もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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158話 「子猫は町に行く その2」

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「猫玄関!」


 いつものように子供部屋に猫だけが通れる玄関を壁に作り出します。猫ドアって名前の魔法でもいいかな。まだそこは検討中です。

 そして、僕とシロ先生の2匹は外に出ました。2匹で目の前に出来た土の壁を見上げます。とても高いですねえ……。いったい何メートルあるのでしょうか? 明らかに僕のお家よりも高いですよ。


「で、この壁はどうするの?」
「ちょっと待って」


 僕はしっぽを伸ばします。ですが壁の頂上まで届きそうにありませんでした。


「登ろうと思ったけど、しっぽだけじゃ無理かなあ」
「私もこれを乗り越えるなんて無理。というか普通の猫には絶対無理(メンテは別としてだけど)」
「あはは、そこは大丈夫だよ。ちゃんと考えてるから僕に任せてよ!」


 僕はしっぽを元の長さまで縮めます。そして、土の壁に近づくと右手でぽんとタッチします。


「まあこれも一緒だよね。えいっ、猫玄関!」


 そうです、別に登る必要はなかったのです。お家から外に出たようにこの壁にも魔法で玄関を作っちゃえば良かったんだよね。えへへ、僕って頭良いかも。


「これであっちに行けるよね!」
「本当メンテの魔法ってすごいわね」
「えへへ、でしょ~? もっと褒めてよ」


 2匹は笑いながら玄関に向かいます。そして……。


「「ぎゃああああ!」」


 2匹同時に顔面を土の壁にぶつけました。にゃにがおきたの?!


「ちょ、ちょっと?! 全然通れないじゃないの!」
「うへえ……」


 魔法で出来た玄関はあります。別に魔法の発動に失敗したというわけではありません。でも玄関を開けた先にあったのは壁でした。なんで??


「なにが僕に任せて! よ。明らかに失敗してるじゃないの」
「ごめんよシロ先生。でも原因がねえ……」


 何が悪かったのかを考えます。まだこの魔法を使い始めてからそんなに日が経ってませんからね。きっと何か条件が合わなかったのでしょう。う~んと考え込む僕です。


「――はっ?! まさか……」
「何か分かったの?」
「もしかすると、この壁が分厚過ぎるからかもしれない」
「にゃ?」
「これ玄関じゃなくてトンネルじゃないと無理かも」
「とんねる?」
「うん、トンネル。この土を掘って、人や猫が通れる大きさの通路にしないとダメかも」


 今までとの違いを考えるとこうとしか考えられません。この壁を掘るならトンネルでしょう。玄関を作る場所として条件が違い過ぎたのです。だから失敗したのでしょう。


「そのとんねるって作ること出来るの? この壁カチカチで爪が研げるわよ」
「だよね。今の僕じゃ無理だよ。まあ壊すことなら出来るけどさ……」
「え?!」
「え?」
「「……」」


 僕はシロ先生と無言で見つめ合います。


「でも大きな音がするだろうからダメだね。そんなことしたら僕の秘密がバレちゃうよ」
「いやいや、問題はそこじゃないでしょ?!」
「え?」
「えっ?!」
「「……」」


 よく分かりませんが驚かれました。僕何か変なこと言ったかなあ?


「……まあいいわ。でも違う方法はないんでしょ? それなら帰って寝ましょう」
「待って待って、まだ失敗したわけじゃないしさ。ちょっと歩いて他の場所も見て見ようよ。低い場所とか通れそうな穴があるかもしれないし」
「しょうがないわねえ」


 僕たちは家の周囲を歩きます。壁、壁、壁。どこまで行っても高~い壁しかありません。ぐるっと1週して判明したのは、この土の壁が家の周りを囲むようにあること。正面玄関から町に続く道はなんとか整備されているが、夜中も誰かがずっと見張っていることでした。猫探知のおかげで何人もいるなあってすぐ分かりましたよ。


「町まで続く道は1か所だけあったね。あそこは急いで整備したんだと思うよ。でも警備員がいっぱいいたから通れないね」
「私はあそこを通ってもバレないと思うけどね」
「今お家にいる猫は、シロ先生と兄貴と一緒に寝ているフワフワな猫達3匹の合わせて4匹だけだよ。もう1週間も閉じ込められてるから使用人達はみんな覚えてると思うよ。だから急に子猫が出てきたら不審がるって」
「それはそうね。じゃあ帰りましょうか」
「いやいや、待ってよ。まだ1個だけ試したいことがあるから。ね?」
「もう、しょうがないわね。でも次がラストよ。わかった?」
「うん、約束するよ」


