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第十六章
緊急指令!見つからないように潜入せよ!
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メルクリア女史の忠告は本当だった。
定期便に乗り込みサンサトローズについた俺達の目に飛び込んできたのは、多くの人で溢れるサンサトローズだった。
でも雰囲気がいつもと違う。
いつもなら行きかう人の顔に笑顔が見られるが、今目の前にいる人たちの顔にそれはない。
よそ者。
一目でそれがわかる人が街にあふれていた。
ただならぬ雰囲気に街の人も出歩いていない様子だ。
「これはまたすごいですね。」
「あぁ、こんなサンサトローズ見たことない。」
「まずはププト様の所と思いましたがまずは騎士団に行きましょう。この人だかりが何者なのか知らせるだけでも意味があります。」
「時間が惜しい、それは私がするからお前達はププト様の所に行け。」
「わかりました。」
事情はシルビア様も知っているし打ち合わせもしていたので問題ないだろう。
騎士団としてもあふれるこの大量の人たちが何者なのかわかるだけでも安心するはずだ。
それじゃま、急ぎププト様の所に・・・。
「イナバ様、お待ちください。」
さぁいこうと一歩進んだ俺をジルが右手で制する。
「え?」
「このまま進んではいけません、見られてます。」
ジルさんの制止に慌ててエミリアが周りを睨みつけてる。
コラコラそんな顔したらかわいい顔が台無しですよ。
なんて言える空気ではない。
はて、俺には見られているようには思えないんだけどなぁ。
「そうですか?」
「イナバ様を狙っているかは定かではありませんが用心した方がよさそうです。」
「シュウイチさんここは大通りを避けて・・・。」
待てよ。
大通りを避けた方が危険か?
裏通りなら確かに人通りは少ないけれど、その分狙われる可能性も高くなる。
何かあった時に追い込まれる可能性も出てくるだろう。
それなら見られているまま大通りを進んだ方が実害はないかもしれない。
流石に大勢を巻き込んで何かしでかしてくることはないだろう。
「いえ、このまま行きます。」
「イナバ様?」
「ですがいきなりププト様の所にはいかず大通りを通ってまずは輸送ギルドへ行きましょう。」
「シュウイチさんには何か考えがあるんですね。」
「さすがにこの人通りですからいきなり何かしでかしてくることはないと思います。」
「わかりました、何かあっても絶対にお守りします。」
「お任せください。」
「お願いします。」
普通なら俺が守りますと言いたい所だが、残念ながらそんな力ございません!
いや、精霊の力を使えば守れるだろうけど結局は力を借りないといないっていうね。
他力本願100%男、それが俺だ。
出来るだけ通りのど真ん中を通って噴水広場を抜け輸送ギルドへと向かう。
なんとなく見られている感じはわかるけれど、睨まれているとかそんな感じはない。
先頭をジルさんが、後ろをエミリアがぴったりとガードしているのでそれが目立っているんじゃないかとも思ったんだが、そういうわけでもない。
謎だ。
「これだけの人数、いったいどこからやって来たんでしょう。」
「身なりは決して悪くなく、粗暴な感じもありません。上品な感じすらします。」
「つまり浮浪者や貧困者ではないという事ですか?」
「なんといいますか普段教会に来ている方々と同じ気配がしますね。」
それはなんとなくわかる。
あまりよろしくない連中を金で雇ったっていう感じではないんだよな。
中流階級と言えばいいんだろうか。
貧しくもなくそれでいてとても裕福という感じでもない。
ただここに観光に来た!って感じではないのは間違いないだろう。
「どちらにせよいい意味でここに来ている感じではありません。」
「輸送ギルドへ行く途中には冒険者ギルドがありますがどうされますか?」
「今は寄りません。というか、寄れないような気がします。」
これだけの人を呼んだのが例の団体でなければ寄ろうかなとも思ったが、目的が目的だけに行くのはむしろ危険だ。
今はスルーするしかないだろう。
「見えてきました。」
そうこうしているうちに見えてきた冒険者ギルドは明らかにいつもと違っていた。
まず人がいない。
いつもなら入り口付近に冒険者がたむろしているのに、誰一人いない。
次に入り口が開いていない。
っていうか封鎖されてる?
