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第十七章

良くない噂

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無事に依頼(おつかい)を終えた翌日、マリアンナさんはいつも以上のやる気で鍛錬に取り掛かっていた。

夢だった冒険者に一歩近づけた、その実感がより気持ちを引き締めたのだろう。

形の無い夢はどこか頼りなくヤル気もそれに合わせて弱くなってしまう事が多いけれど、形のはっきりした夢は手に入るとわかっている分ヤル気は強くなる。

絵に描いた餅よりも目の前にある餅の方というわけだな。

「今日中に戻るつもりではいますが、話の流れでそのまま一泊することもあり得ます。その場合は遣いが出ることになっていますので宜しくお願いします。」

「かしこまりました、せっかくの聖日ですのでどうぞこちらの事はお気になさらず。」

「マリアンナ様には休養するように良く言い聞かせてください。根を詰めると明日に響きますよ、と。」

「私が言うよりもイナバ様のお言葉の方が聞くと思いますが・・・。」

「私が言っても目を離すとすぐ鍛錬をし始めてしまうんですよね。」

「運動嫌いのマリアンナ様があれほど楽しそうに身体を動かしているのは嬉しい話なのですが・・・。」

目の前にある餅もとい人参に釣られて、マリアンナ様は鍛錬を欠かさず行っている。

継続は力なりという言葉もあるように、続けることは大切だ。

だが、筋肉に至ってはそうではない。

時には体を休め回復させてはじめて、良質の筋肉が身につく。

マリアンナさんへの鍛錬は持久力と筋力の底上げを目的としているので、ジョギングはともかく筋トレに関しては休養してもらわないと困るんだよね。

「軽くであれば問題ありません、よろしくお願いします。」

「どうぞ行ってらっしゃいませ。」

イケメン執事に見送られながら俺は家の前に横付けされた馬車へと歩みを進める。

馬車の横に立っているのは重厚な鎧を身に着けた兵士。

頭をすっぽりと覆うヘルムをかぶっているので顔はわからないが、それが誰かはもう見当がついている。

え、どこに行くのかって?

今日は聖日。

王都に来て一番最初に連絡を取ったあの家に行くんですよ。

「お休みのところお時間を頂きありがとうございます。」

「そんなにかしこまらないでください、今日は休みの日なんですから。」

「私達に休みはありませんので。」

「じゃあ客人としてお願いします。いつものようにお願い出来ますか、ジュニアさん。」

「お前がそういうのならそうしよう。」

そう言うとその兵士、いやジュニアさんは兜の前を開け少し硬い笑顔を向けてくれた。

そう、この人こそ前回色々とお世話になったホンクリー家の執事。

いや、ホンクリー家の長男といった方がいいのかな。

確かあの後息子がいることを世間に公表したと聞いているんだけど・・・。

まだ私兵として活動しているんだろうか。

「皆さんお変わりありませんか?」

「変わりがないかと聞かれれば随分と変わったな。ラーマは前にもまして明るくなったし、ヤーナの体調も快方に向かっている。」

「それはよかった!あれ、ですがアベル様は?」

「旦那様・・・いや、父上はこの間の一件でだいぶ敵を作ったからな、少しやせたように思う。俺の件でも色々と言われているしな。」

「なるほど。でも、それは仕方のない事ですね。」

全部身から出た錆ってやつだし、アベルさんの件に関しては擁護しようがない。

俺なんてその一番の被害者だしね!

じゃあなんでそんな所に行くのかって?

それはそれ、これはこれ。

いまやホンクリー家と我がシュリアン商店は強固なビジネスパートナーとしての関係で結ばれているのだ。

「あぁ、それは仕方ない。だが、メルクリア家の当主が随分と力になってくれたようで、春節からはいつものように王城へも顔を出している。」

「メルクリアのご当主様が、それは心強いですね。」

「お前も随分と苦労しているようだな。まぁ、積もる話はこれぐらいにしてまずは屋敷へいくとしよう、皆今日の日を楽しみにしていたんだ。」

話したいことは山ほどあるがそれは向こうについてから。

ジュニアさんに誘導されて馬車に乗り込みレイハーン家からホンクリー家へと移動する。

といっても、どちらも貴族街の中。

馬車で移動する程の距離は無いよな?と思っていたのだが、なぜか馬車はホンクリー家へ向かわず市街へと坂を下って行った。

理由を聞こうにもジュニアさんは馬車を操っており聞くに聞けない。

まさか!例によって例の如く拉致されるんじゃないだろうな!

