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第十八章
悪いことは続くというけれど
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「全員降下!」
「「「おぉぉぉ!!!」」」
雄叫びを上げながらパラシュート部隊よろしく上から降りてくる騎士団員達。
ロープを使っているから恐らく固定をして降りてきているんだろうけど・・・。
20本近いロープが一斉に降ろされ、即座に団員が降下してくる様子はかなりの迫力だった。
声が谷間に響いたのも大きい。
最初の火柱も恐らくは騎士団員の攻撃だったんだろうな。
降り立ったのは谷の出口付近。
丁度俺達と騎士団員で盗賊を挟み込んだ格好になる。
といっても俺達は何もできないので、向こうが俺達と同じ構図になったわけだ。
逃げ出したくても後ろは水場。
さぁ、どうする?
「さっきも簡単に捕縛出来たんだ、騎士団なんてビビることはねぇ!」
リーダーが仲間に声をかけるも、先程の火柱で臆してしまい中々先に進まない。
それどころか抜剣してジリジリと迫ってくる団員に少しずつ後ずさりしている。
「勝負あったな。」
「ですね。」
「まったく、一時はどうなる事かと思ったぜ。」
「私もですよ。おそらく何かしらの事情がって登場が遅れたんだと思います。ま、終わり良ければ全て良しってやつですよ。」
「まだ終わってないけどな。」
いやまぁそうなんですけど。
この様子はどう考えても騎士団に分があるよね。
え、そうやって楽観視して危なかったんだろって?
流石に今回は大丈夫だろう。
「今投降すれば命だけは助けてやる。それとも、一年前と同じくこの地で華々しく散るか?」
カムリが一歩前に出て盗賊に問いかける。
それを聞いて盗賊たちがお互いの顔を見合わせるもリーダーだけはまっすぐにカムリを睨み続けていた。
まさに背水。
俺のように水の上に逃げることが出来ない彼場に逃げ場はもうない。
「投降!?ふざけてんのか、俺達がそんなことするわけないだろ!」
「他のお仲間はそうじゃない感じだが?」
「うるせぇ!お前達こそそれ以上近づくんじゃねぇよ、潜んでいたお仲間がどうなってもいいのか?」
「なんだこの期に及んで人質か?」
「あぁ、俺達みたいな盗賊に捕まるような奴らだが、お前たちにとっては大切な・・・。」
あーあ、それを言っちゃうんだ。
元騎士団員がリーダーをやっていたのにっていうか、それが嫌でここに国を作ろうとしたというのに。
そんな事も忘れてしまったらしい。
「好きにするが良い。」
「なに!?」
「だから隙にすればいいと言ったんだ。我々は皆仲間を危険に晒すぐらいならば喜んで死を選ぶだろう。私達はそういう考えのもと動いている。だがな、お前たちも彼らに手を出して楽に死ねると思うなよ?」
カムリの目がギラリと光るのが分かった。
流石シルビアの志を継いだ騎士団長。
あの考えは脈々と受け継がれている。
「仲間を殺されてもいいのかよ!?」
「だから構わないと言ったんだ、さぁやりたまえ。」
一歩カムリが進むたびに一歩リーダーが下がる。
さらにリーダーに釣られて他の盗賊たちも下がり、そしてとうとう後ろ足が水に浸かった。
「あ、アニキ!」
「もうだめだ!」
「死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ!」
「うるせぇぞ!どうせ捕まっても処刑か労働奴隷だ!覚悟決めやがれお前ら!」
ダメなリーダーに唆されて罪もない?仲間が死んでいく。
なんとまぁ哀れな事だろうか。
死ぬなら自分一人で死ね。
シルビア様ならそういうだろうな。
「だけどまぁ、目の前で人が死ぬのは見たくないわけですよ。」
「お前ってやってることの割にビビリだよな。」
「そうですよ。しらなかったんですか?」
「いいや、よく知ってる。だがそのおかげで大勢が助かってるんだ、それでよかったと思うぞ。」
「ですよね。」
