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第十七章

思わぬ遭遇

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オーリンさんから詳しい話を聞いて冒険者ギルドを出たのが昼過ぎ。

昼食は要らないと言ってあるのでどこかで済ませる必要がある。

「それでしたら市場に行くのがいいですよ、いろんな出店が出てるので好みのものが見つかると思います。」

「あーいいなぁ、私も行きたい。」

「ダメだよ、まだ休憩時間じゃないんだから。」

「そうだ!監視所の隣にあるピッサのお店が絶品ですから是非!」

というアドバイスを受付の皆さんからいただいたので、おすすめのお店とやらに行くとしよう。

ちなみにピッサを進めてくれたのは先ほどフリーズしていた受付の方。

なんとか元の世界に戻ってくれたようだ。

大通りを少し行き、途中の小道を左へ。

普通はもう少し奥の大通りを曲がるそうなのだが、そうすると遠回りになってしまうらしい。

この近道も受付の皆さんから教えてもらった。

最初は正体を知って皆さん怖がっていたけれど、例の件がデマだとわかるとその後はかなりフレンドリーに接してくれたな。

フレンドリーというか興味というかまぁその辺は微妙だけど、腫物のように扱われるよりかはずっといい。

おかげでかなりの情報をゲットできたわけだし。

これなら安心してマリアンナさんを冒険者にすることが出来る。

多少お金は掛かりそうだけど、その辺はまぁ必要経費という事で出してもらうとしよう。

かなり細い道を進むのでちょっと不安だったけれど、突然道が開けたと思ったらそこは市場のど真ん中だった。

おぉ、かなりのショートカットだ。

すれ違う人もほとんどいなかったし、本当に抜け道だったんだな。

前回同様聖日でもないのに、市場は沢山の人出でにぎわっていた。

いたるところから呼び込みの声がする。

行き交う人も人種様々、職業も様々だ。

昼飯時だからか、食べ歩きしている人が多いようにも思える。

この匂いは空腹時には拷問だよな。

美味しそうな匂いにつられて仕舞いそうな気持ちをグッと抑え、おすすめされたお店を探す。

えーっと、監視所の近くだっけ?

確か市場の中央付近にあるらしいんだけど・・・。

あそこかな?

通りを歩くこと少し。

市場の中で一番広い道を歩いていると、突然石造りの建物が現れた。

サバイバル系のゲームで言う豆腐ハウスと言えばわかりやすいだろう。

飾りっ気のない正方形の建物だ。

高い所に窓がある所を見ると二階もあるらしい。

監視所っていうけれど、要は詰め所みたいなものなんだろう。

先程から何度かそれっぽい人とすれ違っているし。

市場で不正が行われていないか、トラブルが起きていないかを見て回る巡視員。

これだけの規模の商いが行われているんだ、トラブルネタには困らないだろうな。

「っと、その横って事は・・・あったあった。」

その右隣にあるお店。

その店の上にはなぜか煙突が飛び出ていた。

他は全て露店なのでそこだけ目立っている。

でもあれ、どこかで見たことがあるような。

とにかく行ってみるか。

店からはかなりいい匂いがしてくる。

嗅いだことのあるこの匂い、あれこれはもしかして・・・。

「いらっしゃい!」

「冒険者ギルドでここを紹介されたんですけど、ここは何のお店なんですか?」

「うちはピッサを出してる店だよ。もしかしてお兄さん王都は初めて?」

「二度目なんですけど、前回は冬でしたし今回も昨日着いたばかりです。」

「そっかぁ、二回目じゃ仕方ないかな。まずはこれ食べてから考えてみてよ!」

店主はショートカットのよく似合う若い女性だった。

でもよく見ればあるべきところに耳が無く、代わりに頭上にある三角形の物体がピコピコと動いている。

猫人族だろうか。

手早く手元の何かにナイフを走らせると切れはしをスッと差し出してくる。

それを受け取り口に放り込んだ瞬間、食べ物の正体がわかった。

ピザだわ。

って事はあの煙突は石窯のやつか?

よく見ると後ろに薪が積みあがっているし間違いないだろう。

「これは美味しいですね!トトマの味もさることながらチーズがいい味を出してます。他にもこれは・・・お肉なのはわかりますが、加工されているようでわかりませんね。何かの塩漬け肉でしょうか。」

「一口食べただけでそこまでわかるとか、やるねぇお客さん!」

「この世界では食べたことはありませんでしたが、昔はよく食べました。」

「昔はってことはお客さん異世界から来たの?」

「えぇ、ちょっと仕事で。」

「これを教えてくれた師匠も異世界の人でね・・・。」

「この世界で色々と料理を広めて回っているとか。これまでにも何度かお世話になりました。」

これで何度目の遭遇だろうか。

『胃文化』コミュニケーション、さすがだ。

「そっかぁ。じゃあ、あんまり喜んでもらえないかな・・・。」

「とんでもない!この世界でピッサでしたっけ、これを味わえるとは思いませんでした。自分で何度か挑戦してみたのですが、生地の配合などがなかなか難しくて・・・。やはり本物にはかないませんね。」

