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第十六章
窓の向こうから聞こえる声
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「急な来訪にも関らずお時間を頂きありがとう御座います。」
「そのような世辞は良い、それよりも元老院の通告について話をしにきたのだろう?まずはそこに座れ、話はそれからだ。」
ププト様に促され手前の椅子に座る。
エミリアも一礼してから横の椅子に座った。
「どこまで御存知ですか?」
「どこまで、難しい質問だな。お前が元老院に名指しで文句を言われている事か?それとも街に溢れる面倒な奴等の事か?それとも閉鎖した冒険者ギルドについてか?」
「そこまでご存知でしたら私が来る必要はなかったようですね。」
「何を言う、これからどうするかを話し合うためにはお前が来なければ始まらん。恐らくくるだろうと思っていたが、まさか荷物にまぎれてくるとは思わなかった。」
「私が何処に行き何をしているか、監視されているようでしたので欺く為あのような形を取らせていただきました。」
「それで正解だろう。お前がここに来たと知れれば連中はより過激にお前を攻撃するはずだ。そして、匿っている私も同様にな。」
俺を追放しろ!って言うのはまぁ分かるとして、そんな俺を匿ったという理由だけで領主を告発するとかいくら元老院とはいえやりすぎじゃないでしょうか。
あくまでも彼らの目的は冒険者追放のはず、冒険者ギルドが閉鎖された事で目的はほぼ果たしたようなものだと思うんだけど・・・。
もしかしたら別の目的があるんだろうか。
「では御迷惑を掛けないためにも早々に退散するようにしましょう。まず、元老院の告発に関しては事実無根であり貧困者を冒険者に仕立て上げているような事実は存在しないと商店連合を通じて発信しております。また、教会関係者のジル様の力をお借りして、ラナス様と連絡を取り教会からも同様の発言をしていただく予定です。恐らくは秋頃のチャリティに目をつけその後新設した保護施設をネタにあのような嘘を風潮したのかと。」
「お前が冒険者を増産できるのであれば今頃金に困る事などないのにな。」
「全くです。」
貧困者を冒険者に仕立て上げダンジョンに送り込み、道具や装備を売りさばいている。
もしそうであれば今頃お金が足りない!なんて大騒ぎしてないよ。
「その困っているお前には悪いが、私の独断で冒険者ギルドは閉鎖させてもらった。戻ってきていた冒険者も近隣の都市に逃げるよう指示してある。」
「なんでも街中に溢れる例の人たちが出て行けと騒いだとか?」
「その通りだ。どうやら張り紙のような手ぬるい事を止め実力行使に出てきたようでな。」
「しかしながら冒険者が居なくなったのにもかかわらず何故彼らは残っているのです?」
「わからん。事前にしっかりと宿を取っており今は大人しくしているせいで街から追い出すことも出来ない状況だ。住民から早くどうにかしてくれといわれているのだが、違法な事をしているわけでもないからな勝手に追い出すことも出来ん。今は騎士団が監視に当っている。」
ふむ、あの人達に関してはププト様も把握できていないのか。
ちゃんと宿を取っている辺り用意周到だといわざるを得ない。
まるで誰かが手引きしたみたいだけど・・・。
「ちなみに宿の予約は誰が?」
「調べてみたが恰幅の良い商人が突然現れ空いている部屋を全て予約したいと言ってきたそうだ。最初は断ったそうだが前金で全額置いていった手前断ることも出来ず現状では白鷺亭を除き全ての宿が満員という感じだな。」
「白鷺亭はどうして?」
「宿の格が何だと適当に言って断ったのだろう。ハスラーのことだ、異常な状況を事前に感じ取ったのかも知れんな。」
うん、ハスラーさんならありえるだろう。
あの人の危機管理能力は忍者並だからね!
「騎士団にはシルビアを向わせましたので街にうろついている人達への対処は上手くやってくれると思います。」
「そうか。騎士団を脱退したにも関わらず苦労をかけるな。」
「身内を放っておけない人ですから。」
「そしてお前もよく面倒な事に巻き込まれるものだな。」
「テナンさんにも同じ事を言われましたよ。」
「そうか、テナンまでそう言ったか。」
アッハッハと声を出して笑うププト様。
こちとら笑い事じゃないんですけどねぇ。
「教会の他、元老院参謀ガスターシャ様にも連絡をして何か手を打っていただけないかとお願いをしてあります。こちらとしては他に出来る事がないので、後は様子を見ることしか出来ません。」
「元老院の半数近くがあの通告に署名している。逆を言えば半数近くを何らかの形で買収した可能性があるということだ。ほんの数日で例の団体がここまで力を増すとは思えん、何かしら裏でやっているに違いないだろう。」
「ですがその証拠はどこに?」
「証拠?そんなものあるはずがない。ないから探すのだ。」
なるほど。
疑わしいのであれば徹底的に締め上げて探すのか。
元老院を半分に割っての大騒動、これってもしかして俺の方よりも大変じゃない?
