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第十六章

害をなす者は全て敵である

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なんとまぁシンプルかつ大胆な文言なんだろう。

冒険者は出ていけ!

ってそれダンジョンの中で言う?

普通は街中とかでやるもんじゃないの?

初心者が多かったって言ってたけど、まさか追い出そうとしている冒険者に扮して中に入ったって事だろうか。

そこまでしてダンジョン内でやるのがビラ撒きって・・・。

ちょっとやろうとしている事のベクトルがおかしくないだろうか。

シルビア様が紙を右上から左下に豪快に引っぺがして荒々しく丸める。

それを投げ捨てるのかと思いきやあらん限りの力で小さくつぶしてしまった。

「ユーリたちはこれをはがして回っているんですね。」

「いったい誰がこんなことを・・・いや、あいつか!あいつの仕業なのか!?」

「あいつ?誰か心当たりがあるんですか?」

「父上の所に来ていたあの男だ!あの場ではおとなしく話を聞いてやったが、影でこんな事をしていたのなら父上の顔を気にせず怒鳴りつけてやればよかった!」

「まぁまぁシルビア落ち着いて。」

突然烈火のごとく怒り出したシルビア様を宥めつつ奥の方に目を向けると、同じようなものが張られている事に気が付いた。

一先ずシルビア様の怒りが収まるまでこれを回収するとしよう。

奥へ進むと10メートル間隔ぐらいで同じ文言の紙が貼られていた。

回収して進む事しばし43枚を数えたところで紙は無くなった。

ふぅ、ひとまずこれで全部か。

大きくため息を履き後ろを振り返ると申し訳なさそうな顔をしたシルビア様が俺を見つめていた。

「これで終わりみたいです。」

「すまない、ついカッとなってしまった。」

「落ち着きましたか?」

「もう大丈夫だ。だが、話だけの男かと思ったのだがまさかここまでするとは。」

「ニッカさんの所に来た男性ですよね?」

「あぁ、最初こそ穏やかな感じで昔話をしていたのだが、父上がシュウイチの話をし始めた途端態度を変えてな。冒険者は不要だ、その男は危険だから手を切れ!と言い出してな。突然の事に父上も驚いていたがその後も冒険者は危険だからとか国から追い出すべきだとか好き勝手言って帰っていった。なんでも冒険者排斥運動とかいうの行っている団体があるらしいのだが、それがサンサトローズに目を付けたらしいのだ。」

冒険者排斥運動?

そんな活動団体初めて聞いたぞ。

ってかこの世界では冒険者はごく普通に存在している職業だし、今更排斥とかありえるのか?

仮に排斥したとして誰が代わりに魔物を狩ってくれるんだろうか。

昔イアンにも言ったけれど冒険者が行っていることは人々の生活に深く関係している。

それを無くそうなんて、普通は考えつかないと思うんだけど・・・。

あぁ、だからシルビアが普通じゃないって言ったのか。

「それはまた随分過激なことを言う人ですね。」

「思わず私の夫を侮辱するなと言いかけたが、父上が遮ったのでな。おそらく何か考えがあってそうしたんだろうが、今思い出しても腹が煮えくり返るようだ。魔物であったなら一太刀で首をはねてやるというのに。」

コラコラ、元騎士団長とは思えない発言ですよ。

落ち着いて下さい。

「嫌な思いをさせましたね、すみません。」

「どうしてシュウイチが謝る。悪いのはあいつだ、あいつがこんなことをしたに決まっている!」

「確かにものすごく怪しい人物ですが証拠がありません。流石に証拠もなく怒鳴り込むことはできませんよ。」

「だが!」

「私の為に怒ってくださってありがとうございます。でも、こんなことをされたからこそ冷静に対処しなければなりません。怒りに任せて行動すればそれこそ向こうの思うつぼです。わざわざここにこんなものを張るのも、私への嫌がらせそれと冒険者を威嚇する為でしょう。昨日定期便を使わせなかったのも間違いなくその団体が関与しているでしょうが、これもやはり証拠がありません。今は冷静に行動するしかないんです。」

怒りで拳を振りかざせば向こうはそれを待っていましたと反撃してくるだろう。

だがそんな見え透いた罠に引っかかってやる義理はない。

こんな時こそ冷静に。

向こうが幾重にも張り巡らした罠を総べて避け、一撃で叩き潰してやらないと。

やられっぱなしでいる気はもちろんない。

やられたならやり返す。

倍返しだ!

ってね。

え、古い?

そうかなぁ。

「シュウイチは冷静だな。」

「私も大切なお客様である冒険者を狙われて怒っています。怒っているからこそ冷静にならなければならないんです、それこそエミリアのように。」

「確かにエミリアが怒っているときは静かだからな。」

「静かな時ほど怖いんです。」

「それはお前が怒らせるようなことをするからではないのか?」

「いやまぁそうなんですけど・・・。」

「最近は多少マシになってきたがまだまだ私達に遠慮している気概があるからな。それについては妻として断固抗議させてもらう。」

「もちろんわかっているんですよ?でもつい・・・。」

おかしい。

よくわからない団体について話していたはずなのに、どうして俺は責められているんだろうか。

例えか?

