もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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218話 「農業を知ろう」

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 僕メンテ。今日は朝からキッサさんと一緒に外にいます。


「こえは?(これは?)」
「トマト。トマト」
「ちょまちょ。こえは?(トマトね。じゃあこれは?)」
「ピーマン。ピーマン」
「ぴーみゃ。こえは?(ピーマンね。じゃあこれは?)」
「ニンジン。ニンジン」
「にじん。こえは、こえは~??(にんじんね。これは? これは? これは~?)」


 これはこれはと言えば何でも答えてくれるナンス家の相談役ことキッサさん。目の前にある野菜の名前を聞きまくります。というわけで今僕達2人はキッサさんの家庭菜園のある畑にいます。


「やう(やる)」
「メンテくんも一緒にやりたいの?」
「はーい!」
「じゃあニンジンを土から抜いて貰おうか。ここを持って引っ張ってみて。こんな風にどっこいしょーってやるのよ」
「えぐうううっ! ……はぁ、はあ。んぐううううううう!!」
「……難しそうだね。一緒にやろうか」
「はーい!」


 一緒に野菜の収穫してるというわけですね。邪魔をしているわけではないのですよ。

 キッサさんの家庭菜園は結構広い。というかほぼ農家さんと言っていい規模です。キッサさんは家の中で見かけるよりも外で畑をいじっている姿の方がよく見るんだよなあ。今日も元気に畑にいますし。

 そんな感じで朝から外で作業してるのを見ていた僕はふと思った。この世界の農業ってどうなっているんだろうと。気になったからには聞くしかない!

 というわけで僕はキッサさんにくっ付き、この世界の野菜について調査をしています。名前に関してはだいたい前世の世界と同じですね。味も見た目もそこまで違いはなさそう。まあ僕が食べた範囲内での話ですが。とはいっても異世界ファンタジー感を出すときはもちろんあります。この世界でしかとれない野菜の話が出たときにね。まあこの畑にはそういう変な野菜はなさそうですが。


「こえちゅちい(これ畑の土)」
「そうだね。土だよ」
「こえは?(これは道路の土)」
「それも土だね」
「こっちやわか(畑の土は柔らかいよね)」
「もしかしてこの土が柔らかいから不思議なのかい? 子供ってそういうところに興味を持つから面白いよ。あはっははははは!」
「えぐ~?」


 異世界あるあるだと、土はてきとーにしているので野菜が育たない。だから前世の知識を使って農業に革命をおこして無双するのがお約束。なら僕も何か出来ることがあるんじゃないか? 知識で無双するチャンスが来たと思うと気持ちが高ぶっていた。格好よく無双してみたい!


 よし、この世界の農業のレベルを調べよう! ついでに頭が良いって褒めて可愛がって貰おうかな。ここからはそんな理由でいろいろ聞いてみますよ。


「そうかいそうかい。メンテくんにはこの土の違いが分かるんだね」
「えぐ!」
「この畑の方の土は野菜を育てるのに大事なのよ。普段歩いている道というか土と比べるとふかふかだろ? さっき一緒に収穫したニンジンを見てごらん。植物は土の中で根を伸ばすんだ。その根っこから水分や養分を吸収して育つのさ。硬いと根っこが成長しづらいからしっかりと耕しているのよ」
「えぐ~」
「それにこの土は栄養がたっぷりあるだけじゃない。空気も通りやすいから通気性も抜群よ。水分も適度に保ちつつ排水性もあるんだ。土づくりは大事なんだよ。あとは植え方もね。日当たりはもちろんだけど毎年同じ物を作るより別の物を植えるほうが良いのよ。連作障害っていうんだけどその話はメンテくんには早いわね」
「えぐう~」


 ……キッサさんは農家か何かかな? 僕より詳しくない??

 それはそうと土づくりはしっかりとしているようです。僕の頭の良さを披露するのはこっち方面じゃないようだ。よし、今度は農作業で使う道具について聞いていみよう!


「こえは?」
「今度はこっちに興味を持ったのね。これは鎌だよ、かーまー。ギザギザが付いているから収穫では役立つし雑草もスパーンってするのよ。危ないから私が持ってるわね」
「こえは?」
「これはスコップだよ。土を掘るときに使うのさ。こうやってね」ザクザク


 鉄製で丈夫そうな農具が並んでいます。ボロボロなのとか木だけで出来た物とかを使ってはいませんね。見た限り日本にある物とあまり変わらない品質かな? ということは前世と同じぐらい発展してそうだね。


「こえは?」
「ハサミだよ。さっきトマトをとったのを見ただろう? あのときに使っていたのよ」
「えぐ」
「?! ダメダメダメ、メンテくん。危ないから触らないように。怪我するから」
「えぐ~?」


 僕が触ろうとすると腰の袋にしまうキッサさん。ついでに刃物とか危ない物は全部しまっていきます。まあ僕がへたに触れたら危ないもんね。そんなことより明らかにおかしいことがあるよ。サイズがあってない物が袋の中にどんどん入っていくんだよなあ。


「こえは?」
「これ? 中にいっぱい物が入る魔道具だよ。重さも軽減しているから畑仕事には必須だね」


 それは反則だ。むしろ前世の世界に技術を教えろって言いたくなる。一部の魔道具は前世のレベルを超えてると思うんだ。

 道具関連だと魔道具が登場するので僕の頭の良さが披露出来ないなあ。もっと別のことを聞くべきだね。あれだあれ。あれにしよう!


