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163話 「ぱい・ストーリー」

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 ここは子供部屋。今日もメンテは、メイド達とアーネと一緒に遊んでいた。

「メンテ様、こちらですよ~」
「きゃきゃ!」
「メンテこっちこっち―!」
「きゃきゃきゃ!」
「それ~」
「きゃきゃきゃー!」
『ざわざわ』

 メンテは老若男女誰に対しても人見知りせず、誰に対しても平等に接する。そのため周囲の評判はすこぶる良い。ついつい可愛がってしまう魅力を持っているのだ。メンテはそんな可愛い赤ちゃんであるが、困ったことが1つだけ存在する。


「…………」ぐぅー。


 お腹が空くとはやって来る。


「……おっぱい」


 そう、おっぱいタイムである。お腹が空いたり、機嫌が悪くなるとすぐ始まるのだ。赤ちゃんの欲求なのかメンテのあれなのかは不明だが、今までの機嫌の良さが急に消え去る。さらに言葉がおっぱいの4文字しかなくなる面倒極まりない状態である。とても可愛くない、ただのわがまま悪魔である。

「また始まったわ!」
「メンテ様、準備が出来るまで待ってください」
「ぱい?」
「だ、誰か早く奥様を……」
「呼んで参ります」
「えー、またこれー?」←アーネ

 このときのメンテは非常に面倒くさい。周囲の評判も最悪である。使用人およびアーネは、早く機嫌が良くなっていつもの可愛いメンテに戻れと思っていた。すると子供部屋にアニーキ―が入って来た。

 ガチャ。

「ん? みんなで何してるの?」
「あ、お兄ちゃん。またメンテがおっぱいだってー」
「また~? 早く卒業すればいいのに」
「…………ぱい?」グワッ

 アニーキ―のついついもらした本音。その場にいたメイド達は、心の中でその通りだと頷いたという。これに対してメンテはめちゃくちゃ激怒した。

「きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!」

「きゃあー?! メンテがこっちに走って来るよー?」
「な、なんかすごい怒ってる?!」
「ぱいぱいぱいぱい、きええええええええええええええええええええええええ!」
「「うわあああああ?!」」

 メンテはおっぱい関連のワードに関してはなぜか頭が良くなる。普段はまだあまり言葉を理解出来ていない赤ちゃんだと思われているが、特定の言葉にはなぜか非常に敏感に反応するのだ。ある意味天才なのでは? と使用人達に噂される程だ。

 というわけでメンテに言ってはならない言葉、つまり禁句が存在する。本人の前では言わないようにするのが使用人達の暗黙のルールとかしていた。だがアニーキ―はそれ知らず、メンテをブチ切れさせてしまったのだ。

「きぇええええええええええええええ!」トテトテ
「……あれー? こっちに来ない??」
「うわあっ、俺ばっかり狙ってくる。何で?!」
「えへへ、お兄ちゃん頑張ってー!」
「嫌だよ、アーネも来てよ」
「ぱいぱいぱいぱい、くくぇrちゅいおp@ーーーー!!!」←鬼の表情を浮かべるメンテ
「やだー。なんか怖いもん……」
「うわあああ、誰か!」
「やー、こっち走って来ないでー!」
「「うわああああ!」」

 メンテはアニーキ―を執拗に追いかけまくるのであった。アーネはただ単にアニーキーの道ずれにされているだけだが。とはいってもメンテは1歳児。体力もなければ足も遅い。そのため全然追いつけない状況であった。普通であればこの赤ちゃん完全に冷静さを失っていると思うだろう。しかし、彼は特殊なスキルを持っている。無駄にその力を発揮し始めた。

「ぱあああああああああい、にゃにゃあああー!」
「「「「「「「「「「――」」」」」」」」」」ピクッ
「きえええええええええええええええええええええええええええええ!」トテトテ
「はあはあ、さっきから俺ずっと狙われてるよ。てかみんな見てないで手伝ってよ!」
「やだー」←メイドに抱っこされたアーネ
『……』←無言でお辞儀して謝るメイド達
「きぃえええええええええええ!」
「うわあああ?! まだ来るよ。誰かー!」

 誰もこの状況に巻き込まれたくない。アーネとメイド達は部屋の片隅に移動し、アニーキ―が助けを求めても知らんぷりを続けるのであった。こうしてメンテとアニーキ―の2人が部屋を走りまくると、突然ある変化が訪れた。

「「「にゃあ」」」
「うわ?!」
「「「にゃあ~」」」
「急に目の前に寝そべらないでよ?! っとメンテが来た。そこにいると危ないよ」
「きえええええ!」トテトテ

 なぜか猫達もこの追いかけっこに参戦して来たのである。

「よっと。もうこの部屋から出ちゃおうかな……」
「「「「「にゃ~」」」」」
「えっ、何でドアの前に猫が集まってるのさ?! ちょっとあっちに行ってよ! 出れないじゃないか」
「ぱあああああああああああああい!」トテトテ
「うわあああああ、逃げろ!」

