もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

文字の大きさ
上 下
128 / 259

128話 「赤ちゃん教官 その1」

しおりを挟む
 僕メンテ。最近はひとりで出来ることが増えてきました。赤ちゃんは何でも興味津々。最近は堂々と何でもやりますよ。まあ猫になって魔法を使える事だけは秘密ですが。


 コツコツコツ……。


 お、丁度良いタイミングです。廊下からこの子供部屋に近づいて来る足音が聞こえますね。くんくん、この匂いはミスネさんかな。僕は目だけでなく、耳や鼻もよいのです。


「失礼しま……」


 しゅしゅ、たたたたた。


「うわ?!」


 ドアが開いた瞬間に部屋から脱走します。ミスネさんはよくミスをするので利用しました。赤ちゃんは興味を持てば何でもするのでね。いえーい、これで散歩に行けます!


「きゃきゃー!」
「あ、メンテくん?! どこ行っちゃうの??」
「ミスネさん丁度良いところに。メンテ様は散歩がしたいようなのでお願いします。私はアーネ様のお勉強がありますので」
「は、はい……。メンテ様、待ってくださーい」
「きゃー!」


 カフェに怒られなくて良かったと思うミスネであった。


 ◆


 そして、散歩を始めてすぐのことだった。


「1、2、3、4……」
「んぐぅ?」


 廊下を歩いてしばらくすると変な声が聞こえてきました。外で何かしていますね。僕は赤ちゃんなので気になっちゃいます。声のする方向に走っちゃいますよ。


「きゃああああああ!」
「メンテくん、どこに行くんですかー?」


 メンテはトテトテと上に飛び跳ねるように走る。そのため1歩1歩の歩みが非常に遅いのだ。だからゆっくりと歩いて楽々と追いつけるミスネであった。彼は自覚せずこの天然の可愛さをやってのける赤ちゃんなのだ!


「え、そっちに行きたいの? 外に行くなら靴が必要ですね」
「えっぐ!」←靴を持ってミスネに近づく
「じゃあ履くのでここに座りましょう。動いたら履けないのでじっとしてくださいね」
「……」←じっとしてる
「はい、履けましたよ。じゃあ行きましょうか」
「あーい!」


 メンテくんって素直で本当に可愛いなあと思うミスネであった。


 ◆


 で、外に出ました。この変な声は、僕のお家にある庭から聞こえますね。庭は学校の校庭みたいなところです。兄貴が外で魔法の練習をするとき使っていますよ。

 ※詳しくは39話「アニーキ―の魔法実演 その1」


「ほほっ。みなさんいいですか? 魔力がなくなったら逃げることが優先。そのために必要なのは体力。今日は体力を付けるトレーニングですぞ。次は腕立て500回いってみましょうか」
「「「「「「イエッサー」」」」」」


 どうやら校庭で指導しているのは、ナンス家の執事ことタクシーですね。それと警備の人がいっぱいですね。みんなで訓練しています。そういえばタクシーに部下がいるとか聞いたことがあります。もしかしてあの人達のことかな?


「きゃきゃあああ!」←タクシーに抱き着くメンテ
「おや? メンテ様ですか。びっくりしました。どうしてこんな所までおいでに?」
「タクシーさんすいませ~ん。今メンテくんと散歩中なのですよ。大きい声に興味を持ったのか急にこちらに走り出しちゃって」
「ほほっ。散歩中でしたか。今は見ての通り部下の訓練をしていましてな」


 追いついてきたミスネさんが、タクシーに答えました。僕は興味を持てばそこまで歩いたり走っちゃう赤ちゃんなのです。変に怪しまれることはありません。ばぶー。


「あくしー!」ぎゅっ
「ほほっ、相変わらずメンテ様は可愛いですな。メンテ様も見学なさいますか?」
「えぐえぐ!」
「ほほっ。興味をお持ちなようですな」


 どうやら見学出来るみたいですね。タクシーも甘えればいちころなのですよ。


「みなさん、訓練を再開しますよ。次は腕立て500回。もちろん魔力を使ってはいけませんぞ。今日はメンテ様も見ておられます。恥を晒さないように」
「「「「「「イエッサー」」」」」」


 そして、ただの筋トレが始まりました。僕は魔法を使ったトレーニングが見たかったのですがね……。なんだろ、異世界っぽさがゼロですねこれ。


「……」じぃー


 それからしばらく様子を見ていました。誰を見ても普通の腕立てをしているだけです。異世界でも筋トレってブームなの?


「……えぐ」ざざざっ
「え? メンテ様何を……。ぐぶへっ?! 口に砂が」
「きゃきゃ!」


 つまらなくなってきたので妨害して遊びます。僕の目の前にいた一番近い人の顔に砂をかけましたよ。口の中に砂が入り、途中で腕立てを止めてしまいましたよ。足で地面を蹴れば僕でも簡単に出来ることなのです。可愛いイタズラでしょ?

 その様子を見たタクシーが笑みを浮かべました。


「おお、さすがですぞメンテ様!」
「えぐ?」
「メンテ様、今日は私の部下たちが遊んでくれるようですぞ! ささ、他のみんなにも同じように遊びましょう!」
「「「「「「――?!」」」」」」
「んぐ~?」


 みんなでタクシーを見ます。何言ってんだコイツって顔をしていますね。よ~くわかります。僕も同じ気持ちなので。


「みなさんいいですか、戦闘中は何が起きるか分かりません。不測の事態が起き、その場で固まってしまえば死んでしまいますぞ。何が起きてもしっかり対応しなければいけません。動揺しては絶対ダメですぞ。今からはその練習だと思いなさい」
「「「「「「イ、イエッサー」」」」」」
「そうそう、今脱落したあなたは最初からやり直しです。さらに罰で1000回追加。他の人も途中で止めたら罰を与えますよ。分かりましたか?」
「「「「「「イエッサー!」」」」」」


 タクシーはとんでもない鬼教官でした。


「というわけでメンテ様。私の部下は何があっても絶対に腕立て伏せを止めません。自由に遊んでみてください」
「えっぐ!」
「ほほっ。今からメンテ様は教官ですぞ。ではメンテ教官、びしっと指導頼みましたぞ!」
「ええっと……。タクシーさん。それはメンテくんにしてもいい教育なのですか??」
「そこ! メンテくんじゃなくてメンテ教官ですぞ!」
「は、はひいいい?! メ、メンテ教官頑張ってください!」


 勝手に僕が教官役に抜擢されました。あとミスネさんがなぜか怒られましたね。今のタクシーには何を言っても無駄なようです。ポンコツスイッチが入ってそうなので諦めましょう。

 でも話は分かりました。何をされても絶対にやめてはいけない腕立て伏せですね。僕は全力で邪魔してやりましょう!



 こうして1歳の赤ちゃん教官が誕生したのであった。



 後にタクシーの部下たちは語る。メンテ様はとんでもない猫教官だったと。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...