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第十七章
本社に凸ったら幼女に出くわしたんだけど、燃やされませんかね(雑タイトル)
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三人と別れ次に向ったのは前回いけなかった場所。
本来であれば王都についたら一番最初に行かなければならない所なんだけど、この間は諸事情によりいけなかったからね。
なので今回は満を持して向うわけなんだけど・・・。
「予想以上に大きいな。」
大通りに戻り北上する事しばし。
王都の中心を走る大通りの丁度中間ぐらいの場所にそれはあった。
他の建物が二階建てぐらいの高さなのに対して、それはその二倍いや三倍はある。
というか、縦だけじゃなく横にもでかいな。
大通りに面する部分も大きければ奥行きもある。
体積比がハンパないなこれは。
その巨大な建物の入口には見慣れたエンブレムが一つ。
エミリア曰くこの世界にそれがない国は無いらしい。
そう考えるとかなりグローバルな企業だな。
まぁ、俺はこの国しか知らないんだけども・・・。
っていつまでも入口前で立ち止まると邪魔だな。
冒険者ギルドと違いひっきりなしに人が出入りしているわけではない。
それでも出入りがないわけでは無いしそもそもビビる理由もないので、何も気にせず建物の中へと足を進めた。
建物が大きいだけに当たり前だけどロビーも広い。
天井部分は吹き抜けのようになっているのか二階の部分をぶちぬいたぐらいの高さがある。
内装も豪華だ。
ロビーはそこを現す顔だという人もいるけれど、まさにそれを地で行っているような感じだ。
他所には負けない、そんな雰囲気すら感じる。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」
とはいえ初めてくる場所とはいえ俺も部外者では無い。
そのまままっすぐ進み、笑みを浮かべている受付嬢のところへと足を進めた。
「人事部へ取り次いでいただきたいのですが予約をしていないんです。」
「失礼ですがどちら様でしょうか。」
「シュリアン商店のイナバシュウイチと申します。メルクリア部長はおられますでしょうか。」
「これはイナバ様ようこそお越しくださいました。今お取次ぎいたしますのでそちらにかけてお待ち下さい。」
さすが受付嬢、商店名と名前だけで俺が何ものかを即座に把握したようだ。
いつも思うんだけど、この仕事をしている人達の頭の中って一体どうなってるんだろうね。
何処に行ってもほぼノータイムで理解してくれるし。
そりゃ、アポとって行くから事前に情報が行ってるんだろうけど、それでも今回みたいにアポ無しで来る人もいるだろう。
それを企業名でどういう関係か把握できるってすごくないですか?
受付から少し離れたソファーで待っていると少し慌てた表情で目的の人がやってきた。
いつもは転移門からやってくるだけに歩いてくるのはかなり新鮮だ。
「お呼び出しして申し訳ありません、メルクリア部長。」
「その取ってつけたような言い方は辞めてくださる?」
「本社ですのでその方が良いかと思いまして。」
「別にこういった場所だからといって呼び方を変える必要は無いわ。とりあえず場所を変えましょう、ここじゃゆっくり話しも出来ない。」
「かしこまりました。」
この人がいるということはもうお分かりだろう。
そう、ここは俺の所属するスマート商店連合の本社だ。
異世界に声を掛けられるぐらいだからかなり大きな企業だと思っていたけれど、まさか王都のど真ん中に本社を持っているとは思わなかったな。
恐れ入りました。
そして目の前を歩く幼女、もとい爆炎少女、もといメルクリア女史こそ人事総括部ならびに採用本部で部長をしているスーパーエリートなのだ。
え、そんな上司を呼び出して大丈夫なのかって?
だってアポの取りようがないんだもの、仕方ないじゃない?
