もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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235話 「空のとまり木 その1」

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 僕メンテ。前世の記憶が少しあるだけでそれ以外は至って普通の男の子。

 知ってる? この世界のお芝居って黒子みたいな役がいないんだよ。全部魔法で解決しちゃってるからね。

 魔法も使い方次第で多彩に変化しちゃうんだ。面白いよね!

 まあ昼から魔法をたくさん見たせいか満足して夜中に猫になる機会が減ったんだけどさ。



 といわけで猫になるのは久しぶりー!



 では今日の本題いっちゃおう。それは昼に偶然見つけたあれから始まったんだ。



 ◇


「んぐぅ~」


 日差しが暖かくてきもちいいいいい。

 思わず体がぐいって伸びちゃった。すごいぽかぽか陽気だね。

 よし、日向ぼっこでもしよう!

 メイドさん、そこ座って。そうそう。僕膝の上で寝転びたいんだ。

 あ、座り方はあぐらでよろしく。全身がすぽって入るあの安定感がいいの。

 ごろーんと寝転がって空を見上げる僕。のんびりした時間を楽しんでいると……。


「……?」


 おや? 空に何かあるぞ。何あれ??


「はーい、あえは?」
「あれは太陽です。直接見ちゃダメですよ。強い光で目が見えなくなっちゃうからね」
「あっちは?」
「あっちには何もないですよ? 今日は雲一つない快晴ですから。もしかして雲がないってことが言いたいのかな~? 子供って本当よく見てるよね。大人は気付かないのにねえ」
「えぐぅ……」


 ◇


 とまあこんな感じで謎の物体が見えているのは僕だけだった。

 その物体はゆっくりと移動していてるようで、最終的にどこか遠くへ行ってしまった。風に流されたのかもしれない。

 今空を見上げてもそれらしき物は見えないなあ。

 本当にそんなのあったっけ? と自分の記憶を疑いたくなるよね。

 確かあっちの方角に移動してったんだよなあ。必ず戻って来るという保証もないしさ。気になって気になって眠れないのだ。



 よし、追いかけてみよう!



 僕は家から飛び出ると謎の物体が飛んで行った方向へ走ります。

 今の僕なら東京から大阪まで1時間ぐらいで移動出来ると思う。本気を出せば1分も掛からないんじゃないかな? 猫の身体ってすごいね~。



「あ、あった!」



 しばらく走ると空に物体が見えて来た。僕の記憶は正しかったようだ!

 ふう、なんとか追いつけた。でもここからだとまだハッキリとは見えないね。もっと近づけば見える気がする。

 ここは猫結界を使おう。空中に足場を作ってぴょんぴょんジャンプして近づけば良いのだ!


 そ~れ。ひゅんひゅんっと。


 どれぐらい上に登っただろう。雲の上をぶち破って結構時間が経っているぞ。

 まだまだ遠くにあるんだよなあ。早く見たいのにと思っていたら物体が鮮明に見え始めた。というか急に現れた気がする。なんじゃありゃあああああ?!



「で、でかああああい?!」



 そこにはすっごぉおおおーく大きな木があった。

 見た目や色はそこらへんにある木と何ら変わりがないと思うが、ただただデカい。横向きに倒れながらゆっくりと移動している。まだ結構離れているはずなのに存在感が半端ない。

 大きい物が動いているから遅く見えるのだろうが、実際はかなり早く動いているはず。漫画だったらごおおおおおっという文字があってもおかしくない。それぐらいすごい迫力を感じる。


 どうやら僕の知りたい物体の正体は”木”だったようだ。


 今僕がいるこの位置からは木全体が見渡せる。移動しながらじっくり観察してみよう。空に浮かんでいるということは普通の木とは何か違う特徴があるはずだ!

 観察すること数分後。ついに普通の木と明らかに違うところを発見!