まぁ俺の知ったこっちゃないけど・・・。
「一つ質問なのですが。」
「何だ?」
「冒険者ギルドを閉鎖、冒険者を避難させたのは英断だと思います。ですが依頼はどうされるんですか?」
「ギルドを閉鎖した以上依頼の受注も停止している。」
「それってまずいのでは?」
「あくまでも閉鎖と避難は限定的な措置だ。このような状況では急場の依頼などは来ないと思うが・・・。」
「それはサンサトローズ内に限る話ですよね?近隣の村々は関係ないわけですからそこから出される依頼はどうするのですか?特に魔物関係に関しては放っておくわけにも行きませんよ?」
「対応したいのは山々だが騎士団員は全て出払っている現状では対応は難しいと言わざるを得ん。」
つまり、村でまた魔物が襲ってきた!ってなっても誰も助けてくれないわけだ。
俺達の所にはガンドさん達がいるから何とかなるかもしれないけれど、他の村に叩ける人がどれだけ居るんだろう。
しかも今は春節になってすぐ、ついこの間魔物が増える時期だよねって話しをしたばかりじゃないか。
それってやばくないですか?
「近隣のギルドへ救援要請などは?」
「例の団体が来て以降、近隣ギルドからも確実に冒険者の数が減っている。よほど緊急の依頼でもない限り救援要請は出せんな。」
「ちなみによほど緊急の依頼というのは?」
「盗賊団に村が襲われた、魔物の大軍に襲われた、隣国が侵入してきたぐらいか。」
「それって起こります?」
「むしろ起こると大変な事になる。つまりはそういうことだ。」
救援は出さないよ。という事のようだ。
マジかー。
サンサトローズだけじゃなく近隣の街からも冒険者が減ってるって、それ致命傷じゃないですか。
この街にとっても俺にとっても。
問題が解決しても間違いなく冒険者戻ってこないよね?
元の状況に戻るのに二週間、いや最悪一期はかかるかもしれない。
そうなればもう春節も半分終わりだ。
残り半分で金貨10枚稼ぐの?
無理ゲーじゃね?
「出来る限りの事はするつもりだ、だが我々に出来る事にも限界がある。兎に角今は不気味な連中が街から出て行くのを祈るしかないな。」
「・・・そうですね。彼らの目的が分からない以上冒険者は戻せませんしギルドも再開できない。」
「お前達の村には別に騎士団員を派遣する手筈は整えてある。商店ならびに村には危害を加えさせないから安心しろ。」
「助かります。」
「元老院や例の団体が何と言おうと冒険者は必要な存在だしお前が無実なのも変わりない。今は耐えろ、それだけだ。」
今は耐えろ・・・か。
それしかないよな。
いくら俺が策を講じようとも即効性があるわけではない。
反応が出るとしても一日、いや二日はかかるだろう。
次の定期便が出るのが三日後。
陰日がある事を考えると約八日はまともに営業できないわけだし、その間に何かしらの答えが出るのを祈るしかないか。
その間なにしよう。
村の手伝いはするけれどそれでも暇だろうしなぁ。
筋トレ、勉強、後は寝るだけか。
「果報は寝て待てとも言いますしね。」
「何だそれは。」
「良い知らせは寝てたらやって来るという諺です。」
「そうだな、何も出来ないのならば上手い物を食べて寝るに限る。まずは食事だ、食べていくだろ?」
「ですがシルビア達に動いてもらっていますし・・・。」
「やることが終われば戻ってくるだろう。果報は寝て待て、お前が動かない方が平和なことだってある。」
つまり俺が出ると邪魔だから大人しくしとけってことか。
まぁそうなんですけどね。
「シュウイチさん今は待ちましょう。」
「嫁もそう言っているではないか、お前は働きすぎなのだ偶にはゆっくり休め。」
「そういいながらこの前は遅くまで話しに付き合わされた気がしますが?」
「その分上手い飯を食わせてやっただろう。」
「内容的に見合わなかったと後悔していますよ。」
「なに、うちの飯がまずいというのか?」
「そんな事言ってませんよ。」
「良い度胸だ、テナン聞いていたな?」
ププト様がっこに居ないテナンさんに向って話しかけると、待ってましたといわんばかりのタイミングでテナンさんが食事の乗った台車を押して部屋に入ってきた。
いやいやいや、何ですかその量は。
一応朝食は済ませてきたんですけど?
