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第十六章
自由と無実を勝ち取る為に
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突然転移してきたのは我らが上司メルクリアさん。
いつもは上品な口調なのにリュカさんみたいな言い方をするなんて、どう考えても良くない状況なんだろう。
あー、聞きたくないなぁ・・・。
「ご無沙汰しております、どうされたんですか?」
「どうされたんですかじゃないわよ!こっちは大変なことになってるんだから。」
「大変な事、ですか。」
「貴方、元老院に喧嘩でも売ったの?」
「あー・・・、はい、まぁ。」
元老院には売ってない。
所属議員には売ったけどね。
「まったく、何をどうやったらそんな相手にケンカ売れるのよ。おかげでこっちは大騒ぎになってるんだから」
「大騒ぎって、商店連合がですか?」
「そうよ。急に元老院から『今後冒険者を相手に商売をするのであればそれ相応の報いを受けてもらう』なんて通告が来たら騒ぎにもなるでしょう。」
「それはまたいきなりですね。」
「さらに私達だけでなく冒険者を支援する他の組織や団体にも『今後補助金の停止や税金の引き上げる』なんて言っているみたいだし、なによりその原因が貴方だっていうんだもの。他の仕事全部置いて慌てて飛んできたわ。」
「まぁ、そうなりますよね。」
俺だって身内が原因だってなったら慌てて事情を聴きに行くだろう。
それにしても俺を直接じゃなくて親会社を狙ってくるとか、かなり悪質だなぁ。
敵に回すと面倒なことになるって、面倒すぎるだろこれ。
「それで、何やったの?」
「冒険者を迫害する団体の関係者を捕縛しまして、どうやらその方が元老院の議員だったようなんです。こちらとしては身分の詐称とダンジョンや街の運営妨害、さらにププト様の命で行っている定期便運行の妨害行為等を受けておりまして、その被害をもとに捕縛を行っておりますので捕縛は正当であると断言できます。必要であれば冒険者ギルド長ならびに騎士団長が正当性を証言してくださいます。」
「エミリアが言っていた冒険者排除推進団体ね。話には聞いていたけどこれまでは冒険者だけが攻撃対象で私達には何もしてこなかったんだけど・・・。名指しするぐらいだし、かなり恨まれているわよ貴方。」
「ちょっと言いすぎましたかねぇ。」
「言い過ぎたじゃすまないわよまったく。」
言い過ぎたというかコテンパンにしてやったというか。
そもそもあんな適当な数字を俺に出してくるのが悪い。
もっとまともな数字だったら俺だってそれなりの対話をする用意もあったさ。
本当だよ?
いきなりぼこぼこになんてしないよ?
「いきなりそんな通告してきて商店連合は反論はしなかったんですか?」
「したわよ!うちも含め同じような通告を受けた団体が一斉に抗議の声を上げたわ。『通告は一方的で冒険者を迫害する根拠は何もない、そもそも冒険者は300年以上前から人々の生活に深くかかわってきているのにそれを急に追い出そうなんておかしな話だ』ってね。」
「それで向こうは何と?」
「過去は過去、今は今。この平和な世の中で冒険者は必要ないの一点張りよ。」
冒険者はここ最近増えた職業ではない。
遥か昔魔王と勇者が存在した時代から冒険者はこの世界に存在した。
その冒険者を今更になって排除しようだなんておかしな話だ。
平和になった分冒険者の存在理由が薄れ、例の団体が主張するような荒い部分が目立ってきただけの話。
今になって冒険者が粗暴になったってことは考えられない。
それを平和になったから要らないなんて何を見ているんだって話だ。
平和な世でも魔物がいなくなったわけじゃない。
今冒険者がいなくなったら誰が魔物を片付けるんだよ。
文句を言うならそこまでちゃんと考えて文句を言えって感じだけど、この前の反応を見てわかるようにそこまで考えていないんだよなぁ。
まったく、迷惑な話だ。
「それはまた無茶苦茶ですね。」
「無茶苦茶どころの話じゃないわ。『特にダンジョンスマート商店連合に所属するシュリアン商店のイナバシュウイチという男は、貧しい者を冒険者に仕立て上げてそいつらから金品を巻き上げ肥やしを増やしている外道である。そのような者を野放しにしていいのか!』とか言ってるのよ、貴方これがどういう事かわかってる?」
