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第十七章

ソロダンジョン童貞卒業します!

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作戦は決まった。

モア君がダンジョンに潜っている以上早急にどうにかしなければならない。

とはいえ、彼も中級冒険者だ。

低階層で魔物にやられることは無いだろう。

危険があるとしたら例の連中が上級冒険者クラスを雇っていた場合の話だ。

「では、私達は先にダンジョンに入りますね。」

「あくまでもモア君の捜索ですから、発見したら事情を説明してください。決して例の連中を探すようなことは無いようにお願いします。」

「わかりました。」

「でも、ダンジョンに残るのよね?」

「出来る限りお願いします。ジュリアさんって念話使えましたよね。」

「使えます。」

「では、合流したら連絡をください。えぇっと・・・」

ジュリアさんは使えても誰に連絡すればいいんだ?

「あ、私出来ます!私に連絡下さい!」

キョロキョロとあたりを見渡していると、メイさんが元気いっぱいに手を上げる。

ギルド長を前にしてもいつもと変わらずマイペースだなぁ。

「ではメイさんにお願いします。と言っても、念話について詳しくないので後はお任せしていいですか?」

「ハイハーイ!じゃあジュリアさん同調しますね~。」

「お願いします。」

同調?ペアリングみたいなものかな?

まぁその辺は全くわからないのでお任せしておこう。

「状況によっては中で野営する必要もあるのよね?」

「何とか今日中に終わらせたい所ですが、最長三日といった所でしょうか。」

「モアはあんまり荷物持って行かなかったし、その分私達が持って行かなきゃいけないのよね。でも、あまり大荷物だと探しに言った感じに見えないか。」

「その辺りは不便を掛けます。」

「ま、最悪見つからなかったって言ってモアを置いてきたらいいだけだし、何とかなるでしょ!」

ケセラセラ。

そんな言葉が聞こえたような気がした。

なるようになるさってやつだ。

メイさんと同調(ペアリング)を終えたジュリアさんが戻り、お二人は一足先にダンジョンへと向かう。

よし、次だ。

「依頼内容はどうでっちあげる?」

「ダンジョンに魔力溜まりができ、予想外の魔物が出たとかはどうでしょうか。」

「それなら不自然ではないか。」

「さらに陰日で冒険者が捕まらないのでギルド職員も対応するっていう言い訳も通用します、悪くないんじゃないですかね。」

「低階層に想定外の魔物が発生、駆除求む。報酬は銀貨5枚って所が妥当だな。もちろん張り出しはせずに職員のみで対応するんだろ?」

「いえ、私がここに来ていることは向こうも確認しているでしょうし冒険者にも募集をかけるべきです。ただし・・・。」

「向こうとつながっていないことが保証できる冒険者に限る、だろ?」

俺はドヤ顔をするジンギルド長にニヤリと笑って返事をした。

話の分かる人で助かる。

今回はあくまでも架空の依頼をでっちあげるわけだが、それを職員だけで行うのは見た目的によろしくない。

先程マッチさんが言ったように、あくまでも人数が足りなくて職員が同行するぐらいの方がリアリティがあって大変よろしいというわけだ。

俺がギルドに駆け込んだのは手紙を確認して助けを求めたから。

でもギルドは個人の問題に干渉しないというスタンスを通してもらうことで、あくまでも中立という立場を貫いてもらう。

こうすることで俺達がつながっているんじゃないかっていう向こうの疑いには、表向きは回答できるだろう。

奴らの事だから他の冒険者を雇って内情を探ってくるなんて朝飯前だ。

もちろん職員に入り込んでいるという可能性も否定できないけれど、そこはもう信じるしかない。

「報酬はレイハーン家から必要経費として請求します、手配は可能ですか?」

「絶対間違いの無い冒険者ならいいんだろ?何人必要だ?」

「あくまでも低階層で発生した魔力だまりですから二人ぐらいで十分です。それぐらいなら職員が同行する理由にもなります。」

「陰日だしな、わかった手配する。」

「よろしくお願いします。」

「それと、報酬だがこっちで持つ。冒険者を不要とかぬかす連中へのギルドとしてのけじめだ。」

例の連中に関してはギルド長もかなりお怒りという事なんだろう。

今回はあくまでも冒険者ギルドとして解決したい、そんな気配を感じる。

俺としては出費が少なくなるので願ってもない話だ。

「あとは入り口の監視ですね。」

「冒険者の顔なら私達にお任せください、窓口担当が責任もって把握しましょう。」

「私達が知らないのはよそから来た冒険者だけですからね!」

「陰日で窓口待機するよりもよっぽど楽しそうだし、いいんじゃない?」

おっと、後詰の方もオーリンさん率いる受付の皆さんがやる気満々だ。

これはありがたい。

この街で一番冒険者の事を把握している皆さんなら、後から入ってきた怪しい人物も百パーセント把握できるだろう。

これで先遣部隊と後詰もそろった。

後は・・・。

「お前が中に入れば作戦開始だ。もう一度聞くが本当に一人で大丈夫なのか?」

「むしろ私一人でないと意味がありません。大丈夫何とかなりますよ。」

「でも、イナバ様は初心者なんですよね?」

「えぇ、つい先日登録していただいたばかりです。」

登録二週間以内のピッチピチの初心者だ。

一応モア君に付き合ってもらって魔物との戦闘経験はあるけれど、ダンジョンに潜るのは数えるほどしかない。

というかソロは初めてじゃない?

