もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

文字の大きさ
上 下
163 / 259

163話 「ぱい・ストーリー」

しおりを挟む
 ここは子供部屋。今日もメンテは、メイド達とアーネと一緒に遊んでいた。


「メンテ様、こちらですよ~」
「きゃきゃ!」
「メンテこっちこっち―!」
「きゃきゃきゃ!」
「それ~」
「きゃきゃきゃー!」
『ざわざわ』


 メンテは老若男女誰に対しても人見知りせず、誰に対しても平等に接する。そのため周囲の評判はすこぶる良い。ついつい可愛がってしまう魅力を持っているのだ。メンテはそんな可愛い赤ちゃんであるが、困ったことが1つだけ存在する。


「…………」ぐぅー。


 お腹が空くとはやって来る。


「……おっぱい」


 そう、おっぱいタイムである。お腹が空いたり、機嫌が悪くなるとすぐこの時間が始まるのだ。赤ちゃんの欲求なのかメンテのあれなのかは不明だが、今までの機嫌の良さが急に消え去る。さらに言葉がおっぱいの4文字しかなくなる面倒極まりない状態である。とても可愛くない、ただのわがまま悪魔である。


「また始まったわ!」
「メンテ様、準備が出来るまで待ってください」
「ぱい?」
「だ、誰か早く奥様を……」
「呼んで参ります」
「えー、またこれー?」←アーネ


 このときのメンテは非常に面倒くさい。周囲の評判も最悪である。使用人およびアーネは、早く機嫌が良くなっていつもの可愛いメンテに戻れと思っていた。すると子供部屋にアニーキ―が入って来た。


 ガチャ。


「ん? みんなで何してるの?」
「あ、お兄ちゃん。またメンテがおっぱいだってー」
「また~? 早く卒業すればいいのに」
「…………ぱい?」グワッ


 アニーキ―のついついもらした本音。その場にいたメイド達は、心の中でその通りだと頷いたという。これに対してメンテはめちゃくちゃ激怒した。


「きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!」

「きゃあー?! メンテがこっちに走って来るよー?」
「な、なんかすごい怒ってる?!」
「ぱいぱいぱいぱい、きええええええええええええええええええええええええ!」
「「うわあああああ?!」」


 メンテはおっぱい関連のワードに関してはなぜか頭が良くなる。普段はまだあまり言葉を理解出来ていない赤ちゃんだと思われているが、特定の言葉にはなぜか非常に敏感に反応するのだ。ある意味天才なのでは? と使用人達に噂される程だ。

 というわけでメンテに言ってはならない言葉、つまり禁句が存在する。本人の前では言わないようにするのが使用人達の暗黙のルールとかしていた。だがアニーキ―はそれ知らず、メンテをブチ切れさせてしまったのだ。


「きぇええええええええええええええ!」トテトテ
「……あれー? こっちに来ない??」←アーネ
「うわあっ、俺ばっかり狙ってくる。何で?!」←アニーキー
「えへへ、お兄ちゃん頑張ってー!」
「嫌だよ、アーネも来てよ」
「ぱいぱいぱいぱい、くくぇrちゅいおp@ーーーー!!!」←鬼の表情を浮かべるメンテ
「やだー。なんか怖いもん……」
「うわあああ、誰か!」
「やー、お兄ちゃんこっち走って来ないでー!」
「「うわああああ!」」


 メンテはアニーキ―を執拗に追いかけまくるのであった。アーネはただ単にアニーキーの道ずれにされているだけだが。とはいってもメンテは1歳児。体力もなければ足も遅い。そのため全然追いつけない状況であった。普通であればこの赤ちゃん完全に冷静さを失っていると思うだろう。しかし、彼は特殊なスキルを持っている。無駄にその力を発揮し始める。


「ぱあああああああああい、にゃにゃあああー!」
「「「「「「「「「「――!」」」」」」」」」」ピクッ
「きえええええええええええええええええええええええええええええ!」トテトテ
「はあはあ、さっきから俺ずっと狙われてるよ。てかみんな見てないで手伝ってよ!」
「やだー」←メイドに抱っこされたアーネ
『……』←無言でお辞儀して謝るメイド達
「きぃえええええええええええ!」
「うわあああ?! まだ来るよ。誰かー!」


 誰もこの状況に巻き込まれたくない。アーネとメイド達は部屋の片隅に移動し、アニーキ―が助けを求めても知らんぷりを続けるのであった。こうしてメンテとアニーキ―の2人が部屋を走りまくると、突然ある変化が訪れた。


「「「にゃあ」」」
「うわ?!」
「「「にゃあ~」」」
「急に目の前に寝そべらないでよ?! っとメンテが来た。そこにいると危ないよ」
「きえええええ!」トテトテ


 なぜか猫達もこの追いかけっこに参戦して来たのである。犬じゃなくて猫なのに。


「よっと。もうこの部屋から出ちゃおうかな……」
「「「「「にゃ~」」」」」
「えっ、何でドアの前に猫が集まってるのさ?! ちょっとあっちに行ってよ! 出れないじゃないか」
「ぱあああああああああああああい!」トテトテ
「うわあああああ、逃げろ!」