たとえ話が悪かったのか?

でもあれが一番わかりやすいかなって思って・・・。

「と、ともかく上に戻りましょう。ガンドさんも何か知っているみたいですし。」

「そうやって話題をそらすところもアレだが、そうだな今はそんなことを話している場合ではない。」

「急ぎ上に戻りましょう。」

よかったとりあえず難を脱したようだ。

シルビア様と共に地上に戻る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

街道の奥に商店の明かりが見える。

地上に戻ってきた時、あそこが帰る場所だって冒険者は思ってくれているんだろうか。

そうだと嬉しいなぁ。

「すみません遅くなりました!」

「お帰りなさい。あまりに遅いので迎えに行こうかと思っていました。」

「ちょっと面倒なことになってまして、心配かけてすみませんでした。」

どうやら冒険者は皆帰ってしまったらしい。

それはそれで好都合だ。

「ユーリ・・・は戻っているようですね。」

「時間がかかり申し訳ありません。その様子ですと中のあれはもうご覧になったようですね。」

「三階層の奥で発見しました、一応見つけたものは全てはがしてあります。」

「ご主人様の手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。対処した傍から追加されるので、また夜にでも確認しておきます。」

疲れた表情こそ見せないものの、面倒だという雰囲気は伝わってくる。

ほんとご苦労様です。

「まさかダンジョンの中にこんなものが張られているなんて思いもしませんでした。」

「イナバ様、もしかして初心者だと思っていたあの人たちが犯人なんでしょうか。」

「それに関しては何とも言えません。私達も犯人を見つけたわけではありませんが、犯人らしき組織についてはシルビアが知っていました。」

「それはあれか?冒険者を追放しようなんてバカなことを考えている奴らか?」

「ガンドさんの所にも情報が来ていたようですね。」

「噂は聞いたことあったがまさか本当に実在していたとは。全く面倒な奴らがいたもんだ。」

あ、噂はあったんだ。

ってことはものすごく弱小の活動集団というわけではないのかもしれない。

「『冒険者排斥運動推進団体』か。確かに冒険者をよく思わない者もいるが、それでもこれはやりすぎだ。」

「サンサトローズでも冒険者が被害にあってるらしい。被害と言っても文句を言われたとか、道を塞がれた程度らしいが、今後それがどうなるかはわからねぇ。」

「商店連合ではその団体について何か情報を持ってたりしませんか?」

「今聞いているんですけど、商店連合自体には直接的な被害が無いそうなのであまり期待できないかもしれません。」

「となると、冒険者ギルドに聞くのが一番早そうですね。」

冒険者を管理しているのはギルドだ。

あそこなら被害情報も入ってくるだろうし、過去にどう対処したのかデータがあるかもしれない。

餅は餅屋。

百聞は一見にしかずってね。

「様子をみたい所ですがうちに実害が出ている以上放っておくことも出来ませんね。とりあえず、明日サンサトローズに行って冒険者ギルドと輸送ギルドに行こうかと思います。」

「冒険者ギルドはともかくなぜ輸送ギルドなんだ?」

「昨日の冒険者乗車拒否がギルドの指示でない確認だけしたいんです。おそらくその団体が勝手に行ったんだと思いますが、確証を得ておきたくて。」

「証拠を集めるわけではないのか?」

「昨日の話ですからその団体が行ったという証拠は出てこないでしょう。定期便はこれからも出ますし、主要な組織が指示していないという確証を先に取っておけば発見した時に動きやすいと思いまして。」

防犯カメラみたいなものがあればいいが、人の記憶はあいまいなものだ。

100%犯人ですという物証は出てこないだろう。

ならば今後も妨害されることを想定して先に手を打っておけば、いざという時に対処しやすい。

見知らぬ団体が悪さをしていると言うことも出来るだろう。

「それならば定期便を妨害している団体があるとプロンプト様に進言すれば何とかしてくれるかもしれんな。」

「あまりにもひどい場合はそれも視野に入れています。まずは明後日の定期便で同様の妨害が行われるか・・・ですね。一応監視してもらえるよう輸送ギルドにはお願いするつもりです。」

「妨害程度で騎士団が動くことは難しいが、ギルドからの要請があれば巡回することはできるだろう。」

「さすがに騎士団員の目の前で流石に荒事はしないでしょうし・・・、いいですねティナさんにはそのような形でお願いしてみます。」

使えるものは何でも使わせてもらおう。

それが俺の、いやシュリアン商店のやり方だ。

俺達に喧嘩を売ったらどうなるか、目にもの見せてやる!

