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第十六章

突然見つかった手段

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話し合いはまだまだ続く。

続くというよりもここからが始まりかもしれない。

「ひとまず早急に解決しなければならないのは何だ?」

「ギルドに持ち込まれた依頼をこなすのが最優先でしょう。冒険者が街から離れたのであれば奴らも悪さはできないはずです。」

「近隣のギルドに冒険者を派遣してもらえるよう依頼はしていますが、今の状況では護衛依頼を消化するだけになりそうです。」

「麦の販売は昨日の時点で停止しているが、量を考えると期の半ばまでは続きそうだな。」

「ではこの半期どのように依頼を消化するかですね。」

半期かぁ。

現状でも結構溜まっているのにこれからどんどん増える分需要に対して供給が追い付いていない。

依頼料を上げたりすると多少捌けるかもしれないけど、そのお金をどこから出すんだって話にもなってくる。

依頼をこなせないとギルドの評判、さらには冒険者全体の評判に関わってくる。

ここは何としても半期やり過ごさなければならない。

「失礼します、頼まれておりました資料をお持ちしました。」

ドアがノックされギルド職員が中に入ってきた。

ティナさんに資料を渡すとこちらに一瞥して素早く退出する。

うーむ仕事が早い。

「こちらが現在届いている依頼と、昨年同時期の依頼内容になります。」

「かなりの量だな。」

「一つ一つはそれほど難しい物ではありませんが、冒険者でなければ対処できないものも混ざっておりますので処理が追い付いていない状況です。」

順番に資料を受け取り中身を確認する。

えーっとなになに・・・。

うん、複雑すぎて読みにくい。

この一年頑張ってはみたけれどまだまだ勉強が足りないようだ。

「すみませんイナバ様には難しすぎましたね。」

「いえ、勉強不足なだけです。」

「普段はどうしているのだ?」

「わからない部分は聞いていますが、妻たちが分かりやすく書いてくれるものですからそれに頼ってばかりです。」

「お前用に資料を作り直すのも手間だからな、精進するが良い。」

「そうします。」

「そちらの資料は昨年同時期の依頼内容ですね。作付けの手伝い、周辺の調査、魔物の掃討、買い付けなんてものもあります。」

ティナさんが俺の傍まで来て後ろから読み上げてくれた。

お手数をお掛けします。

「冒険者でなくても出来る仕事が多いな。」

「この時期はどこも人手不足ですので冒険者の手も借りたいところが多いようです。あと、春になると他の動物同様に魔物の動きも活発になりますので、森や山に巣を作っていた魔物を掃討する依頼も増えて参ります。こちらに関しては冒険者にしか対処できませんので、今年も同様の依頼が増えてくると思われます。」

「今の時点で二件魔物の掃討依頼が出ておるな、ブラックウルスにアシッドフロッシュ。どちらも冬ごもりをする魔物だが春になると獲物を探して活発になると聞いている。そうかこういった魔物も冒険者が処理していたのだな。」

「冒険者が戦っている姿が見えるという事はかなり危険な状態であるという事、見えない方がいいこともあるです。もっとも、見えないからこそ冒険者のありがたみを感じられず彼らの評価が下がってしまうんですけど・・・、それでも依頼した皆さんには伝わっていますからそれでいいのかもしれません。」

もし冒険者が戦っているところが見えたら。

それは今にも魔物が依頼者に襲い掛かろうとしているという事だ。

掃討依頼という事は村や町が出したんだろう。

冬が明け森に入ろうとして魔物に襲われるリスクを冒険者が命を懸けて解消しているわけだ。

見えない方が平和というのも皮肉な話だな。

「そんな状況であるにもかかわらず冒険者は不要という輩には現実が見えていないのだな。」

「そういう事ですね。」

冒険者が要らなくなる時があるとすればそれは魔物がいなくなる時だ。

この世界でそんな日が来るかは・・・正直知らない。

だって俺勇者じゃないし、ただの商人だし。

そしてなにより冒険者相手の商売してるし。

冒険者がいなくなってしまったら商売あがったりだ。

もちろん魔物の被害がなくなればいいとは思うけど、世の中きれいごとだけでは生きていけないようになっているんです。

「他の依頼を見る限りでは冒険者以外の人手を確保すれば何とかなりそうだが、魔物関係だけはそういうわけにもいかん。そういえばギルド内に残っていた冒険者がいたな、あ奴らではだめなのか?」

「あの方々には奴らの情報収集をお願いしているです。」

「そうか、多少のエサは必要か。」

「それに冒険者が完全にいなくなってしまうと緊急の依頼に対処できなくなってしまいます。もしそのような事態になった場合は私が出ますが、一人ではなかなか対処が難しい場合もありまして・・・。」

