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第十六章

フラグはどうやって立てるのか

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大ボスが襲来してから半日。

エミリア達を交えて繰り返された話し合いも夕食前には区切りがついた。

明日、デモを行なっていた人々が居なくなる。

そのタイミングを狙って四箇所の門を封鎖、それ以降は身分を証明できる人のみが出入りできるように制限する。

住民には出る際に証明書を発行し、戻ってくる時にはそれを提示すれば入れるようにする。

こうすることでサンサトローズの住民でない人が簡単に入り込めないようにするわけだな。

もちろん住民が外に出て誰かに譲渡する可能性も否定できないが、それが起きたとしても入れるのは一人だけ。

大きな問題は発生しないと考えている。

閉鎖は陰日の間を予定しておりそれまでに決着を付けたいと思っているのだが・・・。

近隣の街でどのような動きを見せるか分からないので今は何ともいえないなぁ。

幸い教会や混成議会から発信された通告が周知されつつあるので、例の団体の力が弱くなっているのは確実だ。

怖いのは勢いが減ったとき。

窮鼠猫を噛むじゃないけれど、手負いの獣ほど怖いものは無いからね。

何かとんでもない事を仕掛けてこないとも限らない。

出来るだけ連携を密にとって不測の事態にも対応できるようにしておきたいんだけど・・・。

こんな時に冒険者が居てくれればとどれだけ思ったことか。

一応冒険者を呼び戻す案も出したけれど、再び奴等が戻ってきてトラブルになる事を考えれば中々戻すのは難しい。

近隣の街には例の連中が行くかもしれないので退避するようにとの伝令は発してある。

こっちに戻ってくるかもっと離れた街に行くかはわからないけれど、うちの店から離れていくのは確実だ。

騒動が落ち着いたとして本当に戻ってくるのかねこれは・・・。

「では明日は予定通り一度店に戻るということで。」

夕食前に用意された部屋に戻り帰る準備をする。

といっても着の身着のまま来たので荷物らしい荷物は無いんだけど・・・。

三日ぶりいや四日ぶりになるのか?

こんなに店を開けたのは久々だ。

問題ないとの連絡は受けているから心配はあまりしていないけど、この先の事を考えると別の不安が頭をよぎる。

「分かりました。」

「夕刻までに戻ってくれば問題ないだろう。定期便は・・・使えないのだったな。」

「街道を封鎖していますので定期便は運休です。その代わり騎士団の用意してくださる馬車に乗りますので迎えがつき次第すぐ出発します、朝は早めの準備お願いしますね。」

「ジル殿はどうする?」

「声をかけましたがサンサトローズに残られるそうです。」

王都から連絡が来るそうなので離れられないそうだ。

なんでも重要な連絡なんだとか、良い話だったら最高なんだけどなぁ。

「情報収集は引き続きノアさんにお願いしてください。半日程度なので特に問題は無いと思いますがサンサトローズに何か動きがあればすぐに動けるようにしておきましょう。」

「騎士団は引き続き周辺の警戒に当る。問題は街道の封鎖をどうするかだが・・・本当に解除して良いのか?」

「彼らがいなくなった以上封鎖する理由がありません。ただ、村や店に何かしらの圧力をかけてくる可能性は否定できませんので街道の封鎖ではなく村への駐在をお願いしたいんですが・・・問題ないですかね。」

「領内の警護も騎士団の仕事だしププト様の指示があれば問題ないだろう。封鎖していた団員の半数ほどであれば支障はないはずだ。」

あまり大人数で警護するとまた奴等が文句を言い出しかねないので最少人数でお願いすることになるだろう。

名目はまぁ、陰日に備えてとかでいいかな?

「その辺りはお任せします。」

「まさか私達の居場所が知られているなんて思いませんでしたね。」

「相手が相手ですから諜報部員のような部署があるのかもしれません。確かに騎士団長だけならまだしもジルさんが出入りするのは確かに不自然でした。最初同様に荷物にまぎれて出入りしていたのなら別だったんでしょうけど・・・。」

「そこまでする必要性を感じていなかったのもまた事実だ。もっとも今回のような特殊な場面はもうないと思うがな。」

「そうであって欲しいです。」

まぁばれた所で彼らがこの館を取り囲もうなら問答無用で排除されていただろう。

むしろはじめからそうしておけばよかったのでは?とも思ってしまう。

それもまぁ終わった話だ。

彼らはもういなくなるんだし隠れる必要ももうない、つまり明日からは堂々と出て行って構わないという事だな。

「別の手段、本当にあるんでしょうか。」

「さぁ、今のところは何とも。」

「シュウイチはないと踏んでいるのだろう?」

「そうやって匂わせておきながら時間を稼ぎたいのでは無いかと考えています。元老院内だけでなく別の方面からも例の団体への圧力がかかっていますから今までのようには動けなくなっているはずです。」

