もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず

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101話 「奇跡の日」

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「ふわあ~」
「やっと起きたのね。メンテちゃんおはよう」
「……んぐぅ」
「目が覚めたら朝ごはんにしましょうね」
「えっぐ」


 う~ん、今日はよく眠れなかったなあ。

 その原因は夢です。僕の名前を名乗った変な人がまた出てきたのですよ。変なポーズをしながらカッコ悪い言葉を連発する姿、本当に見るに耐えかねませんでしたね。

 そうそう、夢といえば僕が猫になったりおっぱいを卒業したりという夢を見ました!

 あれは全部夢ですね。ははははははははははー!



 そして、朝食。

 母がおっぱいを卒業したのよと周りに言いふらしています。


「卒業したのよね~?」
「あぐあぐ(してないよ)」
「ほら、したって言ってるわよ」
「……んぐぅ」


 卒業に関しては夢ではなかったようです。僕がしゃべれないので勝手に話を進めちゃうのですよ。もう止めることは出来ませんね……。

 ああ、胃が痛くなってきました。


「……う、おげええええええー」
「きゃあ! 全部吐いちゃったわ。メンテちゃん大丈夫?」
「誰かー。拭く物持って来てくれー」


 メンテはストレスで体調を崩した。


 ◆


「メンテ遊ぼー」
「……」
「ねーねーってば」
「……」
「お兄ちゃん、メンテに魔法を見せてー」
「ん? どうしたの急に。まあいいけどね。アニーキ―☆ストーム!」


 ビューッ!


「……」
「ほら、魔法だよー」
「……」
「どうしたんだろう? 反応すらしないね。ん~、何だろう」


 メンテはおっぱいが吸えなくなったストレスで胃が痛いだけである。ごろ~んと寝ころんでから一歩も動こうともしないのだ。


「心配だから母さんと父さん呼んで来るよ。アーネはメンテの様子見ててよ」
「わかったー」


 こうしてメンテの体調が変だと報告されたのである。彼はおっぱいが吸いたいだけなのだ。


 ◆


「メンテ元気出してー」
「……」
「起きてるー?」ぺちぺち
「……」
「さっきからこんな感じなんだよ。俺の魔法にも反応しなかったし」


 アニーキ―の報告を受け、やってきたダンディとレディー。アーネがメンテに話しかけても全く反応しないため、二人はどうしたのだろうかと戸惑っていた。


「昨日は夜泣きしたから寝不足かもしれないな」
「さっき吐いちったし体調が悪いのかもしれないわ」


 二人とも推測を立てたが、本当の原因は分からなかった。彼は、ただただおっぱいが吸いたいだけなのだ。寝不足も吐いた原因も実は同じなのである。


「ほらママとパパ来たよー」


 アーネがぐいっとメンテの顔を両親に向けさせた。するとメンテの目から涙があふれてきた。


「……ぐぅ(おっぱい)」
「メンテ泣いちゃったね」
「なんでー?!」
「そりゃアーネが顔を強く押すから首が痛いんだよ……」
「わたしそんな強くやってないよー?!」
「ちゃんと分かってるって。冗談だよ、冗談」
「もー!」


 これはアニーキーなりのお兄ちゃんジョークである。そのままアーネのせいにしようとしていたのは内緒だ。

 そんなキッズの横で、メンテはレディーを見ながら泣き出した。


「どこか痛いのかしら……」
「心配だな。誰かー、回復魔法を使える人来てくれー」
「……ぐぅ(おっぱい)」


 何度もいうが彼はただおっぱいが吸いたいだけなのだ。首が痛いのではなく、心が痛いのである。ついでに胃も。

 その後、回復魔法を受けて胃の痛みが減ったメンテ。だが、これで終わりではなかった。


 ◆


「お昼も何も食べなかったわね。心配だわ」
「回復魔法は効いていたと思うが。それよりずっとママを見ていなかったか?」
「そうかしら? いつもあんな感じだと思うけど。でも体調が悪いのは確かよね」
「うむ。パパの勘違いかな?」


