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第十七章

パワーワードがマシマシです。

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馬車のに飛び込んできたのは俺と同い年ぐらいの男性、見た目から考えるにヒューリンだろう。

THE執事って感じの服装なのはどこも同じなんだな。

テナンさんが着るとベテラン執事、この人はどちらかというとヤリ手執事って感じだ。

馬車の中に俺しかいない事を確認すると、ひどく残念そうな顔でうなだれてしまった。

おーい、どういうことか説明してくれ。

と思った矢先、すぐに顔を上げ仕事モードの顔で俺を見る。

「お客様大変失礼を致しました、てっきり我が家のお嬢様がお戻りになられたのかと思い慌てて駆け寄った次第ですお許しください。」

「いえ、大丈夫です。」

「失礼ですがお名前をお伺いしても?」

「イナバ=シュウイチと申します。サンサトローズのププト様より依頼されてこちらに参りました。」

「これはイナバ様!旦那様よりお話は聞いております、ようこそレイハーン家へ、歓迎いたします。」

精錬された挨拶に男ながら見とれてしまった。

うーむ、イケメン・・・。

カムリには負ける、いや匹敵するほどのこの顔面偏差値。

世の中顔じゃないというけれど、顔がいい方が絶対にプラスであることに間違いはないだろう。

別に今の顔が嫌いとかじゃないけれど、女性が美人をうらやむように男もイケメンをうらやんでしまう。

ま、俺には美人な奥さんが二人もいるし人生勝ち組だからね!

べ、別に負け惜しみじゃないんだから!

「どうかされましたか?」

「なんでもありません。」

「どうぞ屋敷までお進みください、すぐに家の者が参ります。」

「貴方は?」

「私は従者の方にお話がございますので、失礼いたします。」

馬車に飛び込んできた時とは違い仕事モードに切り替わったようだ。

さっきはよっぽど慌てていたんだろうなぁ。

『お嬢様ご無事ですか!』か。

どう考えても面倒ごとが起きているとかんがえるべきだろう。

おのれププト様。

何をさせるつもりかは知らないが戻ったら文句を言ってやる。

いや、どういう依頼かはまだわからないんだけどさ、どう考えてもあかんよねこの流れ。

なんてことを考えながら屋敷への一本道を進んでいく。

ちょっと気になって後ろを振り返るとレットさんがさっきの執事となにやら話し込んでいた。

情報収集だろう。

レットさんはこの家の事を知っているわけだし、そのお嬢様か何かについても知っていておかしくない。

近づくにつれわかって来たんだけど、この家屋根だけじゃなくて壁も若干緑なんだな。

今までどの家も真っ白の漆喰か木製だったので薄緑色ってのは初めてだ。

何かを縫っているというよりも塗り込んでいるっていう感じかなぁ。

なんて見とれていると気づけば玄関のすぐそばまで来ていたようだ。

出迎えは無い。

一応サンサトローズの領主様から紹介されたんですけどーなんて、心の狭い事は言わないよ?

でもせめてお出迎えは欲しかったっていうかなんて言うか・・・。

え、それが心が狭い?

なんてひねくれた事を考えているとそれを見透かされたように扉が開き、一人の女性が出てきた。

「ようこそお越しくださいました、イナバ様ですね。」

美人だ。

いや、これは決して浮気とかそんなんじゃなくて、マジで美人だ。

それだけじゃなく妙に色気がある。

泣き黒子のせいだろうか。

いい夫婦の日に結婚した女優さんのような感じがする。

ほら、セクシー女優で有名になったあの人ですよ。

思い浮かべました?