助太刀というか、人助けというか。
人様に迷惑をかけたならその命を持って償うのではなく、その体で償ってもらうとしよう。
あ、性的な意味じゃないのであしからず。
男性には興味ございませんので。
「ディーちゃん、水場に入った人を身動き取れないぐらいに拘束する事ってできる?」
「出来るよ、お水いっぱい、あるから。」
「じゃあお願いします。」
「任せてね。」
カムリの圧に負けてじりじりと下がり続け膝付近まで水に浸かっているやつもいる。
その中の一人に足元の水が突然絡みつき、首から下まですっぽりと覆われてしまった。
突然現れた水球にくるまれパニックになる盗賊。
「う、うわ!なんだ!離せよ!」
「なんだ!?」
「アニキ助けて!」
「いやだ!死にたくない!」
「くそ、動けねぇ!」
リーダーが後ろを振り返る頃には半数以上の盗賊が水ダルマになっていた。
水ダルマ、速攻で考えた割にはいいネーミングだな。
水の中でクネクネを身を動かしている姿はまるで踊っているようにも見えるが、本人たちはいたって真面目である。
だがいくら暴れようとも水球が壊れることはなく、いつしか動くのをやめてしまった。
「おい!離しやがれ!」
「貴方の相手は私ですよ。」
慌てに助けに行こうとするもカムリが一歩近づいただけで動きを止める。
まるで蛇に睨まれた蛙だな。
「もうだめだ!」
「死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ・・・。」
前からはカムリと騎士団が迫り、逃げようと水に入れば仲間のように得体の知れない水に包まれてしまう。
その恐怖にその場にへたり込んでしまう盗賊たち。
気づけば立っているのはリーダーだけになってしまった。
「お仲間は皆降伏したようですね。」
「使えねぇやつらだ、くそぉ!」
リーダーが自棄になり剣を抜きながらカムリに向かって突進する。
「自分で向かってくるだけの根性はありましたか、せめて苦しまないように殺してあげましょう。」
だが、それが振り下ろされる前に首と胴体が離れ離れになってしまった。
血が噴水のように吹き上がり、頭を失た体がそのまま前のめりに倒れていく。
あっけない幕切れ。
余りの剣の速さに何がこったのか全く分からなかった。
流石稲妻と言われるだけの男だな。
くそぉ、俺と違って二つ名までカッコいいとか反則だろ。
頼るべきリーダーを目の前で殺され、最後の戦意も失ってしまった盗賊たちがガクリとうなだれる。
「これで終わり、一年前と同じ構図になりましたね。」
「そうだな。」
前回はシルビア様によってリーダーが打倒され、今回はカムリによって倒された。
歴代騎士団長に二度もリーダーを殺される盗賊団も過去にないだろう。
「さぁ、他にこの剣の錆になりたい方は?」
「いや、聞くまでもないだろ。」
「徹底的だな。」
カムリの問いかけにこたえるやつがいるはずもない。
全員その場に武器を捨て両手を上にあげた。
そこに団員が駆け寄り全員に縄をかけていく。
「ディーちゃんもういいよ。」
「お役に立てた?」
「もちろん、ありがとう。」
えへへと嬉しそうに笑いディーちゃんはまた水に戻ってしまった。
何か見返りをと思ったんだけど、それは戻ってからになるんだろう。
今回は何を要求されるんだろうか。
ちょっと怖いなぁ。
「大丈夫か!」
それからしばらくして、シルビア様が谷の奥へと走ってきた。
俺達が笑っているのを見て安どの表情を浮かべる。
「お陰様でカムリの降下部隊に助けられました。」
「まさか入り口が閉じられていると思わず開けるのに時間がかかった、何があった?」
「潜ませていた団員の存在がばれていたようです。そこから私が裏切っていることを悟ったのでしょう。」
「他の団員は?」
「怪我をしているだけで命に別条はありません。帰りましたら再度訓練のやり直しが必要ですね。」
いやいや、俺達の身代わりになって怪我をしてくれたんですよ?
それにもかかわらず戻り次第訓練って、鬼ですか?
