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第十八章

捜索しようそうしよう

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コッペンの話によるとウェリスを攫った?連中はやはり昔の仲間だったようだ。

先程はすぐに思い出せなかったが、昔壊滅させた盗賊団の首領の一人『グランド』を慕っていた連中らしい。

本人はシルビア様に殺されたし、もう一人も捕まった後処刑されたと聞いている。

にもかかわらず同じぐらいの位置にいたはずのウェリスが死んでいないものだから、それを恨んで手を出したらしい。

ウェリス自身もサンサトローズに出入りしていたし、村に隠れていたわけでもないからどこかで存在が漏れたんだろう。

労働者の中にそいつらの知人が混じっていた可能性だってある。

だからセレンさんの事も知っていたんだろうな。

村の人と仲良くなればその辺の情報は引き出し放題だ。

流石に産まれてくる子供がどっちかまでは知らなかったようだけど、昨日自分で『妻と娘に』って言ったみたいだし、おそらくもう伝わっているだろう。

昨日の時点では攫ったことは嘘だったかもしれないが、逃げられた事で本当に攫いに来る可能性だってある。

ウェリスをどうにかするためには手段を択ばない。

そういう連中だとコッペンは言っていた。

その証拠に、情報を聞き出すためにコッペンの奥さんまで一時的に拘束したらしい。

かなり過激な連中のようだ。

奥さんを人質に取られてどうしようかと考えていた所、俺がサンサトローズに来たという情報が入ってきて利用することにしたらしい。

探しに来たなら間違いなくここにくるはずだ、ウェリスと親しい俺なら間違いなく情報を持っている、自白薬があるからそれを使えば間違いない。

そんなことを言ったんだろう。

実際に奴らの仲間にも使用して効果を実証したらしいからかなりの手の込みようだ。

そのおかげもあって向こうはあっさりと俺の嘘を信じたわけだけど・・・。

あの時すれ違ったのは間違いない自信はあるけれど、その後どこに行ったのかまではわからないなぁ。

事を荒立てられないだけに表立って聞きまわるわけにもいかないし・・・。

とりあえず打てる手を打つしかないか。

「話は分かりました。もし彼らがまたここに来るようでしたらどういう内容だったか、逐一報告してもらえますよね?」

「俺に騎士団まで出向けっていうのか?」

「いえ、貴方が来る必要はありませんよ、いつものように別の人に頼んでもらって大丈夫です。」

「ったくわかったよ。その代わり一つ聞かせてくれ、どうしてあの薬が効かなかった?」

「それは私だからでしょうか。」

「回答としては最高で最悪だ。ともかくこの件はもうこれで終わりだ、お互いに遺恨はなし、そうだよな?」

「えぇ、これからもいい関係を築いていきたいと思っています。」

今回の件はコッペンが悪いわけではない。

あくまでも奥さんを人質に取られていて仕方なかった、そういう事だ。

それに、コッペンのおかげでウェリスが逃げ出せたってのもある。

直接手を貸したわけではないが、セレンさん達が無事だという情報はウェリスをどれだけ勇気づけたことだろう。

その辺も含めて俺に薬を盛った件は帳消しだ。

「さて、そろそろ行きます。あまりに遅いと新旧二人の騎士団長が本当に殴り込んできますので。」

「おいおい、うちに来る前に例の連中を何とかしろよ。」

「目下騎士団も動いています。後はウェリス次第でしょうか。」

自由になったんだからすぐに騎士団なりギルドなり知り合いの所に逃げ込めばいいものの、アイツの事だからそういう事はしないんだろう。

そうすれば自分が逃げ出した事がバレてしまう。

そうなれば俺達に迷惑がかかる。

そんな風に思っているのかもしれない。

それぐらい今の俺にならどうとでもなるぐらいに、人間関係が強固な事をあいつは知っているはずなのに、義理堅いというかなんというか。

っていうかマジでどこにいるんだよ!

