もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

文字の大きさ
上 下
159 / 259

159話 「子猫は町に行く その3」

しおりを挟む
「猫バリア―!」


 階段を上りきった後、猫バリアを一直線に伸ばして空中に歩ける床を作り出すメンテ。これも猫結界の応用である。完成した床はスケルトンな状態なため、下の様子は丸見えだ。高いタワーや橋といった観光名所の床がガラス張りになっているかのような感覚である。その上を2匹は歩きつつ、周囲の様子を観察していた。


「見て、この高い壁って何個も重なって出来てたんだ! 魔法で通れたのは、この中の一層の部分だけだったのかも。だから魔法が失敗したのかなあ」
「そうなの?」
「あ、あそこ見て! 花が壁で守られてるよ! 僕分かっちゃった。この壁は魔法の被害を防ぐために作られたんだ。だから家の周りにあるんだ!」
「……真っ暗で花なんて全然見えないんだけど」
「シロ先生、あっちも見てよ。玄関のそばに大きな穴があるでしょ。結構深いみたいだね。しっぽを伸ばしても下まで届きそうにないなあ。えへへ、なんだか観光気分で楽しいね」
「いくら夜目がきくからってそんな深い所まで普通見えないでしょ? ……あ、メンテは魔法が使えるから普通の猫じゃなかったわね。それならおかしくないわ」
「にゃあ~?」
「あら、可愛い」


 まるで人間の姿のときにえぐぅ~? と言っているようなあの表情にそっくりだ。決しておとぼけ顔をしているわけではない。ただ単に何がという疑問を浮かべているだけ。人間でも猫でも子供なのは変わらないのであった。


「見て見て。町がすごくカラフルだよ! 面白いね」
「にゃ?! あれ全部人間の住んでいた家じゃない?!」
「あははははは!」
「全然笑いごとじゃないのよ?!」


 よくよく考えればメンテは赤ちゃん。大人と違って独特な感性を持っているのは仕方がないと思うシロ先生であった。


「見て見て、町のあそこら辺だけ明るいよ。よし、今日はあそこに行ってみよう!」
「え、人がいる場所に行くの?」
「今の僕はシロ先生の子供にしか見えないから大丈夫。じゃあ階段作るから待ってね」
「はいはい」
「猫バリアー!」


 そして、町に着いた2匹。


「到着ー!」
「空中を歩くのも悪くはないわね」
「そうだね。景色も良かったし。次は明るいときにしたいなあ」
「いや、景色は全然良くないから(メンテの目にはどんな風に見えているのかしら?)」


 2匹が降り立ったのは、被害に巻き込まれたであろう町の一部であった。


「猫探知! ……ここは人の気配が全くないね」
「瓦礫の山だからよ。いったい何があったらこうなるの……」
「やっぱりさっきの明るいところにみんないるのかな? 行ってみよう!」
「確かあっちの方角って……。あら、一人で進んじゃダメでしょ。迷子になるわよ」


 ◆


 町の灯りが照らされた方向に進むと、ある建物が見えてきました。


「やっぱりここね。上から見ただけだと分からなかったけど」
「なんだ、教会じゃん……」


 それはいつも遊びに行く教会でした。町を探索しようと思ったのにいつもの場所に来ちゃいました。うん、新鮮味がないですな。でもいつもより人がごった返していますね。なんでかな?


「いつもより大きい人間が多いわね」
「そうだね。何か知ってそうな猫でも探そうよ!」
「そうね」


 僕とシロ先生は、あまり人が来ない隅っこを歩き始めました。結構人は起きているのですよ。目立たないようにこっそりと歩きますよ。しばらく歩くと、よく家に遊びに来る猫を発見しました。


「ちょっといいかしら?」
「ん? ……ってシロ先生?! いつの間に帰ってきたのにゃ」
「今さっきね。少し聞きたいことがあるんだけど……」
「おおう、分かったにゃ」
「ありがとう」


 この猫すごく驚いています。そりゃ急に帰って来たからね。で、この猫の話によると町の住民が教会に避難してきたみたいです。そういえば教会ってこの町の避難場所だったね。ちゃんと機能しているようですよ。


「でもそっちのちっこいのは誰にゃ? 初めて見る顔だにゃ。もしかして巻き込まれて家がなくなったのかい? それともシロ先生の……?」


 ちょっとソワソワしながらシロ先生に僕の事を尋ねる猫です。あれ? シロ先生って子供いたっけ? みたいな感じを出しています。あ、すっかり忘れてたけど今の僕ってシロ先生っぽい子猫の姿だったね。そういえば猫変身を使っている説明をしてなかったです。でもまだ僕の正体がバレてないみたいです。これは猫変身の効果ありありですよ。実験もかねて少し驚かしてみましょう。ぐふふふふ。


 よし、まずは挨拶だ!


「始めまして、僕おっぱい!」
「えっ、メンテ?! ……いやいや、待つんだにゃ。メンテと毛の長さも色も違うし気のせいか? でもあんな真顔で”おっぱい”とか言う猫はメンテしかいないにゃ……」
「あ、そういえば言ってなかったわね。この白い子猫はメンテが魔法で変身しているの。変身というより変装だけど」
「にゃはははは!」
「はあ、やっぱりメンテだったのか。しゃべるまで全然分からなかったのにゃ」


 よく分かりませんが、なぜか一発で僕の正体がばれちゃいましたね。僕のオーラが隠しきれない程溢れ出ていたのかな? それで見た目だけ完璧に誤魔化せていただけかも。ふむ、まだまだ改良の余地があるね。まあ結果面白かったのでオッケーにしましょう。


「僕とシロ先生で家から抜け出してきたんだ。夜のお散歩中だよ」
「メンテが暇だからここまで遊びに来たのよ」
「へえ、よくここまで来れたにゃ」


 その後、しばらく世間話をしてから別れました。猫達は全員元気そうでしたよ。これで安心して僕のやりたいことが出来ますね。さっそくこの町の面白そうなことを探したいと思います。


 よし、情報収集を開始するぞー!


「じゃあシロ先生は僕の後について来て。親猫が僕を心配してついてくる感じを出してね。僕はみんなの会話を盗み聞きして、この町の面白そうなことを探すよー!」
「え、堂々と人間がいるところを通るの?」
「そうだよ。どうせ僕が何をしゃべっているか分からないし」
「はいはい。でもバレても知らないわよ」


 こうして猫の姿になったメンテの人前デビューが始まった!

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...