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第十七章

経験値は存在する

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この間の事をエミリアに報告した人、怒りませんから手を上げなさい。

え、何の事かわからない?

ほらあれですよ。

未亡人がどうのこうのという奴。

その夜メルクリア女史から『貴方が良くないことを考えてるってエミリアが言ってるんだけどどういうこと?』なんていわれたんですよ?

念話も使えないし、バレるとしたら貴方方しかいないんですけど!

まったく勘弁してくださいよ。

別に浮気をしたわけじゃないんですよ?

そりゃあ実際にアニエス様から凄い目で見られてしまったけど、別にゾクゾクしなかったし。

俺はその気はなかった。

そういう事でいいじゃないですか。

戻ったらなんていわれるか。

っていうか、マジで何でわかったんだろうか。

ユーリ経由か?

いやいや、三日も離れているんだからいくらなんでもそれはありえないだろう。

もしそうだとしたら前回誘拐した時にわかったはずだ。

ではどこから?

全く訳が分からないよ!

「どうしましたイナバ様。」

「すみません、大丈夫です。」

「何か気になる事がありましたら遠慮なくおっしゃってくださいね。」

「いえ、むしろこんな簡単な依頼に付き合ってもらって申し訳ありません。」

「丁度休養日でしたし、暇だったので大丈夫です!」

ぼーっとしている俺に気づいたモア君が心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。

ここはもう王都じゃない、いつ魔物が出てきてもおかしく無い森の中だ。

雑念を払い依頼に集中しないと・・・。

「他のお二人は?」

「二人は市場で買い物してます。休養日ですけど、やっぱり買い出しは必要なので。」

「後でお二人にもよろしくお伝えください。」

「むしろしっかり働いてこいと言われたので、心配しなくても大丈夫です。」

休養日と言いながらも冒険者に休みは無しか。

「それよりもイナバ様、そろそろです。」

「わかりました、出来るだけ自分で頑張りますが危ない場合はお願いします。」

「複数いた場合でも一匹に集中してくださいね、後は僕がやりますから。」

そう言ってすぐ、先頭を歩いていたモア君の歩みが止まった。

慌てて身をかがめ、周囲を警戒する。

森の木々がザワザワと音を立てているだけで他は何も感じないんだけど・・・。

いや、俺も見つけた。

「コボレートならイナバ様でも行けましたよね。」

「店の近くで何度か。」

「じゃあお願いします。目標とは違いますがいきなり本番よりかは気楽だと思います。」

目の前の茂みの向こうを一匹の犬、もとい二足歩行の犬が通過していくのが見えた。

獲物は見えないがおそらくボロボロの剣を持っているはずだ。

え、そもそも何をしているかって?

それは終わってから説明するよ。

短剣を抜き、コボレートの背後に回るようにゆっくりと近づく。

もちろん前ばかり見てはいけない。

枯れ枝何かを踏んで音をたてたりしないように注意しながら一歩ずつ歩みを進める。

コボレートとは歩幅が違うのですぐに俺の間合いに入った。

向こうは気づいていない。

コボレートの体調は1m程。

子供ぐらいの大きさなので普通に振りかぶったのでは逆に当てにくくなる。

なので腰に右の二の腕を当て、左手をその手首に添えてブレないようにして一気に突き刺す。

狙うは首元。

左足で地面をしっかりと踏み抜きその反動を利用して一気に加速する。

それと同時に右手を突き出し、鈍い感触と共に短剣がコボレートの喉を貫いた。

さすがダマスカス鉱、コボレートの骨などものともせずに一気に突き刺さった。

何が起こったのかわからないまま、コボレートは小さく痙攣し、そして息絶えた。

「ふぅ・・・。」

「さすがイナバ様、一撃ですね。」

「武器がいいからですよ、そうじゃなかったらこう上手く行きません。」

短剣を引き抜きこびりついた血を振り払うようにして吹き飛ばす。

カバンから掃除用の布を取り出して血をぬぐい、そのまま鞘に戻した。

「そんなこと言って、初心者冒険者がそんなにきれいな突きをしたんじゃ中級の立つ瀬がないじゃないですか。」

「これもシルビアの訓練の賜物ですよ。」

「騎士団式の突きですね。重心はしっかりと降りて左手も綺麗に添えられていました。完璧ですよ!」

「モア君にそう言われると自信がつきますね。」

「さぁ、はぎ取るまでが冒険者の仕事です。討伐証は耳ですから片方でいいので切り取ってください、後は爪がいけますね。うん、状態もいいですし買い取りには問題ありません。」