「それはまた中々にひどい。」
外道、外道ですか。
道を踏み外した男。
うーん、アウトローな感じ。
って俺は堅気だ、アウトローじゃない。
「通告を受けた組織の中には今回の件はアナタが発端だって言いだしてる人もいるし、そういった連中はアナタの首を差し出して事を収めようとしてくる輩も出てくるでしょう。つまり外にも内にも敵がいるのよ?」
「ちなみに商店連合の立ち位置はどちらでしょう。」
「もちろん貴方の味方だけど事と場合によっては内部から反対意見も出てくるでしょうね。今の所は経営に何も問題は出てないけれど、この先どうなるかは何も言えないわ。」
「冒険者は来ないし変な団体からは目を付けられるし、春になった途端にこれですか。」
「呪われてるなら良い除呪師を紹介するわよ。」
「前向きに検討させていただきます。」
この世界に来て一年、あまりにも怒涛の展開過ぎる。
今までの30年の人生がまるでおまけみたいに感じてしまう密度だ。
呪われているって思いたくもなるよ。
「それで、どうするつもりなの?」
「どうするも何も向こうが勝手に騒いでいるだけですから、私にできることなんて・・・っていうわけにはいきませんよね。」
「貴方だけが被害者ならまだしも商店連合にも迷惑かかっている以上、何かしないといけないでしょうね。」
「とはいえ相手は元老院ですよ?私のようなただの商人が同行できるはずないじゃないですか。そもそも他の議員さんは何も言ってないんですか?」
「今回の件に関しては半数近くの議員が賛同の署名をしているわ。まったく、どんな手を使ったのか見当もつかないわね。」
半数近くということはまだ過半数ではないという事か。
前回の一件から五日、この短時間で半数近くを掌握するって普通じゃないよなぁ。
「そもそも元老院議員が冒険者排除推進団体に加入しているのってどうなんですか?」
「別に議員だから団体に署名してはいけないという決まりはないわよ。」
「でも今までそれなりに過激な活動をしてきたわけですよね?議員の素質とか冒険者差別に関して苦情が出ててもいいと思うんですけど・・・。」
「そんなことで意見を曲げるようでは元老院なんかでやっていけないわね。」
「つまり民意は関係ないと?」
「通常議員であれば民意に左右されるでしょうけど、相手は元老院ですもの。遥か昔から国に巣くっている蟲に民意なんて届くわけないわ。」
蟲って言ったよ蟲って。
選挙のある議員と違って民意は反映されないのか。
まてよ?
じゃあ元老議員ってどうやって選ばれるんだ?
「ちなみに選出方法はどうなっているんですか?」
「空席が出来たら半数以上の推薦を受けることで元老議員になれるわ。」
「それだけ?」
「そうよ。」
「それってどうなんです?」
「半数以上の推薦ってのが大変なのよ。方法は・・・まぁ想像の通りね。」
「だから通常議会の方が権力が上なんですね。」
「元老院は一応通常議会の監査役ってことになってるから。」
それでも一般市民や貴族よりも権力を持っていることに変わりはない。
人心掌握が得意な人ほどをそこで地位を上げ、元老院を牛耳ることが出来る。
俺が思っている以上に元老院って腐っているのかもしれないなぁ。
そんな所で参謀をしているガスターシャ氏ってかなりすごい人なんじゃないだろうか。
「議員の過半数が賛同しているというわけではなさそうですし、ひとまず元老院の事は元老院の方にお願いするのが一番かと思います。アーシャさんと連絡って取れます?」
「できないことはないけど・・・。そうね、貴方がどうこうするよりも参謀が動く方が話が早いわね。」
「よろしくお伝えください。」
「他にはどうするの?」
「ひと先ずはデマを否定するところから始めようかと。幸い教会にも縁がありますのでそちらにも証言をお願いしてみます。」
「ほんと普通じゃ考えられない縁よねぇ。」
「メルクリアさんとの縁も普通では考えられないそうですよ。」
なんせ商家五皇の一翼を担う家の人間だ。
ただの商人がこんな風に話をしていい相手ではない。
でもほら、俺の直属の上司ってことにもるし問題はないだろう。
当主様とも一応話はしたことあるし・・・。
そうだ、そっちの線でも力を借りてみようかな。
使える者は親でも使えってっていうしね。