これ以上いると本当にシルビアたちが来てしまいそうなので急いで裏口から大通りに出るとちょうどこちらに向かってくるのが遠目に確認できた。

マジで危なかった。

慌てて手を振るとシルビアがすぐに気づいてくれたようで、五人ほどの団員を引き連れて通りを向ってくる。

その姿は現職の騎士団と言っても通じるぐらいだ。

おい、カムリ影が薄いぞ。

「シュウイチ、無事だったか。」

「お陰様で何とか。」

「それでどうだった?」

「急ぎ動いた方がいい情報を仕入れました、それと一先ずウェリスは無事です。」

無事と聞いてシルビアの顔が少し明るくなったがまたすぐに険しい表情になる。

状況が良くないことがすぐに分かったようだ。

「どういうことだ?」

「コッペンの所へ向かう途中にウェリスらしき人物とすれ違いました。目が合いましたが走ってどこかへ行ってしまったところを見ると、迷惑を掛けたくないのかもしれません。」

「あのバカが、現時点でもう十分迷惑をかけているというのに。急ぎ戻るぞ!」

「「「はっ!」」」

シルビアたちと合流した足でそのまま騎士団へととんぼ返りする。

仮にその様子を見られていたとしても騎士団との関係は周知の事実のはずだ。

なんせ、奴らを追い詰めたのは俺と騎士団なんだから。


「わかった、急ぎ村に団員を派遣しよう。それと周辺の警戒を冒険者に依頼するのはどうだ?」

「いいですね、あくまでも周辺の魔物を掃討するという内容にして盗賊団には手を出させないようにしておけば無用の被害は避けられるはずです。向こうも害が無いとわかればわざわざ襲ってくることはしないでしょう。」

「カムリ頼めるか?」

「急ぎティナギルド長に進言しましょう。費用はこちらが負担します。」

「いいのか?」

「治安維持という名目であれば問題ないかと。」

まさかの税金投入ですか。

こりゃ何が何でも見つけないといけないな。

「それで、あいつが隠れそうな場所の目星はあるのか?」

「例の連中には昔のアジトが怪しいのではないかとコッペンが情報を流しました。私もその可能性はあると思っていますが、あそこって今どうなっていましたかね。」

さすがにコッペンに薬を盛られたとは言えないのでそういう事にしておく。

これも貸し一つだ。

「あの場所は輸送ギルド所属の商人が倉庫として購入したはずですが。」

「隠し通路とかはありましたか?」

「当時捜索した限りでは発見できませんでした。」

可能性としては否定できないけど、状況からするに倉庫に警備ぐらいいるだろうからそこに潜むのは難しいかもしれない。

となるとどこだ?

「元アジトは騎士団の修練所になったはずですよね。」

「この間までは石材で溢れておりましたが、この春から通常の状況に戻っておりますして警備もおりますので忍び込むのは無理でしょう。」

「こちらの隠し通路は?」

「それについても存じ上げませんが、あるのですか?」

ある。

あれを隠し通路と言っていいのかはわからないが、そのおかげで俺は外に逃げ出すことが出来た。

かなり狭いのでウェリスが入れるかは微妙な所だが、無理をすれば何とかなるかもしれない。

「岩の割れ目の奥に小さな穴が開いています、そこからならば出入りできないことはないかと。」

「なるほど、時々動物が迷い込んでいましたのでどこから入っているのか不思議でしたがそういう事でしたか。急ぎ調査をさせましょう。」

「彼らにとってあの場所は聖域に近いものかもしれません、流石に襲ってくることはないと思いますが念の為警戒した方がいいでしょう。まずは急ぎ倉庫に人を派遣してください。」