 あながちダンディの言うことは間違っていない。


「奥様、旦那様、大変です!」
「そんなに慌てて何かあったのかい?」
「どうしたのカフェちゃん?」
「メンテ様が……」
「「え?!」」


 こうして二人はメンテが寝ている子供部屋に駆け付けた。


「メンテ大丈夫か……って顔が青くないか!?」
「メンテちゃん?!」


 メンテは布団で寝ていた。しかし、体調が時間が経つにつれどんどん悪化していったのだ。


「誰かー、回復魔法を……」
「実はさっきから何度も使っているのですが……」
「なんだと!?」「そんな?!」


 このお家で回復魔法を使える者は全員集まっていた。だが、誰が魔法を使ってもメンテには効果がなかった。


 理由はただひとつ。彼はおっぱいが吸いたいのだ!!


 回復魔法で体は癒せても心まではどうしようも出来なかったのである。魔法も万能ではないのだ。


「……くっ、いったいどうすればいいのだ」
「メンテちゃんしっかりして」


 悩むダンディと慌てるレディー。大事な赤ちゃんが急な病になったと二人ともパニック状態である。


「みなさん、落ち着いてください。もう一度回復魔法を」
「「「「「はい!」」」」」


 カフェが回復魔法を使える使用人達に魔法を使うよう指示を出した。使用人が全員で力を合わせた結果、子供部屋全体にまで効果があるような強力かつ広範囲な回復魔法になった。みんな回復魔法には自信があるのだ。だが、メンテの顔色はどんどん青くなっていった。効果はまるで出ていない。


 そう、彼がおっぱいを吸いたいだけなのだ!


「そんな……。もっと強く出来ないのですか?!」
「「「「「全力です……」」」」」
「メンテー!!!」←ダンディ
「メンテちゃん!!!」←レディー


 何度でも言おう。この赤ちゃんはただおっぱい吸いたいだけなのだ!


「……えぐぅ」指プイ
「どうしたメンテ、ママがいいのか?!」
「メンテちゃん、ママはここにいるわよ」


 今この部屋ではメンテが死んでしまうような雰囲気になっている。そんな中、最後はママがいいと指を差したのである。まさに最後の願いだ。


「メンテちゃん……」


 レディーはメンテを抱きしめた。


「……えぐぅ(抱っこ……)」←両手を上げる
「抱っこがいいのね」


 レディーは抱きしめるのを一旦止め、優しくメンテを抱っこした。そして、メンテはゆっくりとレディーの服の中に潜り込んだのである。


「……………メンテちゃん?」
「ちゅぱちゅぱ……」
「ママ待つんだ。もしかしたら今日が最後になるかもしれない。今はメンテのしたいことをさせてみないか?」
「そ、そうよね……」


 レディーはやっと卒業したのにと思ったが、ダンディの言葉で考えをあらためた。もしかしたら最後の日になるかもしれない。そんな雰囲気が部屋中に蔓延していた。



 ……10分後。


「ちゃ~」
「……メンテちゃん?」
「ちゃちゃ~!」


 そこには超ご機嫌な赤ちゃんがいたという。完全復活である。


「おお、メンテの顔に赤みが戻ってるぞー!」
「「「「「うおおおおおおおお」」」」」」


 メンテ様が回復したぞーとみんなで大興奮。大騒ぎを始めた。


「これは奇跡です……」
「も~、カフェちゃん。そんなに大げさに言わなくてもいいのよ」


 ここでレディーは少し嫌な予感? がしたのだが、手遅れであった。それは現実になってしまう。


「ここにいる全員の回復魔法でも治らなかった……。しかし、奥様もおっぱいの力で回復したメンテ様。これは奇跡です」
「ちょっとカフェちゃん!? 何を言っているの?」
「そうだ。これは奇跡だな!」
「パパまで何を……?」
「「「「「奇跡だー!!!!」」」」」
「え?」