今はなりふり構っている場合じゃない。
「貴方とは部下と上司ってだけよ、私を頼ろうとは思わない事ね。」
「それは残念です。」
「まったく、エミリアも面倒な旦那を持ったものだわ。」
「あははそれに関しては頭が下がります。」
カウンターの方を見るとエミリアが心配そうな顔でこちらを見ている。
別にこっちに来ても構わないのに、遠慮しているんだろうか。
「ともかく状況はこんな感じよ。一応アーシャさんには話を通してあげるけどあとは自分でやりなさいよね。一応商店連合としても出来る限りの援助はするつもりだから。冒険者を排除するなんて馬鹿げたこと、許していいわけないわ。」
「そのとおりです。」
「それじゃあ行くわ、また何かわかったら連絡するからそのつもりで。状況が状況なんだから貴方も頑張りなさいよ。じゃあね。」
エミリアに挨拶をすることも無くメルクリア女史は黒い壁の向こうに消えていった。
よっぽど急いでいたんだろう。
それもそうか、名指しされたのが自分の部下なんだから。
当然だよね。
「もう帰ってしまわれたのか。」
「そのようです。」
怒涛の会話に遠慮していたエミリア達がぞろぞろと集まってくる。
「なんだか思っていた以上に大変なことになっているんですね。」
「そうみたいです。あの日以降おとなしいなぁと思っていたらとんでもない事をやりだしましたね。」
「シュウイチを名指しにするとは・・・。すぐ父上に知らせよう、なにか力になってくれるかもしれん。」
「確かにどういう状況か共有している方がいいですね。」
俺を名指しにしている以上俺と関係ある村にも何か影響が出るかもしれない。
それを言えばサンサトローズにも影響が出るかもしれない。
冒険者ギルドや騎士団をはじめ俺と関係のある組織は多い。
あの爺さんがそれを見逃すとは思えないんだよね。
「これからどうするんだ?今の話じゃかなりヤバいんだろ?」
「必要であれば今すぐにでもラナス様に連絡をお取りしますよ。」
「そうですね・・・、申し訳ありませんがラナス様にご連絡をお願いします。元老院に対して私が反論するよりも同等の権力を持った組織に反論していただいた方が効果は高いでしょう。」
「お任せください。」
「俺はどうすればいい?」
「ガンドさんは今まで通りここで待機をお願いします。奴らがどんな手段をとるかはわかりませんが、強引な手段を取るのであれば力をお借りするかもしれません。」
「任せとけ。」
「さっきの話から考えると冒険者の皆さんはサンサトローズに戻らない方がいいかもしれません。もし宿が必要であればここを使ってください。」
「え、いいんですか!?」
「ご迷惑をかけておきながら言うのもあれですけど、ガンドさん同様もし何かあった時にはお力をお借りできると助かります。」
「まかせてください!」
俺を除きこれからさらに狙われているのは冒険者だ。
俺の店が一番危ないけれど外に出なければ大丈夫だろう。
幸いそれなりに備蓄はある。
流石にこんな辺境まで何かやらかしに来るとは思えないけど・・・。
相手が相手だけに絶対はない。
できるだけたくさんの選択肢を用意しておいた方がいいな。
「イナバ様はどうされるんですか?」
「急ぎサンサトローズに向かいププト様に事の次第を伝えてきます。ここで一番権力があるのはあの方ですから、力になってくれるはずです。」
「そうですよね、プロンプト様でしたら絶対に力を貸してくださいます。」
「ダンジョンはどうぞお任せください。」
「ここまで来ることはないと思いますが、何かされた場合は全力で抵抗をお願いします。」
「私の庭でもう二度と好きなようにさせませんのでどうぞご安心を。」
なんだか物騒なことをいっているのが一人いるけど気にしないでおこう。
さすがにここに来る頃には何かしらの情報を掴んでいるとは思うけど、先遣隊のような形でここを直接狙ってこない保証もない。
やりすぎない事だけを祈ろう。
「急ぎ行動した方がいいだろう。この時間ならまだ定期便は出ておらんのではないか?」
「では私はイナバ様と共に行きます。」
「無茶はするなよ?」
「わかっています。」
「いや、お前じゃなくて他のやつになんだが・・・。」
てっきりジルさんを心配したと思ったのにそっちですか。
流石に一般人に何かするようなことはないでしょう。
ない・・・ですよね?