「そちらも含めて対応致します。」

冒険者への依頼も含めて対応するべくカムリが執務室を出ていく。

その様子を見て何故かシルビア様がうれしそうに笑った。

「どうかしたんですか?」

「いや、やはりシュウイチの傍にいるのは心地がいいと思ってな。」

「それはうれしいですが、先程のどこにその要素があったんでしょうか。」

「この短時間にそれだけ考えられる男はそうはいない、やはり私が選んだ男に間違いはなかったようだ。」

急にどうしたんだろうか。

女心と秋の空というけれど、うーむわからん。

でも嫁さんに褒められて嬉しくないはずがないよね。

とはいえ今は状況が状況だ、喜ぶのは後でもいいだろう。

「喜ぶのは後にして、今はウェリスの方を心配しましょう。候補はあってもどれも確実とは言えません。」

「確かにそうだな。だが、隠れなければすぐに見つかってしまうだろう。どこかの屋内に避難しているのではないだろうか。」

「民家かそれとも倉庫か、空き家という線もあります。」

「空き家か、だが明かりがついていると逆に怪しまれないか?」

「ウェリスの事ですからそんなへまはしないと思います。一先ずこの線で行ってみましょう、サンサトローズでは空き家の管理はどうしているんでしょうか。」

仮にも一年前まで人目を忍んで活動していた盗賊なんだ、そういった知識ぐらいあるだろう。

もちろん向こうも同じようにして潜んでいる可能性も十分あり得る。

両方見つけられたら一石二鳥なんだけど、流石にそう簡単にはいかないだろう。

とりあえずウェリスさえ見つかればそれでいいんだ。

「空き住居は不動産ギルドの管轄だな、この時間ならまだやっているだろう。」

「では行きましょうか。」

善は急げ、今は一分一秒でも惜しい状況だ。

カムリは別の場所で指示を出していたので、団員に言づけをして急ぎ不動産ギルドへ向かう。

サンサトローズに夕闇が迫って来ていた。

夜になれば奴らの時間だ、それまでに何としても目星ぐらいはつけたい。

ギルドは噴水広場を南に、商店連合近くにあった。

明かりはついている、まだ営業時間内のようだ。

間に合った。

「失礼する。空き住居について調べたいのだが、担当はいるか?」

「これはシルビア様!それにイナバ様まで、どうぞこちらへ。」

中に入ると離れたカウンターの所に居た男性がシルビア様をみて慌てて飛んできた。

その横に俺がいるのを見てこれまた驚いた顔をする。

俺の名前も知っているとは、流石だな。

案内されたのは少し奥まったソファー席、まるで新居を探しに来た新婚さんのような構図だ。

「初めまして、アイエーと申します。本日はどのようなご用件でしょうか。」

「誤解させているのであれば先に謝る。今日は新居を探しに来たのではないのだ。」

「と、いいますと?」

「騎士団の代理で来ている、現在サンサトローズにどれぐらいの空き家があるのかを確認したい。」

騎士団の代理、それを聞いた瞬間にニコニコ顔のアイエーさんが真顔になった。

相手が相手だけに上顧客が来た!そう思ったんだろう。

申し訳ない。

「空き屋、でございますか。」

「内容はあえて伏せるが、特殊な状況であるのは承知してくれ。こちらのギルドに何かをさせるつもりはない、ただ見せてほしいだけだ。」

「わかりました、一覧になったものがありますのでお持ちします。」

「頼む。」

神妙な顔で席を離れ裏に引っ込んでいくアイエーさん。

その背中はなんていうか哀愁を帯びているようだった。

「何とかなりそうだな。」

「そうですね。」

「だが空き家だけをみてどうするのだ?」

「隠れそうな場所を把握するんです。例えば近くに住居が無く、多少騒いでも問題ない場所だったり、お店が多くて夜は人気が無い場所などは隠れるにはもってこいでしょう。」

「なるほど、それを把握してしらみつぶしに探すのか。」

「さすがに騎士団を総動員するわけにはいきませんけどね。こちらの動きがバレれば向こうは隠れてしまいますし、そうなれば一時的には助かるかもしれませんがウェリスの無事が保証されることにはなりません。」

可能であれば相手を捕まえてしまいたい。

そうでなければいつまでもウェリスが狙われることになる。

それはすなわちセレンさんとセリスちゃんも狙われ続けるという事だ。

誰かに守られながら暮らし自由が無い、そんな生活苦痛でしかないよな。

「少数で探すにしても限度があるぞ。」

「だからここで絞るんですよ。」

「うーむ、出来ることなら一気にやってしまいたいが・・・。」

「そうすればウェリスが逃げた事になってしまいます。それはすなわち戻れなくなるという事、それだけは避けなければなりません。」

「そうだな、ウェリスだけならまだしも多くの人間があいつの帰りを待っているからな。」

だから俺達でやるしかないんだ。

幸いカムリが外にチクることはしないので多少の無理は出来る。

捜索に使用できるのは数名だろうが、それを複数班に分けて一斉捜索。

そこで見つかれば最高だが・・・そうは問屋が卸さないだろうな。

「お待たせしました。」

と、大きな筒をいくつも抱えたアイエーさんがフラフラと揺れながら戻ってきた。

だ、大丈夫か?