なんてことも一瞬考えたけど流石にそれは無いだろう。

何かのついでという事も考えられる。

ま、なるようになるさ。

坂を下りきった馬車はそのまま大通りを抜け、途中何か所か曲がりながら目的の場所へと到着したようだ。

窓の外から見えるのは見覚えのあるステンドグラス。

ここは、大聖堂か?

「お待たせたな。」

「どうしてここに?」

「ヤーナが聖日は欠かさず大聖堂に行くようになってな、ちょうど終わる時間だから迎えに来たんだ。何も言わず連れてきてすまない。」

「いえいえ、そういう理由でしたら構いません。」

「それとな、とある方から連れてくるようにも言われていてな・・・。」

急に申し訳なさそうな雰囲気を出すジュニアさん。

あれか、ヤーナさんのついでと言いながらメインはこっちか。

おそらくあの人に連れてくるよう言われたんだろう。

この間の件でお礼を言わないといけなかったし、ちょうどいいと言えばちょうどいいんだけど。

あれか、すぐ挨拶に来ないから怒っているのか?

さすがにそれは無いと思うけど、相手が相手だけに絶対はないしなぁ。

挨拶するのをすっかり忘れていた俺も悪いんだが・・・。

「そういう事でしたら致し方ありません。」

「すまない。どうしてもとの話で断れなかったんだ。」

「いえ、思いつく方であれば私もお伝えしたいことがありましたので。さぁ、ヤーナ様がお待ちですから行きましょう。」

「怒らないのか?」

「怒る?誰にですか?」

「最初だけでなく今回も騙すような形で連れ出した俺に対してだ」

「前回はアベル様の命令、今回はおそらくラナス様の命でしょう。ジュニアさんの独断で行っているわけではないのに怒ることなんてできませんよ。」

そう、別にこの人が悪いわけじゃない。

そりゃあ初回は中々なプレッシャーをかけられたし、状況が状況だけに恨んだことも有ったけどそれはもう済んだ話だ。

今回もヤーナさんがお世話になっているだけに断れなかったんだろう。

それでこの人に怒りをぶつけるのはお門違いてやつだ。

文句を言うなら本人に。

といっても、俺がラナス様に怒る理由は無いんだけどね。

馬車を下りてそのまま大聖堂に入る。

聖日だからか沢山の人が真剣な面持ちで祈りを捧げていた。

っと、まだお祈りの最中だったか。

大聖堂の一番奥で教えを説いておられるのは男性司祭。

てっきりラナス様が教えを説いておられるのかと思たけど、よく考えたらあの人の肩書って偉くないんだよね。

表面上は。

実際はかなりの権力を持っているんだけど、肩書上はそういう事になってる。

「イナバ様こちらへ。」

ジュニアさんに誘導されて壁沿いを通り別の部屋へと案内される。

「失礼します、イナバ様をお連れしました。」

「どうぞお入り下さい。」

中に入ると、そこにいたのはヤーナさん、それと予想通りラナス様が俺達を迎えてくれた。

「ご無沙汰しておりますラナス様、ヤーナ様。」

「お忙しい所お呼び出しして申し訳ありません。お変わりありませんか?」

「お陰様で皆元気に過ごしております。」

「急にお呼び出しして申し訳ありませんでした。貴方が王都に来ていると伺ったので先日の件も含めてお話したいと思っていたのですが、お忙しかったようでなかなか時間を取れずこのような形を取らせてもらいました。」