「ニケさん、あの・・・!」
「エミリア様こちらはお任せください、イナバ様を宜しくお願い致します。」
「わかりました!」
今回はエミリアと一緒か。
そうだよな、この状況で俺一人の方が危険だ。
いや、俺と一緒に来た方が危険なのか?
でも今更来ちゃだめだなんて言えないし・・・。
「よろしくお願いします。」
「さぁ、時間が無い行くぞ!」
さぁ、準備だ!
と立ち上がったその時、再び見覚えのある黒い壁が出現した。
「そうそう言い忘れてたわ。」
飛び出してきたメルクリア女史と危なくぶつかりそうになるのを体を捻って何とか避ける。
危なかった。
出てくるときはちゃんとこっちの状況見て出て来てよ。
「メルクリア様大丈夫ですか?」
「危ないわね、気をつけなさい。」
いや、気を付けるのはそっちで・・・。
いえ、何でもありません。
「どうされたんです?」
「サンサトローズに行くなら注意しなさいよ、例の団体が人を集めて何かやらかしそうだってさっき連絡があったから。」
いや、何かやらかしそうってそこが一番重要なんですけど・・・。
なんだか行くのが嫌になってくるが仕方がない。
冒険者の、そして俺の自由と無実を勝ち取るために危険っていうサンサトローズに行ってやろうじゃないか。
いつもは上品な口調なのにリュカさんみたいな言い方をするなんて、どう考えても良くない状況なんだろう。
あー、聞きたくないなぁ・・・。
「ご無沙汰しております、どうされたんですか?」
「どうされたんですかじゃないわよ!こっちは大変なことになってるんだから。」
「大変な事、ですか。」
「貴方、元老院に喧嘩でも売ったの?」
「あー・・・、はい、まぁ。」
元老院には売ってない。
所属議員には売ったけどね。
「まったく、何をどうやったらそんな相手にケンカ売れるのよ。おかげでこっちは大騒ぎになってるんだから」
「大騒ぎって、商店連合がですか?」
「そうよ。急に元老院から『今後冒険者を相手に商売をするのであればそれ相応の報いを受けてもらう』なんて通告が来たら騒ぎにもなるでしょう。」
「それはまたいきなりですね。」
「さらに私達だけでなく冒険者を支援する他の組織や団体にも『今後補助金の停止や税金の引き上げる』なんて言っているみたいだし、なによりその原因が貴方だっていうんだもの。他の仕事全部置いて慌てて飛んできたわ。」
「まぁ、そうなりますよね。」
俺だって身内が原因だってなったら慌てて事情を聴きに行くだろう。
それにしても俺を直接じゃなくて親会社を狙ってくるとか、かなり悪質だなぁ。
敵に回すと面倒なことになるって、面倒すぎるだろこれ。
「それで、何やったの?」
「冒険者を迫害する団体の関係者を捕縛しまして、どうやらその方が元老院の議員だったようなんです。こちらとしては身分の詐称とダンジョンや街の運営妨害、さらにププト様の命で行っている定期便運行の妨害行為等を受けておりまして、その被害をもとに捕縛を行っておりますので捕縛は正当であると断言できます。必要であれば冒険者ギルド長ならびに騎士団長が正当性を証言してくださいます。」
「エミリアが言っていた冒険者排除推進団体ね。話には聞いていたけどこれまでは冒険者だけが攻撃対象で私達には何もしてこなかったんだけど・・・。名指しするぐらいだし、かなり恨まれているわよ貴方。」
「ちょっと言いすぎましたかねぇ。」
「言い過ぎたじゃすまないわよまったく。」
言い過ぎたというかコテンパンにしてやったというか。
そもそもあんな適当な数字を俺に出してくるのが悪い。
もっとまともな数字だったら俺だってそれなりの対話をする用意もあったさ。
本当だよ?