「無理を言って済まない。」

「あまりにも大きいのでいくつかに分けております、どこからご覧になりますか?」

「では東側と北側から。」

「東と北・・・でしたらこちらからどうぞ。」

アイエーさんが大きなテーブルの上に筒を広げる。

巻物のようになっていおり、広げると巨大な地図が出てきた。

サンサトローズを四分割、いや八分割ぐらいした地図だろうか。

地図にはマスが描かれており、おそらくこのマスが住居一つ分なんだろう。

膨大な量だ。

だが街が大きくなることはないので一つ作っておけば後は流用できるんだろう。

何度も何度も書き換えられた跡がある。

歴史を感じるなぁ。

「空き家は付箋を貼ってあります、倉庫などは網掛けとなっており、使用していなければ同じく付箋が張ってあります。」

「わかりやすいですね、有難うございます。」

「わかる範囲であれば答え出来ますので何なりとお申し付けください。」

さて、いっちょやったりますか。

この間はダンジョンの危険個所を把握して、今回は街の不審個所を探す。

なんで二期連続でこんなことをやっているかは謎だけど、出来るんだからやるしかない。

出来るだけ人気のない場所でかつ騒いでも問題の無い場所。

倉庫、空き家、確か地下水路もあったあはずだよな。

流石に下水に潜んでいるという可能性はないと思うけど、絶対はない。

俺なら絶対に耐えれないけどな。

「シュウイチ、ここはどうだ?」

「周りは倉庫ばかり、ここだけ民家っていうのは珍しいですね。」

「そこには昔大きな隊商が入っていたのですが、事業で失敗してそれ以降空き家になっております。」

「潜むには十分すぎる環境だな。」

「そうですね、候補に入れておきましょう。」

倉庫の数は三つ、これだけの倉庫を使った隊商ってことはよほど繁盛していたんだろうなぁ。

それも栄枯盛衰、どこかで道を間違え破産してしまったのか。

大変だったろうに。

その後ももう一枚大きな地図を確認して、気づけば外は真っ暗になっていた。

それでも怪しい場所は8つ、確認できた。

「遅くまで済まなかったな。」

「いえ、これも仕事ですので。」

「事が終われば何かしらの形で報いるつもりだ、今は待ってくれ。」

「お気遣いありがとうございます、ですがどうぞお気になさらず。ここサンサトローズに住んでいてお二人の仕事を手伝えたことこそが、何よりの喜びです。」

「そんな、私達は別に。」

「この一年でサンサトローズは大きく変わりました。その中心におられたのは、イナバ様やシルビア様であることは間違いありません。どうかこれからもこの街に力をお貸しいただければと思います。」

「私にできることであれば頑張らせて頂きます。」

アイエーさんに丁寧にお礼を言ってギルドを出る。

外は真っ暗だ。

だが逆を言えば好都合、向こうが闇夜に偲ぶように俺達も闇夜に忍んで行動できる。

「どう動く?」

「騎士団に戻り少数精鋭をお借りしましょう。その後、班を四つに分けて一斉に捜索します。」

「となると東と北の双方から同時に捜索するのがいいな。」

「そうですね、中心で合流出来れば何かあっても対応出来るかと。私は東から、シルビアは北からお願いします。」

「その点も含めて騎士団で詰めるぞ。」

「急ぎましょう。」

ウェリスがいなくなって二日、セレンさんはどれだけ心細い日々を過ごしている事だろう。

産後すぐってかなりナーバスになる時期だ。

三人そろって幸せな日々を過ごすためにも、待ってろよウェリス。

何が何でも見つけ出してやるからな!

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