「お聞きしておりました。私が不甲斐無いばかりに前回は残念な思いをさせてしまい申し訳御座いません。しかし、御安心下さい!今回は必ずやイナバ様に御満足いただける自信がございます。ささ、お二人はそのままお座りいただいて、今御準備いたしますので。」
「私は少し席をはずす、戻るまでテナンのもてなしを受けるが良い。覚悟しろよイナバ。」
「お手柔らかにお願いします・・・。」
嬉しそうな顔で準備を始めるテナンさんを横目に満足そうな顔をして部屋を出て行くププト様。
何でこうなるかなぁ。
最初に入ったときのあの嬉しそうな顔、絶対に前々から之を計画していたに違いない。
そこにタイミングよく俺が来たものだから笑いが止まらなかった、そんな感じだろ?
いや、嬉しいですよ?
美味しい物は大好きだし。
「さぁイナバ様!まずはお飲み物から、続いて料理長自慢の前菜を御準備いたします。覚悟、してくださいませ。」
その後ジルさんが戻ってくるまでの二刻程、美味しい御飯を沢山食べさせていただきました。
もう、入りません。
ラナス様へのお願いは無事に聞き届けられたそうだ。
教会でも今回の件は問題になっていたようで、冒険者をないがしろにする元老院の通告は受け入れられないという声明を発表する手筈となっているそうだ。
それに加えて俺への誹謗中傷に対してもしっかりと抗議をし、冒険者を食い物にすることなどありえないとラナス様の名を出して説明してくださるらしい。
本当にありがたい話だ。
これで元老院が引くとは思えないが、教会の立場を明確にしてもらえるだけでも全然違う。
教会は冒険者とともにあり、またシュリアン商店を信じている。
そういうメッセージがしっかりと流れれば、よくも分からず誹謗中傷するような輩は減るはずだ。
ネットの世界でもそうだった。
公式の発表でもないのにデマを信じて勝手に炎上してしまうなんてよくある話しだ。
リテラシーのある人間であれば事実を自分で確かめるものだが、そういったことが面倒な連中はついついデマにのっかり、自分でそれを広めてしまう。
結果全く関係のない人が叩かれたり、コンテンツが縮小したり。
正しい情報を正当な方法で発信し、正確に伝える。
之に勝る物はない。
「後は元老院がどう動くか、ですね。」
「教会の声明が出れば多少は落ち着くと思われますが、何をしでかすか分からない団体ですので今は何とも言えません。」
「街中を闊歩する集団に不安を抱え教会に来られる方もおられました。早く事態が解決すると良いのですが・・・。」
騎士団でもどうにもならず心の安寧を求めて教会へ行ったわけか。
あんな顔で街中をうろつかれたらそりゃ不安にもなるわなぁ。
ジルさんも戻ってきたし後はシルビア様が戻ってくるだけなんだけど・・・。
随分遅いなぁ。
何かあったんだろうか。
「シルビアが戻り次第店に戻ります、この時間でしたら定期便がまだありますので行き同様バスタさんに乗せていってもらいましょう。」
「かしこまりました手配しておきます。」
「申し訳ありませんが宜しくお願いします。」
席をはずすといってからププト様は戻ってこない。
まぁ街がこんな状況なんだ、挨拶ぐらいはとおもったけどやらなきゃいけないこともあるだろうし仕方ないよね。
テナンさんが部屋を出て行き明日から何をしようかと考え始めたそのときだった。
「た、大変です!」
先程出て行ったばかりのテナンさんが慌てた様子で部屋に戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「街中で冒険者を追放せよとの声が上がっています!」
何だって!?