「なにあれー!」



 空に浮かぶ木の秘密は、根元にありました。

 木の根っこの部分には土がない。その代わりに白い何かが薄っすらとまとわりついている。空中では雲が土の代わりなのかと思ったが、あれは雲であって雲ではない。何か違う不思議な力を感じる雲だ。

 木はその大きな根っこでその白い何かを吸収し始める。根っこが脈を打つかののようにドグ、ドグっと血管みたいに膨張してゆく。その鼓動に合わせて木全体が黄金に光り輝いた。

 光が弱まると、薄っすらと木全体を黄金で包み込んだままの状態が維持される。まるで光の膜で守られているかのようだ。

 この黄金の光を触ってみた。なんとなく回復魔法に似ているなあ。よく分からないがこの黄金の光で浮いているのだろうか? それなら根っこの部分には近づかないでおこう。落下したら被害がヤバそうだしさ。

 う~ん、ただ見ていただけじゃ全然木の秘密は分からない。

 もっと近くに……。いや乗っちゃえばいいか!



「えい!」



 僕は木に飛び移る。ほほう、足裏に感じる感触はフローリングに近いね。木の表面はトゲトゲしていないので歩きやすいぞ。

 普通の木は縦方向に成長するけどこれは横方向に枝が伸びている。その方が太陽の光を浴びやすいのかな? 僕としては歩きやすいので問題ない。

 遠目で分からなかったけど、小さな木の枝だと思っていたものを近くで見ると僕の家よりでかくてビビる。

 新芽? もアホみたいにでかい。幹の太さに至ってはキロ単位あるんじゃないかな?

 いろいろとサイズ感が狂っちゃうレベルで大きい。



「あっち行ってみよー!」



 僕は緑が生い茂っている方向に移動した。

 走っても全然揺れない。安定感は抜群。でかさ以外は普通の木と同じような感じだ。どういった力で浮いているのか、そこだけ本当に謎に包まれている。
 
 おお、やっぱり葉っぱもでかい!

 多分葉っぱ一枚の大きさは、大人の人間が何十人寝転がっても余裕の大きさだろう。子猫の僕の何百倍もでかいぞ。

 葉っぱは手のひらをパッと開いたかのように広がって成長している。栄養がしっかり届いているのかいい感じの緑色をしている。

 もし僕が草食動物だったら食いついていただろうね。とてもみずみずしいからさ。この木はしっかりと生きているのを感じる。作り物ではないようだ。



 本当どうなってるんだこの木? 巨人の住む世界に来ちゃったのかなと錯覚を起こしちゃうじゃん。ジャックと豆の木とかいうお話を体験している気分だ。



「おや?」



 よーく見ると、葉っぱの周りに何かうじゃうじゃ飛んでいるぞ。

 なんだこの半透明の生き物。様々な動物の姿をしているが皆羽が生えている。大きさは今の僕と同じぐらいで小さいぞ。

 う~ん、見たことがない動物しかいない。動物名が全然浮かばないから例えるのが難しい。顔だけ犬で体は軟体生物とかそんなレベルで。

 それにしても僕が近づいても全然反応しないなあ。こっちに気付いているのかいないのか。そんな何もない反応をされると逆に困っちゃうよね。



 よし、挨拶でもしてみようか。



「こんばんわー」



 僕の言葉に半透明の動物達はビクンっと反応した。少しだけ僕を見つめたが、すぐ元に戻る。今まで通りフワフワと浮きながらどこかへ移動していく。僕がいてもいなくてもどうでも良いようだ。

 どうやら僕を敵と判断していないみたい。実際か弱い子猫だからねえ。

 すぐに攻撃してこないことからここに住む生き物は温厚なのだろう。一切敵意を感じないもん。


 こんな大きい木だ。他にも生き物はいるんじゃないか?

 猫探知をしてみたらこの半透明の動物の反応しか感じない。この木にはこの半透明の動物達だけが住んでいるようだ。それはそれで気になる。

 まあこんな高い場所に住む生き物は多くはないってことかな?