いきなりぼこぼこになんてしないよ?
「いきなりそんな通告してきて商店連合は反論はしなかったんですか?」
「したわよ!うちも含め同じような通告を受けた団体が一斉に抗議の声を上げたわ。『通告は一方的で冒険者を迫害する根拠は何もない、そもそも冒険者は300年以上前から人々の生活に深くかかわってきているのにそれを急に追い出そうなんておかしな話だ』ってね。」
「それで向こうは何と?」
「過去は過去、今は今。この平和な世の中で冒険者は必要ないの一点張りよ。」
冒険者はここ最近増えた職業ではない。
遥か昔魔王と勇者が存在した時代から冒険者はこの世界に存在した。
その冒険者を今更になって排除しようだなんておかしな話だ。
平和になった分冒険者の存在理由が薄れ、例の団体が主張するような荒い部分が目立ってきただけの話。
今になって冒険者が粗暴になったってことは考えられない。
それを平和になったから要らないなんて何を見ているんだって話だ。
平和な世でも魔物がいなくなったわけじゃない。
今冒険者がいなくなったら誰が魔物を片付けるんだよ。
文句を言うならそこまでちゃんと考えて文句を言えって感じだけど、この前の反応を見てわかるようにそこまで考えていないんだよなぁ。
まったく、迷惑な話だ。
「それはまた無茶苦茶ですね。」
「無茶苦茶どころの話じゃないわ。『特にダンジョンスマート商店連合に所属するシュリアン商店のイナバシュウイチという男は、貧しい者を冒険者に仕立て上げてそいつらから金品を巻き上げ肥やしを増やしている外道である。そのような者を野放しにしていいのか!』とか言ってるのよ、貴方これがどういう事かわかってる?」
「それはまた中々にひどい。」
外道、外道ですか。
道を踏み外した男。
うーん、アウトローな感じ。
って俺は堅気だ、アウトローじゃない。
「通告を受けた組織の中には今回の件はアナタが発端だって言いだしてる人もいるし、そういった連中はアナタの首を差し出して事を収めようとしてくる輩も出てくるでしょう。つまり外にも内にも敵がいるのよ?」
「ちなみに商店連合の立ち位置はどちらでしょう。」
「もちろん貴方の味方だけど事と場合によっては内部から反対意見も出てくるでしょうね。今の所は経営に何も問題は出てないけれど、この先どうなるかは何も言えないわ。」
「冒険者は来ないし変な団体からは目を付けられるし、春になった途端にこれですか。」
「呪われてるなら良い除呪師を紹介するわよ。」
「前向きに検討させていただきます。」
この世界に来て一年、あまりにも怒涛の展開過ぎる。
今までの30年の人生がまるでおまけみたいに感じてしまう密度だ。
呪われているって思いたくもなるよ。
「それで、どうするつもりなの?」
「どうするも何も向こうが勝手に騒いでいるだけですから、私にできることなんて・・・っていうわけにはいきませんよね。」
「貴方だけが被害者ならまだしも商店連合にも迷惑かかっている以上、何かしないといけないでしょうね。」
「とはいえ相手は元老院ですよ?私のようなただの商人が同行できるはずないじゃないですか。そもそも他の議員さんは何も言ってないんですか?」
「今回の件に関しては半数近くの議員が賛同の署名をしているわ。まったく、どんな手を使ったのか見当もつかないわね。」
半数近くということはまだ過半数ではないという事か。
前回の一件から五日、この短時間で半数近くを掌握するって普通じゃないよなぁ。
「そもそも元老院議員が冒険者排除推進団体に加入しているのってどうなんですか?」
「別に議員だから団体に署名してはいけないという決まりはないわよ。」
「でも今までそれなりに過激な活動をしてきたわけですよね?議員の素質とか冒険者差別に関して苦情が出ててもいいと思うんですけど・・・。」
「そんなことで意見を曲げるようでは元老院なんかでやっていけないわね。」
「つまり民意は関係ないと?」
「通常議員であれば民意に左右されるでしょうけど、相手は元老院ですもの。遥か昔から国に巣くっている蟲に民意なんて届くわけないわ。」
蟲って言ったよ蟲って。
選挙のある議員と違って民意は反映されないのか。
まてよ?