「ともかくシュウイチが無事でよかった。それと、ウェリスもな。」
「おかげさんで首と胴体は繋がっているようだ。」
「早く二人に元気な顔を見せてやれと言いたい所だが、捕縛した盗賊団について話を聞きたい。」
「それは仕方ないだろ。無事だってことは連絡してあるんだよな?」
「あぁ、大丈夫だ。」
ウェリスもまたほっとしたような顔をする。
やれやれどうなる事かと思ったが今回も無事に片付いたようだな。
「シュウイチも悪いが今日は騎士団に泊まってくれ。」
「もちろんです。全て終わらせてから三人で戻りましょう。」
「随分と時間がかかってしまったな。」
店は大丈夫だと思うけど、セレンさんの体調が心配だなぁ。
必要なものは別途エミリア急便で手配できるとは言え、産後のメンタルって崩れやすいらしいから。
その為にニケさん達を残してきたわけだけど、無理はかけたくないよね。
「本当ですね。」
「まぁ、明日には店に戻れる。お前も皆に元気な顔を見せてやれよ。」
「私は元気ですよ?」
「この一年でどれだけ大変な目に合っていると思っているんだ?大丈夫なつもりだろうが、体はそうでないかもしれん。」
「そうですかねぇ。」
シルビア様に鍛えてもらっているし案外元気なんだけどなぁ。
ほら、二週間寝たきりでもあったしさ。
「その辺も含めて一度見てもらう方がいいかもしれんな。」
「見てもらうって誰にですか?」
「それは医者にきまっているだろう。」
悪い所が無いのにお医者さんに診てもらうのか・・・。
MRIとかないと思うんだけど、どうやって調べるんだ?
あれか、魔力の流れ的な奴か?
わからん。
「おい、帰るみたいだぞ。」
「我々も行くとするか。」
「帰るまでが遠足ですね。」
「何だそれ。」
「気を抜くなって事です。」
遠足かぁ、子供の時以来行ってないなぁ。
とか何とか考えながら残党たちを引き連れた団員と共にサンサトローズへと凱旋する。
といっても真夜中なので特に出迎えも無いんだけどね。
そして翌朝。
まだ眠たい目をこすりながら大きく伸びをして体を目覚めさせていく。
昔はすぐに覚醒して動き出せたが最近はそうもいかなくなった。
季節のせいだろうか。
横を見ればシルビア様が丸くなるようにして眠っている。
起こさないように毛布を掛けてあげて一足先にベッドから抜け出した。
シルビア様はあぁ言っていたけれど体調は悪くない。
むしろあんな事があったのに昨夜一戦いや二戦出来るぐらいには元気だ。
まぁ、俺自身は何もしてなかったしね。
戦ったのはカムリだけで後はディーちゃんにお任せだったし。
相変わらずの他力本願だ。
「失礼します。」
「どうぞ。」
俺が起きたのがなぜわかったんだろうか、すぐに白鷺亭の支配人が部屋にやって来て朝食の準備をし始めた。
監視カメラ・・・はないよなぁさすがに。
相変わらず謎だ。
「今日お戻りになられるそうですね。」
「えぇ、その予定です。今回もお世話になりっぱなしで申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、ご利用いただきありがとうございます。それにご無事で何よりでした。」
切り傷は浅く、ポーションをかければ傷跡すら残らなかった。
さすがシャルちゃん印のポーションだ。
効き目抜群だな。
「シルビア様がお目覚めになる頃にまた参ります。香茶を淹れてありますのでどうぞ一口。」
「ありがとうございます。」
テーブルの上には豪華な朝食が用意されていた。
仕事が早い。
流石に一人で食べるのもあれなので支度をしながら起きるのを待つとしよう。
え、ウェリスはどうしたのかって?