メルクリア女史に連れられ建物の三階へと移動する。
「メルクリア部長おかえりなさいませ。」
「奥の応接室使うわよ。」
「二号応接室が空いています、どうぞご利用下さい。」
おぉ、マジで部長なのか。
デスクに向って真面目に仕事をしている人達の横を通り過ぎる。
パソコンこそないけれど、デスクに向って仕事をする光景は何処も同じなんだな。
親近感がハンパないけど、ここってばボーナスは出るし休日はしっかりしている超ホワイト企業なんですよね。
眩しすぎて目が開けられないよ。
「何バカな事やってるのよ、さっさと入りなさい。」
「あ、すみません。」
「部長、後でお茶をお持ちしましょうか。」
「大丈夫よ、何か緊急の用事があったら呼んで頂戴。」
「かしこまりました。」
ふざけて両目を手で覆っていたらメルクリア女史に怒られてしまった。
ちなみにこの上司、偉いけど見た目は幼女だ。
爆炎少女だ。
「なんだか非常に不愉快な気配を感じるんだけど、原因は貴方?」
「何の事でしょうか。」
「急に面会者がいるって言われてきてみたら貴方だし、店を放り出して王都に来ている理由も含めて説明してもらえるのよね?」
「もちろんです。そのついでといってはなんですがお願いもございまして・・・。」
「やめてよ、貴方がらみの仕事なんてろくな事じゃないわ。」
「それ、ひどくないですか?」
「貴方が絡んでろくなことになった記憶がないんだけど、身に覚えがないとは言わせないわよ。」
これまでにご厄介になった事案を指折り数えるとそんな事言えるはずがない。
ほんと、お世話になっています。
でも、今回はご本人に登場いただく必要は無いし、あくまでもメインの仕事以外の事をしている説明に来ただけだから今回こそ大丈夫・・・のはずだ。
「それに関してはご心配なく。」
「まぁいいわ、とりあえず適当に座って。」
「失礼します。」
「だからそんなにかしこまらなくて良いわよ。一応上司だけど、貴方直属の上司ってワケじゃないんだから。」
「ですがそれでは他の人に示しがつかないのでは?」
「私が良いって言ったら良いのよ。」
まぁ、そういうことなら俺も楽だしいいんだけどね。
なんだろう、昔はかなり厳しい雰囲気があったけど一年仕事をして少しは慣れてきたと考えて良いんだろうか。
「それに、変な噂をしたら燃やすだけだから。」
すみません全然変わってませんでした。
なにそれ、噂しただけで燃やされるとかパワハラで訴えられない?大丈夫?
「燃やされないように気をつけます。」
「なに、燃やされるような内容だったの?」
「とんでもない、王都に来たのはあくまでも仕事ですし、別にエミリア達と不仲になったとかそういうのではありません。」
「それぐらい知ってるわよ、ププト様からの仕事なんでしょ?」
「当たり前じゃない、エミリアが毎晩連絡してくるんだから。嫁の愚痴を聞かされる私の身にもなって欲しいわ。」
「真に申し訳御座いません。」
「ちょっと、そんな風に謝られたんじゃ冗談も言えないじゃない。」
え、冗談だったの?
てっきりガチで怒られているんだと思っていたんだけど・・・。
てか、状況を知っているなら別に説明要らないんじゃない?
「自分の口で説明するのが筋というものじゃないかしら?むしろそれを通しにきたのだとばかり思っていたのだけど?」
「全くもってその通りです。」
「それで、今回は何をやらかすつもりなの?」
「別に何もしませんよ。確かに今までの事を考えればそう思われるのも致し方ありませんが、今回は他のダンジョン商店とダンジョンの利用許可を戴きに来ただけです。」
「申し訳ないけど、何を言っているかわからないわ。」
いや、分かれよ!