扉の代わりに大きな木の板が陣取っており、さらにバツを描くように板が打ち付けられている。
完全封鎖。
そんな感じだ。
そしてギルドの周りをたくさんの人が取り囲んでいる。
依頼をしに来た人・・・って感じではない。
何を言うわけでもなくただ取り囲んでいる。
ウロウロするわけでもないその様子はまるでゾンビのようだ。
「行きましょう。」
「それがよさそうですね。」
余りの異様な光景に素早くギルドの前を通り抜ける。
ここで正体がばれたら一瞬にして食い殺される、そんな恐怖すら覚える状況だ。
出来るだけ目立たないように素早く通り過ぎ駆け込むようにしてすぐ近くの輸送ギルドへと駆け込んだ。
輸送ギルドはいつもと変わらず大勢の商人でにぎわっており、その光景を見るだけでも妙な安心感があるな。
この状況でも商売をする、それが商人ってもんですよ。
「ようこそ輸送ギルドへ。」
「すみませんバスタさんはおられますか?」
「これはイ・・・すぐに奥の応接室へ。」
「わかりましたお願いします。」
この前と同じ受付のお嬢さんが俺を見た瞬間に中へと誘導してくれた。
いきなりって事は何か理由があるんだろう。
罠の可能性も否定できないけど・・・。
ジルさんもいるし何とかなるかな。
「バスタはすぐに参りますこのままお待ちください。」
奥の部屋へ通されるとすぐにお嬢さんはいなくなってしまった。
物々しい対応に三人で目を合わせてしまう。
外もそうだし、かなり良くない状況かもなぁ。
「イナバ様!」
「バスタさんすみません突然押しかけて。」
「むしろよく無事に来れましたね。冒険者ギルドの前はすごい事になっていたでしょう。」
「見ました。ギルドは封鎖されているような感じでしたけどあの人たちは一体何なんですか?」
「この二日ぐらいで急に増えてきまして、昨日突然冒険者ギルドを取り囲んだんです。最初は大声で冒険者は出ていけ!って叫んだりしたんですけどギルドが封鎖されたら静かに取り囲んでいるんです。まるで誰一人入れないようにしているみたいで、騎士団も来てくれたんですけど何をするわけでもなく取り囲んでいるので手出しが出来なくてですね・・・。」
なるほど。
今日いきなり何か始めたわけではないのか。
二日前から準備をはじめ、昨日それを実行したって感じかな。
「それに加えて元老院が冒険者関係の各種団体に異例の通告をしたとか。」
「あ、もうご存知でしたか。」
「他にもあの連中がギルドを囲みながら叫んでました。『シュリアン商店のイナバシュウイチは冒険者を搾取する偽善者だ!そんなやつに力を貸すのか!冒険者と共に追い出せ!』って。」
「通告だけじゃなくそんなことも。すみません、ご迷惑をお掛けして。」
「うちにも通告があったそうですがあんなの無視ですよ無視。」
「でも元老院の通告なんですよね?」
「元老院が怖くて仕事はできませんよ。それにこの街でイナバ様をないがしろにする人なんていません。それに何かあってもププト様が守ってくださいますから。」
いや、ププト様もそこまで守ってくれるかどうか・・・。
でもそこまで言ってくれるのはうれしいなぁ。
「では迷惑かけついでにお願いがあるですが、構いませんか?」
「もちろんです!お力になれるのであれば喜んで。」
「ありがとうございます。お願いは簡単です、私達を教会とププト様の所に運んでいただきたいのです。」
「それだけ・・・ですか?」
「出来るだけ内密に、誰にも知られることなく中に入りたいんです。可能ですか?」
「つまり入り口を通らずにそこに行きたいんですね。」
「どうやら私がどこに行くのか監視されているようなんです。先ほどのような状況でして、出来るだけ皆さんにご迷惑を掛けずに移動したくて。バスタさんならできると思いここに来ました。」
「そんな風に持ち上げられたら断れなくなるじゃないですか。イナバ様も策士だなぁ。」
お力になれるなら喜んでといったのはバスタさんですから。
なので喜んでお力をお借りしますよ。
「では可能なんですね。」
「通常の馬車ではなく商人の使う輸送馬車になりますし、かなり狭い思いをすると思いますが。」
「構いません。二人も大丈夫ですか?」