「ではどうする。」

どうすると言われましてもと逆切れしそうになったその時だった。

「失礼します、カムリ騎士団長が参られました。」

「騎士団長が?入れ。」

「失礼します。」

扉を開けて入ってきたカムリがププト様を見て一瞬驚いた顔をするも、すぐにいつもの表情に戻った。

相変わらずポーカーフェイスがうまいなぁ。

「まさかプロンプト様までおられるとは思いませんでした。」

「それは私も同じだ、この場にカムリ殿が来るとは思いもしなかった。それで今日はどうしたのだ?」

「カムリ騎士団長にはギルドの依頼に対処するべく人員の確認をお願いしておりました。それで、いかがでした?」

「入団の時期とも重なっておりあまり多くは動かせませんが10人ほどは融通できるかと。」

「騎士団員であれば実力も申し分ない、十分に対応できるだろう。」

「依頼数にもよりますが五人二班で動いてもらえれば何とかなるかもしれませんね。」

依頼が多ければ三班に分けてもいいが人数が多い方が安全が増す。

冒険者の命だから失ってもいいというわけではないけれど団員の命も大切だからね。

安全第一で行きましょう。

「どういうことでしょう。」

「今ギルドに届いている依頼を確認していたのですが、どうしても魔物関係の依頼は一般の方にお任せできなくて困っていたんです。その点騎士団員であれば実力も折り紙付き、安心してお任せできます。」