 猫のせいで子供部屋から外に逃げ出す事が出来ず、部屋の中を永遠に走り回るはめになるアニーキ―。しだいにメンテのここから絶対逃さないという強い意志を感じ始めるのであった。

「なんでそんなに怒るの? こ、こうなったら魔法を……使おうにもメンテに当たるかもしれないか。はあはあ、どうすればいいんだろ?」
「にゃー」
「ひえっ?! びっくりした……」
「ふんにゃごほぉー」
「また猫?! さっきから何で俺の目の前にばかり来るの?? 邪魔しないでよ!」
「きぃえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!(レッドはそこで待機、次はブルーとグリーンは右側から攻めて。イエローは常に足元を狙って妨害!)」
「うわああああああ?!」

 猫達をたくみに操り、アニーキ―の進路妨害をさせるメンテ。ただ奇声をあげているように見えるが、実は猫達に的確な指示をしているのである。こうして足の遅いメンテがどんどんアニーキ―を追い詰めていく。気が付けば二人の距離はほぼなかった。とんでもない統率力を発揮した結果である。

「おっぱあああああああああい!」
「い、いつの間にメンテが後ろに?!」
「ぱあああい!」ドシ
「うげっ?!」

 アニーキ―に頭から突っ込むメンテ。その衝撃で尻もちをつくアニーキ―。

「いてて……。もう、痛いよ! それに危ないでしょ? お兄ちゃんにこんなことしちゃダメだよ」
「きええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ! じゅばばばばばばあああっ!」バシバシバシ!
「「「「「「「「「「にゃあああ!」」」」」」」」」」ズダダダダッ!
「ぎゃあああああああああああああああ?!」

 アニーキ―が動けなくなった途端に襲い掛かる猫達と赤ちゃん。メンテはメンテで、アニーキ―の鼻をバキュームしながら両手で頭を叩きまくる。それは約10匹の猫と普通? の赤ちゃんが兄をボコボコにするという恐ろしい光景であった。

「えへへ。お兄ちゃんメンテに捕まっちゃったねー」
「これはひどいですね……」
「アニーキ―様……」

 群れの力で追い詰める。もはやこれは狩りであった。むやみに卒業という単語は使わないでおこうと思うメイド達であった。

「……」ピクッ

 しばらくすると、メンテは急にアニーキーを叩くのを止めてドアの前に移動し始めた。ドアが開いた瞬間、入って来た人物に抱き着いた。まるでここに来るタイミングが分かっていたかのようである。実際に彼のスキルの影響で匂いや足音が分かるのだ。だが、そこに気付く者はいなかったという。

「うええええん、まんまああああー!」
「あらメンテちゃん。急にどうしたの?」
「うえええん。あいきー、あにきい。うわああああああああん!」指プイ

 まるで兄貴にいじめられたのという風に泣きまくるメンテ。

「……アニーキ―にいじめられたの?」
「うわあああん!」←コクコク頷く
「もう、メンテちゃんをいじめたらダメでしょ? こんな風におっぱいおっぱいってうるさくなるのよ。アニーキ―分かってるの?」
「いや、僕がいじめられたんだけど……。猫に」
「何を言ってるのかしら? 猫はそこで休んでいるでしょ? もっとましな言い訳はないのかしら」
「ええ、嘘でしょ……」

 猫達は何事もなかったかのようにキャットタワーで休んでいた。レディーが子供部屋に入る直前に猫達もアニーキ―を攻撃するのを止め、キャットタワーに避難していたのだ。都合の悪い証拠は一切残さない。メンテの指示によるものだ。そのためレディーには、ただアニーキ―が床に倒れているようにしか見えなかったという。

 後にメンテ様はこの頃からメンテ様だったなあとメイド達は語る。

「うええええええん、おっぱい。ぱああああい!」
「はいはい、もう泣かないでよ」
「うえええええええん!」


 おっぱいのためなら手段を選ばない。これはそんなメンテの可愛い物語。



「お兄ちゃん大丈夫ー?」
「……あきらかに猫の動きおかしかったよね。あれってメンテが何かやったのかな? そういえば怒っているときににゃにゃーって言ってたような?? もしかしてあれが協力しろという合図だったのかも。いや、でも俺に対してあんな的確に動いていたのはちょっと信じられないよね。猫達が自分で考えて動いていたってこと? 邪魔しろとかそういう単純な命令をしただけかもしれないね。だってメンテはずっと奇声をあげてたもん。まともに指示してたとは思えないし。それとメンテは魔法使えないからね。あれは魔力を使わない系のスキルの影響と見て間違いないぞ! 実は俺貴重な体験をしてたんじゃないかな……。げへへへ~」
「ママ―、お兄ちゃんが頭おかしくなったー!」
「いつものことだからほっときなさい」
「わかったー」
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