そう、まさにあの感じなんです。

胸もエミリアと同じいやそれ以上のサイズかもしれない。

あぁ、別に谷間が見えているわけじゃないんです。

シックな装いのドレスで胸元はしっかりと隠されている。

それでも分かるあのサイズ感。

ヤバイ、世の中の9割を越える男性がそそられる魔性の女だ。

この人はヤバイ(性的な意味で)、そう俺の第六感が警告している。

「いかがされました?」

「あ、すみません見とれてしまって。」

「まぁお上手ですこと。」

名誉の為に決して乳に見とれていたわけではないということだけは言い訳させてくれ。

違う、違うんだ。

あの乳が悪いんや。

「改めましてプロンプト様の紹介で参りましたシュリアン商店のイナバ=シュウイチと申します。このたびはお招きいただきまして有難う御座います。」

「このレイハーン家の当主、という事になっておりますアニエスです。遠い所よく来てくださいました。」

「アニエス様よろしくお願いいたします。」

「アニエスで結構ですわイナバ様。当主という名目ですがそれは亡き夫がそうだっただけの話、今は仮初の当主にすぎません。」

「ご主人様が、それは失礼しました。」

「もう昔の話です。」

俗に言う未亡人という奴か。

いかん、魔性の女ステータスに新たな称号が追加されてしまった。

未亡人。

世の男が反応するキーワードナンバーワンといっても過言では無い。

恐ろしい、なんて恐ろしい人なんだ。

「でもまさかププトが約束を守ってくれるなんて、ちょっと信じられません。」

「約束ですか?」

「娘の件で力を貸して欲しいと相談したら『良い男がいるから今度紹介する』言ってくれたのですけど、あの人昔から約束を守ってくれないから半ば諦めていたんです。」

「昔から、ですか。」

「ふふ、どういう関係か気になります?」

意味ありげな顔に背中がゾクゾクとしてしまう。

ダメだ、俺には妻がいるんだ。

おちつけ、落ち着け俺。

深呼吸をして心を落ち着ける。

「えぇ、非常に気になります。」

「そうね、お話しても良いけどそういった話は中に入ってからにしましょうか。」

おっと、それもそうだ、玄関先でするような話題ではない。

「失礼しました。」

「いえいえ、どうぞお入り下さい。」

魔性の女、もといアニエス様に招かれて屋敷の奥へと進んでいく。

まず感じたのは思ったよりも人がいない。

普通ならばアニエス様以外にも出迎えが良そうなものだが誰も来なかったし、そこそこ広いお屋敷なのに掃除やメンテナンスをしているメイドさんなんかもいない。

いたのは最初に出会ったあの執事だけだ。

まさか彼一人でこの屋敷全てを管理しているのか?

そんなまさか。

でも掃除は綺麗にしてあるしなぁ・・・。

アニエス様がしているとか?

あのボリュームでメイド服を着て掃除とか死人が出るぞ?

前を歩くアニエス様の揺れる黒髪ロングヘアーから時々見える首元。

それだけで色気がハンパないというのに。

今思えば黒髪って珍しいな。

この世界って結構カラフルだからなんか親近感が沸くというか、よけい色っぽく見えるというか。

なんだ、三日嫁さんと会えないだけで欲求不満なのか?

落ち着け、落ち着くんだ!

「こちらでお待ちいただけますか?すぐにお茶を準備してきますから。」

「アニエスさんが?」

「いけない?これでも得意なほうなんですよ。」

「とんでもありません、楽しみです。」

「随分と凄い人だと聞いていたのだけど、大人しい人なのね。」

それだけ言うとアニエス様は廊下の奥へと消えていった。

通されたのは良くある応接室。

高そうな対面ソファーとテーブル。

いきなり食堂に通すようなあの人と随分違うな。

ってそれが普通か。

勝手に座って良いものかと悩んだが立ったままってのも変なので下座側のソファーに腰掛ける。

こんな時横にエミリア達がいればこんな時間も楽しかったんだけどなぁ・・・。

無言の時間がとても長く感じてしまう。

そしてその時間が長ければ長いほど手持ち無沙汰になり、つい辺りをキョロキョロしてしまう。

そして見つけたのは本棚の上に飾ってあった紋章。

あれって確かププト様の屋敷の奴じゃないのか?