「王都騎士団が動いているかは今確認中だ。明日の朝には何らかの連絡があるだろう。」

「動いていると思いますか?」

「十中八九無い。何故なら騎士団を動かせる権限を持っているのはレアード陛下だけだからだ。むしろ元老院に動かせる力があるのであればそれはそれで問題になるだろう。」

国王へいかにしか動かせないのに元老院で動いてしまったらそりゃ問題になるよね。

なるほどやはり別の手段というのは無いと考えて良いだろう。

別の街に移動して時間を稼ぎ、何かしらの策をめぐらせようとしている。

そんなところか。

出来ればそこに追い討ちをかけて二度とこの辺りに顔を出せないようにしたいところだけど・・・。

出張っているのがほぼ無関係な人たちなので、彼等を出禁にしたところで何の意味もないんだよなぁ。
「王都でどんなやり取りが行なわれているかはわかりませんが、こちらに風が吹いているのは間違いないはずです。いくら彼らが冒険者は不要だと叫んでも彼らを必要としている人が大勢居る以上それが実現する事はありません。」

「そして彼らがいる限りダンジョン商店はなくならない、そうだな。」

「もちろんです、こんな所で終わるつもりはありません。」

せっかくこっちに流れが着ているのにこんな所で立ち止まるつもりは無い。

追い風が吹いているのならそれに乗って前に進むだけだ。

しばらくして夕食に呼ばれその日はいつもより早く眠りに着いた。


「お世話になりました。」

「夕刻までの自由時間だ、しっかり羽を伸ばして来い。戻ってきたら忙しくなるぞ。」

「それを聞くと戻ってきたくなくなりますね。」

「お前が売った喧嘩なんだ最後まで責任を取るんだな。」

昨日喧嘩売ったのは俺だけじゃなかったように思うんだけど・・・。

ま、それは言わない約束か。

軽く一礼をしてから館の前に横付けされた馬車に堂々と乗り込む。

中には重厚な鎧を身に着けた騎士団の方が10人程乗り込んでいた。

「今日はよろしくおねがいします。」

「狭い所ですがどうぞおくつろぎ下さい!」

「街中だが念の為警戒を怠るな。」

「了解しました!」

騎士団を退団してまだ半年程、彼らからしてみればシルビアはまだ騎士団長と同じなのだろう。

真ん中を開けてくださったので団員の皆さんに挟まれるように着席する。

周囲に問題がない事を確認すると馬車がゆっくりと動き出しサンサトローズへの坂を下り始めた。

昨日までは日の出と共に声を上げていた人達の声は聞こえてこない。

どうやら今日は大人しくしているようだ。

「何も無いと良いのだがな。」

「シルビア、それは何か起きて欲しいと言っているのと同じですよ。」

「そんなつもりは無いぞ?」

「元の世界には言霊という言葉がありましてね、良い言葉を発すると良いことが起こり、不吉な言葉を発すると凶事が起こるとされているんです。」

「それは面白い考えだ、気をつけるとしよう。」

言霊、又の名をフラグとも言う。

フラグをたてればルートが変わる。

不用意な発言でどれほど痛い目を見てきたか・・・って今の俺がそうか。

相手を考えずにあんな事いうもんだから目をつけられたんだった。

気をつけます。

坂を下り噴水広場を東へ、突然街中を疾走する騎士団の馬車に通りを歩く人たちが驚いた顔をしている。

ここまでは問題なし。

あとは騎士団前を通り抜け街道に設けられた関所を抜ければ一安心だ。

ってこれはフラグじゃないですよ?

何も期待してませんからね!

「騎士団前通過します。」

「周辺異常なし!」

「異常なし!」

「前方関所付近に集団あり、減速します。」

え、マジっすか。

今のでフラグ立てちゃいましたか?

すみません勘弁してください。

「何者だ。」

「わかりません、農民のようにも見えます。」

「定期便が出ない事を御存じないのでしょうか。」

「どうしますか?」

「どうするもこの馬車にはこれ以上乗れん。運休を伝えるよりほかないだろう。」

ゆっくりと減速する車内に緊張感が走る。

団員の皆さんが一瞬にして中腰になり武器に手をかける。

エミリアとシルビアも同様に鋭い目つきで前方を睨みつけている。

「停車します。」

「各自警戒を怠るな。」

「「「「応」」」」

ギシッと車体を軋ませて馬車が停車する。

馬を操っていた団員が降りて集団に向っていくのが見えた。

首を伸ばして前を覗き込むとなにやら必死に頭を下げているようだ。

何だろう。

しばらくやり取りが続き団員がこちらに戻ってきた。

「どうした。」

「至急イナバ様のお力をお借りしたいと申しています。騎士団は信用できないと。」

「どういうことだ?」

「なんでも村が魔物に襲われ助けを求めても誰も来てくれないので、他の村を守ったイナバ様なら何とかしていただけると思い直訴しに行こうとしているようです。」

ん?