「これを毎回しなければいけないと思うと、結構大変ですよね。」

「あまりにも安い素材は無視したりもしますけど、初心者はそうは言ってられませんから。ワザと討伐証を提出せずに別の依頼で提出する裏技もありますけど・・・っと、これってイナバ様に教えたらまずいですよね。」

なるほど、その手があったか。

とりあえず手当たり次第に魔物を倒して、必要時に提出する。

でもゲームと違って置き過ぎると腐ってくるし、何でもかんでもというわけにもいかないだろう。

それに荷物が重くなる。

異世界系でおなじみのチート無限収納があれば別なんだろうけど、あれってマジで反則だな。

「まぁ、違反じゃありませんしいいんじゃないですか。うちはまだそれ系の依頼を出してませんから。」

「でもいずれは出すんですよね?」

「ギルドと提携すればそうなるかもしれませんが、今の所は村からそういう依頼も出ませんし素材の買い取りだけになるかと。」

「そっかぁ、あそこの村は他と違って皆強いもんなぁ。」

なんせシルビアが鍛えているからね。

そこらの自警団とは明らかに練度が違う。

もちろん魔物が弱いってのもあるけど、一年で二度も魔物に襲われたんだ必然的にそうなってくる。

マジで今年はそうならないことを祈るよ。

モア君に教えられながら無事に剥ぎ取りを終え、軽く水分を摂る。

「それじゃ、次行きましょうか。依頼は薬草の採取とアントイーターの駆除です。確か奥に巣がありましたか恐らくそこにいると思うんですけど・・・。」

「先ほども聞いたんですけど、初心者でアントイーターは厳しくないですか?」

「まぁ、本当の初心者でしたらまず無理です。でもほら、イナバ様ですから。」

「噂通りの男ではないことはモア君が一番よく知っていると思いますけど?」

「不死身のイナバ、魔物3000殺し、通り名はかなり過激ですよね。」

「えぇ、でも実際はこの程度ですよ。」

「でも、精霊様の力もありますし、どうして精霊師として登録しなかったんですか?」

「今回はあくまでもマリアンナ様のお供ですから。本当に冒険者になるわけじゃありません。」

モア君の言うように精霊師として登録することはできた。

でも他の精霊師と違って魔法が得意とかすぐに呼び出せるとか、そういう関係じゃないんだよね。

あくまでもギブアンドテイク、お願いを聞いたお礼に貰った祝福なんだ。

まぁ、その祝福を頼ってこれまで何とかやって来たっていう事実はあるわけだけど・・・。

それでも俺はあくまでも商人だ、そっちで活躍するわけにはいかないんだよ。

「もったいないなぁ・・・。」

「あはは、実力で成長しているモア君達にはむしろ頭が上がりませんよ。」

「俺達はイナバ様のおかげでここまで成長出来ましたからね!お礼を言うのはこちらの方です。」

「で、どうしてアントイーターだったんですか?」

「あぁ、そうでした。理由は倒しやすいからですよ。」

「ですが先程は初心者には厳しいと言っていましたよね。」

「初心者だけだったらの話です。今回は僕がいますからね、イナバ様は隙を見て急所を狙って頂ければ大丈夫です」

大丈夫ですって簡単に言うけれど、本当に大丈夫なんだろうか。

隙を見て急所をっていうけれど、アントイーターは初見なんですが・・・。

急所すらわからない新人だというのに、モア君も中々な要求をしてくれるなぁ。

「具体的にはどうするんですか?」

「アントイーターは名前の通り蟻を食べる魔物です。アリといっても、キラーアントぐらいに大きな奴なんですけど。ともかく、それを捕食している間は周りを一切気にしないんです。その隙をついてまず目を潰します。両目、もしくは片目でも潰せれば後は死角から攻撃すれば無傷で倒せますよ。」