一応ウェリースというチンケな設定は残っているので昨晩はそのまま騎士団でお泊りしているはずだ。
準備ができ次第一緒に村に戻ることになっている。
流石に奴隷の為に部屋を取る経費は下りないみたいだ。
「・・・おはようシュウイチ。」
「おはようございますシルビア。よく眠れましたか?」
「あぁ、心地よい疲れだった。」
それからしばらくしてシーツを体に巻き付けた格好でシルビア様が寝室から出てきた。
まるでロングドレスのようで思わず魅入ってしまう。
「朝食の準備が出来ていますよ。」
「すぐに準備する、少し待ってくれ。」
「わかりました。」
シルビア様はエミリアほど時間がかからない。
騎士団の名残だろうかササっと準備したらそれで終わりだ。
それでも下地がいいので綺麗なんだよね。
いいだろう、俺の嫁さんだぞ。
とか何とか馬鹿なこと考えているとすぐに支配人が現れ、朝食の再準備をしてシルビア様が出てくるまでに帰っていった。
二人で朝食を済ませてホッと一息と言いたい所だが、早く帰らないとね。
「では行きましょうか。」
「あぁ。」
「世話になったな。」
「残党の方はお任せください、念の為警備はあと二日ほど続けさせます。」
「よろしく頼む。」
騎士団でウェリスと合流して村へ向かう馬車に乗り来んだ。
行きはどうなる事かと思ったけど、今回もまた無事に終えることが出来た。
残り半月。
目標は達成しているからあとはコツコツやっていくだけ、そんな風に思っていた。
だが、世の中そううまくはいかないようで・・・。
「そこの馬車とまれ!」
さぁ発車だと思っていたその時だった。
前方から猛スピードでこちらに向かってくる馬車に向かって、団員が慌てて叫ぶ。
最悪の事態を想定して慌てて前傾姿勢をとったが、馬車はぶつかる手前で停止した。
と思ったら今度は馬車から人が飛び出してきてこちらに向かってくる。
ってあれは・・・。
「ニケさん!」
「イナバ様!シルビア様!よかった!」
飛び出してきたのはまさかのニケさんだった。
でもなんでこんな時間に?
っていうかどうしてここに?
「おい、どうしてお前がここにいる、何があった!?」
慌ててウェリスが問うが呼吸が荒くうまく話せない様子だ。
嫌な予感がする。
こういう予感って大抵当たるんだよね・・・。
「エミリア様が倒れました、急ぎお医者様を呼んでください!」
ほらやっぱり。
ニケさんの言葉に一瞬目の前が真っ暗になる。
悪い予感が当たる。
でも、まさかエミリアがなんて思いもしなかった。
「「「おぉぉぉ!!!」」」
雄叫びを上げながらパラシュート部隊よろしく上から降りてくる騎士団員達。
ロープを使っているから恐らく固定をして降りてきているんだろうけど・・・。
20本近いロープが一斉に降ろされ、即座に団員が降下してくる様子はかなりの迫力だった。
声が谷間に響いたのも大きい。
最初の火柱も恐らくは騎士団員の攻撃だったんだろうな。
降り立ったのは谷の出口付近。
丁度俺達と騎士団員で盗賊を挟み込んだ格好になる。
といっても俺達は何もできないので、向こうが俺達と同じ構図になったわけだ。
逃げ出したくても後ろは水場。
さぁ、どうする?
「さっきも簡単に捕縛出来たんだ、騎士団なんてビビることはねぇ!」
リーダーが仲間に声をかけるも、先程の火柱で臆してしまい中々先に進まない。
それどころか抜剣してジリジリと迫ってくる団員に少しずつ後ずさりしている。
「勝負あったな。」
「ですね。」
「まったく、一時はどうなる事かと思ったぜ。」
「私もですよ。おそらく何かしらの事情がって登場が遅れたんだと思います。ま、終わり良ければ全て良しってやつですよ。」
「まだ終わってないけどな。」
いやまぁそうなんですけど。
この様子はどう考えても騎士団に分があるよね。
え、そうやって楽観視して危なかったんだろって?