 ◆


 人の気配が1番少ない場所に移動する僕とシロ先生。猫探知だとここがベストポジションなのですよ。多少騒いでも問題ないでしょう。

「じゃあ魔法を使うよ。ここから登ったらちょっと遠回りになるけどいいよね」
「また新しい魔法?! いつ覚えたの?」
「いや、これはシロ先生も知ってる魔法だよ。それを応用したって感じなんだけどね。上手にいくか分からないけど頑張るよ」
「変なことしそうね……」


 あははは、僕は変なことなんてしないのです。まずは深呼吸します。そして、体から魔力を放出します。よし、狙いはここ!


「いくよ……、猫結界!」


 僕は猫の結界を作り出します。


「やったー、成功だ!」
「……あれ? 何かいつもと違うのね」
「でしょ~? いうなればこれは”猫バリア”だね!」
「猫ばりあ?」


 そうなんです。今までは僕を中心にドーム型の結界が出来ました。でも今回僕が作り出した結界は、僕が含まれない場所に発動。つまり僕の目の前に結界が発動したのです。しかも形状も違います。今まではただの球状でしたが、今回作ったものは四角い形をしています。


「今までの猫結界は、僕を中心に広範囲にばばっーと広がってたでしょ? あれは外と中の状況を遮断するという意味合いが強かったんだよ。パパの魔道具を参考に作った猫魔法だったしね。でもこれは任意の場所に結界を作り出し、僕を守ることを意識した防御型の猫魔法だよ!」


 僕はすごいでしょと胸を張ります。


「えっと……、形が変わっただけかしら?」
「範囲は小さくなったけど縮小した分、耐久力がアップしたんだ! この前のメイドさんの戦いを見ていたら、一点集中の攻撃で割れちゃうから問題だなと思ったからね。僕なりに改良したんだよ。
「へ、へえ……(猫と魔法って同じなの……?)」


 たまにメンテは変なことを言い出すが、いつものことなのでツッコむことはしないシロ先生であった。


「ほら、シロ先生も乗ってみて。2匹乗っても大丈夫でしょ?」
「あら本当。確かに安定感があるわ」
「えへへ、猫バリアをいっぱい作るからどんどん上に登って行くよ。猫バリア! バリアバリアバリバリバリアー!」


 僕は猫魔法でボワボワボワーンっとバリアをいっぱい作り、猫でも登れるような階段を作ります。そして、壁の上までの道が出来上がりました。


「出来たよー!」
「えええ?! ちょっと待って、そんなにいっぱい作って大丈夫なの? 魔力がなくなったら魔法が使えないとか言ってたじゃないの」
「あはは、まだ問題ないよ。ここ最近感覚で分かるようになってきたんだ。昔は何回使えるかって数えてたけど、今は回数が急激に増えたから数えるのが面倒になったというかね。だから帰りも余裕で作れるよ」
「へえ、そうなの。でもこんなにばりあ? があったら目立たない? すぐ人間が来ちゃうと思うけど」
「猫結界も猫バリアも猫にしか見えないように対策済みだよ。人に猫ばあ(幽霊の猫)が見えないのと同じ理屈だからさ安心してよ」
「どういうことよ……」


 魔法を使う際、痕跡を隠蔽するのも忘れません。だって猫って排泄物を隠しちゃいますからね。。ね? そうでしょ~??


「あ、もしかしてシロ先生は高いところが苦手だった? だったらごめんね」
「いや、そういうことじゃないの(もう何を言ってもダメね。この調子だと町に行きたいからってどんどん新しい魔法を作っちゃいそう)。……行けばいいんでしょ。なら早く行きましょ」
「やったー! あ、念のためシロ先生に猫強化しとくね。えい! ついでにバリアに転落防止の柵も付けておこう。にゃあー!」
「えっと……ありがとう。そういうことはなんでも出来ちゃうのね(……あれ? さっき使ったときよりも体か軽いような? 気のせいかしら)」


 どんどん魔法の使い方が上手になるメンテ。だんだんとコツを掴み始め、絶賛成長中なのである。



「よし、行くぞー!」「にゃー!」


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