無能と呼ばれ、婚約破棄されたのでこの国を出ていこうと思います

由香

文字の大きさ
上 下
5 / 18

第5話

しおりを挟む
 私は精霊の国に来ていた。

 前から来たいと思っていたが、陛下に色々仕事を与えられていたので忙しくて今まで来ることが出来ないでいた。

 そのときに婚約破棄をされ、国を出ていく決意をした時にどこに行こうか考えていた。その際にこの国のことを思い出したので来たというわけだ。

「ノエル」

私は呼ばれて振り返った。

そこには美しい青年が立っていた。

「エル、どうしたの?」

 私がエルと呼んだ青年は私の精霊だ。こう見えてもこの国の精霊王の孫で、人の姿にもなれる上位種の精霊なのだ。普段は普通の鳥に姿を変えていもらっている。私が鳥の姿でいるように説得したんだよ。エルは誰もが振り返るほどの美貌だからだ。

前に一度一緒に街を歩いていたら、女子に囲まれて大変だった……

あのときの苦労はもう二度としたくないね(笑)

「ノエル、どうしたの?」

「あっ、大丈夫だよ。エル、顔が近いよ」

 私がボーとしていたので、心配したエルが私の顔を覗き込んで話しかけてきたので顔の距離が近かった。

「ほんとだ。ごめんね」

 これだから困るんだよね。エルはなんていうか人との距離感がおかしい。前に一度指摘したこともあったけど、直らなかったんだよね……もう諦めたよ。

「それより私になにか用事があったんじゃないの?」

「そうなんだよ。おじい様がノエルのことを呼んでたんだ」

「クロード様が?」

「うん。ノエルに話したいことがあるんじゃないかな?おじい様が呼ぶって言ったら、そういう時だけだから」

「確かにクールな方ですものね」

「それじゃあ、ノエル行こう」

「ええ」

 私がそう答えるとエルは私の手を掴み、進み出した。






「ノエル、本当に国を出てよかったの?」

 エルは心配そうに私を見て言った。

 エルは国を出ていったことを気にしているのだろう。

確かに両親やユリア、ライ王子のことは許せなかったけど、あの国の民は無関係だもんな……

でもあの出来事がなくてもらいずれあの国を遅かれ早かれ出ていっていたと思う。

「うん。今エルと一緒にこの国にいるほうが楽しいもん」

「そっか……それは良かった」

エルは嬉しさが溢れた笑顔をしていた。

きっとこの笑顔にみんな惹き付けられるんだろうな……

自然と私も笑顔になれる。

本当にエルには今まで助けてもらってばかりだった。

今度は私が何かしてあげたいな……

「エル、ありがとう」

 私はお礼を言った。

 エルは一瞬驚いた顔をした。

「これぐらい当たり前だよ。ノエルと僕は家族でしょ」

 エルが突然驚きの声を上げた。

「どうしたの!!ノエル……」

「えっ」

 私は気づいたら涙を流していた。

あぁ、きっとこの涙は……

私はエルに家族と言ってもらえたのがとても嬉しかったんだな。

こんなにも涙を流したのはいつぶりだろう。

小さい頃以来じゃないかな?

今までは、泣くまいと我慢してたから。

久しぶりに泣いたせいか、なかなか涙が止まらない。

そんな様子を見ていたエルが私を優しく慰めるように私を自分の胸に抱き寄せた。

「好きなだけ泣けばいいよ。僕しか見てないから」

私は一瞬戸惑ったが、エルの優しさに甘えることにした。

「エル……本当にありがとう」

私が泣き止むまで、エルはずっと抱きしめていてくれた。





「ごめんね。こんなに泣いて……もう大丈夫。早くクロード様の元に行かないと」

 私はエルに背を向けて歩き出した。

ヤバい、ヤバい。めちゃくちゃ恥ずかしい!!

なんであんなに泣いちゃったんだろう。

ほんとどんな顔をしてエルを見たらいいの?