といいたくなる気持ちをグッとこらえる。
落ち着け、落ち着くだ。
ここはメルクリア女史の陣地だ、怒らせるとマジで燃やされるぞ。
「ですから、後学の為に勉強させていただければと思い許可を戴きに参りました。」
「商店はともかくダンジョンにまで入るの?」
「そのつもりで冒険者ギルドで冒険者登録も済ませてあります。あ、登録に関してはジンギルド長の許可を頂いておりますので問題なく。」
「もうギルド長とも顔合わせしているのね。まったく私があの人と面会するのにどれだけの苦労が合ったのか・・・知るはずないわね。」
「申し訳ありませんが。」
「そういう所がずるいのよね、貴方って男は。」
「それに関しても申し訳ありません。」
そんな事言われたって仕方ないじゃないか。
今回は精霊師っていうエサがあったから食いついてくれたものの、次回以降は中々会えないような気がしている。
でもマッチさんやオーリンさんとはそれなりに仲良くなれたと思っているので、そこから話しを繋いでもらうことぐらいは出来るだろう。
「それは貴方がここにいた理由と関係あるのよね。」
「色々とありまして、話の流れでそういうことになりました。」
「じゃあその流れという奴を聞かせてもらおうじゃない。どうせエミリア達にも詳しい話しをしていないんでしょ?」
「念話が出来ないものですから、今日の夜に手紙を書くつもりでした。」
「そんなまどろっこしいことしなくても私が説明しておいてあげるわ。」
「よろしいのですか?」
「今更じゃないかしら?」
ですよねー、知ってた。
前回王都に来たときなんて連絡役として顎で使っちゃったしね。
いや、言葉のアヤだからそこは真に受けないように。
その後レイハーン家とのやり取りを含めて一通り説明を終えると、それを聞いていたメルクリア女史は深いため息をついた。
「なんていうか、毎回面倒ごとに巻き込まれるのね貴方は。」
「今回は仕事の依頼ですので自分から巻き込まれにいったような感じですが、まぁそうなりますね。」
「レイハーン家の前当主とは過去に何度かあったことがあるわ。貴族でありながら上級冒険者になったのは最近じゃあの人だけじゃないかしら。」
「それは商店連合としてですか?」
「どちらかというと貴族のつながりからかしら。向こうも私が商店連合の人間だと知っていて接触してきたけど、探し物を聞かれたぐらいだったしね。」
「探し物?」
「珍しい武器の情報なんかは中々出回らないから。結局ダンジョン攻略途中で亡くなってしまったようだけど、他の仲間が無事にダンジョンを攻略して財産の一部はレイハーン家に相続されたはずよ。」
なるほどなぁ。
冒険者としてやっていく為に使えるコネは使うって感じの人だったんだろう。
良い意味でアグレッシブだった。
でもそのせいで娘は大変な事になっているわけだけど。
「そんなに凄い冒険者だったんですね。」
「うちとしても商店をよく利用してくれるご贔屓さんだっただけに残念だわ。でもまぁ、その娘さんがダンジョンを利用してくれるんだったら別に悪い話じゃないわね。」
「一応冒険者を辞めさせるという話しなんですけどね。」
「でも辞めるかどうかを見極めるにはダンジョンに潜る必要があるわけでしょ?本当に大丈夫なの?前みたいに精霊が出てきませんでしたじゃ済まないんだからね。」
先程と違い随分と心配そうな顔で俺を見てくるメルクリア女史。
それに関しても前科がありますから、ご心配をおかけして申し訳ありません。
「まだ試してはいませんけど、一応反応はありますから。それに今回は冒険者を雇う予定ですので低階層であれば問題ないかと。」
「実力はあるんでしょうね。」
「我がダンジョンで鍛えた精鋭です、大丈夫ですよ。」
「そぅ、ならいいわ。でもくれぐれも注意しなさい。自分の所みたいに魔物が待ってくれたりはしないんだから。」
そう、それには十分に気をつけなければならない。
自分のダンジョンであれば魔物はマスターである俺に攻撃してこない。
仮に攻撃の最中であっても間に割り込めば向こうは攻撃を止める、そういう仕様になっている。
でも今回行く場所は違う。
俺はマスターでは無いし、ペーペーの初心者冒険者だ。
そりゃ、この世界に来て一年。
それなりに鍛えてきたし、実戦も経験している。
でもその程度だ。
他の冒険者のように常に命の危険を感じ続けているわけでは無い。
そういう意味では非常に危なっかしい存在だといえるだろう。
まぁ初心者冒険者なんて総じてそういうものだけどね。
でも今回はそれに加えて絶対に怪我をさせられないお荷物、失礼、仕事相手も一緒に行動しなければならない。
なので優秀な護衛に来てもらうというワケだ。
勿論費用は向こう持ちだ。
「それで、他に何かして欲しいことはあるの?」
「ダンジョンの利用許可をいただけただけで十分です。」
「あぁそう・・・。」
なんだ、何でそんなに残念そうなんだ?