「その程度であれば問題ありません、教会でしたら目と鼻の先です。」
「私も大丈夫です。」
「だそうです。急ぎ、お願い出来ますか?」
「そういう事でしたらすぐに準備いたします。教会、続いてププト様のお屋敷ですね。」
作戦はこうだ。
俺が監視されていると仮定して普通に馬車に乗ればどこに行くか一目瞭然。
元老院もバカじゃないだろうからそれに合わせて何か策を講じてくるだろう。
でも攪乱してしまえば対応は後手になる。
今は出来るだけ時間を稼ぎたい、そこで貨物便に紛れて移動してしまおうというわけだな。
その後バスタさんの言うようにかなり狭い場所ではあるが、荷物と荷物の間に身を潜めて輸送ギルドを出発。
裏通りを抜けて教会の裏口に到着した。
「ではイナバ様行って参ります。」
「すみませんがお願いします。彼らが目に付けたのは私の貧困者対策でしょうから、冒険者に引き込むためではないという趣旨の発言を教会からは発信してほしいのです。終わりましたら店に戻ってもらって構いません。」
「いえ、私は目をつけられておりませんので出来るだけ情報を集めてププト様のお屋敷に参りましょう。」
「いいんですか?」
「あの人同様私の命もイナバ様に救われました、それをお返しできるのであれば喜んでお手伝いさせていただきます。」
「本当に有難うございます。」
「それでは。」
余り長時間停車しても怪しまれる。
荷物の箱に隠れてジルさんは教会に運ばれていった。
「大丈夫そうですね、では出発します。」
次は俺達の番だ。
馬車はゆっくりと動いているが、振動がかなりダイレクトに来るのでバランスが崩れる。
エミリアと抱き合うように隠れているのでバランスをとるためにはどうしても抱き合うような感じになってしまい、その度にいい匂いがしてきてちょっと変な気持ちになってしまう。
状況が状況でなければ喜んで抱きしめるのだが、残念ながら今はそんな余裕はない。
残念だ。
非常に残念だ。
そんな最高の状況にも必至に耐えながら馬車はどんどんと坂を上っていく。
俺が坂の下側に位置しているので上からエミリアの胸が迫ってきて・・・。
うん、死んでもいい。
マジでそう思いました。
天国でした。
でも、これから行くのは地獄でして。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。」
「もぅ、恥ずかしかったんですから。」
馬車が停車したので、仕方なく体を話すと顔を真っ赤にしたエミリアが恨めしそうな顔で睨んできた。
その顔も可愛い・・・(以下略
馬車が停車してもしばらくは動くことも出来ず時間だけが流れていく。
おそらくバスタさんが事情を説明しに行ってくれているんだろう。
念には念をってやつだ。
「では搬入お願いします。」
「お任せください、すぐに終わらせます。」
とか思っていたら荷台の外から声が聞こえてきた。
この声はバスタさんとテナンさんか。
入り口側の荷物が搬出され、中に誰かが入ってくるのがわかる。
どちらかだとは思うけど、緊張して音の方向をじっと睨みつけた。
「イナバ様お待たせしました。大丈夫だとは思いますが箱に入ってお待ちください。」
「お手数をお掛けしました。」
「帰りはどうするんですか?」
「あー・・・そこまで考えていませんでした。いつになるかもわかりませんし、また考えます。」
「必要であればまたテナン様を通じてご連絡ください。」
箱に入るとすぐに蓋をされ、しばらくすると持ち上げられるのが分かった。
グラグラと揺れ声が出そうになるのをグッと我慢する。
そのままどこかに運ばれ、ドスンという音を立てて置かれたのが分かった。
「イナバ様奥様をお連れしますので今しばらくお待ちください。」
返事をする間もなく人の気配が無くなってしまったので仕方なくそのまま待つ。
すぐに出たいけどもう少しの我慢だ。
そのまま待つとすぐそばでドスンと音がしてその後ドアが閉まる音がした。
「もう出ていただいて構いませんよ。」
待ってましたという感じで急ぎ箱を開けると、どうやらどこかの倉庫のようだった。
箱から脱出すると横では同じく箱から出てこようとするエミリアがいる。
だけど姿勢が悪いのか出てくるのに苦労しているようだった。
乳か?
