もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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181話 「受け継がれる才能 その1」

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 僕メンテ。ナンス家に生まれた男の子です。

 よくある物語だと貴族は兄弟同士でも色々と殺伐とした関係になるみたいですね。でも僕の親は魔道具職人。なのでそんなの物騒なこと起こりませんよ。とても仲が良い家族なのです。試しに一緒に遊んでとお願いしてみましょうか。可愛い末っ子のお願いなら何でも聞いてくれますので。


「はーい! あーえ。あちょぼー」
「やだー」
「はーい! あにきー。あちょぼー」
「今瞑想中だから忙しいんだ。後でね」

「……………………きえええええええええええええええええええええええええ!」

「きゃー?! 助けてお兄ちゃーん」
「そんな大げさな……。うわあ?! 猫がいっぱい集まって来た?!! これはヤバいぞおおお。誰か助けてー!!」


 今日も3兄弟は仲良し!


 ◆


 メンテとレディーは手を繋ぎながら家の中を散歩していた。メンテは散歩大好きな赤ちゃんなのだ。


「メンテちゃんどこに行くの?」
「あえ」指プイ


 メンテが指を差したのは分厚い扉がある部屋である。


「フフッ。みんなあの部屋に入っていくから興味があるのかしら?」
「はーい!」
「そういえばメンテちゃんは入ったことないわよね? そうねえ……、みんなの邪魔をしないなら特別に入ってもいいわよ? 大きくなったらここで働くかもしれないもの。見学しましょうか」
「はいはーい!」


 まじで?! と嬉しそうなメンテである。そして、頑丈そうな扉を開け部屋に入る2人。中に入ると、メンテはキョロキョロと部屋の様子を観察し始めた。何事にも興味津々な赤ちゃんである。


「まま、ここは~?」
「ここはね、魔道具の修理や修繕をしているお部屋よ」


 ここは使用人たちの仕事部屋。魔道具を作る職人達が集まって作業をしていた。メンテは初めて来る部屋であった。


「パパ~?」
「パパは町に行ったわよ。一緒ににいたらパパの暴走に巻き込まれて全部壊れちゃうの。だからお家と町の二手に分かれて働いているのよ」
「えぐぅ~」


 職人達は2人が入って来たことに気付いていたが、黙々と作業をしていく。仕事に集中している姿を見せつけるかのように。これぞプロフェッショナル。そう思うメンテであった。


「あえは~?」指プイ
「あれは魔道具の点検中ね。正しく動いているか確認をしているのよ」
「あえは!」指プイ
「魔道具のひび割れを直しているわね。フフッ、みんなやっていることがバラバラでしょ? ここではスキルに合わせて得意な作業をして貰っているのよ」
「ままは~?」
「フフッ、ママのことも気になるのね? ママはものづくりが得意じゃないからお客様の対応をするのが主なお仕事よ」
「ぱぱも?」
「……パパ一人には絶対やらせないわよ。ママと同伴じゃないとパパは暴走し始めるからね。お金持ちの相手をすると100円の物を100万円だと値上げしたり、急に実験を始めて部屋を爆発さたりと大変なのよ。でも相手によってはパパのことを応援しちゃうけどね。でもメンテちゃんはパパの悪いところは絶対真似しちゃダメよ?」
「はーい!」テクテクテク
「こら、メンテちゃん。勝手に物を触っちゃダメでしょ! 壊れたらどうするの? 悪いことするならお外に出ようかしら?」
「えぐぅ~?」←とぼけてる
「壊したら卒業よ?」
「……あい」←ガクガク震えだすメンテ


 怒られるとぴったりとレディーにくっつくメンテ。卒業という言葉にとても敏感なのである。それから2人は、ゆっくり歩きながら様々な職人技を見ていくのであった。


「あえは?」指プイ
「あれはコノマチのお土産を作っているのよ」
「おみやげ~?」
「メンテちゃんは行ったことないと思うけど、コノマチの近くに森があるのよ。そこの木を使って色々と作っているの。一番人気は”木の王様”ね」
「おーちゃま?」
「今作ってる人は……あそこね。ほらあそこを見てメンテちゃん」
「えぐぅ?」