途中から一人ってのはあるけれど、最初から一人は初めてのはずだ

イヤン、初体験。

いや、童貞卒業?

「それって死にに行くようなものですよ?ダンジョンには魔物のほかに罠だっていっぱいあるんですから。」

「もちろんそれもわかっています。これでも小さなダンジョン商店の店長ですから。」

「わかっているならなんで・・・。」

「皆さん私がどういう二つ名をお持ちかもうご存知ですよね?」

「盗賊殺し、不死身、単独踏破、精霊師、最近じゃ王族貴族御用達なんてのもあるな。」

「その最後のは初耳なんですけど、なんですかそれ。」

まるで通販の売り文句だ。

王族貴族御用達のイナバ。

うん、まったく意味が分からない。

「有力な貴族や王族がお前の力を借りたがっているってのは冒険者でも知ってる話だ。そんなやつが冒険者になったら必然的にこうなる。」

「いや、そうだとしても食べ物じゃないんですから。」

「食ったら腹を壊すってか?違いない。」

「それは笑っていい所なんですか?」

「初心者でこれだけの二つ名を持っているやつなんざどこを探してもいねぇよ、安心して送り出してやれ。俺もつい心配して声をかけたが今思えば無駄だったわ。」

無駄扱いされてしまった。

確かに森の精霊(ドリちゃん)や水の精霊(ディーちゃん)の力を借りれば余裕だろうけど、今回は二人の力を借りない。

あくまでも初心者冒険者としてダンジョンに潜るつもりだ。

そうじゃないと奴らが警戒して出てこないからね!

精霊師が精霊を使わなければどこかで監視されていても『何かあるのか?使えないのか?』と思う事だろう。

そうすれば隙が出来て、襲ってきてくれる。

と、思っている。

二つ名が先行して襲われないなんてことは無いと思うんだけど、実はこれが心配なんだよね。

でもそんなことを心配していては何時まで経っても中に入れない。

とりあえずやってみて、それで襲ってこないなら他の方法を考えよう。

『これ以上手を出せば娘とお前の命は無い』

最初は初心者冒険者を守るためにギルドに行ったから言われたんだと思っていたけれど、この手紙を貰って俺が標的だとわかったんだ。

この手紙を出すぐらいだし、間違いなく狙ってくるさ。

「何時入るんですか?」

「すぐに・・・と言いたい所ですが先行部隊が突入してからですね。それまではギルドの中で突入する準備をするつもりです。」

「奴らに単独でダンジョンに入るつもりだと悟らせるためにだな。」

「そういう事です。」

「他の奴らもよく聞いとけよ、初心者が陰日にダンジョンに潜るなんて言い出したら全力で止めるだろ?それと同じでいいからな。」

「「「はい!」」」

と、いう事で作戦会議はこれにて終了。

後はダンジョンに潜るだけとなった。

先行部隊がダンジョンに潜るのは昼の鐘の頃。

本当であれば一度レイハーン家に戻ってもいいんだけど、また狙われる可能性が有るのでギルド待機だ。

幸い昼食は注文できるのでお腹いっぱい食べておくとしよう。

「お待たせしました今日の日替わり、ビックベアのステーキです。」

「ありがとうございます。」

陰日のギルドはいつもとうって変わってガラガラだ。

だから食事もすぐ出てくる。

一番端のテーブルに腰かけ運ばれて来た食事に手を付ける。

さすが冒険者向け、量が多い。

肉は分厚く付け合わせのサラダもなかなかのボリューム、ついてきたパンはちょっと堅そうだ。

質より量、って感じだな。

どれ、頂くとしますかね。

分厚い肉の塊にナイフを入れるとなかなかの弾力だ。

ビックベアって事はクマの肉だよな、元の世界でレトルトカレーを食べたことあったけどステーキは初めてだ。

強めに力を入れて一口大に切り分け、口に放り込む。

うーむ。

ゴムまではいかないけれど中々の歯ごたえ。

こりゃ噛むだけで筋トレが出来そうだ。

「あの、さっき聞いたんですけど一人でダンジョンに潜るって本当ですか?」

食事という名の筋トレを続けていると、一人の女性が申し訳なさそうに話しかけてきた。

若すぎず老けすぎず、エミリアより若い感じかな?

職員さんじゃないし、装備からすると冒険者だろうか。

ショートソードにバックラー、硬革で作られたショートメイル。

THE初心者って感じの装備だ。

「えぇ、そのつもりです。」

「でも陰日ですよね?魔物が活発になるから辞めた方がいいって言われていたと思うんですけど、どうして潜るんですか?」

ふむ、どうしてと来たか。

この子が例の連中の手先かどうかはわからないが、明らかにタイミングがおかしい。

そもそもこの時期に初心者がギルドに来る用事は無いと思うんだけどなぁ。

それに加えて俺がダンジョンに潜るってどこで聞きつけたんだろうか。

確かにさっきまでギルド職員に止められるという芝居は打っていたけれども、その時にいたかどうかまでは覚えていない。

どうやって返事をしようかと悩みながら改めて彼女を見ると、ふと手元が気になった。

神経質に手をもじもじと動かしている。

それどころか微妙に震えている?