救援?

魔物の出現は報告があるけど襲われたって話は聞いていないな。

「妙だな。」

「私もそう思います。ですが本当であれば放っておく訳にもいきませんし・・・。」

「仮に魔物に襲われたとして緊急事態には騎士団が出ることになっているはず、そうだったな?」

「その通りです!」

「ならばまずは騎士団が行くべきだろう。シュウイチが出て行った所で何か出来るわけでは無いからな。」

シルビアの言うとおりだ。

どこぞの俺TUEE!さんだったら一人で乗り込んで魔物なんて蹴散らして帰ってくるだろうけど、残念ながらそんな能力はありません。

いつも戦ってくれるのは俺ではなく他の皆さんですからね。

いつもお世話になってます!

「そうですね例の連中の罠である可能性を否定できませんし、私は村にいない事にして騎士団に調査をお願いしましょう。」

「かしこまりました!」

仮にこの集団が例の団体から派遣されたのであれば俺がこの馬車に乗っている事を知っているはず。

ならば俺は居ないと言われたら真っ直ぐこの馬車に向ってくるだろう。

そうでないのならば本当に村の人かもしれない。

どちらにせよ今ここで俺が出て行く必要は無い。

再び事情を説明に行き集団は諦めたようにわき道にそれた。

よし、どうやら例の連中ではなかったようだ。

「念の為通常よりも多い人数で村に向え、何が起きるかわからんからな。」

「そのように伝えておきます。」

「出発します!」

緊張が解け団員が席に着くのと同時に馬車は再び動き出した。

関所を抜ければ後は村まで一直線だ。

「魔物か。」

「どうかしましたか?」

「いや、時期が時期だけに気になってな。」

「明日から陰日ですしね。」

俺もそれを危惧しているんだ。

何か良くない事が起きる、そんな気がしてならない。

「こんな時冒険者が居れば話が早いのだが・・・。何かとそりの悪かった我々だが彼ら無しではまともに治安維持が出来ないのだと今になって痛感するな。」

「騎士団は犯罪者を冒険者は魔物を。役割が違うのですから致し方ありませんよ。」

「騎士団の居るサンサトローズはまだしも他の村は冒険者によって生かされているのも同じだ、早く戻ってきてもらわねば大変なことになるかもしれん。」

「シルビア様、言霊ですよ。」

「おっとそうだった、すまんすまん。」

エミリアに注意されてシルビア様が可愛く頭を下げる。

大変な事・・・か。

これってどう考えてもフラグだよなーなんて、考えてしまうことこそがフラグになっている事に俺はまだ気付いていなかった。

「とかなるのだけは勘弁して欲しいなぁ。」

「何がですか?」

「いえ、こっちの話です。」

「エミリアいつものことだ、そっとしておいてやれ。」

シルビア様がいたい子を見るような目で俺を見てくる。

いやいや、最初に言い出したのは貴女で・・・いえ、何でもありません。

「そうだ、村に着いたらニッカさんへの報告をお願いしても良いですか?」

「任せておけ。」

「その間にエミリアと店の方を終わらせてきます。話を聞くだけですからそんなに長い事はかからないと思います。」

「夕刻に村に集合でいいな?」

「そうですね。」

丘を登りきり馬車が一気に加速する。

街道が整備されてサンサトローズと村までは一刻ほどで行き来できるようになった。

前までなら昼の中休みを目安にしていただけに夕刻まで時間を使えるのはありがたい。

話しを聞くだけといいながら何かしらするとすぐ時間経っちゃうんだから困ったものだ。

「考え事か?」

それからしばらく後ろに流れていく景色をぼんやり眺めていたら前に座っていたシルビア様が顔を覗き込んできた。

「まぁそんなところです。」

「さっきの魔物の件か?」

「それもありますが今後の事とかまぁ、色々ですね。」

「余り考えすぎるなよ、お前は先のことばかり考えてしまうクセがあるからな。私もエミリアも居る、大丈夫だ。」

「有難う御座います。」

エミリアが私も居ますという感じで俺の手を強く握ってくる。

ほんと良い奥さんを貰ったわ。

この二人を置いて元の世界に帰るとか今更考えられないよな。

「前方に建物あり、村が見えてきました。」

「さぁ忙しくなるぞ、やる事をやってさっさとサンサトローズに戻らねばならん。まぁ戻ってからも忙しいがな。」

「あはは、そうですね。」

戻ってからのほうが大変だ。

一応羽を伸ばすってことになっているんだし束の間の自由時間だ、ゆっくりさせてもらおう。

ゆっくり出来るかは・・・知らないけどね。
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