乳が邪魔なのか?
じゃあそれを俺が持てば万事解決・・・。
「イナバ様奥様良くお越しくださいました。」
危ない、テナンさんの存在をすっかり忘れてた。
邪な感情は封印せねば、ここにはお願いがあって来たんだから。
役目を果たさないと。
「突然の訪問申し訳ありません。」
「お話は伺っております。ププト様がお待ちですのでどうぞこちらへ。」
「エミリア大丈夫?」
「大丈夫です。」
エミリアの手を引っ張り箱から救出して急ぎテナンさんの後を追いかける。
ププト様の事だからおそらく情報は届いているだろうし、ニケさんが言うように力を貸してくれるに違いない。
むしろ力を貸してもらえないと非常に困る。
お願いしますよププト様。
「私がこういうのもあれですが、イナバ様はいつも苦労されていますね。」
「あはは、どうやらそういう星の元に生まれてしまったようです。」
「ですがその苦労が誰かの力になっているのもまた事実、どうかくじけることなくお役目を果たしてください。」
「出来る限り頑張りたいと思います。」
「では私はここで、後で皆様の分のお茶をお持ちしましょう。」
テナンさんに通されたのはいつもの大きな扉の前。
ボスの部屋ってどうしてこう扉が大きいんだろう。
威厳を現す為なんだろうか。
なんてくだらない事を考えながら、開く扉を見つめていると・・・。
「よく来たなイナバ、さぁ作戦会議だ。」
扉が開いたその先に巻ていたのは何故か嬉しそうなププト様。
この人絶対に楽しんでいるだろう。
そんな風に思ってしまうほどの笑顔だった。
定期便に乗り込みサンサトローズについた俺達の目に飛び込んできたのは、多くの人で溢れるサンサトローズだった。
でも雰囲気がいつもと違う。
いつもなら行きかう人の顔に笑顔が見られるが、今目の前にいる人たちの顔にそれはない。
よそ者。
一目でそれがわかる人が街にあふれていた。
ただならぬ雰囲気に街の人も出歩いていない様子だ。
「これはまたすごいですね。」
「あぁ、こんなサンサトローズ見たことない。」
「まずはププト様の所と思いましたがまずは騎士団に行きましょう。この人だかりが何者なのか知らせるだけでも意味があります。」
「時間が惜しい、それは私がするからお前達はププト様の所に行け。」
「わかりました。」
事情はシルビア様も知っているし打ち合わせもしていたので問題ないだろう。
騎士団としてもあふれるこの大量の人たちが何者なのかわかるだけでも安心するはずだ。
それじゃま、急ぎププト様の所に・・・。
「イナバ様、お待ちください。」
さぁいこうと一歩進んだ俺をジルが右手で制する。
「え?」
「このまま進んではいけません、見られてます。」
ジルさんの制止に慌ててエミリアが周りを睨みつけてる。
コラコラそんな顔したらかわいい顔が台無しですよ。
なんて言える空気ではない。
はて、俺には見られているようには思えないんだけどなぁ。
「そうですか?」
「イナバ様を狙っているかは定かではありませんが用心した方がよさそうです。」
「シュウイチさんここは大通りを避けて・・・。」
待てよ。
大通りを避けた方が危険か?
裏通りなら確かに人通りは少ないけれど、その分狙われる可能性も高くなる。
何かあった時に追い込まれる可能性も出てくるだろう。
それなら見られているまま大通りを進んだ方が実害はないかもしれない。
流石に大勢を巻き込んで何かしでかしてくることはないだろう。
「いえ、このまま行きます。」
「イナバ様?」
「ですがいきなりププト様の所にはいかず大通りを通ってまずは輸送ギルドへ行きましょう。」
「シュウイチさんには何か考えがあるんですね。」
「さすがにこの人通りですからいきなり何かしでかしてくることはないと思います。」
「わかりました、何かあっても絶対にお守りします。」
「お任せください。」
「お願いします。」
普通なら俺が守りますと言いたい所だが、残念ながらそんな力ございません!