「本当!本当においしい!?」

「えぇ、とっても。」

「やったぁ!本当にこの味でいいのか心配だったんだ!よかったらジャンジャン食べてってよ!」

そう言いながらピッサの試食をたくさん出してくる店主。

コラコラ嬉しいのはわかるけど、それじゃ商売にならないよ。

「お気持ちは嬉しいですが、せっかくのお店が無くなると困りますので買わせてください。」

「あ、そうだよね!えへへ、嬉しくて舞い上がっちゃったよ。」

「一枚どのぐらいの大きさですか?」

「えっとねぇ、手のひらサイズで銅貨8枚、その半分増しで銅貨10枚だよ。」

「では大きい方で。」

「毎度あり!すぐ焼くからちょっと待っててね!」

代金を渡すと店主が早速生地を練り始めた。

と言っても半分出来上がっている生地を元の世界のようにくるくると器用に回し、その上にささっとソースを塗る。

次に塩漬け肉を小指ぐらいの大きさに切りそれを並べてからチーズを大胆に振りかける。

後は鉄製の重そうな巨大なヘラで石窯の中に入れれば焼きあがるのを待つだけだ。

当たり前だけど作り方はほぼ一緒だな。

煙突から煙と共にいい匂いも広がっていく。

「良く石窯を設置出来ましたね。」

「火を使うから監視所の横って限定されたんだけど、元々監視所の近くは人気が無いからずっと借りることにしたんだ。代金も安いし、いいことづくめだよ。」

「これを持ち運ぶのはなかなかできませんからねぇ。」

「本当は自分の店をちゃんと出したいんだけど、それまではここで頑張らないと・・・、はい出来たよ!」

会話をしながら窯をじっと見ていた店主が素早くピッサを石窯から救出する。

そのままヘラで器用に木製の皿に滑らせるとあっという間に熱々のピッサが出てきた。

「持って出るならお皿は後で返してね、ここで食べるならそこの椅子使っていいよ!」

「では遠慮なく。」

これを持ったまま食べる場所を探すのは拷問だ。

もちろん俺にとっても周りの人にとってもだけど。

いや、宣伝という意味では持ち歩く方がいいかもしれないが流石にこれを前にして我慢は出来ない。

店の前に用意された小さな椅子に腰かけると皿を膝の上にのせる。

えっと、まさかこのままかぶりつくのか?

「あ、ゴメンゴメン切れ目入れてなかった!ちょっとまって!」

ですよねー。

よかった、このサイズにかぶりつくのは可能だけどその後の被害を考えるとやけどだけで済まなさそうだ。

トロトロに溶けたチーズは美味しいけれど、これが皮膚に触れると絶対にやけどする。

皿を返すと素早くナイフで切れ目を入れてくれた。

では改めて、いただきまー・・・。

「うわ、いい匂いがする!」

「あそこじゃない?」

「そろそろお昼にしようよ、お腹すいちゃった。」

「えー、でもせっかく王都まで来たんだから先に市場を見て回るって言ったのネーヤじゃない。」

「でも今食べないと絶対後悔すると思うんだ。モアもそう思うよね。」

「僕は食べれたらなんでもいいよ。」

何故だろう、知っている名前と声が背中の方から聞こえてくるんだけど・・・。

まさかね。

「もぅ、仕方ないなぁ。」

「とか言いながらもジュリアも食べたいんじゃないの?」

「えへ、わかった?」

「当たり前じゃない、何年の付き合いだと思ってるのよ。」

「さすがネーヤ、隠し事できないね。ってこらこらモア、食べたいのはわかるけど横に人がいるから・・・。」

と、そんなやり取りが聞こえたかと思ったら突然座っていた椅子に誰かがぶつかってきた。

幸い皿はしっかりと持っていたのでピッサは無事だけど、まったく、せっかくの食事を邪魔するなんてどこのどいつだ?

