もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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160話 「子猫は町に行く その4」

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 教会には、避難して来た大勢の人が集まっている。

 教会の建物の中に入る順番は、子供、女性やお年寄りといった人達が優先される。そのため避難した全員が建物の中に入ることは出来ず、外で夜を過ごす人も多かった。庭には建物の中に入れなかった人達のための仮住まいが新たに建てられたが、利用している人は少なかった。それもそのはず。その仮住まいの目の前から非常に良い匂いが漂ってくるからだ。そう、屋台がずらーっと並んでいるのである!


 現在は深夜。教会の庭では、大人達がお酒を飲んで騒ぎまくっていた!


 もはやここは、ただのお祭り会場と言うべき場所である。酔いつぶれた人達が、庭に作られた仮住まいに運ばれるという間違った使い方をしている。避難所とはいったい何なのか? と言いたくなる状態だ。教会の中は防音魔法が使われているため、寝ている人達の迷惑にはならない。だから夜ぐらい自由にしていいよね? とコノマチに住む大人達の意向である。まあ暗い雰囲気になるよりはましであろう。

 そして、このお祭り騒ぎの中に2匹の猫が参戦した。その猫達はまるで親子の演技をしながら屋台に近づいていった。ガサガサガサ。ヒョコッ。


「にゃ~」
「んっ?! おお、びっくりした。なんだよ、ただの猫かい。ひっく」
「にゃあ~ん」←目をウルウルさせる子猫
「はあ、こいつは子供か。ひっく。小さいのにお前も住処がなくなったのか? 人だけじゃなくてお前らもかわいそうだなあ」
「にゃお~」←上目遣いで見つめる
「ああ、もう分かったよ。餌をあげるからあっちにいきな。ひっく。ほれえ、お母さんの分もあるぞ~」
「にゃあ!」←しっぽふりふりし始める子猫
「くぅ~、こいつ可愛いじゃねえか!」




「にゃ~」
「……あ? 急に猫が近寄って来やがった。邪魔だ。あっち行け」
「そういえば聞いたか? 最近のナンス家は猫ブームらしいぞ。町の猫がナンス家に集まっているって噂をよく耳にするな。そのうちの1匹なのかもしれない、なんてな。ぎゃははは!」
「おい、どこに行くんだ? ほれ餌忘れてるぞ」
「にゃ~?」←子猫
「こら、そっちもだ。早く戻ってこい」
「にゃあ?」←親猫
「お前態度変わりすぎだろ……」




「にゃ~」
「……なんだ子猫か。俺は犬派なんだよなあ」

 ビターーーーーーン!

「痛ってええええええええええええ?! 誰だ頭叩いたの? てめえか!!!!!」
「あ? なんの用だおっさん?」
「てめえ、人の頭を叩きやがったな?!」
「はあ~? 何言ってんだ?」
「俺達知らねえよ」
「人違いじゃないのか?」

 ビターーーーーーン!

「痛ってえええ?! 今度は誰だああああ!」
「まじで何言ってんだ?! そこに誰もいねえだろ。うわあ、このおっさん相当酔ってるぞ……」
「おい、あっち行こうぜ?」
「このおやじ正気じゃねえな」
「うおおおお、てめえら殺してやるー!!!!!」ブンブン
「あぶなっ?! 武器を持って暴れ始めたぞ!」
「もう我慢出来ねえ。ぶっ殺してやる!」
「おお、喧嘩か?」
「やっちまえー!」
『ざわざわ!』


 3分後。酔っ払いと勘違いされたおっさんは、若者にボコボコにされて倒れていた。


「くそっ。誰も俺の話を信じてくれねえ……。俺は酔ってねえ。何もおかしくねえのに」
「にゃ~」
「もしかして心配してくれるのか?」
「にゃん」
「俺の見方は猫だけってか……。俺猫派になっちまいそうだよ」
「にゃあー!」


 こうして猫好きが1人増えたらしい。頭を叩いたのは目の前の子猫だとは知らずに。そして、子猫は酔っ払いではない人間をターゲットに動き始めた。




「にゃ~」
「おや? 小さなお客さんだねえ」
「にゃお」
「警戒心がないねえ。世の中悪い大人もいるんだぞ?」
「にゃ~?」
「……」←じぃ~っと女性を見つめる親猫ことシロ先生
「今のは冗談さ。目が怖いねえ。ところで何か食べるかい?」
「にゃん」ピョン
「おやおや、あたしの胸がいいのかい。とんだ甘えん坊さんだねえ」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」ペロペロペロ


 急にアホみたいに甘えまくる子猫。生き生きとする子猫を見て、親猫はドン引きしていたとか。さらにこの猫可愛いと騒ぎ続けていると、それを聞きつけた女性達が集まり子猫の取り合いとなった。とてもカオスな空間の出来上がりである。