いや、精霊の力を使えば守れるだろうけど結局は力を借りないといないっていうね。
他力本願100%男、それが俺だ。
出来るだけ通りのど真ん中を通って噴水広場を抜け輸送ギルドへと向かう。
なんとなく見られている感じはわかるけれど、睨まれているとかそんな感じはない。
先頭をジルさんが、後ろをエミリアがぴったりとガードしているのでそれが目立っているんじゃないかとも思ったんだが、そういうわけでもない。
謎だ。
「これだけの人数、いったいどこからやって来たんでしょう。」
「身なりは決して悪くなく、粗暴な感じもありません。上品な感じすらします。」
「つまり浮浪者や貧困者ではないという事ですか?」
「なんといいますか普段教会に来ている方々と同じ気配がしますね。」
それはなんとなくわかる。
あまりよろしくない連中を金で雇ったっていう感じではないんだよな。
中流階級と言えばいいんだろうか。
貧しくもなくそれでいてとても裕福という感じでもない。
ただここに観光に来た!って感じではないのは間違いないだろう。
「どちらにせよいい意味でここに来ている感じではありません。」
「輸送ギルドへ行く途中には冒険者ギルドがありますがどうされますか?」
「今は寄りません。というか、寄れないような気がします。」
これだけの人を呼んだのが例の団体でなければ寄ろうかなとも思ったが、目的が目的だけに行くのはむしろ危険だ。
今はスルーするしかないだろう。
「見えてきました。」
そうこうしているうちに見えてきた冒険者ギルドは明らかにいつもと違っていた。
まず人がいない。
いつもなら入り口付近に冒険者がたむろしているのに、誰一人いない。
次に入り口が開いていない。
っていうか封鎖されてる?
扉の代わりに大きな木の板が陣取っており、さらにバツを描くように板が打ち付けられている。
完全封鎖。
そんな感じだ。
そしてギルドの周りをたくさんの人が取り囲んでいる。
依頼をしに来た人・・・って感じではない。
何を言うわけでもなくただ取り囲んでいる。
ウロウロするわけでもないその様子はまるでゾンビのようだ。
「行きましょう。」
「それがよさそうですね。」
余りの異様な光景に素早くギルドの前を通り抜ける。
ここで正体がばれたら一瞬にして食い殺される、そんな恐怖すら覚える状況だ。
出来るだけ目立たないように素早く通り過ぎ駆け込むようにしてすぐ近くの輸送ギルドへと駆け込んだ。
輸送ギルドはいつもと変わらず大勢の商人でにぎわっており、その光景を見るだけでも妙な安心感があるな。
この状況でも商売をする、それが商人ってもんですよ。
「ようこそ輸送ギルドへ。」
「すみませんバスタさんはおられますか?」
「これはイ・・・すぐに奥の応接室へ。」
「わかりましたお願いします。」
この前と同じ受付のお嬢さんが俺を見た瞬間に中へと誘導してくれた。
いきなりって事は何か理由があるんだろう。
罠の可能性も否定できないけど・・・。
ジルさんもいるし何とかなるかな。
「バスタはすぐに参りますこのままお待ちください。」
奥の部屋へ通されるとすぐにお嬢さんはいなくなってしまった。
物々しい対応に三人で目を合わせてしまう。
外もそうだし、かなり良くない状況かもなぁ。
「イナバ様!」
「バスタさんすみません突然押しかけて。」
「むしろよく無事に来れましたね。冒険者ギルドの前はすごい事になっていたでしょう。」
「見ました。ギルドは封鎖されているような感じでしたけどあの人たちは一体何なんですか?」
「この二日ぐらいで急に増えてきまして、昨日突然冒険者ギルドを取り囲んだんです。最初は大声で冒険者は出ていけ!って叫んだりしたんですけどギルドが封鎖されたら静かに取り囲んでいるんです。まるで誰一人入れないようにしているみたいで、騎士団も来てくれたんですけど何をするわけでもなく取り囲んでいるので手出しが出来なくてですね・・・。」
なるほど。
今日いきなり何か始めたわけではないのか。
二日前から準備をはじめ、昨日それを実行したって感じかな。
「それに加えて元老院が冒険者関係の各種団体に異例の通告をしたとか。」
「あ、もうご存知でしたか。」