じゃあ元老議員ってどうやって選ばれるんだ?
「ちなみに選出方法はどうなっているんですか?」
「空席が出来たら半数以上の推薦を受けることで元老議員になれるわ。」
「それだけ?」
「そうよ。」
「それってどうなんです?」
「半数以上の推薦ってのが大変なのよ。方法は・・・まぁ想像の通りね。」
「だから通常議会の方が権力が上なんですね。」
「元老院は一応通常議会の監査役ってことになってるから。」
それでも一般市民や貴族よりも権力を持っていることに変わりはない。
人心掌握が得意な人ほどをそこで地位を上げ、元老院を牛耳ることが出来る。
俺が思っている以上に元老院って腐っているのかもしれないなぁ。
そんな所で参謀をしているガスターシャ氏ってかなりすごい人なんじゃないだろうか。
「議員の過半数が賛同しているというわけではなさそうですし、ひとまず元老院の事は元老院の方にお願いするのが一番かと思います。アーシャさんと連絡って取れます?」
「できないことはないけど・・・。そうね、貴方がどうこうするよりも参謀が動く方が話が早いわね。」
「よろしくお伝えください。」
「他にはどうするの?」
「ひと先ずはデマを否定するところから始めようかと。幸い教会にも縁がありますのでそちらにも証言をお願いしてみます。」
「ほんと普通じゃ考えられない縁よねぇ。」
「メルクリアさんとの縁も普通では考えられないそうですよ。」
なんせ商家五皇の一翼を担う家の人間だ。
ただの商人がこんな風に話をしていい相手ではない。
でもほら、俺の直属の上司ってことにもるし問題はないだろう。
当主様とも一応話はしたことあるし・・・。
そうだ、そっちの線でも力を借りてみようかな。
使える者は親でも使えってっていうしね。
今はなりふり構っている場合じゃない。
「貴方とは部下と上司ってだけよ、私を頼ろうとは思わない事ね。」
「それは残念です。」
「まったく、エミリアも面倒な旦那を持ったものだわ。」
「あははそれに関しては頭が下がります。」
カウンターの方を見るとエミリアが心配そうな顔でこちらを見ている。
別にこっちに来ても構わないのに、遠慮しているんだろうか。
「ともかく状況はこんな感じよ。一応アーシャさんには話を通してあげるけどあとは自分でやりなさいよね。一応商店連合としても出来る限りの援助はするつもりだから。冒険者を排除するなんて馬鹿げたこと、許していいわけないわ。」
「そのとおりです。」
「それじゃあ行くわ、また何かわかったら連絡するからそのつもりで。状況が状況なんだから貴方も頑張りなさいよ。じゃあね。」
エミリアに挨拶をすることも無くメルクリア女史は黒い壁の向こうに消えていった。
よっぽど急いでいたんだろう。
それもそうか、名指しされたのが自分の部下なんだから。
当然だよね。
「もう帰ってしまわれたのか。」
「そのようです。」
怒涛の会話に遠慮していたエミリア達がぞろぞろと集まってくる。
「なんだか思っていた以上に大変なことになっているんですね。」
「そうみたいです。あの日以降おとなしいなぁと思っていたらとんでもない事をやりだしましたね。」
「シュウイチを名指しにするとは・・・。すぐ父上に知らせよう、なにか力になってくれるかもしれん。」
「確かにどういう状況か共有している方がいいですね。」
俺を名指しにしている以上俺と関係ある村にも何か影響が出るかもしれない。
それを言えばサンサトローズにも影響が出るかもしれない。
冒険者ギルドや騎士団をはじめ俺と関係のある組織は多い。
あの爺さんがそれを見逃すとは思えないんだよね。
「これからどうするんだ?今の話じゃかなりヤバいんだろ?」
「必要であれば今すぐにでもラナス様に連絡をお取りしますよ。」
「そうですね・・・、申し訳ありませんがラナス様にご連絡をお願いします。元老院に対して私が反論するよりも同等の権力を持った組織に反論していただいた方が効果は高いでしょう。」