「でもそのやり方には問題がありますね。」

「さすがイナバ様。」

俺のツッコミにモアくんがニヤリと笑った。

そう、この作戦には大きな落とし穴がある。

確かに捕食中のアントイーターは無防備で隙だらけかもしれない。

でもそのエサは一体どこからやってきたのだろうか。

答えはモア君が先に言っているじゃないか。

『巣が近くにある』ってね。

二人で打ち合わせをしながら巣のある場所へと進んでいく。

どうやらこの辺りには薬草類が多いらしく依頼の一つである薬草の採取をしながら進むこと一刻程、俺達は目的の場所へと到着した。

「待ってください。」

薬草採取に夢中になっていた俺をモア君が引き留める。

慌てて周りを見渡すと森の奥に不自然に盛り上がった場所があった。

耳を澄ますと何かが聞こえる。

ガチャガチャというような音と共に、何かが叫ぶような音もする。

「丁度食事中のようですね、手間が省けました。」

「でも、どう見ても多勢に無勢ですよ?」

「あれだけ囲まれてもポイズンアントの顎ではアントイーターを傷つけることはできないんです。本来魔物にかみついて毒を回し動かなくなった所を集団で捕食するんですけど、傷つかないどころか毒にも耐性があるので、結果食べられるしかないんですよね。」

「それはなんとまぁ・・・。」

「もちろん全部食べ切る前にお腹いっぱいになりますから、全滅することはありません。いい食事場って感じじゃないですか。」

「そして満腹になった所を私達に倒される。アリからしてみれば救世主じゃないんですかねぇ。」

「仮にそうだとしても巣を狙う敵に変わりありません。あ、他の蟻は任せてください。イナバ様は予定通り奴の目を先ほどのように一刺しにして下されば。」

いや、そうは簡単に言うけど君さぁ。

巣まで約50mと行った所だろうか。

その距離からでも奴らが戦っているのが良くわかる。

つまり捕食者は最低でも2m近くあるわけだよな。

そいつの近くまで行って、目を一刺しにして来い?

簡単に言うなよ!

こちとら魔物との戦闘経験ほぼ皆無なんだぞ?

そりゃあ、過去に魔族とやり合ったことも有るしもっと大量の魔物と一人で対峙したことあるけれど・・・。

それでもあの時は可能性が有った。

助かるかもしれないという希望があったから、俺は戦えた。

もちろん今回もその可能性はあるんだけど・・・。

その為に彼女らを呼び出すわけにはいかないんですよね。

これは冒険者としての戦いなんだから、俺がやらないと意味が無い。

そう、俺がこんなことをしている理由はただ一つ。

魔物に慣れるためだ。

大丈夫です!なんて豪語しておきながら魔物と戦ったことがありませんじゃ話にならない。

マリアンナ様が冒険者になる為にも、まずは俺が魔物に慣れなければ。

冒険者として依頼を受け、流れを実際に確認。

何事も下調べは重要というわけですよ。

「では先行して蟻を駆除してきます。数が減ったら捕食させた瞬間を見計らって出てきてください。」

「わかりました。」

「大丈夫ですって、イナバ様ならできますよ。」

「あはは、そうだといいんですけど。」

俺の肩をポンポンと叩き、モア君が蟻で溢れる小高い丘へと走りだした。

彼の背中はみるみる小さくなり、そして巣と思われる部分で止まった。

あ、モア君に気づいた蟻が襲い掛かった!

でも、それを軽々と避けて反撃している。

凄いな、あれだけの魔物に臆することなく突入できるって。

相手毒を持ってるんだよ?

それにビビることなく突っ込んでいって、俺の為に戦ってくれている。

そこまでしてもらってビビってるわけにはいかないじゃないか!