「では主に魔物の依頼に対処するのですね?」

「それ以外の依頼については人を雇い対処しよう。ちょうど街道整備の仕事も終わり労働者の手もすいている、彼らの力を使えば半期は何とかなるだろう。」

「団員もその方が助かります。人々の命を救ってこその騎士団員ですので。」

いつもの勤務から外され雑務を任されればモチベーションも下がるだろう。

もちろんそういった仕事も大切だけど、彼らには彼らのプライドがある。

餅は餅屋、皆に合った仕事をしてもらうのが大切だ。

「ふむ、どうなることかと思ったが何とかなりそうだな。まさかカムリを呼んでいたとは思わなかったぞ。」

「話の流れで来ていただいたのですが助かりました。ですがこれで依頼の方も何とかなりそうですね。」

「魔物への対処さえできればなんとか。ですが依頼料は・・・。」

「それもこちらが出そう。こいつの案とはいえこうなった責任は私にある。」

「よろしくお願い致します。」

よしよしこれでまた一つ解決だ。

冒険者の減少と護衛依頼の原因究明、そしてギルドに舞い込んできた依頼への対処。

当初はどうすればいいかわからなかったが案外何とかなるもんなんだな。

流石俺。

いや、周りの人たちの権限が強いおかげか。

普通依頼料を工面するとかなったら金策しないといけない。

お金なんてポンポン出てくるもんじゃない。

苦労してひねり出してそれを依頼料に充てるのが普通だ。

それをさも簡単に俺が出そうなんて言えるのはププト様ぐらいのもんだろう。

まぁこの人の場合は『民が困っているのを解決するのもまた領主の仕事だ』なんて言うんだろうけど。

その為に皆から税金を納めてもらっているんだしね。

「だがお前の方はどうにもならんぞ、それでいいのか?」

そう、俺もまたお金を必要としている。

春節までに金貨10枚を確保しなければノルマ未達となり奴隷に落とされるだろう。

なので今の状況は非常によろしくない。

俺の商売は冒険者が相手だ。

冒険者がいなければ商売が出来ない。

なので冒険者がサンサトローズから離れてしまっている現状は最悪と言ってもいいだろう。

今頃、事情を知らないエミリア達は冒険者が来なくてやきもきしているに違いない。

俺も困っているのでお金が欲しいと言いたい所だが、事情が違いすぎる。

残念ながら個人に流すお金はない。

「冒険者の安全が最優先です。致し方ありません。」

「まさかこのような状況になるとは思わなかった、すまないと思っている。」

「これもププト様が冒険者の事を思って下さったからこそ、感謝するのはこちらの方です。」

先ほども謝ってくれたというのにこの人と来たら。

柄にもなく自分のせいでこんなことになった事を気にしているんだろう。

そんなに気にしなくてもいいのに。

「ともかく残る問題はは例の団体にどう対処するか・・・なんですけど、いまだによくつかみきれてないんですよね。」

「話に聞いていたよりもやり方が手ぬるいな。」

「冒険者への暴言、過激な掲示物、そして当商店への妨害。」

「一番問題のある定期便の妨害も私達に直接害を為すものではありません。」

「騎士団に届いている通報もその程度の物です。他の都市では過剰な運動により負傷者も出る騒ぎになっているとか。」

そう一番変なのはそこだ。

冒険者排斥運動推進団体といえば悪名高く迷惑な連中で、自分たちの理念の為には他者への迷惑も厭わないと聞いている。

冒険者を追い出すべく狩場を荒らし、喧嘩を吹っ掛け、依頼をなくすよう圧力をかける。

彼らがいる間は仕事が出来ず冒険者は他の都市へ行くしかない・・・というのが当初に聞いていた話だ。

だがサンサトローズで出没したのはそこまで過激な奴らではない。

最初はこの程度なのか、それとも別の団体なのか。

それすらもわからない状況だ。

「彼らの動きを探りたい所ですが、対象となる冒険者がいないのでなかなか難しいですね。」

「実害が無いとはいえ放っておくわけにもいくまい。」

「ですが彼らを一方的に追い出すことも出来ません。何かしでかしてくれれば騎士団としても対処できますが今の所は何も。」

「そもそも誰が行っているかがわからんのだ、追い出しようもない。」

そこなんです。

誰がやっているかさえわからない。

神出鬼没とかそういうのではなく、活動そのものが少なすぎるんだ。

やっていることは小さいけれどそれにかかっているお金は中々のもの。

だから貴族やお金持ちが犯人じゃないかって考えはしたけれど具体的な事は一切わからない。

まるで元の世界で話題になった神出鬼没で有名な画家のようだ。

「他の問題と違って情報が少なすぎるんですよね。」

「この団体さえいなくなれば冒険者にもギルドにも平穏が訪れるのですが・・・。」

そもそもこいつらが来なければ今頃冒険者相手にしっかり商売が出来ていたんだ。

ホント迷惑な連中だよ。

「姿が見えなければどうしようもありません。」

「そうだな。」

「お手上げですねぇ。」

「ではどうする。」

ほんとお手上げ。

これだけの人数が集まってもいい知恵は出ない時は出ないもんです。

さっきもどうするって言っていたけど、どうにもできません。

では困るんだよなぁ。

「何か動きがあれば対応するとして、今は様子をみるしかないかと。」

「うぅむ歯がゆい。」

「囮を出しますか?」

「冒険者を囮にするのか?」

「街中を歩いてもらってちょっかいを出してきたら騎士団が捕獲するんです。」

「罪状は?」

「暴行とか?」

「冒険者が先に手を出せば捕まるのは彼らだぞ?」

あー・・・。

それは困る。

手を出さないでくれとはお願いするけれど、手を出さない保証はない。

ってか、囮にする冒険者がそもそもいないじゃないか。

完全に手詰まりだね。

「ではやはり様子をみるしかありません。」

「それしかないな。わかった、奴らに関しては引き続き各自情報収集に徹し新しい事が判明次第連絡するように。」

いつまでも悩んでいたって仕方がない。

無理なものは無理なのだ。

出てこない答えに頭を悩ますぐらいならスパッとあきらめた方がいい。

長々と続ける会議程無駄な物はないからね。

生産性が無いのに長時間拘束されて、まったくいい迷惑です。

ププト様の発言で全員の緊張がふっとほどけるのが分かった。

大きく息を吐き、心なしか笑顔になる。

「かしこまりました。」

「この後イナバ様はどうされますか?」

「ここにいてもすることはありませんし店に戻って事情を説明しようと思います。当分お客は来なさそうなので久々にゆっくりさせてもらいますよ。」

「一人だけさぼるつもりか?」

「時間があるとはいえ仕事は手伝いませんよ?」

「いいではないか、どうせ暇なのだろう?」

いやまぁ確かに暇でしょうけど、せめてオブラートに包んでいってくれませんかねぇ。

ってこの人にそれを言うのは無理な話か。

「冒険者が来なくても出来る仕事はあります。ダンジョンを見直し、帳簿を見直し、倉庫を片付けて。そうだ村の手伝いもあります。」

「お忙しいんですね。」

「残念ながら暇ではなさそうです。ですのでお仕事はお断りさせていただきます。」

「そうか・・・お前にぴったりの仕事だと思ったんだがなぁ。」

この人は一体何をさせるつもりだったんだろうか。

そんな言い方されるときになるけれど、ここで聞けば仕事を押し付けられる。

我慢だ。

「帰りはどうされますか?」

「行きは迎えに来てもらいましたが帰りもお願いするわけにはいきませんし、まだ明るいので歩いて帰ります。」

「定期便に乗ればいいではないか。」

「残念ながら定期便は明日ですので。それにまた妨害されたとしたら・・・。」

そこまで発言して全員がハッとした顔をした。

「どうやらたっぷり時間が出来そうだな。」

「いや、妨害されると決まったわけでは。」

「だが今一番可能性があるのはそれだ。お前が見届けなくてどうする。」

「カムリ騎士団長にお任せして捕まえて頂くとか。」

「お前に頼まれたと言われれば他の者では確認のしようがない。その点お前がいればすぐに訂正することも出来るだろう。」

「ひとまず妻たちに現状を報告しないといけませんし。」

「私が人をよこそう、いや商店連合に伝え念話してもらえばよい。」

ダメだ。

何を言ってもそっちの方向にもっていかれる。

ごめん皆。

今日は帰れそうにない。

「そうと決まれば話は終わりだ。さっさと屋敷に戻るぞ。」

「いや、ですから・・・。」

「イナバ様頑張ってください。」

「健闘を祈ります。」

「この薄情者ぉぉぉぉ!」

俺の叫び声がギルド中に響いたとか響かなかったとか。

さすが魔の都サンサトローズ。

やっぱり一人で来るんじゃなかった。
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