慌てて窓を開けると何かを叫ぶ声が聞こえてくる。
耳をすませてみるもここまでは距離があり掻き消えてしまうようだ。
でも、いつもの賑やかな喧騒とは明らかに違う。
何ともいえない雰囲気が街を包んでいるように見えた。
「イナバ、街に行くのはやめておけ。」
何時になく真剣なププト様の表情に思わずつばを飲み込んでしまう。
彼らの正体は、そしてその目的は。
窓の外から聞こえてくる声にゾクリと寒気を覚えるのだった。
「そのような世辞は良い、それよりも元老院の通告について話をしにきたのだろう?まずはそこに座れ、話はそれからだ。」
ププト様に促され手前の椅子に座る。
エミリアも一礼してから横の椅子に座った。
「どこまで御存知ですか?」
「どこまで、難しい質問だな。お前が元老院に名指しで文句を言われている事か?それとも街に溢れる面倒な奴等の事か?それとも閉鎖した冒険者ギルドについてか?」
「そこまでご存知でしたら私が来る必要はなかったようですね。」
「何を言う、これからどうするかを話し合うためにはお前が来なければ始まらん。恐らくくるだろうと思っていたが、まさか荷物にまぎれてくるとは思わなかった。」
「私が何処に行き何をしているか、監視されているようでしたので欺く為あのような形を取らせていただきました。」
「それで正解だろう。お前がここに来たと知れれば連中はより過激にお前を攻撃するはずだ。そして、匿っている私も同様にな。」
俺を追放しろ!って言うのはまぁ分かるとして、そんな俺を匿ったという理由だけで領主を告発するとかいくら元老院とはいえやりすぎじゃないでしょうか。
あくまでも彼らの目的は冒険者追放のはず、冒険者ギルドが閉鎖された事で目的はほぼ果たしたようなものだと思うんだけど・・・。
もしかしたら別の目的があるんだろうか。
「では御迷惑を掛けないためにも早々に退散するようにしましょう。まず、元老院の告発に関しては事実無根であり貧困者を冒険者に仕立て上げているような事実は存在しないと商店連合を通じて発信しております。また、教会関係者のジル様の力をお借りして、ラナス様と連絡を取り教会からも同様の発言をしていただく予定です。恐らくは秋頃のチャリティに目をつけその後新設した保護施設をネタにあのような嘘を風潮したのかと。」
「お前が冒険者を増産できるのであれば今頃金に困る事などないのにな。」
「全くです。」
貧困者を冒険者に仕立て上げダンジョンに送り込み、道具や装備を売りさばいている。
もしそうであれば今頃お金が足りない!なんて大騒ぎしてないよ。
「その困っているお前には悪いが、私の独断で冒険者ギルドは閉鎖させてもらった。戻ってきていた冒険者も近隣の都市に逃げるよう指示してある。」
「なんでも街中に溢れる例の人たちが出て行けと騒いだとか?」
「その通りだ。どうやら張り紙のような手ぬるい事を止め実力行使に出てきたようでな。」
「しかしながら冒険者が居なくなったのにもかかわらず何故彼らは残っているのです?」
「わからん。事前にしっかりと宿を取っており今は大人しくしているせいで街から追い出すことも出来ない状況だ。住民から早くどうにかしてくれといわれているのだが、違法な事をしているわけでもないからな勝手に追い出すことも出来ん。今は騎士団が監視に当っている。」
ふむ、あの人達に関してはププト様も把握できていないのか。
ちゃんと宿を取っている辺り用意周到だといわざるを得ない。
まるで誰かが手引きしたみたいだけど・・・。
「ちなみに宿の予約は誰が?」
「調べてみたが恰幅の良い商人が突然現れ空いている部屋を全て予約したいと言ってきたそうだ。最初は断ったそうだが前金で全額置いていった手前断ることも出来ず現状では白鷺亭を除き全ての宿が満員という感じだな。」
「白鷺亭はどうして?」
「宿の格が何だと適当に言って断ったのだろう。ハスラーのことだ、異常な状況を事前に感じ取ったのかも知れんな。」
うん、ハスラーさんならありえるだろう。
あの人の危機管理能力は忍者並だからね!
「騎士団にはシルビアを向わせましたので街にうろついている人達への対処は上手くやってくれると思います。」
「そうか。騎士団を脱退したにも関わらず苦労をかけるな。」
「身内を放っておけない人ですから。」
「そしてお前もよく面倒な事に巻き込まれるものだな。」
「テナンさんにも同じ事を言われましたよ。」
「そうか、テナンまでそう言ったか。」
アッハッハと声を出して笑うププト様。
こちとら笑い事じゃないんですけどねぇ。
「教会の他、元老院参謀ガスターシャ様にも連絡をして何か手を打っていただけないかとお願いをしてあります。こちらとしては他に出来る事がないので、後は様子を見ることしか出来ません。」
「元老院の半数近くがあの通告に署名している。逆を言えば半数近くを何らかの形で買収した可能性があるということだ。ほんの数日で例の団体がここまで力を増すとは思えん、何かしら裏でやっているに違いないだろう。」
「ですがその証拠はどこに?」
「証拠?そんなものあるはずがない。ないから探すのだ。」
なるほど。
疑わしいのであれば徹底的に締め上げて探すのか。
元老院を半分に割っての大騒動、これってもしかして俺の方よりも大変じゃない?