「いえ、仕事の都合とはいえお手間をかけました。また、先日の件では多方面の方々からお力をお借り出来有難く思っております。」

「大変な相手に目を付けられましたね。」

「それに関しては色々と事情がありまして。」

まさか本人とやり合ったとは言えないよね。

「冒険者を追放しようなんて馬鹿な事を考えるやつだ、まともな相手じゃないな。」

「平和な世ですからそういう風に考える人が出てもおかしくありませんが、魔物がすべていなくなったわけではありません。もし仮にこの世から魔物がいなくなればそういった日が来るかもしれませんけどね。」

「そのような日が来ることを教会としては願っておりますが、現段階では冒険者の力を借りなければこの平和を成し遂げることはできません。こちらが出来るのは彼らのキズを癒すだけ、私達が声を上げることで彼らの救いになるのであれば喜んで声を上げましょう。」

「これからもどうぞよろしくお願い致します。」

わざわざ声を言う為に時間を割いてくれたのかと思うと頭が下がるなぁ。

そうだ、肝心な事を言うの忘れていた。

「そうだ、ジルさんから伝言を預かっています。おかげで幸せになれました、だそうです。」

「そうですか。あの子は無事に幸せをつかんだのですね。」

「今はガンドさんと共にうちの店を盛り立ててくださっています。」

「イナバ様のお店ならば安心でしょう。」

「いつも助けられてばかりで頭が上がりません。」

ジルさんはラナス様の過去を知っているからこそ、自分の事を伝えたかったんだろうなぁ。

教会を気にせず辞めていいと助言してくれたのもラナス様だしね。

「彼女たちの事宜しくお願い致します。」

「出来る限りの事をさせて頂きます。」

宜しくされるのはこちらの方だ。

ほんと、お世話になっています。

「お時間とらせましたね、せっかくの聖日ですからよい日になるようお祈りしております。」

「ラナス様有難うございました。」

「ヤーナ様もお体に差し支えない様くれぐれもお気をつけください。大丈夫、心配しなくても貴女でしたら無事に乗り越えられることでしょう。」

「神への祈りを欠かさず大事に育てます。」

「大丈夫だ、俺もいるし父上もラーマもそばにいる。それに、こいつに関わったやつは皆幸せになってるって聞くじゃねぇか。第三王女のようにな。」

それはどういう事でしょうか?

そんな話来たことないんですけど。

俺に関わったら幸せになる?

トラブルに巻き込まれるは聞いたことあるけど、それは初耳だ。

「そんな話聞いたことないんですけど、そうなんですか?」

「まぁ、本人はこの調子だがそういう事らしいぞ。」

「もしかしたらイナバ様は神の遣いなのかもしれませんね。」

「もしそうだとしたらまず例の連中に神罰を下しますよ。」

「そりゃそうだ。」

笑いが部屋にこだまする。

その後改めてラナス様にお礼を言って馬車に戻り今度こそホンクリー家へ向かう。

その道中どうしてもさっきのやり取りが気になったので聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。

やるじゃんジュニア。

「お久しぶりですわね、イナバ様。」

「ラーマ様もお変わりなく。」

「本当にそう見えますの?」

屋敷についてすぐラーマさんとマオさんが出迎えてくれたわけだけど、ちょっとその返しは考えてなかったな。

一体どこか変わったんだろうか。

くるくる縦ロールは相変わらずだし・・・。

おや?

「見た目には・・・いえ、少し目つきが変わられましたね。もしかして、疲れておられる?」

「あれからみっちりお父様の教育を受けていますの。化粧水を変えたぐらいではごまかし利かないようですわね。」

「大丈夫ですよラーマ様、イナバ様はそのような事で嫌いになったりしませんといつも言っているじゃありませんか。」

「本当にそう思いますの?」

「せっかくご本人がおられるのですから聞いてみられてはどうですか?イナバ様、疲れた顔の女性はお嫌いですか?」

いや、確かに本人は目の前にいるけどさぁ・・・。

その聞き方はさすがにないんじゃないですかね、マオさん。

「好きか嫌いかと言われれば難しいですが、嫌いではありません。その方が頑張った証ですから。」

「ラーマ様聞いた通りです。ですから安心して疲れてくださいませ。」

「イナバ様聞いて下さい、マオったらあれから益々私に厳しいんです。昨日だってせっかくイナバ様が来てくださるというのに帳簿の確認が終わるまで寝かせてくれなかったんですよ。」

「これもイナバ様に気に入って頂く為です。メルクリア家のお嬢様に先を越される前に、何としてでもイナバ様のお嫁さんに貰って頂かないと。わかっておられますか?ラーマ様の年齢を考えればあとはイナバ様しか可能性は無いんですよ!」

ちょっとそれはどういう事でしょうかマオさん。

なんで俺がラーマ様と結婚することになっているの?