しかもエルに抱きしめられたとき、一瞬ドキッてしちゃったな……

一体どうしたんだろう?

今までこんなこと無かったのに……

私は深く考え込むのであった。




私はあのときの胸のトキメキがエルへの恋心だと、まだ気づいてはいなかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

災厄の婚約者と言われ続けて~幸運の女神は自覚なく、婚約破棄される~

キョウキョウ
恋愛
「お前が居ると、いつも不運に見舞われる」 婚約相手の王子から、何度もそう言われ続けてきた彼女。 そして、とうとう婚約破棄を言い渡されてしまう。 圧倒的な権力者を相手に、抗議することも出来ずに受け入れるしか無かった。 婚約破棄されてたことによって家からも追い出されて、王都から旅立つ。 他国を目指して森の中を馬車で走っていると、不運にも盗賊に襲われてしまう。 しかし、そこで彼女は運命の出会いを果たすことになった。

婚約破棄からの国外追放、それで戻って来て欲しいって馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?

☆ミ
恋愛
王子との婚約を破棄されて公爵の娘としてショックでした、そのうえ国外追放までされて正直終わったなって でもその後に王子が戻って来て欲しいって使者を送って来たんです 戻ると思っているとか馬鹿なの? それとも馬鹿なの? ワタクシ絶対にもう王都には戻りません! あ、でもお父さまはなんて仰るかしら こんな不甲斐ない娘との縁を切ってしまうかもしれませんね でも、その時は素直に従いましょう

領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

王太子妃よりも王弟殿下の秘書の方が性に合いますので

ネコ
恋愛
公爵令嬢シルヴィアは、王太子から強引に婚約を求められ受け入れるも、政務も公務も押し付けられ、さらに彼が侍女との不倫を隠そうともしないことにうんざり。まさに形だけの婚約だった。ある日、王弟殿下の補佐を手伝うよう命じられたシルヴィアは、彼の誠実な人柄に触れて新たな生き方を見出す。ついに堪忍袋の緒が切れたシルヴィアは王太子に婚約破棄を宣言。二度と振り返ることなく、自らの才能を存分に活かす道を選ぶのだった。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから

ひじり
恋愛
「エナ、僕は真実の愛を見つけたんだ。その相手はもちろん、きみじゃない。だから僕が何を言いたいのか分かるよね?」  男爵令嬢のエナ・ローリアは、幼い頃にリック・ティーレンスからのプロポーズを受けた。  将来を誓い合った二人は両家公認の仲になったが、ティーレンス家が子爵に陞爵した日を境に、すれ違う日が増えていった。  そして結婚式を前日に控えたある日、エナはリックから婚約を一方的に破棄されてしまう。  リックの新しい相手――カルデ・リスタは伯爵令嬢だ。しかし注目すべきはそこじゃない。カルデは異世界転生者であった。地位や名誉はもちろんのこと、財産や魔力の差においても、男爵令嬢のエナとは格が違う。  エナはリックの気持ちを尊重するつもりだったが、追い打ちをかける出来事がローリア家を襲う。  カルデからリックを横取りしようとした背信行為で、ローリア家は爵位を剥奪されることになったのだ。  事実無根だと訴えるが、王国は聞く耳を持たず。異世界転生者と男爵家の人間では、言葉の重みが違う。貴族の地位を失った父――ロド・ローリアは投獄され、エナ自身は国外追放処分となった。 「悪いわね~、エナ? あんたが持ってたもの、ぜーんぶあたしが貰っちゃった♪」  荷物をまとめて王都を発つ日、リックとカルデが見送りにくる。リックに婚約破棄されたことも、爵位剥奪されたことも、全てはこいつのしわざか、と確信する。  だからエナは宣言することにした。 「婚約破棄の次は爵位剥奪ですか? 構いませんよ、金の力で取り戻しますから」 ※異世界転生者有り、魔法有りの世界観になります。

処理中です...