「他にもあの連中がギルドを囲みながら叫んでました。『シュリアン商店のイナバシュウイチは冒険者を搾取する偽善者だ!そんなやつに力を貸すのか!冒険者と共に追い出せ!』って。」
「通告だけじゃなくそんなことも。すみません、ご迷惑をお掛けして。」
「うちにも通告があったそうですがあんなの無視ですよ無視。」
「でも元老院の通告なんですよね?」
「元老院が怖くて仕事はできませんよ。それにこの街でイナバ様をないがしろにする人なんていません。それに何かあってもププト様が守ってくださいますから。」
いや、ププト様もそこまで守ってくれるかどうか・・・。
でもそこまで言ってくれるのはうれしいなぁ。
「では迷惑かけついでにお願いがあるですが、構いませんか?」
「もちろんです!お力になれるのであれば喜んで。」
「ありがとうございます。お願いは簡単です、私達を教会とププト様の所に運んでいただきたいのです。」
「それだけ・・・ですか?」
「出来るだけ内密に、誰にも知られることなく中に入りたいんです。可能ですか?」
「つまり入り口を通らずにそこに行きたいんですね。」
「どうやら私がどこに行くのか監視されているようなんです。先ほどのような状況でして、出来るだけ皆さんにご迷惑を掛けずに移動したくて。バスタさんならできると思いここに来ました。」
「そんな風に持ち上げられたら断れなくなるじゃないですか。イナバ様も策士だなぁ。」
お力になれるなら喜んでといったのはバスタさんですから。
なので喜んでお力をお借りしますよ。
「では可能なんですね。」
「通常の馬車ではなく商人の使う輸送馬車になりますし、かなり狭い思いをすると思いますが。」
「構いません。二人も大丈夫ですか?」
「その程度であれば問題ありません、教会でしたら目と鼻の先です。」
「私も大丈夫です。」
「だそうです。急ぎ、お願い出来ますか?」
「そういう事でしたらすぐに準備いたします。教会、続いてププト様のお屋敷ですね。」
作戦はこうだ。
俺が監視されていると仮定して普通に馬車に乗ればどこに行くか一目瞭然。
元老院もバカじゃないだろうからそれに合わせて何か策を講じてくるだろう。
でも攪乱してしまえば対応は後手になる。
今は出来るだけ時間を稼ぎたい、そこで貨物便に紛れて移動してしまおうというわけだな。
その後バスタさんの言うようにかなり狭い場所ではあるが、荷物と荷物の間に身を潜めて輸送ギルドを出発。
裏通りを抜けて教会の裏口に到着した。
「ではイナバ様行って参ります。」
「すみませんがお願いします。彼らが目に付けたのは私の貧困者対策でしょうから、冒険者に引き込むためではないという趣旨の発言を教会からは発信してほしいのです。終わりましたら店に戻ってもらって構いません。」
「いえ、私は目をつけられておりませんので出来るだけ情報を集めてププト様のお屋敷に参りましょう。」
「いいんですか?」
「あの人同様私の命もイナバ様に救われました、それをお返しできるのであれば喜んでお手伝いさせていただきます。」
「本当に有難うございます。」
「それでは。」
余り長時間停車しても怪しまれる。
荷物の箱に隠れてジルさんは教会に運ばれていった。
「大丈夫そうですね、では出発します。」
次は俺達の番だ。
馬車はゆっくりと動いているが、振動がかなりダイレクトに来るのでバランスが崩れる。
エミリアと抱き合うように隠れているのでバランスをとるためにはどうしても抱き合うような感じになってしまい、その度にいい匂いがしてきてちょっと変な気持ちになってしまう。
状況が状況でなければ喜んで抱きしめるのだが、残念ながら今はそんな余裕はない。
残念だ。
非常に残念だ。
そんな最高の状況にも必至に耐えながら馬車はどんどんと坂を上っていく。
俺が坂の下側に位置しているので上からエミリアの胸が迫ってきて・・・。
うん、死んでもいい。
マジでそう思いました。
天国でした。
でも、これから行くのは地獄でして。
「シュウイチさん大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。」
「もぅ、恥ずかしかったんですから。」
馬車が停車したので、仕方なく体を話すと顔を真っ赤にしたエミリアが恨めしそうな顔で睨んできた。