あの時は恋人からって話じゃなかったんでしたっけ?

それも、メルクリア女史含めてお断りしたはずなんですけどねぇ。

「お断りされたからこそ燃えるのが女というもの。特に相手がメルクリア家のフィフティーヌ様となればなおさらです。」

「前回以降メルクリア家には色々とお世話になっていますが、それとこれとは話が別ですわ。イナバ様、今日は覚悟してくださいませ。」

「いや、何を覚悟するというのでしょうか。」

「新たなホンクリー家の本気をご覧に入れて差し上げますわ!」

なんだかよくわからないがふんぞり返って自慢する当たり、初めて出会った時と変わらないようだ。

あれ以降大変みたいだけどラーマ様はラーマ様なりに頑張っているんだな。

「盛り上がっているところ悪いんだがこいつを部屋に連れて行ってもいいか?」

「あ!申し訳ありませんお姉様。」

「いいのよ、イナバ様が来てくださって嬉しくなる気持ちは私にもわかるもの。でも、食事が出来るまで横にならせてもらうわね。」

「こっちの事は気にするな、俺とマオがいる。」

「ヤーナ様はどうぞごゆっくりお休みくださいませ。」

「ラーマ、後は任せたぞ。」

「ジュニ・・・お兄様に言われずともわかっていますわ。」

あ、今ジュニアって言いそうになった。

使用人が急に家族、しかも自分の兄になったんだしこれは仕方ないよなぁ。

俺も絶対に間違えるやつだ。

二人を見送り前よりも仲良くなっているとも割れるラーマさんとマオさんのやり取りを見ながら勝手知ったる屋敷の中を進む。

通されたのはもちろん前回と同じ貴賓室。

俺が逃げ出した窓はちゃんと修復されたようだ。

でもよく見ると細かい傷は残っている。

「お父様はお昼には戻ってきますわ。」

「聖日なのにお忙しいようですね。」

「どうしても外せない用事が出たと言っていましたけど、お昼までには絶対に戻ってきますからその後食事にしましょう。積もる話もその時に。」

「えぇ、楽しみにしています。」

それまではのんびり部屋で待たせてもらうとしよう。

あれ?