男イナバ、行かせていただきます!

とはいえ、今飛び出して行っても迷惑をかけるだけなので少しずつ様子を見ながら近づいていく。

50、40、30m。

近づけば近づくほどモア君の戦闘音が大きくなってくる。

そして、標的の姿もはっきりと見えてきた。

大きい。

見た目はアリクイだ、名前の通りだな。

でも大きさが牛ぐらいある。

そいつが長い舌を伸ばして襲い来る蟻をからめとるまでは元の世界と同じ。

しかしそいつは絡めとった蟻を象のように本来あるはずの無い口へと運び、バキバキと咀嚼している。

いやいやいや、聞いてませんよこんなの。

あの口で噛まれたら、腕なんて一瞬で噛みちぎられるんじゃないですかね。

ちょっとモア君!

と、文句を言いたくなるが本人は楽しそうに蟻を切り刻んでいた。

四方から襲い来る蟻の場所を瞬時に把握し、適切な距離を取りながら襲ってくる順番に撃退していく。

毒をメインにしているからか体はあまり固くないようだ。

次第に蟻の数は減っていき、標的が新しい獲物を口に入れた瞬間モア君が俺に合図を送ってきた。

今だ。

短剣を引き抜き、足跡など気にせず一気に加速する。

相手右後方から接敵し、狙うは敵右眼球!

モア君が処理してくれたおかげで他の蟻は近くにいないようだ。

ちらっと横目でモア君を見ると何やら岩を押している。

巣の入り口でも封鎖しているんだろうか。

いや、今はそんなことはどうでもいい。

後10m、5m、3、2、1。

どんどん近づいていくが、話の通り標的が俺に気づく様子は無かった。

先程同様右手を体に押し付け、左手を添える。

そして、体当たりをする勢いで右手を突き出した。

「しまった!」

だが、突き出した時に若干ぶれたのか短剣が刺さったのは右目の少し左。

それでも短剣は顔深くめり込んでいる。

「ブオォォォ!!」

突然の痛みに標的が吠えるような叫び声をあげ暴れだした。

くそ、仕留めそこなった!

