を確認してから出たからね?
それなのになんで毎回毎回私より先にいるわけ??
どんな手段を使っているの???
「というわけでメンテくん、出番だよ!」
「えぐ~?」
猫と言えばメンテくん。私が知る限り一番猫に好かれています。彼ならムギちゃんがどこから家の外に出ているか分かると期待し、散歩のついでに私の住む家まで連れて来ました。
メイドの仕事をこなしつつ家の問題も片付ける。いい作戦だと思いませんか?
まあもう少ししたらメンテくんのお昼ご飯があるので、短い時間の勝負となりそうですが。
「メンテくん、猫のムギちゃんが勝手に家から出ちゃうの。きっとこのお家のどこかに穴が開いてるんだよ。ということで一緒に穴探しゲーム!」
「はーい!」
私の言葉を正確に理解しているのか分かりませんが、楽しそうなメンテくん。
遊び感覚でこの家の問題部分を見つけて貰おうと思います!
この家は結構年季が入っています。何回か改装しているらしいので、どこかの空間に隙間があっても不思議ではありません。メンテくんは体が小さいから大人では気付かないところも見つけられるはずです。
「メンテくん、見つかった?」
「ほーれほれ」
「きゃきゃきゃ!」
「おじいちゃん……」
開始2分ぐらいでしょうか。気が付いたらおじいちゃんがメンテくんと遊んでいました。
最初おじいちゃんは、メンテくんとは挨拶しかしたことがないから不安って言っていました。それなのにもう慣れ親しんでいます。メンテくんは人見知りしないから誰とでもすぐ仲良くなるよね。
いやいや、おじいちゃん篭絡されるの早すぎない?
「おじいちゃんも一緒に探してよ」
「そんなこと言われても心当たりがなくてなあ」
「じゃあムギちゃんがどうやって外に出てるか分かる?」
「分からん」
「この家古いんだからどこかに隙間があるんだよ。泥棒とか入って来たら危ないでしょ」
しょうがないなあと言いながらもおじいちゃんも穴探しを手伝ってくれました。
おじいちゃんは農家なのでほぼ毎日のように畑にいます。家の鍵なんか閉めません。
田舎なので知り合いしか来ないとか言われてもコノマチ結構大きいからね? ナンスの店があるところなんて王都の人通りとほぼ一緒です。
コノマチは昔と比べたらすごく発展してます。引っ越しして来たとき変化にびっくりしました。年々人口が増加してるのおじいちゃん分かってるのかな? これからは防犯対策が大事です。
「メンテくん、おじいちゃん。何か見つかった?」
「これ食べるか?」
「はーい!」
「おじいちゃん?!」
お、おじいちゃんがお菓子をあげてる?!
孫の私よりメンテくんのこと甘やかしすぎじゃない??
まあ可愛いから気持ちは分かるよ。気持ちはね?
あとメンテくんはもう少ししたらお昼ご飯あるから何でも勝手にあげないで。メンテくんはチョロい子だから何でもかんでもすぐ受け取っちゃうよ?
「このぐらいの子とあまり触れ合う機会がなかったか、ついつい甘やかしたくなるんだよ。孫は年に数日ぐらいしか会えんかったからなあ。会うたびに大きくなって最初誰だか分からないんだ。嬉しいんだか悲しいんだかなあ」
「その文句はおかあさんに言って」
私のおかあさんはコノマチ生まれです。結婚を機に王都に移住してそのまま向こうで暮らしており、年に1回コノマチに帰るか帰らないかでした。
田舎は好きじゃないと言ってたからコノマチのおじいちゃんおばあちゃんと遊んだ記憶は少ないんだよね。
いろいろ複雑な思いはあるけど穴探しを再開します。絶対どこかにあるからね。メンテくんがいるチャンスは活かしたいです。
「うーん。ないなあ。壁じゃなくて床に問題があるのかな? どこか剥がせるとか」
「あらメンテくん来てたの。これ食べる?」
「はーい!」
「「「「「ざわざわ」」」」」
「……なんかいっぱいいる」
いつの間にかおばあちゃんが帰って来ており、メンテくんを甘やかしていました。
おばあちゃんいつも近所のじじばば達とおしゃべりばかりしています。今日も朝から元気にしゃべってました。そんなおばあちゃんが近所のじじばば達を引き連れて帰って来ました。
「あらカワイイ」
「あなたメンテくんよね? おばちゃんのこと覚えてる?」
「元気な子がおるわい」
「大きくなったのう」
「はーい! がばくんえぐえ!」
「あらあら。元気でちゅね」
「さっきから子供の声が聞こえてたから何事かと思ったのよ」
「みんなで来ちゃった」
どうやらメンテくん目当てに近所のじじばば達が大集合したようです。
それにしてもメンテくん語彙力の低下がすごいです。おかげで赤ちゃん感が増しに増しています。それがこのぐらいの年齢の人に刺さってる感じがします。メンテくんには老人キラーの素質がありますね。
多分穴を捜すゲームのこと忘れているよね? メンテくん楽しそうだからしばらく見守りましょう。
「あなたずっとメンテくんと遊んでいたの? 子供の気持ちは分からんとか言っていたのに」
「ひ孫が生まれた時の練習も兼ねてな。だいぶ慣れたぞ」
「はあ、いつ見れるのかしらねえ? あの子相手いないから……」チラッ
「まだまだ先になりそうだ」チラッ
「……」
チラチラこちらを見てしゃべるおじいちゃんもおばあちゃん。
何も言い返せないのがつらい!