その顔も可愛い・・・(以下略
馬車が停車してもしばらくは動くことも出来ず時間だけが流れていく。
おそらくバスタさんが事情を説明しに行ってくれているんだろう。
念には念をってやつだ。
「では搬入お願いします。」
「お任せください、すぐに終わらせます。」
とか思っていたら荷台の外から声が聞こえてきた。
この声はバスタさんとテナンさんか。
入り口側の荷物が搬出され、中に誰かが入ってくるのがわかる。
どちらかだとは思うけど、緊張して音の方向をじっと睨みつけた。
「イナバ様お待たせしました。大丈夫だとは思いますが箱に入ってお待ちください。」
「お手数をお掛けしました。」
「帰りはどうするんですか?」
「あー・・・そこまで考えていませんでした。いつになるかもわかりませんし、また考えます。」
「必要であればまたテナン様を通じてご連絡ください。」
箱に入るとすぐに蓋をされ、しばらくすると持ち上げられるのが分かった。
グラグラと揺れ声が出そうになるのをグッと我慢する。
そのままどこかに運ばれ、ドスンという音を立てて置かれたのが分かった。
「イナバ様奥様をお連れしますので今しばらくお待ちください。」
返事をする間もなく人の気配が無くなってしまったので仕方なくそのまま待つ。
すぐに出たいけどもう少しの我慢だ。
そのまま待つとすぐそばでドスンと音がしてその後ドアが閉まる音がした。
「もう出ていただいて構いませんよ。」
待ってましたという感じで急ぎ箱を開けると、どうやらどこかの倉庫のようだった。
箱から脱出すると横では同じく箱から出てこようとするエミリアがいる。
だけど姿勢が悪いのか出てくるのに苦労しているようだった。
乳か?
乳が邪魔なのか?
じゃあそれを俺が持てば万事解決・・・。
「イナバ様奥様良くお越しくださいました。」
危ない、テナンさんの存在をすっかり忘れてた。
邪な感情は封印せねば、ここにはお願いがあって来たんだから。
役目を果たさないと。
「突然の訪問申し訳ありません。」
「お話は伺っております。ププト様がお待ちですのでどうぞこちらへ。」
「エミリア大丈夫?」
「大丈夫です。」
エミリアの手を引っ張り箱から救出して急ぎテナンさんの後を追いかける。
ププト様の事だからおそらく情報は届いているだろうし、ニケさんが言うように力を貸してくれるに違いない。
むしろ力を貸してもらえないと非常に困る。
お願いしますよププト様。
「私がこういうのもあれですが、イナバ様はいつも苦労されていますね。」
「あはは、どうやらそういう星の元に生まれてしまったようです。」
「ですがその苦労が誰かの力になっているのもまた事実、どうかくじけることなくお役目を果たしてください。」
「出来る限り頑張りたいと思います。」
「では私はここで、後で皆様の分のお茶をお持ちしましょう。」
テナンさんに通されたのはいつもの大きな扉の前。
ボスの部屋ってどうしてこう扉が大きいんだろう。
威厳を現す為なんだろうか。
なんてくだらない事を考えながら、開く扉を見つめていると・・・。
「よく来たなイナバ、さぁ作戦会議だ。」
扉が開いたその先に巻ていたのは何故か嬉しそうなププト様。
この人絶対に楽しんでいるだろう。
そんな風に思ってしまうほどの笑顔だった。
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仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
全能で楽しく公爵家!!
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平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
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貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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