わからん。
一体何をたくらんで・・・いることはないか、この人に限って。
気にしすぎだろう。
「商店の見学に関してなのですが、オススメの店舗などはありますか?」
「王都には三店舗あるけど、そうね、一番のオススメはジクロル商店かしら。」
「ちなみに理由は?」
「行けばわかるわ、先方には私から伝えておくから好きなだけ見てらっしゃい。」
「有難う御座います。」
行けばわかるか、か。
オススメするぐらいだから何かしらの意図はあるんだろう。
楽しみだな。
「ちなみに何時行くの?」
「今日は時間もあれですので二・三日中には。」
「随分ゆっくりなのね。」
「余り急く理由もありませんから。まずは依頼者を冒険者の入口ぐらいには引張りあげないといけませんので・・・。」
「それはそれで大変そうね。」
大変そうってレベルじゃないんだけど、依頼されたからにはやらなければならない。
コレに関しては俺が頑張るしかないな。
「では、先方に宜しくお伝え下さい。あと、お忙しい中時間をとっていただき有難う御座いました。」
「当分はレイハーン家にいるのよね?」
「そうなるかと。それとは別に連絡が取れ次第ホンクリー家にも顔を出す予定です。」
「律儀な男ね。」
「商家五皇とのツテは切りたくありませんから。」
「あら、ウチだけじゃ不満だって言うの?」
「メルクリア家の当主様とはあの時お会いしただけですから・・・。でもそうですね、機会がありましたらご挨拶に伺います。」
「そうしなさい、例の連中が騒いだ時お母様も色々と手を回したみたいだから。」
それを言われると会わないわけには行かないじゃないか。
でもなぁ、前回の感じから正直あまり会いたくないんだよなぁ。
とはいえ、王都で沢山の人に助けてもらったからこうやって大手を振って冒険者が出入りできているわけだし・・・。
避けては通れないか。
「それでは失礼します。」
「お母様の件はまた連絡するわ。それと、エミリアの件もね。」
「連絡いただけましたらこちらから伺います、宜しくお願いします。」
とりあえずこれでこっちはオッケーっと。
前回は緊急性があったけれど今回はさすがに転移できてもらうわけには行かない。
いや、別に何かあるってワケじゃないけど貴族の家だし。
トラブルの元は事前に断っておくのが一番だ。
その後商店連合を後にしてひとまずレイハーン家に戻った。
ホンクリー家からはまだ連絡は戻ってきていなかったが、先方には伝わったようで急ぎ場を設けてくれることになっているそうだ。
会うだけじゃすまないんだろうなぁ・・・今回も。
なんて考えながらオーリンさんから貰った資料を片手に今後の育成計画を練る。
まずは冒険者になる為の基礎作り。
はてさて、何処から手をつければ良いのやら。
資料にかかれている条件に対してあまりにも絶望的な状況に俺は頭を抱えるのだった。
本来であれば王都についたら一番最初に行かなければならない所なんだけど、この間は諸事情によりいけなかったからね。
なので今回は満を持して向うわけなんだけど・・・。
「予想以上に大きいな。」
大通りに戻り北上する事しばし。
王都の中心を走る大通りの丁度中間ぐらいの場所にそれはあった。
他の建物が二階建てぐらいの高さなのに対して、それはその二倍いや三倍はある。
というか、縦だけじゃなく横にもでかいな。
大通りに面する部分も大きければ奥行きもある。
体積比がハンパないなこれは。
その巨大な建物の入口には見慣れたエンブレムが一つ。
エミリア曰くこの世界にそれがない国は無いらしい。
そう考えるとかなりグローバルな企業だな。
まぁ、俺はこの国しか知らないんだけども・・・。
っていつまでも入口前で立ち止まると邪魔だな。
冒険者ギルドと違いひっきりなしに人が出入りしているわけではない。
それでも出入りがないわけでは無いしそもそもビビる理由もないので、何も気にせず建物の中へと足を進めた。
建物が大きいだけに当たり前だけどロビーも広い。
天井部分は吹き抜けのようになっているのか二階の部分をぶちぬいたぐらいの高さがある。
内装も豪華だ。
ロビーはそこを現す顔だという人もいるけれど、まさにそれを地で行っているような感じだ。
他所には負けない、そんな雰囲気すら感じる。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」
とはいえ初めてくる場所とはいえ俺も部外者では無い。
そのまままっすぐ進み、笑みを浮かべている受付嬢のところへと足を進めた。
「人事部へ取り次いでいただきたいのですが予約をしていないんです。」
「失礼ですがどちら様でしょうか。」
「シュリアン商店のイナバシュウイチと申します。メルクリア部長はおられますでしょうか。」
「これはイナバ様ようこそお越しくださいました。今お取次ぎいたしますのでそちらにかけてお待ち下さい。」
さすが受付嬢、商店名と名前だけで俺が何ものかを即座に把握したようだ。
いつも思うんだけど、この仕事をしている人達の頭の中って一体どうなってるんだろうね。
何処に行ってもほぼノータイムで理解してくれるし。
そりゃ、アポとって行くから事前に情報が行ってるんだろうけど、それでも今回みたいにアポ無しで来る人もいるだろう。
それを企業名でどういう関係か把握できるってすごくないですか?