「あえは?(あれは?)」
「あれ?」」


 ドドーンと畑の横に並ぶ家よりは高さが低いけど横に長~いあれを指差す僕。ずっと気になっていたけど言い出せなかったんだ。


「ああ、あれね。温室よ。先週出来たの」
「おんちちゅ」


 ビニールハウスみたいなものを作っているのは知っていましたよ。でも完成していたのは今知りました。なんか細長い家っぽいね。

 よ~し、甘えて中に入れて貰おう。きっと中でも何か育てているはずだ。


「みぃた~い」←目キラキラ
「中入りたいのかい? じゃあ今日は特別に一緒に行って見ようか」
「はーい!」


 キッサさんはチョロい。


「はあく(早く)」
「行きたくてしょうがなそうな顔ね。まだ出来たばかりでごちゃごちゃしてるからね。抱っこじゃないと入れないけどいい?」
「はーい。きゃきゃ!」じゅぼぼぼ
「ふぎゃあああああ?!」


 抱っこしてくれたので顔にキスしてみました。可愛いでしょう? 優しくしてくれる人には甘えるようにしているんだ。

 で、中に入ると……。


「よいしょっと」ガラガラガラ
「――?!」


 中に入るとそこには見たことのない植物がいっぱいありました。しかも浮いている?!


「こっちこっち」
「えぐっ?!」


 キッサさんが呼びかける。すると植物を植えてある鉢やら種を植えるトレーが僕の前に飛んできました。


「ここではね、こうやって魔力で動かして移動出来るのよ。この花は少しの土と水があれば育つからね。だから鉢をすごく軽くして浮かせて育てているのよ。重いものは魔力が持たないから無理だけどね」


 キッサさんの得意な魔法といえば手を使わずに物を動かす力。念動力とかテレキネシスって感じの魔法かな。これは周囲にある魔力を操って物体を動かす技らしい。普段はこれで腰に負担が掛からないように体を支えながら生活しているそうだ。


「この地域は1年を通して気候は変わらないことの方が多いんだけど、最近は暑くなったり寒くなったりすっごい雨が降ったりでおかしいわ。野菜がダメになっちゃうから無理いって温室を作ってもらったの。まだ育ってないものが多いけど、そのうち植物でいっぱいになるわよ」
「えぐ~?」
「まあメンテくんは難しいわよね。よしよしよし」ナデナデ
「……」←頭をなでられて嬉しそうなメンテ


 あー。そういえば最近寒いね。家に来る猫達も温かい場所を巡って喧嘩してるもん。異常気象なのかな。

 この温室を見回してみると浮いている花だけではなく、普通に地面に植えてあったり棚みたいなところで育てている野菜や果物もありました。これは前世でもよく見た感じ。ただ浮いている花が自由に動き回っているせいか近未来感がすごい。僕の頭の良さを披露したかったけど前世のレベルを遥かに超えてるから敗北感を覚えちゃう。

 今度は設備について見ていこう。あそこにでっかい業務用? のエアコンあります。これで部屋の温度が一定にしているのかな。あと水が出るホースみたいなのがある。キッサさんに効いたらボタンひとつで室内の水やり完了するらしい。他にも天井や植物の上に明るい光る物がいたるところにありますね。これは初めて見るね。なんだろうってことで聞いてみよう。


「あえは?」
「太陽光魔石ね。これは太陽の光と同じような効果があるのよ。おかげでどんな気候の植物でも1年中育てられるのよ」


 あれだあれ。蛍光灯の太陽光に近いタイプのやつ。太陽に当てなくてもこの光で植物が成長するんだ。この異世界では魔石で再現しているようです。なるほどねー。これがあるから温室は家っぽい外見だったのですね。


「こっちでは栄養魔石を肥料にした果物を作っているのよ」
「えぐ?(え、えいようませき?)」


 魔石?


「栄養魔石もメンテくんのパパに作ってもらってね。粉々に砕いて土に混ぜてあるの。ここでは魔石栽培をしているから甘くて大きく育つでしょうね。他にも昆虫や動物が近寄らなくなる魔石とか植物の病気を抑える魔法も使って貰ったり色々してるのよ。雨風防げるし雑草も生えないからいい感じね」


 あ、僕の父親まで絡んで来た。これは僕の頭の良さを披露する場所が本格的になくなったぞ。ちなみに栄養魔石は植物の栄養をふんだんに含んでいるのだとか。どうやって作ったんだろう。


「狭いからあまり育てられないけど色々出来るようになったから楽しいわね」


 それからキッサさんが魔法を使って色々と植物のお世話をする様子を静かに見る僕。うん、僕を抱っこしたまま全てテレキネシスで作業をしているんだよね。手も足も動かさずに土や植物が勝手に動いていくんだ。細かい作業も楽々とこなしている。

 魔法の力はとんでもない。この世界では魔法があるので魔法を使った栽培、つまり魔法栽培が主流らしい。人によって得意なことが違うから私じゃ参考にならないわねとキッサは教えてくれた。

 話を聞くうちに僕の知識で無双してやるぜー! っという気持ちは一瞬で吹き飛んだ。前世とこの異世界との常識が違いすぎると実感したのである。僕の頭の良さを見せつけるとか何を考えていたんだと恥ずかしくなったよ。考えすぎてお腹が減ったなあ。


「きっちゃ(キッサ)」
「どうしたのメンテくん」
「おっぱい」
「え? あら、もうお昼の時間ね。メンテくんは体内時計が的確すぎてその……ね。す、すごいわよ!」
「おっぱいは? おっぱい。まだ?」
「ちょっとだけ待ってね。これが終わったら……ぎぃいいいいいい?! くびー、首閉まるううう。レディーちゃん、無理よー!! ダメなんて言えないわよおおおお」


 今回の調査の結論。普通にやる農業は前世の世界と同じようなレベル。だけど魔道具や魔法が便利すぎて比べたらダメだね。
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