「お任せください。」
「俺はどうすればいい?」
「ガンドさんは今まで通りここで待機をお願いします。奴らがどんな手段をとるかはわかりませんが、強引な手段を取るのであれば力をお借りするかもしれません。」
「任せとけ。」
「さっきの話から考えると冒険者の皆さんはサンサトローズに戻らない方がいいかもしれません。もし宿が必要であればここを使ってください。」
「え、いいんですか!?」
「ご迷惑をかけておきながら言うのもあれですけど、ガンドさん同様もし何かあった時にはお力をお借りできると助かります。」
「まかせてください!」
俺を除きこれからさらに狙われているのは冒険者だ。
俺の店が一番危ないけれど外に出なければ大丈夫だろう。
幸いそれなりに備蓄はある。
流石にこんな辺境まで何かやらかしに来るとは思えないけど・・・。
相手が相手だけに絶対はない。
できるだけたくさんの選択肢を用意しておいた方がいいな。
「イナバ様はどうされるんですか?」
「急ぎサンサトローズに向かいププト様に事の次第を伝えてきます。ここで一番権力があるのはあの方ですから、力になってくれるはずです。」
「そうですよね、プロンプト様でしたら絶対に力を貸してくださいます。」
「ダンジョンはどうぞお任せください。」
「ここまで来ることはないと思いますが、何かされた場合は全力で抵抗をお願いします。」
「私の庭でもう二度と好きなようにさせませんのでどうぞご安心を。」
なんだか物騒なことをいっているのが一人いるけど気にしないでおこう。
さすがにここに来る頃には何かしらの情報を掴んでいるとは思うけど、先遣隊のような形でここを直接狙ってこない保証もない。
やりすぎない事だけを祈ろう。
「急ぎ行動した方がいいだろう。この時間ならまだ定期便は出ておらんのではないか?」
「では私はイナバ様と共に行きます。」
「無茶はするなよ?」
「わかっています。」
「いや、お前じゃなくて他のやつになんだが・・・。」
てっきりジルさんを心配したと思ったのにそっちですか。
流石に一般人に何かするようなことはないでしょう。
ない・・・ですよね?
「ニケさん、あの・・・!」
「エミリア様こちらはお任せください、イナバ様を宜しくお願い致します。」
「わかりました!」
今回はエミリアと一緒か。
そうだよな、この状況で俺一人の方が危険だ。
いや、俺と一緒に来た方が危険なのか?
でも今更来ちゃだめだなんて言えないし・・・。
「よろしくお願いします。」
「さぁ、時間が無い行くぞ!」
さぁ、準備だ!
と立ち上がったその時、再び見覚えのある黒い壁が出現した。
「そうそう言い忘れてたわ。」
飛び出してきたメルクリア女史と危なくぶつかりそうになるのを体を捻って何とか避ける。
危なかった。
出てくるときはちゃんとこっちの状況見て出て来てよ。
「メルクリア様大丈夫ですか?」
「危ないわね、気をつけなさい。」
いや、気を付けるのはそっちで・・・。
いえ、何でもありません。
「どうされたんです?」
「サンサトローズに行くなら注意しなさいよ、例の団体が人を集めて何かやらかしそうだってさっき連絡があったから。」
いや、何かやらかしそうってそこが一番重要なんですけど・・・。
なんだか行くのが嫌になってくるが仕方がない。
冒険者の、そして俺の自由と無実を勝ち取るために危険っていうサンサトローズに行ってやろうじゃないか。
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本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
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