 猫のせいで子供部屋から外に逃げ出す事が出来ず、部屋の中を永遠に走り回るはめになるアニーキ―。しだいにメンテのここから絶対逃さないという強い意志を感じ始めるのであった。


「なんでそんなに怒るの? こ、こうなったら魔法を……使おうにもメンテに当たるかもしれないか。はあはあ、どうすればいいんだろ?」
「にゃー」
「ひえっ?! びっくりした……」
「ふんにゃごほぉー」
「また猫?! さっきから何で俺の目の前にばかり来るの?? 邪魔しないでよ!」
「きぃえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!(レッドはそこで待機、次はブルーとグリーンは右側から攻めて。イエローは常に足元を狙って妨害!)」
「うわああああああ?!」


 猫達をたくみに操り、アニーキ―の進路妨害をさせるメンテ。ただ奇声をあげているように見えるが、実は猫達に的確な指示をしているのである。こうして足の遅いメンテがどんどんアニーキ―を追い詰めていく。気が付けば二人の距離はほぼなかった。とんでもない統率力を発揮した結果である。


「おっぱあああああああああい!」
「い、いつの間にメンテが後ろに?!」
「ぱあああい!」ドシ
「うげっ?!」


 アニーキ―に頭から突っ込むメンテ。その衝撃で尻もちをつくアニーキ―。


「いてて……。もう、痛いよ! それに危ないでしょ? お兄ちゃんにこんなことしちゃダメだよ」
「きええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ! じゅばばばばばばあああっ!」バシバシバシ!
「「「「「「「「「「にゃあああ!」」」」」」」」」」ズダダダダッ!
「ぎゃあああああああああああああああ?!」


 アニーキ―が動けなくなった途端に襲い掛かる猫達と赤ちゃん。メンテはメンテで、アニーキ―の鼻をバキュームしながら両手で頭を叩きまくる。それは普通? の赤ちゃんと約10匹の猫が協力して兄をボコボコにするという恐ろしい光景であった。


「えへへ。お兄ちゃんメンテに捕まっちゃったねー」
「これはひどいですね……」
「アニーキ―様……」


 群れの力で追い詰める。もはやこれは狩りであった。むやみに卒業という単語は使わないでおこうと思うメイド達であった。


「……」ピクッ


 しばらくすると、メンテは急にアニーキーを叩くのを止めてドアの前に移動し始めた。ドアが開いた瞬間、入って来た人物に抱き着いた。まるでここに来るタイミングが分かっていたかのようである。実際に彼のスキルの影響で匂いや足音が分かるのだ。だが、そこに気付く者はいなかったという。


「うええええん、まんまああああー!」
「あらメンテちゃん。急にどうしたの?」
「うえええん。あいきー、あにきい。うわああああああああん!」指プイ


 まるで兄貴にいじめられたのという風に泣きまくるメンテ。


「……アニーキ―にいじめられたの?」
「うわあああん!」←コクコク頷く
「もう、メンテちゃんをいじめたらダメでしょ? こんな風におっぱいおっぱいってうるさくなるのよ。アニーキ―分かってるの?」
「いや、僕がいじめられたんだけど……。猫に」
「何を言ってるのかしら? 猫はそこで休んでいるでしょ? もっとましな言い訳はないのかしら」
「ええ、嘘でしょ……」


 猫達は何事もなかったかのようにキャットタワーで休んでいた。レディーが子供部屋に入る直前に猫達もアニーキ―を攻撃するのを止め、キャットタワーに避難していたのだ。都合の悪い証拠は一切残さない。メンテの指示によるものだ。そのためレディーには、ただアニーキ―が床に倒れているようにしか見えなかったという。

 後にメンテ様はこの頃からメンテ様だったなあとメイド達は語る。


「うええええええん、おっぱい。ぱああああい!」
「はいはい、もう泣かないでよ」
「うえええええええん!」


 おっぱいのためなら手段を選ばない。これはそんなメンテの可愛い物語。




「お兄ちゃん大丈夫ー?」
「……あきらかに猫の動きおかしかったよね。あれってメンテが何かやったのかな? そういえば怒っているときににゃにゃーって言ってたような?? もしかしてあれが協力しろという合図だったのかも。いや、でも俺に対してあんな的確に動いていたのはちょっと信じられないよね。猫達が自分で考えて動いていたってこと? 邪魔しろとかそういう単純な命令をしただけかもしれないね。だってメンテはずっと奇声をあげてたもん。まともに指示してたとは思えないし。それとメンテは魔法使えないからね。あれは魔力を使わない系のスキルの影響と見て間違いないぞ! 実は俺貴重な体験をしてたんじゃないかな……。げへへへ~」
「ママ―、お兄ちゃんが頭おかしくなったー!」
「いつものことだからほっときなさい」
「わかったー」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...