と、行きたい所だが最初から過激な反応をするには相手の事を知らなさすぎる。

火にガソリンを注ぐわけにはいかないからね。

まずは様子をみてから少しずつやっていこう。

「冒険者だけならともかくイナバ様に喧嘩を売るとは、神をも恐れぬ不届き者ですね。」

「バカなだけかもな。」

「そうとも限らんぞ、噂になるという事はそれなりに長いことこの運動を行っているという事だ。それに、何かを成すには金が要る。長期間それだけの金を捻出できるという事は裏に何かいるのかもしれん。」

「魔物なら叩き切ってやれば済むんだが、人間ってのはめんどくさいな。」

「ハハハ、私もさっきガンド殿と同じことを言ったところだ。」

脳筋というか物理全振りというか。

二人とも頭はいいはずなのにすぐめんどくさがるんだから。

そういう所も頼もしいんですけどね。

「では、ユーリとバッチさんには引き続きダンジョンの清掃ならびに監視をお願いします。夜間に侵入しないとも限りませんので、何かわかった時はたたき起こしてもらっても大丈夫です。」

「お任せください。」

「ガンドさんとジルさんは引き続き冒険者から情報収集をお願いします。また、ダンジョン内で不届き者を発見した時は御助力いただければ助かります。」

「俺達はもうここの人間だ、遠慮なく指示してくれ。」

「不届き者には制裁を。神が許しても私が許しませんので御心配なく。」

初めてであったときはもっと硬い感じの人だったように思うけど、ジルさんもガンドさんと一緒になって少し変わったようだ。

どちらかというと今の感じのほうが好きだなぁ。

この二人ならダンジョンの魔物は余裕で倒せるし俺が同行しなくても問題ない。

それに、商店を含め冒険者を目の敵にしている相手だ。

実力行使してこない保証もない。

そこにユーリやエミリア、ニケさんを行かせるわけには行かないからね。

ほんと良いタイミングでガンドさん達が来てくださって助かった。

「シルビアには村の警護をお願いします。シャルちゃんのお店や宿が冒険者を相手に商売している以上、うちと同じように圧力や妨害を受ける可能性があります。ウェリスやドリスと共に警備体制の強化を指示してもらえますか?」

「冒険者全てを標的にしているのであれば十分に考えられるな。分かった、急ぎ父上とも話しをして対策を考えよう。」

「私とニケさんは引き続きお店を守れば良いんですね?」

「お二人には今まで通りお店をお任せします。もし該当の団体から誹謗中傷を受けた場合は速やかに商店連合に連絡して騎士団に来てもらえるようお願いしてください。また、危険を感じた場合はお客様であっても容赦する必要はありません、全力で身を守ってください。」

「相手をしないということですか?」

「お客様は大切ですが危害を加えてくる相手はお客ではありません、敵です。なので相手をする必要なんてありませんし、ガンドさんとジルさんにお願いして追い出しても構いません。あと、私達ではなく冒険者に同様の行為をしているのを発見した場合も同じように対応してください。」

冒険者お客様は大切に。

自分の身を守るのと同じぐらいに彼らの存在は大切だ。

その辺も含めて明日は対策を考えたほうが良いだろう。

全く売上が欲しいだけなのに変なのに目をつけられてしまったなぁ。

「危害を加えてくるのは客じゃない、確かにその通りだ。敵であれば容赦する必要は無いよな?」

「出来るだけ穏便に、とだけお願いしておきます。やりすぎると余計に加熱するかもしれないので。」

「その辺は上手くやるさ、任せてくれ。」

「本当に大丈夫ですか?」

「なに、ちょいと躾てやるだけだって。」

その辺は上手くやってくれる・・・と思うけど。

また明日念押ししておいたほうが良いかな?

「ひとまず今日のうちに出来る事はこのぐらいですかね。今までは定期便の妨害という些細な問題だけでしたが、ダンジョンを通じて冒険者だけでなく直接うちにも妨害が来た以上毅然とした態度で戦うだけです。大変な時期にこんな事になってあれですが、宜しくお願いします。」

「大変なのはいつものことだと毎度お話しております、諦めておりますので御安心下さい。」

「それは安心して良いんでしょうか。」

「いつもどうにかなっているではないか。今回もどうにかなる、そうだろ?」

「早く解決しないと後一節しかないんですから。」

「頑張りましょうね。」

大変な事ばかり起きるので耐性がついてしまったようだ。

ホントいつもすみません。

決して俺が呼び寄せているわけじゃないんですよ?

本当ですよ?

「ところでご主人様。」

「どうしました?」

「まさかサンサトローズへ一人で行くつもりでは無いですよね?」

全員に指示を出してさぁ完璧と思っていたら突然足元に落とし穴が現れた。

はて、どうしたものか。
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