流石に今回は大丈夫だろう。
「今投降すれば命だけは助けてやる。それとも、一年前と同じくこの地で華々しく散るか?」
カムリが一歩前に出て盗賊に問いかける。
それを聞いて盗賊たちがお互いの顔を見合わせるもリーダーだけはまっすぐにカムリを睨み続けていた。
まさに背水。
俺のように水の上に逃げることが出来ない彼場に逃げ場はもうない。
「投降!?ふざけてんのか、俺達がそんなことするわけないだろ!」
「他のお仲間はそうじゃない感じだが?」
「うるせぇ!お前達こそそれ以上近づくんじゃねぇよ、潜んでいたお仲間がどうなってもいいのか?」
「なんだこの期に及んで人質か?」
「あぁ、俺達みたいな盗賊に捕まるような奴らだが、お前たちにとっては大切な・・・。」
あーあ、それを言っちゃうんだ。
元騎士団員がリーダーをやっていたのにっていうか、それが嫌でここに国を作ろうとしたというのに。
そんな事も忘れてしまったらしい。
「好きにするが良い。」
「なに!?」
「だから隙にすればいいと言ったんだ。我々は皆仲間を危険に晒すぐらいならば喜んで死を選ぶだろう。私達はそういう考えのもと動いている。だがな、お前たちも彼らに手を出して楽に死ねると思うなよ?」
カムリの目がギラリと光るのが分かった。
流石シルビアの志を継いだ騎士団長。
あの考えは脈々と受け継がれている。
「仲間を殺されてもいいのかよ!?」
「だから構わないと言ったんだ、さぁやりたまえ。」
一歩カムリが進むたびに一歩リーダーが下がる。
さらにリーダーに釣られて他の盗賊たちも下がり、そしてとうとう後ろ足が水に浸かった。
「あ、アニキ!」
「もうだめだ!」
「死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ!」
「うるせぇぞ!どうせ捕まっても処刑か労働奴隷だ!覚悟決めやがれお前ら!」
ダメなリーダーに唆されて罪もない?仲間が死んでいく。
なんとまぁ哀れな事だろうか。
死ぬなら自分一人で死ね。
シルビア様ならそういうだろうな。
「だけどまぁ、目の前で人が死ぬのは見たくないわけですよ。」
「お前ってやってることの割にビビリだよな。」
「そうですよ。しらなかったんですか?」
「いいや、よく知ってる。だがそのおかげで大勢が助かってるんだ、それでよかったと思うぞ。」
「ですよね。」
助太刀というか、人助けというか。
人様に迷惑をかけたならその命を持って償うのではなく、その体で償ってもらうとしよう。
あ、性的な意味じゃないのであしからず。
男性には興味ございませんので。
「ディーちゃん、水場に入った人を身動き取れないぐらいに拘束する事ってできる?」
「出来るよ、お水いっぱい、あるから。」
「じゃあお願いします。」
「任せてね。」
カムリの圧に負けてじりじりと下がり続け膝付近まで水に浸かっているやつもいる。
その中の一人に足元の水が突然絡みつき、首から下まですっぽりと覆われてしまった。
突然現れた水球にくるまれパニックになる盗賊。
「う、うわ!なんだ!離せよ!」
「なんだ!?」
「アニキ助けて!」
「いやだ!死にたくない!」
「くそ、動けねぇ!」
リーダーが後ろを振り返る頃には半数以上の盗賊が水ダルマになっていた。
水ダルマ、速攻で考えた割にはいいネーミングだな。
水の中でクネクネを身を動かしている姿はまるで踊っているようにも見えるが、本人たちはいたって真面目である。
だがいくら暴れようとも水球が壊れることはなく、いつしか動くのをやめてしまった。
「おい!離しやがれ!」
「貴方の相手は私ですよ。」
慌てに助けに行こうとするもカムリが一歩近づいただけで動きを止める。
まるで蛇に睨まれた蛙だな。
「もうだめだ!」
「死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ・・・。」
前からはカムリと騎士団が迫り、逃げようと水に入れば仲間のように得体の知れない水に包まれてしまう。