まぁ俺の知ったこっちゃないけど・・・。
「一つ質問なのですが。」
「何だ?」
「冒険者ギルドを閉鎖、冒険者を避難させたのは英断だと思います。ですが依頼はどうされるんですか?」
「ギルドを閉鎖した以上依頼の受注も停止している。」
「それってまずいのでは?」
「あくまでも閉鎖と避難は限定的な措置だ。このような状況では急場の依頼などは来ないと思うが・・・。」
「それはサンサトローズ内に限る話ですよね?近隣の村々は関係ないわけですからそこから出される依頼はどうするのですか?特に魔物関係に関しては放っておくわけにも行きませんよ?」
「対応したいのは山々だが騎士団員は全て出払っている現状では対応は難しいと言わざるを得ん。」
つまり、村でまた魔物が襲ってきた!ってなっても誰も助けてくれないわけだ。
俺達の所にはガンドさん達がいるから何とかなるかもしれないけれど、他の村に叩ける人がどれだけ居るんだろう。
しかも今は春節になってすぐ、ついこの間魔物が増える時期だよねって話しをしたばかりじゃないか。
それってやばくないですか?
「近隣のギルドへ救援要請などは?」
「例の団体が来て以降、近隣ギルドからも確実に冒険者の数が減っている。よほど緊急の依頼でもない限り救援要請は出せんな。」
「ちなみによほど緊急の依頼というのは?」
「盗賊団に村が襲われた、魔物の大軍に襲われた、隣国が侵入してきたぐらいか。」
「それって起こります?」
「むしろ起こると大変な事になる。つまりはそういうことだ。」
救援は出さないよ。という事のようだ。
マジかー。
サンサトローズだけじゃなく近隣の街からも冒険者が減ってるって、それ致命傷じゃないですか。
この街にとっても俺にとっても。
問題が解決しても間違いなく冒険者戻ってこないよね?
元の状況に戻るのに二週間、いや最悪一期はかかるかもしれない。
そうなればもう春節も半分終わりだ。
残り半分で金貨10枚稼ぐの?
無理ゲーじゃね?
「出来る限りの事はするつもりだ、だが我々に出来る事にも限界がある。兎に角今は不気味な連中が街から出て行くのを祈るしかないな。」
「・・・そうですね。彼らの目的が分からない以上冒険者は戻せませんしギルドも再開できない。」
「お前達の村には別に騎士団員を派遣する手筈は整えてある。商店ならびに村には危害を加えさせないから安心しろ。」
「助かります。」
「元老院や例の団体が何と言おうと冒険者は必要な存在だしお前が無実なのも変わりない。今は耐えろ、それだけだ。」
今は耐えろ・・・か。
それしかないよな。
いくら俺が策を講じようとも即効性があるわけではない。
反応が出るとしても一日、いや二日はかかるだろう。
次の定期便が出るのが三日後。
陰日がある事を考えると約八日はまともに営業できないわけだし、その間に何かしらの答えが出るのを祈るしかないか。
その間なにしよう。
村の手伝いはするけれどそれでも暇だろうしなぁ。
筋トレ、勉強、後は寝るだけか。
「果報は寝て待てとも言いますしね。」
「何だそれは。」
「良い知らせは寝てたらやって来るという諺です。」
「そうだな、何も出来ないのならば上手い物を食べて寝るに限る。まずは食事だ、食べていくだろ?」
「ですがシルビア達に動いてもらっていますし・・・。」
「やることが終われば戻ってくるだろう。果報は寝て待て、お前が動かない方が平和なことだってある。」
つまり俺が出ると邪魔だから大人しくしとけってことか。
まぁそうなんですけどね。
「シュウイチさん今は待ちましょう。」
「嫁もそう言っているではないか、お前は働きすぎなのだ偶にはゆっくり休め。」
「そういいながらこの前は遅くまで話しに付き合わされた気がしますが?」
「その分上手い飯を食わせてやっただろう。」
「内容的に見合わなかったと後悔していますよ。」
「なに、うちの飯がまずいというのか?」
「そんな事言ってませんよ。」
「良い度胸だ、テナン聞いていたな?」
ププト様がっこに居ないテナンさんに向って話しかけると、待ってましたといわんばかりのタイミングでテナンさんが食事の乗った台車を押して部屋に入ってきた。
いやいやいや、何ですかその量は。
一応朝食は済ませてきたんですけど?