「誰か紹介した方がええんでねえか」
「そうだな。誰か良さそうな知り合いいるか?」
「うちの子のせがれでもどうだえ?」
「工務店で働いとるあの子も中々凛々しいぞ」
「ああ、あの若い子ね」
ぐぬぬ……。
近所の人まで巻き込みやがって。これだから田舎ってやつは。
今ならおかあさんの気持ちが分かる気がします。
このように色々ありつつ、近所の人にも家の周りに何か変なところがないか手伝って貰いました。
その結果、何も見つかりませんでした。
「いっぺん今朝の状況を再現してみたらどうだ? そしたら分かるかもしれん」
「いや、今ムギちゃんいないから……」
「にゃあ?」
「え?!」
いつの間にかムギちゃんが帰っていました。というかどうやって中に入ったの??
え、さっきからずっといた?
玄関開けっぱなしだったから帰って来たのに気付いてなかったのって?
はい、全然気付きませんでした。私だけだって? そんなまさか。冗談上手ですね。
まあいろいろとムギちゃんへの疑問は残りましたが、集まった皆さんの前で今日の朝の再現をしてみます。家の中と外とに分かれてムギちゃんの様子をみんなに見て貰いました。
「こんな感じで外に出たの。そうしたらムギちゃんが道を歩いて……」
すると皆黙って私のことを見ていました。
な、何その優しい目? 何か言って欲しいです。
「いやな、ドアを閉める瞬間ムギが外に飛び出していったぞ」
「え?」
「足元通ったのに気付かなかったのか?」
「ムギって足早いんだなあ」
「すごかったな。一瞬でぴゅっ~とな」
「まあ相手は猫だししょうがない」
「いつもこっそり外に出てるんだろうな」
「誰にでも気付かないことはあるべ」
「ええ……」
ムギちゃんってそんなこと出来たの? いつもあの隅っこでじっとしてるイメージあるけど。
私がムギちゃんの方を見ると、外で様子を見ていたメンテくんの足元にいました。
なんだ。メンテくんに会いに行ったのか。やっぱメンテくんは猫に好かれる体質なようです。
「……昼の準備するべ」
「そうだなあ。帰るか」
「またなあ」
「お邪魔したなあ」
「また明日ね」
何事もなかったかのように話題を逸らしつつ、近所のじじばば達は帰って行きました。その気遣いが逆に痛かったです。
私間抜けな子だと思われてない?? でもムギちゃんが出る瞬間全く気付かなかったのも事実です。
ぐぬぬ……。
散歩はお終いにして帰りましょう。そろそろメンテくんの昼ご飯の時間です。遅れたら大変ですからね。
「メンテくん。おーい。メンテくん」
「だーどばーれ(猫ドアの存在バレなくてよかった)」
「にゃあ(あの人間は昔からどんくさいにゃ。それより飯いかないの?)」
「えぐ?(え、もうそんな時間?)」
「にゃ(そうにゃ。呼んでるにゃろ?)」
「メンテくん聞こえてる? お家に帰るよー」
「はーい!」
「にゃあ!」
「いや、ムギちゃんは行かないから。え? メンテくんムギちゃん連れて帰りたいの? 本当仲が良いねえ。しょうがない。一緒に行こうか」
こうして家に穴がないことが分かり、私の悩みがなくなったのでした!
メンテくんの昼ご飯の後、一緒にお昼寝タイムです。メンテくんは誰かが横にいないと寝られないから合法的にお昼寝出来ます。メンテくん当番のときはみんな堂々とサボってますよ。
そして、おやつの時間になり……。
「やったー。今日のおやつは何ですか?」
メイドのお仕事だとお昼におやつタイムがあるんです。しかも無料。私の楽しみのひとつです!
「ありませんよ」
「え?」
「ムギでしたっけ? あなたの家で飼っている猫。首輪にムギちゃんと書かれていた猫が欲しがっていたのであげました」
「は?」
「あの子、全部食べちゃいましたよ。すごくおいしそうでした」
「ムギぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
家に帰ってからムギちゃんを家から出させない方法をいろいろ試しました。メイドの仕事があるときは特に念入りに家に閉じ込めています。絶対におやつは渡しません!
……ですが、今のところ全て失敗しています。何で?!
やっぱりどこかに秘密の抜け道とか穴でもあるんじゃないでしょうか?
それよりムギちゃんが私のおやつの時間を知っているのはなぜでしょう。毎回私のおやつのたび現れるので気が気ではありません。脱走猫から私のおやつを狙うハンターになってしまいました。
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