その恐怖にその場にへたり込んでしまう盗賊たち。
気づけば立っているのはリーダーだけになってしまった。
「お仲間は皆降伏したようですね。」
「使えねぇやつらだ、くそぉ!」
リーダーが自棄になり剣を抜きながらカムリに向かって突進する。
「自分で向かってくるだけの根性はありましたか、せめて苦しまないように殺してあげましょう。」
だが、それが振り下ろされる前に首と胴体が離れ離れになってしまった。
血が噴水のように吹き上がり、頭を失た体がそのまま前のめりに倒れていく。
あっけない幕切れ。
余りの剣の速さに何がこったのか全く分からなかった。
流石稲妻と言われるだけの男だな。
くそぉ、俺と違って二つ名までカッコいいとか反則だろ。
頼るべきリーダーを目の前で殺され、最後の戦意も失ってしまった盗賊たちがガクリとうなだれる。
「これで終わり、一年前と同じ構図になりましたね。」
「そうだな。」
前回はシルビア様によってリーダーが打倒され、今回はカムリによって倒された。
歴代騎士団長に二度もリーダーを殺される盗賊団も過去にないだろう。
「さぁ、他にこの剣の錆になりたい方は?」
「いや、聞くまでもないだろ。」
「徹底的だな。」
カムリの問いかけにこたえるやつがいるはずもない。
全員その場に武器を捨て両手を上にあげた。
そこに団員が駆け寄り全員に縄をかけていく。
「ディーちゃんもういいよ。」
「お役に立てた?」
「もちろん、ありがとう。」
えへへと嬉しそうに笑いディーちゃんはまた水に戻ってしまった。
何か見返りをと思ったんだけど、それは戻ってからになるんだろう。
今回は何を要求されるんだろうか。
ちょっと怖いなぁ。
「大丈夫か!」
それからしばらくして、シルビア様が谷の奥へと走ってきた。
俺達が笑っているのを見て安どの表情を浮かべる。
「お陰様でカムリの降下部隊に助けられました。」
「まさか入り口が閉じられていると思わず開けるのに時間がかかった、何があった?」
「潜ませていた団員の存在がばれていたようです。そこから私が裏切っていることを悟ったのでしょう。」
「他の団員は?」
「怪我をしているだけで命に別条はありません。帰りましたら再度訓練のやり直しが必要ですね。」
いやいや、俺達の身代わりになって怪我をしてくれたんですよ?
それにもかかわらず戻り次第訓練って、鬼ですか?
「ともかくシュウイチが無事でよかった。それと、ウェリスもな。」
「おかげさんで首と胴体は繋がっているようだ。」
「早く二人に元気な顔を見せてやれと言いたい所だが、捕縛した盗賊団について話を聞きたい。」
「それは仕方ないだろ。無事だってことは連絡してあるんだよな?」
「あぁ、大丈夫だ。」
ウェリスもまたほっとしたような顔をする。
やれやれどうなる事かと思ったが今回も無事に片付いたようだな。
「シュウイチも悪いが今日は騎士団に泊まってくれ。」
「もちろんです。全て終わらせてから三人で戻りましょう。」
「随分と時間がかかってしまったな。」
店は大丈夫だと思うけど、セレンさんの体調が心配だなぁ。
必要なものは別途エミリア急便で手配できるとは言え、産後のメンタルって崩れやすいらしいから。
その為にニケさん達を残してきたわけだけど、無理はかけたくないよね。
「本当ですね。」
「まぁ、明日には店に戻れる。お前も皆に元気な顔を見せてやれよ。」
「私は元気ですよ?」
「この一年でどれだけ大変な目に合っていると思っているんだ?大丈夫なつもりだろうが、体はそうでないかもしれん。」
「そうですかねぇ。」
シルビア様に鍛えてもらっているし案外元気なんだけどなぁ。
ほら、二週間寝たきりでもあったしさ。
「その辺も含めて一度見てもらう方がいいかもしれんな。」
「見てもらうって誰にですか?」
「それは医者にきまっているだろう。」
悪い所が無いのにお医者さんに診てもらうのか・・・。
MRIとかないと思うんだけど、どうやって調べるんだ?
あれか、魔力の流れ的な奴か?