 ……おや? 透明な動物が一匹だけ僕の目の前にやって来た。なんかイタチみたいな体に小さな羽が生えてるからイタチって呼ぼう。

 何やらイタチはこちらに指? を差してごちゃごちゃと叫んでいる。

 まるで僕をバカにしている感じがするけど気のせいだろう。

 あ! ここはコミュニケーションのチャンスではないか? 簡単な質問をしてみよう。もしかすると話が通じるかもしれないからね。



「ねえねえ。1+1は分かる?」
「gyatntjgqmbs62q!」



 うーん、何言っているのか分からん。



「猫デコピン」



 しっぽを伸ばして優しくデコピンしてみた。顔がうるさかったので。

 その衝撃で背中から地面に向かって倒れていく。が、クルンっと一回転して元の位置に戻るイタチ。空中ならではの動きである。

 地上だったらひっくり返って頭を打っていただろうなあ。このことから常に浮いている生物なのだと分かったよ。

 半透明だけど普通に触れたなあ。不思議な体の生き物もいるんだなあ。



「gmう2qyt!!」



 ん? 半透明なのに顔を真っ赤にしたかのように怒っている気がする。


 すると周りの生き物が落ち着けよとイタチをなだめ始めた。まあ何を言っているのか分からないので僕の勘だけど。



「おや?」



 イタチの声に反応したのだろうか。この大きな木に向かって別の生き物が飛んで来た。

 だが猫探知している僕に死角はない。そこだ! と振り向いた先には30羽近い鳥が見えたよ。



「う~ん、大きな鳥だなあ……。猫ブレス!!」



 とりあえず近づく前に撃墜しておいた。鳥は錐揉み回転しながら落ちていく。

 動物達は大丈夫かな? と振り返る僕。すると葉っぱの裏に隠れているのが見えた。

 この反応からすると、あの鳥はこの半透明の動物達を狙っていたのだろう。怖かったんだろうなあ。鳥の大きさ的に僕達ただのエサに見えるもんね。

 そう考えると色々と見えて来るものがある。

 イタチは仲間に危険を伝えていたから大きな声で叫んでいたのだ。ついでに僕にまで危険を教えてくれたのだが、僕に話が通じないから必死になったのであろう。

 おお、なんて心が優しい生き物なんだ!

 ほら、よくやったという感じでイタチが仲間に囲まれている。言葉は分からないけど何となく褒め称えているのを感じるぞ。



「ピィイイイイ!!!」



 んー? さっきの鳥の大きな個体が近づいて来たぞ。翼を広げたら余裕で100メートルぐらい余裕であるんじゃないかな。

 群れのリーダー的なやつだけ僕の猫ブレスを避けていたようだ。全部追い払ったと思ったのに。

 どうしようかなあ。さっき僕を助けようとしてくれたこの半透明の動物達。優しい心には優しい心で恩返しでもするべきかもしれない。



 よし、この鳥を退治しよう!



 いつもはライオンだけど今日はトラの圧倒的な力を見せてあげよう。

 トラってライオンより体が大きいの知ってる? 体格が優れたものこそ強者。あのゾウも恐れることから猫の中で最強説もあるからね。



「猫魔法・トラ」



 右腕だけを超巨大化し、近づいて来たところを思いっきりぶん殴る僕です。鳥は下に叩き落しました。


 これがトラの虎たるタイガーな猫パワーだ!!


 ふう、これでこの木は安全だ。

 気が付くと僕の周りにいっぱい動物たちが集まっていた。

 ありがとうって言ってるのかな? なんだか心が通じ合えた気がするね!



 よし、そろそろ時間だから帰るか。その前にこの木にマーキングしておこう。


「猫魔法・猫マーキング!」


 これでいつでもここに遊びに来れるようになったぞ。なんか力加減間違えて削れすぎたのか大きな穴が開いちゃった。まあいいか。これぐらいなら自然に戻るはず。

 ふひひー、新しい遊び場が増えて大満足だ。お家に帰って寝ていたシロ先生を叩き起こしちゃった。


「シロ先生。木って空にもあるんだよ」
「寝ぼけてないで早く寝なさい!」
「はーい」


 めっちゃ怖い目で怒られた。なんかごめん。
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