 職人が木を削って顔を作っていた。とても王様に見えないブサイクな顔である。さらに胴体をくっつけ出来上がる等身大の王様。そこに魔法を掛けていく。


「ままー! あえ。あえは!!」
「落ち着いてメンテちゃん。あれは木に魔法を掛けているのよ」
「まほー?!」
「そうよ。耐久性を高める魔法よ。よく見てなさい」


 叩いたり高いところから落としたりして耐久を確認する職人。さらに別の職人の手に渡ると、お土産に攻撃魔法を使っていく。だが無傷であった。


「きゃー!」
「木の中にパパが作った魔石が埋め込んであってね、使用した魔法と同じ魔法が発動するのよ。魔法を1秒流せば10秒持続する魔石を生み出したパパは天才だわ!」
「きゃきゃー! あえはー?」
「今の魔法は防御魔法。魔法が発動している間は頑丈になるからサンドバックになるのよ。自分の魔法を試したいという人がよく買っていくわね。他にもただ魔力を流すだけで設定された魔法が発動するタイプもあるの。これは誰でも使えるわよ。まあ本当のお土産はもっと小さい手のひらサイズなんだけれどね。ここで修理をしているのはお金持ち向けの高級品ね」
「きゃあああああ!」


 大興奮のメンテ。あれすげーぞと大喜びである。そんな反応をされると職人も照れちゃうのだ。


「ちゅごーい!」
「メンテ様ありがとうございます」
「フフッ、メンテちゃんにも凄さが伝わったみたいね。それにしてもこれがここまで売れるなんて思わなかったわね……」
「そうですねえ。ストレス発散に最適ですからね」
「王の顔を殴りたいからってパパが作ったのよね。いろいろな国の王様を」
「最近はこの憎たらしい顔はそのままで本体だけ修理してほしいって貴族の依頼が多いみたいですよ。でもこれは修理前には顔がなくなっていましたよ。はははっ、一体何をしたんでしょうね……」
「これどこの国の王様かしら……」


 とんでもない物を販売および修理をするナンス家。だがこれはギルド公認のお土産なので問題ない。むしろ邪魔をするとダンディが何をするか分からないからと誰も手が出せないのであった。各国の王様の悩みの種だったりするがその話は置いておこう。


「まま、あえやる」
「フフッ、メンテちゃんも真似したいの?」
「はーい!」
「じゃあ……これなら触ってもいいわよ」
「きゃきゃー!」


 レディーから近くに落ちていた木の端くれを渡されるメンテ。これはもう使わない物なので子供に触らせても大丈夫。これを持ったメンテはブンブン振り回し始める。トントンと叩いたりなめたりと、とても赤ちゃんらしい反応をしていた。とても微笑ましい光景である。


「んぐ?」
「フフッ、メンテちゃんはみんなの真似がしたいのね」
「うぐぐーっ!」


 メンテが木に力を込めてみるが何も起きない。それはそうだ、メンテはまだ赤ちゃんなのである。固いものをどうこうする力など持っていないのだ。そのため大人たちからただ遊んでいるだけに見えなかったという。


「そろそお終いにするわよ。みんなの迷惑になるからね」
「えぐ」ガサガサ
「あら、今服の中に入れようとしたでしょ? 勝手に盗んだりしちゃダメよ」
「えぐぐ~?」←とぼけてる
「それはここに置いて帰るわよ。それとも卒業する?」
「……はい」←顔が真っ青になるメンテ


 それは大人が笑ってしまうほどとてもとても上手な発音の”はい”だったという。こうして見学を楽しんだメンテは満足して部屋から出ていったのである。それからというもの散歩の時間になるとよく訪れるようになったとか。




 2人が帰った後。職人の一人がはに気付いた。


「うお?! なんじゃこれゃあああ??」
「どうした?」
「み、みんなこれのを見てくれ!」
「「「「「ざわざわ」」」」」


 騒ぎに集まる職人達。


「これいったい誰が作ったんだ?」
「ぐにゃっとしてるな。何だろうなあ」
「んー、この形は手か?」
「この大きさ……、もしかしてメンテ様??」
「そういえば何かを持って遊んでいたような」
「あー私もそれ見たわよ」
「「「「「ざわざわ」」」」」


 職人達が騒いでいるのは、メンテが握っていた木の端を見つけたからである。メンテの握った手の形がそのままに変形している。明らかに人工的に作られた物にしか見えなかった。


「でもどうやってこれを?」
「メンテ様にそんなパワーはないよな?」
「道具を使ったんじゃないか?」
「いやいや、まだ赤ちゃんだからそこまで賢くないだろう」
「まさか魔法を使ったの?!」
「それはないでしょ。まだ使えないって聞いたわよ」
「というか素手だけでここまで出来るのか?? みんな何らかの道具を使って加工するだろ?」
「まあスキルによるけど使うよなあ」
「あ、そういえばダンディ様も道具使わずに色々出来たような……」
「「「「「――そ、それだー!!」」」」」
「はー、これは将来楽しみですなあ」
「そうだなあ。こりゃあ負けらんねえぜ」
「「「「「ざわざわ」」」」」


 メンテがダンディの才能を受け継いでいるのでは? と職人達の間で話題になったという。なおメンテに聞いてみるとえぐ~? としか返事をしないので真相は不明である。

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