わからん。
「おい、帰るみたいだぞ。」
「我々も行くとするか。」
「帰るまでが遠足ですね。」
「何だそれ。」
「気を抜くなって事です。」
遠足かぁ、子供の時以来行ってないなぁ。
とか何とか考えながら残党たちを引き連れた団員と共にサンサトローズへと凱旋する。
といっても真夜中なので特に出迎えも無いんだけどね。
そして翌朝。
まだ眠たい目をこすりながら大きく伸びをして体を目覚めさせていく。
昔はすぐに覚醒して動き出せたが最近はそうもいかなくなった。
季節のせいだろうか。
横を見ればシルビア様が丸くなるようにして眠っている。
起こさないように毛布を掛けてあげて一足先にベッドから抜け出した。
シルビア様はあぁ言っていたけれど体調は悪くない。
むしろあんな事があったのに昨夜一戦いや二戦出来るぐらいには元気だ。
まぁ、俺自身は何もしてなかったしね。
戦ったのはカムリだけで後はディーちゃんにお任せだったし。
相変わらずの他力本願だ。
「失礼します。」
「どうぞ。」
俺が起きたのがなぜわかったんだろうか、すぐに白鷺亭の支配人が部屋にやって来て朝食の準備をし始めた。
監視カメラ・・・はないよなぁさすがに。
相変わらず謎だ。
「今日お戻りになられるそうですね。」
「えぇ、その予定です。今回もお世話になりっぱなしで申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、ご利用いただきありがとうございます。それにご無事で何よりでした。」
切り傷は浅く、ポーションをかければ傷跡すら残らなかった。
さすがシャルちゃん印のポーションだ。
効き目抜群だな。
「シルビア様がお目覚めになる頃にまた参ります。香茶を淹れてありますのでどうぞ一口。」
「ありがとうございます。」
テーブルの上には豪華な朝食が用意されていた。
仕事が早い。
流石に一人で食べるのもあれなので支度をしながら起きるのを待つとしよう。
え、ウェリスはどうしたのかって?
一応ウェリースというチンケな設定は残っているので昨晩はそのまま騎士団でお泊りしているはずだ。
準備ができ次第一緒に村に戻ることになっている。
流石に奴隷の為に部屋を取る経費は下りないみたいだ。
「・・・おはようシュウイチ。」
「おはようございますシルビア。よく眠れましたか?」
「あぁ、心地よい疲れだった。」
それからしばらくしてシーツを体に巻き付けた格好でシルビア様が寝室から出てきた。
まるでロングドレスのようで思わず魅入ってしまう。
「朝食の準備が出来ていますよ。」
「すぐに準備する、少し待ってくれ。」
「わかりました。」
シルビア様はエミリアほど時間がかからない。
騎士団の名残だろうかササっと準備したらそれで終わりだ。
それでも下地がいいので綺麗なんだよね。
いいだろう、俺の嫁さんだぞ。
とか何とか馬鹿なこと考えているとすぐに支配人が現れ、朝食の再準備をしてシルビア様が出てくるまでに帰っていった。
二人で朝食を済ませてホッと一息と言いたい所だが、早く帰らないとね。
「では行きましょうか。」
「あぁ。」
「世話になったな。」
「残党の方はお任せください、念の為警備はあと二日ほど続けさせます。」
「よろしく頼む。」
騎士団でウェリスと合流して村へ向かう馬車に乗り来んだ。
行きはどうなる事かと思ったけど、今回もまた無事に終えることが出来た。
残り半月。
目標は達成しているからあとはコツコツやっていくだけ、そんな風に思っていた。
だが、世の中そううまくはいかないようで・・・。
「そこの馬車とまれ!」
さぁ発車だと思っていたその時だった。
前方から猛スピードでこちらに向かってくる馬車に向かって、団員が慌てて叫ぶ。
最悪の事態を想定して慌てて前傾姿勢をとったが、馬車はぶつかる手前で停止した。
と思ったら今度は馬車から人が飛び出してきてこちらに向かってくる。
ってあれは・・・。
「ニケさん!」
「イナバ様!シルビア様!よかった!」
飛び出してきたのはまさかのニケさんだった。
でもなんでこんな時間に?
っていうかどうしてここに?
「おい、どうしてお前がここにいる、何があった!?」
慌ててウェリスが問うが呼吸が荒くうまく話せない様子だ。
嫌な予感がする。
こういう予感って大抵当たるんだよね・・・。
「エミリア様が倒れました、急ぎお医者様を呼んでください!」
ほらやっぱり。
ニケさんの言葉に一瞬目の前が真っ暗になる。
悪い予感が当たる。
でも、まさかエミリアがなんて思いもしなかった。
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親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
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※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
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