俺に質問しておきながら目線は定まらずチラチラと俺の後方を見ているような気もしないではない。

うーん。

こりゃ黒だな。

というか、彼女の視線の先にいる人物が黒。

彼女は雇われたか弱みを握られたか、ともかくいい状況にいないのは間違いない。

俺がギルドから出てこないからって実力行使に出すぎじゃないだろうか。

「初対面の方にお伝えする内容では無いのですが、どうしても急ぎ確かめたいことがあるんです。」

「確かめたいこと?」

「自分がどこまでできるのか、ですかね。今までいろいろと言われて来たんですけど自分一人の力で成し遂げたか自信が無いんです。ですので、今回はその力を封じて挑戦してみようかと。」

「それで陰日のダンジョンに潜るんですか?」

「その方が実力を試せますから。ギルドの方にはだいぶ止められたんですけど、まぁ自己責任ってやつですよ。どうにかなったらそこまでの話です。」

「死んじゃうかもしれないのに?」

「まぁその時はその時です。妻がいるので死にたくはないですが、男にはやらなければならない時があるんです。」

なんてもっともらしい事を言ってみる。

これで向こうには俺が精霊を呼ばないというブラフを伝えることが出来ただろう。

それにしても最後のセリフはさすがにかっこつけすぎだろうか。

「わかりました、ありがとうございました。」

震えを隠し慌ててお辞儀をする彼女に、小さな声でそっとつぶやく。

「黙って聞いて、脅されているなら後でギルドに言いなさい。」

一瞬びくっとした彼女だったが何事もなかったように俺の後ろに走って行ってしまった。

ここで振り返るのもあれなので職員の方に目くばせをする。

すると様子を見ていたオーリンさんと目が合った。

一瞬彼女が通り過ぎた方を目線で見て再びオーリンさんを見る。

何かを悟ったのかオーリンさんはそのままギルドの裏に戻っていった。

伝わったと信じたいなぁ。

でも今俺が動くと怪しまれるので変わらず食事を続ける。

願わくば彼女も助かりますように。

そして、予想以上に例の連中の行動が早い事が皆に伝わりますように。

何より俺が一番気を付けよう。

自分から餌になって、本当に殺されたんじゃたまったもんじゃない。

仕事で死にかけるなんて元の世界だけで十分だよ。

それから食事を済ませて売店で装備を整える。

防具系は貸してもらったが、探索道具は持ち合わせていない。

その費用もギルドが持ってくれるらしいんだけど表向きは自分で買い揃えたように見せたいので先払いして後で返して貰う事になっている。

もちろん生きて戻れたら。

いや、もどるけどさ。

「全部で銀貨2枚と銅貨40枚です。」

「じゃあこれで。」

「銅貨60枚のお返しです。くれぐれも気を付けてくださいよ。」

「あはは、大丈夫です。危ないと思ったら逃げて帰りますから。」

「イナバさんが行く場所ではありませんが、魔力だまりから想定外の魔物が出たという報告もありました。先ほど駆除に出ましたので問題ないと思いますが陰日は何が起きるかわかりませんからね。」

「ご忠告有難うございます。」

この忠告は本当に心配してくれてだろう。

購入した探索道具をカバンに詰め、慣れない防具を揺らしながら冒険者ギルドを後にする。

外に出た瞬間襲われないかなという不安もあったがどうやらそれは杞憂だったようだ。

朝よりも人の往来が多い、この状況でまた狙撃してくることは無いだろう。

出来るだけ人のいる場所を通りながら王都の外へと向かう。

ベリーリウムのダンジョンはここから徒歩半刻。

冒険者がひっきりなしに通るので道も整備されている。

だが陰日という事もあり今日は人っ子一人いないな。

でも、見通しがいいので隠れて襲ってくる心配もない。

さて、ソロダンジョン童貞の卒業だ。

異世界に来て初めてのダンジョンソロ攻略。

エミリア達と一緒にいるときは絶対に口には出せなかったけれど、その夢がとうとう叶う。

正直に言って楽しみだ。

もちろん目的は違うけれど、ダンジョンに潜るという行為は変わらない。

魔物と戦い、生き残る。

本当の冒険者として、俺は戦うんだ。

あぁ、俺は異世界に来たんだなと一年かけて実感する時が来た。

道を進み、見慣れた入り口を発見する。

突然土の中から洞穴が生えだしたような違和感。

真っ黒な入り口がぽっかりと口を開けている。

いよいよだぞ。

ダンジョンの入り口まで来て大きく深呼吸をする。

少しだけ手を入れるとうちのダンジョン同様黒い壁の向こうにするりと入った。

でも向こう側の指は見えない。

さぁ、行くぞ!

手を引き抜き両手で頬をパンパンを叩くと俺は勢いよく黒い壁の向こうに身を投じた。
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