思わず立ち上がり本棚まで近づいたその時、

「すみませんお待たせして、茶葉が見当たらなくて手間取ってしまいました。・・・あら?」

と、トレイに香茶の入ったカップを乗せたアニエス様が戻ってきた。

別に悪い事をしているわけじゃないのに非常に気まずい。

「すみません勝手に。」

「大丈夫ですよ、時間がかかってしまいごめんなさい。」

「これはプロンプト様の紋章ですよね?」

「ププトでいいですよ、親しい友人と聞いていますしこの場に本人はいませんから。それと、質問の答えですが間違いありません。」

テーブルにトレイを置いたアニエス様が俺の横までやってくると、仄かに香水か何かの匂いがしてくる。

それがまた良い匂いで、昔の俺だったら『これが未亡人の香りか!』とか勝手に興奮していただろう。

大丈夫、今の俺もそんな感じだ。

「親しい間柄である事はなんとなく察するんですが、お聞きしても大丈夫ですか?」

「彼とは義理の兄弟という事になります。」

「と言いますとご家族様がご結婚をされて?」

「えぇ、妹が彼に嫁いだんです。」

という事はこの人はププトさんの義理の姉ということになるのか。

未亡人の義理の姉。

アカン。

パワーワード満載でちょっとついていけない。

でもまてよ?

義理の姉が通じるのはププト様であって俺にとってはただの未亡人じゃないか。

ってそれだけでも十分パワーワードです。

あれ、でもププト様の奥さんって亡くなってたんじゃ。

「そうでしたか・・・。」

「別に気にしなくても大丈夫、あの子が亡くなったのは大分前の話ですし夫が亡くなってからもだいぶ落ち着きました。お互いに一人身だから気を利かせてイナバ様を呼んでくださったんでしょうね。領主様なんだから私のような血の繋がらない親戚の事は気にしなくても良いのに。」

「血がつながっていないとはいえ、ププト様にとっては大切な奥様のお姉様ですから。そういう所は義理堅い人だと思っています。」

「えぇ、義理堅くて困っちゃう。でも今回に限ってはそれが嬉しかったことは無いわ。」

ププト様の話しをしている時は優しい目をしていたのに急に真面目な顔になるアニエス様。

「では、どういう理由で私が呼ばれたのかお聞きしてもよろしいですか?」

「そうね。そのためにはまずこのレイハーン家についてお話しないといけないかしら。どうぞ掛けてくださいな。」

それから聞かされた話は涙涙のお話で、もって来たハンカチが大変な事になってしまった・・・。

なんてことはなかった。

でも、かなり大変な境遇である事は間違いないようだ。

簡単に言うと、レイハーン家というのは元は冒険者でダンジョンを攻略する過程で財をなし先々代がダンジョンを攻略した事で貴族になりあがったそうだ。

根っからの冒険者家系であり、先代もアニエスさんの旦那様も冒険者としてダンジョンに潜っていたそうなのだが、不幸にもダンジョンに潜っている時に旦那様が亡くなってしまった。

幸いにも子供が一人いたおかげで血は残ったのだが、どうやら問題はその子供にあるようで、それを何とかする為に俺が呼ばれたということらしい。

うーん。

何で俺?

っていうのが率直な所だ。

俺は商人であって冒険者ではない。

精霊の祝福を授かってはいるが、メルクリア女史やリュカさんのように実践でガンガン使うようなタイプではないし、もちろん一人歩きしている噂のように戦えるわけがない。

それを知らないププト様では無いはずだけど・・・。

「つまりアニエスさんとしてはお子さんには冒険者になって欲しくない、そういうことですね?」

「勿論あの子にそういった適正があれば冒険者になるのも吝かではありません。そういう家系ですし、いずれはとあの子も思っていたでしょう。でも、どう考えてもあの子には冒険者は向いていません。」