 ナンス家で一番偉いダンディが奇跡と言ったら奇跡なのだ。使用人達もこれは奇跡、奇跡だと騒ぎ出した。


「みんなして奇跡奇跡って……。メンテちゃんはただおっぱいを吸っていただけよ?」
「そうです。奥様は奇跡の力を持っているのです!」
「……カフェちゃん?」
「回復魔法より優れているものは何か。それは奥様のおっぱいです」
「カフェちゃん?!」
「どんな病でも治してしまう。今起きた奇跡は奥様の力で間違いないでしょう!」
「カフェちゃーーーーーん!」


 カフェの勘違いが止まらず、その言葉を真に受けたダンディの暴走により”奇跡”というフレーズが広がっていくのだ。


「ちゃちゃー」スリスリ
「メンテちゃん元気になったのね。ママ心配したわよ」
「うー、ちゃあああああああああああああああああああ!」


 ぼふっ!


「え?! メンテちゃんから魔力が?!」
「ちゃ~」←にっこり笑顔


 その場にいた人達の騒ぎはいったん静まり返った。


「こ、これは……」
「ちょ、ちょっと待ってカフェちゃん……」


 あ、また何か変なこと言いそうと思ったレディー。止めないとと思ったが、またしても一歩遅かった。


「奥様のおっぱいは病を治すだけではなく、魔力を目覚めさせる力を持っているのですね……?!」
「……カフェちゃん?」
「メンテ様だけではありません。アニーキ―様やアーネ様は大きな怪我もなく健康です。また素晴らしい魔法の才能をお持ちです。これは奥様の力の影響と言えるでしょう!」
「カフェちゃーん?!」
「だからメンテ様はおっぱいを吸い続ける……。きっと赤ちゃんの本能としておっぱいの力が分かっているのです!」
「カフェちゃん、お願いだから戻ってきてー!!!」


 レディーハッがハッとして周りを見ると……。


「奇跡だー!」←ダンディ
「「「「「うおおおおおお!」」」」」
「奇跡だー!」←ダンディ
「「「「「き・せ・き! き・せ・き! き・せ・き!」」」」」
「うおおおおお! 今日は宴だああああああ!」←ダンディ
「「「「「き・せ・き! う・た・げ! き・せ・き・の・う・た・げ!」」」」」


 カフェの勘違いからのダンディの暴走。それは誰にも止められない状況になっていた。

 メンテが魔力を解放したのは、場の流れに乗っただけである。本当はしばらく隠そうと思っていたけど、このタイミングならいけると狙った結果だ。非常にあざとい赤ちゃんである。


「ちゃ~?」
「メンテちゃん……」
「ちゃちゃ」スリスリ
「メンテちゃんはいつママから卒業するのかしらね?」
「ちゃあ~」←にっこにこな笑顔
「……はぁ(この子全然言葉が分かってないわ)」


 早く成長して欲しいが小さいままでいてほしい。あと奇跡じゃないから静かにしてほしい。そんな複雑な心境のレディーに追い打ちをかける出来事が起こった。


「ちゃ~……ぱい。ぱいぱい」
「えっ?」


 突然しゃべりはじめたメンテ。レディーは驚愕の顔で見つめていた。


「ぱぁい。んぐぅ。えぐぐぅ……おーっぱぁーい!」
「……?!」←ダンディ
「こ、これは……?!」←カフェ
「カフェちゃん、静かに! 今のは何でもないから。たまたまよ」
「マ、ママの奇跡の力でメンテがしゃべったぞー!」←ダンディ
「パパ?!」


 カフェに対し先手を取ったレディーだが、暴走したダンディがいたのを忘れていた。痛恨のミスである。もう騒ぎがおさまる様子はない。何をしても悪化する一方であった。


「今日のメンテちゃんはどうなってるのよ?!」
「はっはっは。ママのおかげで成長したんだよ!」
「その通りです。これも全て奥様の奇跡の力。愛がなせる御業です!」
「きゃきゃきゃ!」
「……もうダメだわ。ママは限界よ」


 いろいろとレディーは諦めた。そして、メンテのおっぱい卒業は取り消されたという。



 こうしてこの日は、奇跡の一日として皆の記憶に刻まれることになった。

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