俺は慌てて短剣を引き抜こうとするが、筋肉に力が入っているのか引っ張っても抜けない。

そんな風にもたもたしているうちに、奴が俺に気づき、目が合った。

「ヤバ!」

この巨体に襲われればひとたまりもない。

モア君!と叫ぶ余裕もなかった。

万事休すの状況で無意識に俺は短剣を引き抜こうとするのをやめた。

引き抜けないのなら押し込んでしまえばいい。

幸いこの短剣は奴の体に容易く突き刺さった。

それなら、奥にめり込むのも簡単なはずだ。

引き抜くよりも押し込む方が体重を掛けれる分、より力が入る。

そんなことを思ったかどうかもわからないが、引っこ抜こうとした足を踏ん張り、今度こそ本当に体当たりをするように短剣をめり込ませる。

ズブズブとめり込んでいくのが分かった。

それと同時に標的が痛みに暴れだす。

上に乗ってたらロデオのように跳ねていただろう。

痛みで上下に跳ねる魔物に振り払われまいと必死に耐える。

「イナバ様右に切って!」

何を!?とは思わなかった。

聞こえてきたモア君の指示通りに握りしめた短剣を右に動かす。

それに合わせるように体当たりを喰らい、俺は後ろに吹き飛ばされてしまった。

でも、短剣は手放さなかった。

というよりも、右に切った瞬間に吹き飛ばされたので衝撃で引き抜かれたような感じになった。

でも右に切ったと同時に奴の目も切れたようだ。

何とも言えない叫び声が森中に響き渡り、引き抜かれた傷口から大量の鮮血が噴き出す。

体中が血まみれになるがそんなことを気にしてなんていられない。

「大丈夫ですか!?」

「なんとか!」

「今ので右目がつぶれたはずです、もう心配ありません。」

「でも、あれだけ暴れられたら手が付けられない。」

「えぇ、だから落ち着くまで待ちます。あの出血じゃそんなに時間もかからず大人しくなりますよ。」

素早くモア君が俺に駆け寄り、吹き飛ばされた俺を引き起こしてくれた。

目の前では牛ほどもある巨大なアリクイが痛みで叫び声を上げながら飛び跳ねたり足や首を振り回している。

でも、こちらに気づいている様子はない。

「アリは?」

「今巣に火を掛けました、もう心配ありません。」

「でも焼いてしまったら・・・。」

「さすがに奥まで焼けませんから、しばらくしたらまた復活るでしょうけど今は大丈夫です。」

なるほどな。

巣を破壊したらこいつのえさ場が無くなってしまう。

魔物はこいつ一匹じゃないもんな、出来るだけ同じ場所で効率よく狩りが出来るに越したことはない。

冒険者は体が資本。

安全が確立されている方法があるのなら、わざわざそれを潰す必要はないわけか。

目の前で暴れる魔物から少し距離を取りそこで返り血をぬぐう。

少し時間が経ったからか、突き刺した時の生々しい感触がフラッシュバックのように思い出された。

興奮半分恐怖半分で何とも言えないな。

「怖いですか?」

「逃げ出したいほどの恐怖ではありませんが、失敗した瞬間は焦りました。」

「さすがのイナバ様でも一発じゃ無理なんですね。」

「言ったじゃないですか、私はただの商人ですよ。」

「わかってはいるんですけど今完全に理解しました。でも大丈夫です、これを経験したら後は何とかなりますって。」

どういう理屈だよ!と、昔の俺ならツッコミを入れただろうが今の俺ならわかる。

手ごたえ、経験、それがあるのとないのとでは恐怖が明らかに違う。

ゲームでは魔物を倒すだけで経験値がもらえた。

倒せば倒すほど強くなった。

でもそれは所詮数字だ。

本当に強くなったかなんてわかるはずがない。

でも、やっぱりあるんだよ経験値は。

目には見えないだけで、経験は蓄積されている。

事実、強くなったような実感がある。

恐らくこいつを倒すことで位が上がるであろう、不思議な強さではない。

それには代えがたい『経験』が俺を強くしてくれる。

なるほどなぁ。

こうやって何度も何度も魔物と戦う事で、本当に強くなるのか。

そう思うだけで再び興奮してきた。

という滾ってきた。

もっと戦いたい。

この俺がそう思うぐらいだ、冒険者もおそらく同じなんだろう。

「そろそろ弱って来たようですね。最後は僕が押さえますのでイナバ様は首をお願いします。そこを切れば終わりですから。」

「よろしくお願いします。」

その後無事に標的であるアントイーターを仕留め、教えられるままに素材をはぎ取り街へと戻った。

血だらけの俺にギルドの人もびっくりしていたけれど、慣れた手つきで討伐証を確認して依頼料を出してくれた。

薬草の採取と標的の討伐で銀貨5枚。

これを多いと思うか少ないと思うかは何とも言えない。

「素材を売ってきますね。」

「いえ、約束の通り依頼料の半分と一緒にそれはモア君に上げます。」

「いいんですか?」

「モア君がいなければ達成できませんでしたから。」

「でも・・・。」

「護衛も含めば正当な報酬になります。それに私は経験という報酬を頂きましたから。」

「じゃあ、遠慮なく。」

俺の稼ぎは銀貨2.5枚。

プラス、目に見えない経験。

うん、冒険者ってやっぱりすごいわ。

今までは商売相手という側面が大きかったけれど、これからはもっと違う目線で相手が出来るだろう。

冒険者になってよかった。

そう実感できた。

「では明日も今日と同じ時間でいいですか?」

「はい、お願いします。」

「明日は二人も来ますからもっと強い奴と戦いましょうよ。」

「いやぁそれは遠慮したい所です・・・。」

「イナバ様なら大丈夫ですって!」

何が大丈夫かはわからないがきっと大丈夫なのだろう。

その後血なまぐさいままレイハーン家に戻った俺は、部屋に戻る前に強制的に浴槽へと連行されたのだった。

まる。
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