「お聞きしておりました。私が不甲斐無いばかりに前回は残念な思いをさせてしまい申し訳御座いません。しかし、御安心下さい!今回は必ずやイナバ様に御満足いただける自信がございます。ささ、お二人はそのままお座りいただいて、今御準備いたしますので。」
「私は少し席をはずす、戻るまでテナンのもてなしを受けるが良い。覚悟しろよイナバ。」
「お手柔らかにお願いします・・・。」
嬉しそうな顔で準備を始めるテナンさんを横目に満足そうな顔をして部屋を出て行くププト様。
何でこうなるかなぁ。
最初に入ったときのあの嬉しそうな顔、絶対に前々から之を計画していたに違いない。
そこにタイミングよく俺が来たものだから笑いが止まらなかった、そんな感じだろ?
いや、嬉しいですよ?
美味しい物は大好きだし。
「さぁイナバ様!まずはお飲み物から、続いて料理長自慢の前菜を御準備いたします。覚悟、してくださいませ。」
その後ジルさんが戻ってくるまでの二刻程、美味しい御飯を沢山食べさせていただきました。
もう、入りません。
ラナス様へのお願いは無事に聞き届けられたそうだ。
教会でも今回の件は問題になっていたようで、冒険者をないがしろにする元老院の通告は受け入れられないという声明を発表する手筈となっているそうだ。
それに加えて俺への誹謗中傷に対してもしっかりと抗議をし、冒険者を食い物にすることなどありえないとラナス様の名を出して説明してくださるらしい。
本当にありがたい話だ。
これで元老院が引くとは思えないが、教会の立場を明確にしてもらえるだけでも全然違う。
教会は冒険者とともにあり、またシュリアン商店を信じている。
そういうメッセージがしっかりと流れれば、よくも分からず誹謗中傷するような輩は減るはずだ。
ネットの世界でもそうだった。
公式の発表でもないのにデマを信じて勝手に炎上してしまうなんてよくある話しだ。
リテラシーのある人間であれば事実を自分で確かめるものだが、そういったことが面倒な連中はついついデマにのっかり、自分でそれを広めてしまう。
結果全く関係のない人が叩かれたり、コンテンツが縮小したり。
正しい情報を正当な方法で発信し、正確に伝える。
之に勝る物はない。
「後は元老院がどう動くか、ですね。」
「教会の声明が出れば多少は落ち着くと思われますが、何をしでかすか分からない団体ですので今は何とも言えません。」
「街中を闊歩する集団に不安を抱え教会に来られる方もおられました。早く事態が解決すると良いのですが・・・。」
騎士団でもどうにもならず心の安寧を求めて教会へ行ったわけか。
あんな顔で街中をうろつかれたらそりゃ不安にもなるわなぁ。
ジルさんも戻ってきたし後はシルビア様が戻ってくるだけなんだけど・・・。
随分遅いなぁ。
何かあったんだろうか。
「シルビアが戻り次第店に戻ります、この時間でしたら定期便がまだありますので行き同様バスタさんに乗せていってもらいましょう。」
「かしこまりました手配しておきます。」
「申し訳ありませんが宜しくお願いします。」
席をはずすといってからププト様は戻ってこない。
まぁ街がこんな状況なんだ、挨拶ぐらいはとおもったけどやらなきゃいけないこともあるだろうし仕方ないよね。
テナンさんが部屋を出て行き明日から何をしようかと考え始めたそのときだった。
「た、大変です!」
先程出て行ったばかりのテナンさんが慌てた様子で部屋に戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「街中で冒険者を追放せよとの声が上がっています!」
何だって!?
慌てて窓を開けると何かを叫ぶ声が聞こえてくる。
耳をすませてみるもここまでは距離があり掻き消えてしまうようだ。
でも、いつもの賑やかな喧騒とは明らかに違う。
何ともいえない雰囲気が街を包んでいるように見えた。
「イナバ、街に行くのはやめておけ。」
何時になく真剣なププト様の表情に思わずつばを飲み込んでしまう。
彼らの正体は、そしてその目的は。
窓の外から聞こえてくる声にゾクリと寒気を覚えるのだった。
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最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
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