「そこで私を呼んで冒険者を辞めるように説得して欲しい。」

「そうです。冒険者相手にお商売をしておられるあのシュリアン商店のイナバ様であれば、あの子も話しを聞いてくれる、そう考えています。」

「ププト様もそのつもりで私をここによこしたと。」

「お願いします、どうかあのこの目を覚まさせてやってくださいませんか!?」

先程まで淡々と話しをしていたアニエス様が急に身を乗り出し、俺の右手を両手で包んでくる。

柔らかく温かな感触。

危なく『はい。』と応えそうになったが、大切な仕事である以上無責任な事は言えない。

なんせ金貨8枚もの報酬を掛けられているんだ。

絶対に成功させるという確固たる確証がない状態では安易に受けるべきではない。

あぁ、でもこの柔らかな手にぎゅっと握られてしまうと・・・。

イカンイカン。

流されてはいけない。

心を強く保つんだ!

「あの、一つお尋ねしたいのですがそのご本人様は今どちらに?」

「そ、それは・・・。」

そうまずはそこからだ。

冒険者に向いていないという具体的な理由を聞かせてもらっていない。

身体的なことなのか、それとも心理的なのか。

性別ってことはまぁないだろう。

女性冒険者も沢山いるし。

男性であればむしろ冒険者になるべきだといわれるだろうしなぁ。

ということは、病弱だとか心身に欠損があるとか死ぬ可能性が高いという部分は考えられる。

でもなぁ、片手でディヒーアを薙ぎ倒す冒険者がいるしなぁ。

といってもあの人は後天的な欠陥だけど。

ともかくまずは本人と話してみなければ話は始まらない。

でも本人に合わせろといった途端にアニエスさんの表情が曇った。

それと同時に握られていた手が離れていく。

うぅむ。

理由ワケありですかね。

「どうかなさいました?」

「あの子はいま、いないんです。」

「いない?」

「昨日の朝から姿が見えなくて、今家の者総出で探しているのですが・・・。」

「こんなことしている場合じゃないじゃないですか!」

「そんな遠くには行っていないはずなんです。お金も持たせていませんし、この街のどこかにいるはず。時々姿をくらませる事はありましたけどお腹が空いたらすぐ戻ってきていたのに・・・。」

まさかの行方不明!?

さすがの俺でもそれを見つけるのは無理ですよ?

というかなんでそんなに冷静でいられるんですかこの人は。

大切な跡取りがいなくなったんだよ?

お金を持たせてないからって遠くに行かない保証は無い。

あの美少女のように誰かの善意に頼って・・・。

そこで再び俺の第六感が反応した。

あぁ、まさか。

いや、そんな事は無い。

いくらなんでも四度目は無い。

でも、本当にそうか?

「奥様!御無事です!戻ってこられました!」

「本当!?あぁ、神様感謝いたします!」

と、先程の執事が突然部屋に入ってきて渦中の人物が戻ってきた事を告げた。

馬車の時といいマナーがなっていないぞ、イケメン執事!

ってあれ?

あの執事、馬車で俺になんて言った?

『お嬢様』そう言っていなかったか?

つまりいなくなったのはこの家のお嬢様で、しかも一人娘。

お金を持たずに何処かへ行ってしまって、そして今戻ってきた。

「さぁ、様、奥様にお顔を見せてあげてください!本当に心配しておられたんですよ。」

あぁ、そんな、そんなはずが無い。

イケメン執事に促されて部屋に入ってきたのは、あの時大聖堂の前で馬車を降りたあの美少女で・・・。

「ただいま戻りましたお母様!」

「マリアンナ!一体貴女は何処に行っていたの!でもよかった、本当に良かった。」

「御心配をかけて申し訳ありませんお母様、でも大丈夫です。そこにおられるイナバ様が私を助けてくれたのですから。」

「え、貴女は何を言って・・・。」

「お久しぶりですイナバ様。私言いましたよね?またいずれって。」

そういいながら美少女マリアンナは俺に向って優雅に一礼したのだった。
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