「どうされました?」

「い、いえ、何でもありませんわ!」

部屋を出て行ったはずのラーマ様が何故かこちらを見たまま固まっていた。

声をかけると慌てて部屋を出て行ってしまったわけだけど、何か用事があっただろうか。

ま、そうだとしても食事の時に聞かせてもらえるだろう。

それからしばらくしてジュニアさんが部屋にやって来て先ほどの件も含めてゆっくりと話をしていると・・・。

「準備が出来ましたのでどうぞ食堂へお越しください。」

いつの間にかアベル様も戻ってきたようで食事の時間になっていた。

「おっと、随分話し込んじまったな。」

「いえ、一人では暇だったので助かりました。」

「お前も頑張れよ。」

「そちらこそ、応援しています。」

男同士にしかわからない固い握手を交わし、食堂に向かう。

「おぉ、よく来てくれたな。」

と、大きな扉を開けるとすぐ目の前にアベル様が立っていた。

「この度はお時間を頂き、またこのような場を設けて下さりありがとうございました。」

「そんなにかしこまらないでくれ、私も君と話がしたいと思っていたんだ。」

「この間の件ですね。」

「君もなかなか大変な相手に目をつけられたものだな。」

「あはは、同じことをラナス様にも入れました。」

というか、殆んどの人にそう言われます。

別に好んで目をつけられているわけじゃないんだけどなぁ。

「お父様、積もる話もありますがせっかくの食事が冷めてしまいますわ。」

「おぉ、そうだな。」

早速ラーマさんにたしなめられるアベル様。

前までのホンクリー家だったらこんな光景見ることはできなかっただろう。

本当に仲良くなったんだなぁ。

「では、乾杯しましょう。お父様お願いします。」

「何に乾杯すればいいんだ?」

「お姉様とお兄様、それと新しい命に。」

「新しい命・・・おい、まさか!」

「乾杯!」

「「「「乾杯!!」」」」

「おい、それはどういうことだ!ジュニア!」

おや、どうやらアベルさんには知らせてなかったようだ。

なるほど、サプライズを仕込むために日付をずらした可能性もあるな。

何はともあれおめでたい事だ。

異母兄妹だし完全な近親とは言いずらいだろう。

特にジュニアさんは半分亜人だし、そっちの血の方が濃そうだもんな。

っていうか、あれだけ子供が出来ないって言われていたヤーナ様に子供が出来たのも間違いなくそのおかげだよな。

それからしばらくはアベルさんの百面相を堪能させてもらいながら美味しい食事に舌鼓を打つ。

流石商家五皇(ペンディキュラ)に属する貴族。

しかもその子供が出来たという祝いの食事だ、気合が入っていないはずがない。

ここに拉致されてきた時も美味しかったけどそれ以上の美味しさだ。

皆にも食べさせてあげたいなぁ・・・。

「すまない、随分と取り乱してしまった。」

「いえ、お祝いですから気になさらないでください。」

「まさかこの短い間にこんなことになっているとは。いや、わかってはいたのだぞ、いずれこうなるだろうとは。だが、我が息子ながら手が早いというか・・・。」

「出会ってすぐならまだしも、二人は長い間一緒にいましたからむしろそうならなかったジュニアさんを褒めてあげるべきではないでしょうか。」

「いや、まぁ、そうなのだが・・・。」

「頼む、それ以上言わないでくれ。自分でやっておきながらあれだが、恥ずかしすぎる。」

そんなやり取りに対して顔を真っ赤にして抗議するジュニアさん。

それと対照的にヤーナさんは満面の笑みを浮かべている。

「いいじゃありませんか、子供が出来ないと言われたお姉さまのお腹に新しい命が宿っているんですよ。それがどんなに素晴らしい事か。」

「そうだな。ヤーナ、くれぐれも無理をするなよ。」

「はい、この子は私の命を懸けてでも産んで見せます。」

「それはならん、絶対にお前も生きて子供を産め。生まれてくる子にお前たちと同じ悲しみを味合わせることは許さんぞ。」

「はい…お父様。」

うーん、感動の瞬間ってやつだなぁ。

まさかこんなことになるとは思わなかったけれど、これで王都に来た心配事は無事に晴らせた。

産まれてくる子供がどちらであれ、ホンクリー家も安泰だな。

そして俺の方はというと・・・。

うん、戻ったらわかる。

「今日は君の話をしようと思っていたのだが、どうもそっちに集中できんなぁ。」

「私の話ですか?」

「あぁ、何でも今は冒険者関係の仕事をしているんだとか。という事は例の団体については聞いているな?」

「はい。元老院、混成議会も含めたくさんの方に尽力していただいたおかげでひとまず落ち着きを取り戻しました。その節はありがとうございました。」

「その件なんだがな、今日出先で良くない話を聞いたのだ。」

「良くない話、ですか?」

「あぁ、例の連中のせいでここ王都の中にも冒険者は不要だという人間が増えてきている。」

あぁ、それに関してはつい先日であったばかりだ。

冒険者と知って目の敵にしてきたあのオッサン。

そういえばあれからどうなったんだろう。

「つい先日、そのような事を言う場面にも出くわしました。」

「そうか。なら、より気を付けた方がいいかもしれんぞ。」

「どういうことですか?」

「良くない噂を聞いたのだ。なんでも、近隣のダンジョン内でなりたての冒険者を狙った冒険者狩りが行われているとな。」

冒険者狩り。

その単語を発したアベル様の顔は先ほどまでと違い真剣そのものだった。
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