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#10 トラブル

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 長いようで短かったチームワーク論の講義が終わり、クローフィア達は教室から出て廊下を歩いていた。


「な、なんかすごい気疲れしたっす~……」

「じ、情緒がおかしくなりそうだったよ……」

「ま、まぁでも、後半は普通に仲間同士の連携とか上手なコミュニケーションの取り方とか教えてくれたし、色々身になる講義だったね」

「……ん、私は今後も受けることにする。 皆んなはどうする?」

「ちょっと怖さもあったっすけど、騎士を目指すなら必要な知識ではあるっすから、ウチも受けるっすよ!」

「私も…… コミュニケーションとかの話、もっと聞きたい……」

「私も! なんだかんだ面白い講義だったからね!」

「……そっか」


 どうやら今後もこの4人でチームワーク論は受講するようだ。


「あ、ウチはこの後の別の講義のオリエンテーション行くっすね!」

「私も……」

「分かった! 2人ともまたね!」

「……ばいばい」


 そして、レオナとフランは別の講義を受けるために別の方向へ歩き出していった。


「……アカネはいいの?」

「うーん、私はこの時間の一個後の講義に行きたいから、ちょっと暇なんだよね。 クーちゃんは?」

「……私は予定ない」

「そっかぁ、どうしよっか?」

「……ちっ、混ざりものが」


 と、クローフィアとアカネが何をしようか悩みながら廊下を歩いているところ、すれ違った男子生徒が明らかな悪意を持ってそう呟いてきた。


「……っ! ちょっと、アンタ!」

「……アカネ?」


 それを聞き逃さなかったアカネは見たこともないくらい怒りの表情を見せながら、その男子生徒を呼び止めた。


「……なんだよ」

「アンタ今、クーちゃんの事、バカにしたでしょ!? 謝って!」

「ハッ? 俺は事実を言っただけだろうが」

「お、おいトマスっ……!」


 混ざりものと言ってきたトマスと呼ばれた男子生徒を隣にいた別の男子生徒が止めようとしたが、その制止を振り払い、アカネに対して言い返してきた。


「……アカネ、なんで怒ってる?」

「……あいつがさっき言った言葉はね、クーちゃんみたいなヒト種以外の血が入った人に対する差別用語なの。 クーちゃんの事、何も知らない癖に貶して許せない……!」

「許せない? 平民風情が……!」

「この学校では身分なんて関係ないわ!」

「そんなの勝手に言ってるだけだ。 平民は貴族に傅いてナンボだろ?」

「……っ、アンタねぇっ!」

「……アカネ、ストップ」

「でもっ、クーちゃんっ……」

「……別に気にしてない。 その、混ざりもの? っていうのは本当だし。 当たり前のことを言われて何を怒る必要があるの?」

「えっ……?」

「……アイツは、誰もが知ってる事を言った。 つまり、1+1=2みたいな当たり前のことをこんなに人が多い中言ってきただけ。 実に滑稽」

「……ぷっ。 言い得て妙だね? そう言われるとなんか、怒る気も失せちゃった」


 気付けば廊下には何事かと集まってきたギャラリーが少なくない数いて、クローフィアのその言葉に思わず吹き出してしまう生徒が多発した。
 

「き、貴様らぁ……」

「……でも、差別発言を言うのは悪いことだから、今謝れば若気の至りってことで手を打ってあげる」

「ふ、ふざけんなぁぁぁっ!」


 バカにしていた相手に逆に特大の恥をかかされたトマスは、クローフィアに詰め寄り殴りかかろうとした。


「……それは1番の悪手」


 クローフィアはトマスの拳をいとも簡単に躱し、足を引っ掛けて地面にダイブさせた。


「ぐはっ!」

「……えいっ」


 そして、どこから取り出したのか本物の手錠を取り出してトマスの手を後ろ手に固定してしまった。


「なっ、なにしやがる!!」

「……ある程度階級の高い騎士は悪意のある過失や犯罪を犯した者を現行犯逮捕できる。 ちょっと勉強すれば分かることなのに」

「逮捕だと!?」

「……暴行未遂にここ数年、平民への差別発言にも厳しくなった。 まぁ、まだ未成年だし貴族だからそんな罪は大きくない。 多分、親の監督不行届きで罰金と爵位降格くらい?」

「なっ、爵位降格……!?」

「……そう。 貴族名簿で貴方の事を見たことがあるけど、確か男爵家だったはず。 そこから降格するということは、めでたく貴方がバカにしていた平民になれるよ」

「お、俺が平民……」

「……あ、ごめん嘘ついた」

「な、なんだよ驚かせやがって……」

「……私は侯爵家の義娘。 もれなく不敬罪も付いてくる。 最近公表したとはいえ、ちゃんと国内の貴族の顔くらい、貴族なら把握しておくのがマナーなのに」

「はっ!? こ、こ、侯爵家だとっ……!?」

「……自分で言うのちょっと恥ずかしいけど、義母のリリは私のこと大好きだから、絶対許してくれない。 いくら身分の関係無い学園内とはいえ、限度はある。 ……3階級上の貴族に白昼堂々暴行未遂なんて、前代未聞すぎてどうなるか私にもわからない。 まぁ、精々頑張って生きて」