受付から少し離れたソファーで待っていると少し慌てた表情で目的の人がやってきた。
いつもは転移門からやってくるだけに歩いてくるのはかなり新鮮だ。
「お呼び出しして申し訳ありません、メルクリア部長。」
「その取ってつけたような言い方は辞めてくださる?」
「本社ですのでその方が良いかと思いまして。」
「別にこういった場所だからといって呼び方を変える必要は無いわ。とりあえず場所を変えましょう、ここじゃゆっくり話しも出来ない。」
「かしこまりました。」
この人がいるということはもうお分かりだろう。
そう、ここは俺の所属するスマート商店連合の本社だ。
異世界に声を掛けられるぐらいだからかなり大きな企業だと思っていたけれど、まさか王都のど真ん中に本社を持っているとは思わなかったな。
恐れ入りました。
そして目の前を歩く幼女、もとい爆炎少女、もといメルクリア女史こそ人事総括部ならびに採用本部で部長をしているスーパーエリートなのだ。
え、そんな上司を呼び出して大丈夫なのかって?
だってアポの取りようがないんだもの、仕方ないじゃない?
メルクリア女史に連れられ建物の三階へと移動する。
「メルクリア部長おかえりなさいませ。」
「奥の応接室使うわよ。」
「二号応接室が空いています、どうぞご利用下さい。」
おぉ、マジで部長なのか。
デスクに向って真面目に仕事をしている人達の横を通り過ぎる。
パソコンこそないけれど、デスクに向って仕事をする光景は何処も同じなんだな。
親近感がハンパないけど、ここってばボーナスは出るし休日はしっかりしている超ホワイト企業なんですよね。
眩しすぎて目が開けられないよ。
「何バカな事やってるのよ、さっさと入りなさい。」
「あ、すみません。」
「部長、後でお茶をお持ちしましょうか。」
「大丈夫よ、何か緊急の用事があったら呼んで頂戴。」
「かしこまりました。」
ふざけて両目を手で覆っていたらメルクリア女史に怒られてしまった。
ちなみにこの上司、偉いけど見た目は幼女だ。
爆炎少女だ。
「なんだか非常に不愉快な気配を感じるんだけど、原因は貴方?」
「何の事でしょうか。」
「急に面会者がいるって言われてきてみたら貴方だし、店を放り出して王都に来ている理由も含めて説明してもらえるのよね?」
「もちろんです。そのついでといってはなんですがお願いもございまして・・・。」
「やめてよ、貴方がらみの仕事なんてろくな事じゃないわ。」
「それ、ひどくないですか?」
「貴方が絡んでろくなことになった記憶がないんだけど、身に覚えがないとは言わせないわよ。」
これまでにご厄介になった事案を指折り数えるとそんな事言えるはずがない。
ほんと、お世話になっています。
でも、今回はご本人に登場いただく必要は無いし、あくまでもメインの仕事以外の事をしている説明に来ただけだから今回こそ大丈夫・・・のはずだ。
「それに関してはご心配なく。」
「まぁいいわ、とりあえず適当に座って。」
「失礼します。」
「だからそんなにかしこまらなくて良いわよ。一応上司だけど、貴方直属の上司ってワケじゃないんだから。」
「ですがそれでは他の人に示しがつかないのでは?」
「私が良いって言ったら良いのよ。」
まぁ、そういうことなら俺も楽だしいいんだけどね。
なんだろう、昔はかなり厳しい雰囲気があったけど一年仕事をして少しは慣れてきたと考えて良いんだろうか。
「それに、変な噂をしたら燃やすだけだから。」
すみません全然変わってませんでした。
なにそれ、噂しただけで燃やされるとかパワハラで訴えられない?大丈夫?
「燃やされないように気をつけます。」
「なに、燃やされるような内容だったの?」
「とんでもない、王都に来たのはあくまでも仕事ですし、別にエミリア達と不仲になったとかそういうのではありません。」
「それぐらい知ってるわよ、ププト様からの仕事なんでしょ?」
「当たり前じゃない、エミリアが毎晩連絡してくるんだから。嫁の愚痴を聞かされる私の身にもなって欲しいわ。」
「真に申し訳御座いません。」
「ちょっと、そんな風に謝られたんじゃ冗談も言えないじゃない。」
え、冗談だったの?