「にゃ~(おっぱい~)」←嬉しそうな子猫
「きゃー! この子可愛いー!!」
『ざわざわ!』
「……(あの子は何をやってるの?)」←親猫
「あ、こっちに親猫もいるわ!」
「にゃ?!」
「逃げたわ、追いかけろ~」
『ざわざわ』
「にゃああああああ?!」


 ◆


 一通り屋台を回ったあと、僕たちは人気がない場所まで移動しました。休憩です。


「ふぅ。疲れた。でも誰も僕が人間だって気付かなかったよ」
「良かったわね。私も追いかけられて大変だったわ。それにしてもよくあそこまで人気になるものなの。あれも演技?」
「にゃ~?」←えぐぅ? みたいな顔をするメンテ
「あら、可愛い顔」


 初めて人前に出たけど大丈夫でした。まあ元々の僕の事を知っている人もいなかったしさ。特に正体を誤魔化すこともなく楽しめました。人前デビューに不安はあったけど、それはもうなくなりましたね。魔法を使わなければ疑われることはない。僕が猫の姿をしているときは、ただの猫として楽しみましょう。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いいかしら?」
「どうしたのシロ先生?」
「毎回餌を貰えたのはどういうこと? さすがの私でも量が尋常じゃなかったわ……。魔法でも使っていたの? それともその姿で言葉が通じたとか?」
「いやいや、ただ単に僕とシロ先生に食べて大きくなれよってくれただけ。特に何もしてないよ」
「へえ、理由は思ったより普通ね。でも私が歩いてもお供え物なんてされないわよ? むしろ避ける人間の方が多いの」
「さっきから外で騒いでいるのは、若い大人がほとんどだったからね。今は子供やお年寄りは寝ている時間なんだよ。そんな時間に現れたキュートでふわふわ~な僕に癒しを求めてもおかしくないよね! 近くに親がいたから、警戒心のないただの子猫が来たって普通思っちゃうよ。だからみんなチョロかったよ。あはは、僕って猫の姿でも生きていけそう!」
「そ、そうねえ……」


 例え猫の姿になったとしてもメンテはメンテ。可愛い顔に大人はみんな騙されているのね。この子の演技は、本当に演技なのか見分けがつかないから恐ろしいとシロ先生は思ったという。


「まあそれはいいわ。で、何か情報はあったの?」
「それがね、特に面白そうな会話はなかったんだ……」
「そうなの? 結構長い間話を聞いていたから、何か分かったのかと思ってたわ」
「いや~、ほとんどの人が酔ってたから何言ってるのか分からなかったよ。同じ事繰り返してるだけだったりさ。何より本当にここ避難所なの? ってぐらい楽しんでいたしね」


 本当にどうでもいいような話ばかりしていましたよ。やっぱり酔っ払いの相手をするだけじゃダメでしたね。まあ正体がバレないって意味でなら最高の相手なのですが。僕は赤ちゃんだからお酒飲めないけど、お酒控えますね。あんな大人になるなんて嫌だもん。


「この状況でこんなに楽しめるなんて。人間ってたくましいのね……」
「すごいよねえ」


 猫および赤ちゃんにコノマチの人間ヤバいと思われるのであった。でも一番おかしいのは、この子猫……ごほんごほん。うん、気のせいだ。忘れてくれ。


「う~ん、思ったより遅くなったし今日は帰ろうかな。収穫なしなのは残念だったけど。あ、あそこにも人がいるんだね。最後にちょっとだけいいかな? 離れた位置から話を聞いてみるだけにするからさ」
「いいわよ。どうせ見つかって困るのはメンテだけだし」
「シロ先生ありがとう。まあそのときはあいつら消すから大丈夫」
「えっ?!」
「え?」
「「……」」←見つめ合う2匹
「「にゃははははは!」」


 僕の可愛いジョークはさておき、最後に教会の入り口に近づく僕とシロ先生。そこには複数の男達がいました。木のイスに座って会話をしていますね。変な鎧やら武器を持ってるし冒険者かな? 近づくと声が聞こえて来たので盗聴しますね。う~ん、なになに~?


「はあ~、最近ナンス警報多いなあ」
「だよな。今年で何回目だかもう数えてねえや」
「今回の狙いもギルドっぽいし本部も大変だ」
「はは、ちげえねえ」
『ざわざわ』


 ……ナンス警報? ギルド本部?? 初めて聞いたんだけど???

 さっきから何のこっちゃです。でもだんだんと興味が湧いてきました。これですよ、これこれ。こういう僕の知ならい情報が欲しかったんですよ。


 にゃははは、面白そうな話を見ぃ~つけた!

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