「あ…… あぁ……」


 トマスはようやく自分が何を仕出かしたのか理解したのか、小さな呻き声を上げて蹲ってしまった。


「わー…… クーちゃん、すごいね……」

「……ん?」

「なんかプロだなぁって。 それに、結構容赦ないんだね?」

「……犯罪者に容赦なんて不要。 一回形だけでも謝ればこうはならなかったのに、それをふいにしたのはこいつ。 ……学生だからと温情をかけてあげたのに」

「クーちゃん、怒ってる?」

「……平民だろうが貴族だろうが、アカネはアカネ。 私の初めての友達」

「えっ!? あ、ありがとう?」

「……友達をバカにされて黙っていられるほど、私はお人好しじゃない」

「それって…… つまり私が貶されて怒ったってこと?」

「……この犯罪者を引き渡してくる」

「あっ、クーちゃん! ……行っちゃった」


 クローフィアは闇魔法の応用で真四角の真っ黒な箱を作り、その中にトマスを押し込み風魔法で浮かせて運びながら足早にその場を後にした。

 そんなクローフィアの顔は、どこかいつもより赤らんでいるように見えた。

 
(私のために怒ってくれたって事……? だとしたら、すごく嬉しいな)



 *



「……という事があった」

「まぁ~!? 私の愛するクーちゃんにそんな事言って、挙げ句の果てには殴りかかろうとしたですって~? 私が今ここで一思いにあの世に送って差し上げようかしら~……」


 現在、クローフィアは職員室にいたリリーフィアにさっきあった事を伝えていた。


「……殺しちゃダメ。 それに、死より辛い事なんてこの世にはいくらでもある」

「そうね~。 それにしても~、クーちゃん初めて見るくらい不機嫌そうね~?」

「……自分でもよく分からない」

「ふふ、簡単よ~。 アカネちゃんの事がクーちゃんは大好きだって事♡ 誰しも自分が好きな子がバカにされたりなんてしたら怒るものよ~」

「……そっか」

「私は直接見たわけじゃないけど、アカネちゃんも怒ってたんじゃない~?」

「……すごい怒ってた」

「でしょ~? アカネちゃんはクーちゃんの事が好きで、バカにされたから怒ってくれたの~♡ それを知ってどう思う~?」

「……なんか、胸がぽかぽかする」

「うふふ~、クーちゃんが普通の女の子みたいな顔してる姿、可愛いわ~♡」

「……むぅ、からかわないで」

「嬉しいのよ~♡ ……ねぇ、クーちゃん? クーちゃんが望むなら、特務騎士なんて殺伐とした仕事なんてしないで、普通の学生や令嬢として過ごしていいのよ~?」

「……それはない。 特務騎士である事は私である事の証明。 初めてできた必要とされてる場所だから、手放したりなんてしない」

「……そう。 クーちゃんがそうしたいなら、私はクーちゃんの意思を尊重するわ~。 ……さて、私はこのおバカさんをとりあえず牢屋に入れてくるわね~? 実は前々からこのおバカの家はきな臭い噂もあったから、これを機に洗ってくるわ~」

「……何か手伝える事があったら言って?」

「そうならない様に頑張らないとね~♡ クーちゃんにはなるべく学園ライフを楽しんで欲しいから~♡」

「……リリ」

「ん~?」

「……私、ここに来てよかった」

「……! ふふっ、そう~♡ その言葉が聞けてママは嬉しいわ~♡」


 リリーフィアは心底嬉しそうな顔で少し屈んでクローフィアの事をぎゅーっと抱きしめ、数分ほどそうしていた後、名残惜しそうに体を離してトマスを運んでいくのであった。

 その背中を見届けたクローフィアは、ふと今日のベルの講義を思い出した。


(……もし、目の前でアカネが怪我をして、勝てない相手に迫られたら、私はアカネを見捨てることなんてできるだろうか……)


 恐らく、以前の自分だったら迷わず囮にして逃げていただろう。

 だが、アカネと仲良くなって傷ついて欲しくないという感情が生まれた今、果たしてそんな選択を取ることができるだろうか。

 学園に来てまだ1週間足らずで自分の中の考え方がこうも変わるものかと、クローフィアは自分自身に驚いていた。


(……強くならなきゃ。 アカネやセリー、フィオラ、それに他の友達、リリ、特務騎士のメンバー…… 皆んなが怪我なんてしないよう、私が守る)


 15歳の少女が背負うには重すぎる覚悟を固めたクローフィアは、寮へ戻るために歩き出すのであった。
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