てっきりガチで怒られているんだと思っていたんだけど・・・。
てか、状況を知っているなら別に説明要らないんじゃない?
「自分の口で説明するのが筋というものじゃないかしら?むしろそれを通しにきたのだとばかり思っていたのだけど?」
「全くもってその通りです。」
「それで、今回は何をやらかすつもりなの?」
「別に何もしませんよ。確かに今までの事を考えればそう思われるのも致し方ありませんが、今回は他のダンジョン商店とダンジョンの利用許可を戴きに来ただけです。」
「申し訳ないけど、何を言っているかわからないわ。」
いや、分かれよ!
といいたくなる気持ちをグッとこらえる。
落ち着け、落ち着くだ。
ここはメルクリア女史の陣地だ、怒らせるとマジで燃やされるぞ。
「ですから、後学の為に勉強させていただければと思い許可を戴きに参りました。」
「商店はともかくダンジョンにまで入るの?」
「そのつもりで冒険者ギルドで冒険者登録も済ませてあります。あ、登録に関してはジンギルド長の許可を頂いておりますので問題なく。」
「もうギルド長とも顔合わせしているのね。まったく私があの人と面会するのにどれだけの苦労が合ったのか・・・知るはずないわね。」
「申し訳ありませんが。」
「そういう所がずるいのよね、貴方って男は。」
「それに関しても申し訳ありません。」
そんな事言われたって仕方ないじゃないか。
今回は精霊師っていうエサがあったから食いついてくれたものの、次回以降は中々会えないような気がしている。
でもマッチさんやオーリンさんとはそれなりに仲良くなれたと思っているので、そこから話しを繋いでもらうことぐらいは出来るだろう。
「それは貴方がここにいた理由と関係あるのよね。」
「色々とありまして、話の流れでそういうことになりました。」
「じゃあその流れという奴を聞かせてもらおうじゃない。どうせエミリア達にも詳しい話しをしていないんでしょ?」
「念話が出来ないものですから、今日の夜に手紙を書くつもりでした。」
「そんなまどろっこしいことしなくても私が説明しておいてあげるわ。」
「よろしいのですか?」
「今更じゃないかしら?」
ですよねー、知ってた。
前回王都に来たときなんて連絡役として顎で使っちゃったしね。
いや、言葉のアヤだからそこは真に受けないように。
その後レイハーン家とのやり取りを含めて一通り説明を終えると、それを聞いていたメルクリア女史は深いため息をついた。
「なんていうか、毎回面倒ごとに巻き込まれるのね貴方は。」
「今回は仕事の依頼ですので自分から巻き込まれにいったような感じですが、まぁそうなりますね。」
「レイハーン家の前当主とは過去に何度かあったことがあるわ。貴族でありながら上級冒険者になったのは最近じゃあの人だけじゃないかしら。」
「それは商店連合としてですか?」
「どちらかというと貴族のつながりからかしら。向こうも私が商店連合の人間だと知っていて接触してきたけど、探し物を聞かれたぐらいだったしね。」
「探し物?」
「珍しい武器の情報なんかは中々出回らないから。結局ダンジョン攻略途中で亡くなってしまったようだけど、他の仲間が無事にダンジョンを攻略して財産の一部はレイハーン家に相続されたはずよ。」
なるほどなぁ。
冒険者としてやっていく為に使えるコネは使うって感じの人だったんだろう。
良い意味でアグレッシブだった。
でもそのせいで娘は大変な事になっているわけだけど。
「そんなに凄い冒険者だったんですね。」
「うちとしても商店をよく利用してくれるご贔屓さんだっただけに残念だわ。でもまぁ、その娘さんがダンジョンを利用してくれるんだったら別に悪い話じゃないわね。」
「一応冒険者を辞めさせるという話しなんですけどね。」
「でも辞めるかどうかを見極めるにはダンジョンに潜る必要があるわけでしょ?本当に大丈夫なの?前みたいに精霊が出てきませんでしたじゃ済まないんだからね。」
先程と違い随分と心配そうな顔で俺を見てくるメルクリア女史。
それに関しても前科がありますから、ご心配をおかけして申し訳ありません。
「まだ試してはいませんけど、一応反応はありますから。それに今回は冒険者を雇う予定ですので低階層であれば問題ないかと。」
「実力はあるんでしょうね。」
「我がダンジョンで鍛えた精鋭です、大丈夫ですよ。」