「すみません、失礼しまし・・・ってイナバ様!どうしてここに!?」

ぶつかって来たと思われる冒険者は若干バランスを崩したもののすぐに体勢を立て直し、くるりと回転して頭を下げようとする。

でも、その頭は何故か途中で止まり、謝罪の代わりに聞こえてきたのは俺の名前だった。

「あれ、モア君?」

「そうです!って、だからどうしてイナバ様がここに?お店にいるんじゃないんですか?」

「えぇ、イナバ様!?」

「ちょっとどういう事!?」

後ろの二人もあわてて前に回ってくるなり驚いた顔をする。

驚きたいのはこっちも同じだけど、ピザに食らいついている顔を見て驚くのはやめて頂きたい。

冷静なフリをしてピッサをさらに戻して深呼吸を一つする。

よし、落ち着いた。

「ちょっと仕事でこっちに来ているんです。店は皆に任せてきました。」

「という事はお一人なんですか?」

「えぇ、今回は私一人です。皆さんは?」

「護衛の依頼で王都まで来たんですけど、せっかくなのでちょっと観光していこうかなって。」

「なるほど、そういう事ですか。」

「あ、大丈夫ですよ!またサンサトローズに戻る依頼を見つけますから!イナバ様のダンジョンを制覇出来なくて他のダンジョンなんていけませんからね!」

何故か慌てた様子で弁解するモア君。

冒険者なんだからむしろ他のダンジョンに浮気するべきだと思うんだけど・・・。

相変わらず義理固いなぁ。

「とかいって、ダンジョンに行こうとしたのは誰だったっけ?」

「ちょっとネーヤ!」

「僕も聞いたよ、腕試しをしてみたいって。」

「ジュリアまで!イナバ様これは、その・・・ってあれ?イナバ様それは?」

百面相しているモア君がふと、俺の脚元にあるものに気づいた。

「あぁ、冒険者証です。ちょっと成り行きで冒険者になってしまいました。ということでここでは皆さんが先輩になりますね。」

「えー!イナバ様が冒険者に!?」

「どうしてまた、イナバ様でしたら護衛なしでも大丈夫だと思うのですけど・・・。」

俺が冒険者になったと聞いて後ろの二人も驚いた声を出す。

店の前で続けられるやり取りに心なしか周りの視線が痛い。

っていうか、このままでは店に迷惑が掛かってしまうな。

「色々と事情がありまして。せっかくですから皆さんも食べて行かれますか?ここのピッサはかなり美味しいですよ。もちろん私のおごりです。」

「「「いいんですか!」」」

って、奢りと聞いた瞬間にこの食いつきよう。

さすがだなぁ。

でも若いんだしこれぐらい図々しくてもいいかな。

それに色々お世話になっている三人だしたまには恩返ししておかないと。

「と、いう事で三人分お願い出来ますか?」

「はい、喜んで!」

三人分の支払いをして出来るまでの間事情を説明する。

まさか王都で知人に会うとは思わなかったけれど、前回もネムリにあったし意外と世界は狭いのかもしれない。

「それじゃあその人の為にダンジョンに潜るんですか?」

「ダンジョン以外にも簡単な依頼は受けようと思ってます。私も初心者ですし、あまり危険なことはできませんから。」

「初心者が出来る仕事となると・・・街の中の方がいいんですかね。」

「最初はそのつもりですが、いずれは魔物との戦闘も視野に入れます。」

「危なくないですか?」

「もちろんそれは承知の上です。ですがそこまでやらないといけない依頼なんですよ。」

三人にはそれとなく内容を伝えてあるけれど、守秘義務もあるので詳しくは説明していない。

『冒険者になってみたいという人がいるので、その手伝いをしに来た』という感じだ。

「街中なら依頼に困らないけど、外となるとあれよね。コボレートぐらいならなんとかなるかもしれないけど、最初は複数人で挑んだ方が安全ですよ。」

「一応ギルドにはそういった部分での手配もお願いしているので、おそらくは大丈夫だと思います。ギルド長の許可も頂いていますから。」

「ギルド長ともう面会してるんだ・・・。」

「さすがイナバ様、そういった部分はぬかりないですね。」

「あそこのギルド長に会えるのって上級冒険者になってからじゃなかったっけ。」

そこはほら、蛇の道は蛇ってやつですよ三人とも。

人脈作りだけは得意ですからね。

「良かったら紹介しましょうか?」

「いえ、実力で何とかします!」

「そうですか?」

「紹介してもらったら?これから仕事しやすくなるかもよ?」

「僕はどちらでもいいけどモアが頑張るっていうなら、今回は見送ってもいいんじゃないかな。」

「もぅ、ジュリアはいつもモアに甘いんだから。」

「だってネーヤに任せたら危なっかしいんだもん。」

「ちょっと、どういう事よ!」

相変わらず仲がいいなぁこの三人は。

「お待たせしました、ピッサ三人分です!」

とか思っていたら三人分のピッサが出来上がった。

「うわぁ、いいにおーい!」

「これが噂のピッサですか。」

「え、ジュリア知ってたの?」

「サンサトローズにいるときに他の冒険者から聞いていたんです。その時から一度食べてみたいなって考えていたんだ。」

「へぇ、それは楽しみだ。」

「熱いので気を付けてくださいね、あ、いらっしゃいませ!」

三人分のピッサの匂いがあたりに広がり、それに釣られるように別のお客さんがやって来た。

流石にここにいると邪魔になるかな。

「ごちそうさまでしたまた来ますね!」

「え、イナバ様もう行っちゃうんですか?」

「三人はしばらくここに?」

「はい、そのつもりです。」

「お手伝いをお願いするかもしれません。その時はギルドを通して連絡するかもしれませんが構いませんか?」

「もちろんです!」

「ありがとうございます、ではまた。」

もう少し話していたいけど他の用事もあるので今日はこのぐらいにしておこう。

まさかここで知り合いに会えるとは思っていなかったけれど、あの三人なら安心して仕事を任せられる。

当分ここにいるみたいだし、ダンジョンに潜る時はぜひ声を掛けたい所だ。

三人に別れを告げてそのまま別の場所へと足を向ける。

え、それはどこだって?

王都に来たのなら一度は顔を出しておかないといけないところかな。

その場所もギルドで聞いていたので迷う事は無い・・・だろう。

うん、多分。

市場を行き交う人達に流されるように俺は目的の場所へと向かった。
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