「そぅ、ならいいわ。でもくれぐれも注意しなさい。自分の所みたいに魔物が待ってくれたりはしないんだから。」
そう、それには十分に気をつけなければならない。
自分のダンジョンであれば魔物はマスターである俺に攻撃してこない。
仮に攻撃の最中であっても間に割り込めば向こうは攻撃を止める、そういう仕様になっている。
でも今回行く場所は違う。
俺はマスターでは無いし、ペーペーの初心者冒険者だ。
そりゃ、この世界に来て一年。
それなりに鍛えてきたし、実戦も経験している。
でもその程度だ。
他の冒険者のように常に命の危険を感じ続けているわけでは無い。
そういう意味では非常に危なっかしい存在だといえるだろう。
まぁ初心者冒険者なんて総じてそういうものだけどね。
でも今回はそれに加えて絶対に怪我をさせられないお荷物、失礼、仕事相手も一緒に行動しなければならない。
なので優秀な護衛に来てもらうというワケだ。
勿論費用は向こう持ちだ。
「それで、他に何かして欲しいことはあるの?」
「ダンジョンの利用許可をいただけただけで十分です。」
「あぁそう・・・。」
なんだ、何でそんなに残念そうなんだ?
わからん。
一体何をたくらんで・・・いることはないか、この人に限って。
気にしすぎだろう。
「商店の見学に関してなのですが、オススメの店舗などはありますか?」
「王都には三店舗あるけど、そうね、一番のオススメはジクロル商店かしら。」
「ちなみに理由は?」
「行けばわかるわ、先方には私から伝えておくから好きなだけ見てらっしゃい。」
「有難う御座います。」
行けばわかるか、か。
オススメするぐらいだから何かしらの意図はあるんだろう。
楽しみだな。
「ちなみに何時行くの?」
「今日は時間もあれですので二・三日中には。」
「随分ゆっくりなのね。」
「余り急く理由もありませんから。まずは依頼者を冒険者の入口ぐらいには引張りあげないといけませんので・・・。」
「それはそれで大変そうね。」
大変そうってレベルじゃないんだけど、依頼されたからにはやらなければならない。
コレに関しては俺が頑張るしかないな。
「では、先方に宜しくお伝え下さい。あと、お忙しい中時間をとっていただき有難う御座いました。」
「当分はレイハーン家にいるのよね?」
「そうなるかと。それとは別に連絡が取れ次第ホンクリー家にも顔を出す予定です。」
「律儀な男ね。」
「商家五皇とのツテは切りたくありませんから。」
「あら、ウチだけじゃ不満だって言うの?」
「メルクリア家の当主様とはあの時お会いしただけですから・・・。でもそうですね、機会がありましたらご挨拶に伺います。」
「そうしなさい、例の連中が騒いだ時お母様も色々と手を回したみたいだから。」
それを言われると会わないわけには行かないじゃないか。
でもなぁ、前回の感じから正直あまり会いたくないんだよなぁ。
とはいえ、王都で沢山の人に助けてもらったからこうやって大手を振って冒険者が出入りできているわけだし・・・。
避けては通れないか。
「それでは失礼します。」
「お母様の件はまた連絡するわ。それと、エミリアの件もね。」
「連絡いただけましたらこちらから伺います、宜しくお願いします。」
とりあえずこれでこっちはオッケーっと。
前回は緊急性があったけれど今回はさすがに転移できてもらうわけには行かない。
いや、別に何かあるってワケじゃないけど貴族の家だし。
トラブルの元は事前に断っておくのが一番だ。
その後商店連合を後にしてひとまずレイハーン家に戻った。
ホンクリー家からはまだ連絡は戻ってきていなかったが、先方には伝わったようで急ぎ場を設けてくれることになっているそうだ。
会うだけじゃすまないんだろうなぁ・・・今回も。
なんて考えながらオーリンさんから貰った資料を片手に今後の育成計画を練る。
まずは冒険者になる為の基礎作り。
はてさて、何処から手をつければ良いのやら。
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そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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