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第十六章

末代まで永遠に

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「お前ら、遅いじゃねぇか!」

「すみません!急に定期便を使うなって言われたもんで歩いてきました。」

「これでも急いだほうなんですよ。」

「街道が整備されたとはいえやっぱ遠いっすよ。」

「だから、お前は・・・。」

「おい、今なんて言った?」

「だからこいつが女の所に行ってて体が。」

「そうじゃねぇ、定期便使うなって言われたのか?」

「そうです。乗ろうと思ったら急に、『冒険者の皆さんはご利用できません。』って言われたんですよ。頭来て怒鳴ってやろうかと思ったんですけど、イナバ様のメンツ潰すわけにもいかないんで、仕方なく歩いてきました。遅くなってすんません。」

申し訳なさそうな顔で頭を下げる(主におっさん)冒険者たち。

そんな事よりもなんだって?

定期便を使うなだって?

一体誰がそんなことを言い出したんだろう。

春節になって体制が変わったとかそんな感じだろうか。

それでもまずは事前に連絡してくるのが筋ってもんだ。

なんせこの定期便はシュリアン商店と村だけでなくププト様の命で運用されている。

それを勝手に仕様変更したら大変なことになるぞ。

「シュウイチがそんな指示を出したのか?」

「そんなことしませんよ。何か催しがあるのならまだしも春節最初の定期便に大切なお客様である冒険者を乗せないだなんて考えられません。」

「そうですよね。」

「では一体誰がそんなことをしたのでしょう。現在の状況を考えればご主人様の邪魔をしている、そう考える事もできますが。」

「邪魔をするだなんて見当もつきません。」

恨まれる事・・・は無いとは言い切れないが、こんな露骨に邪魔をされる理由がわからない。

それも春節が始まってすぐだ。

一体何がどうなっているのやら。

うーむ、イヤな感じだなぁ。

「とりあえずお前ら遅れた分たっぷり買い物して帰れよ。」

「えぇ、そりゃないっすよ!」

「そうっすよ!せっかく就職祝い持ってきたのに。」

「就職祝いだと?」

「あの兄貴がシュリアン商店なんてまっとうなところで仕事するんですよ?しかも俺達相手に。これが祝いじゃなかったら何だっていうんですか。」

「お前ら・・・。」

何とも言えない感じで言葉に詰まるガンドさん。

おや、案外こんな感じに弱いのかな?

「俺が就職できないって思ってたわけだな?いい度胸じゃねぇか、お前ら全員表出ろ、ちょいと根性叩き直してやる。」

「じょ、冗談ですよ!勘弁してください兄貴!」

「姐さんには別にお祝い持ってきていますから!」

「そういう問題じゃねぇ!ちょいと俺が下手に出れば調子に乗りやがって、片手一本でもお前ら全員相手にできるって事、おもいしらせ・・・。」

机をバン!と叩いて怒りを露わにしたガンドさんだったが、途中でジルさんの鋭い睨みを浴びて言葉に詰まってしまう。

まるで蛇に睨まれた蛙だ。

あれ、ここってこんなパワーバランスだったっけ?

どちらかというとジルさんがガンドさんに惚れたような感じだったような・・・。

違った?

「せっかくお祝いに来てくれているのにそういう言い方はよくないのではありませんか?礼には礼を持って答えるのが筋というもの、皆さんの上に立ち助言を与える身になるのですからその辺りは自重してください。」

「お、おう・・・悪かった。」

「姐さんありがとうございます!」

「「「ありがとうございます!」」」

危なくガンドさんの餌食になりかけた冒険者の皆さんが女神を見るような目でジルさんを見つめている。

よかったねぇ。

「ともかく冒険者の皆さんが来ない理由が分かっただけでもよしとしましょう。皆さんが先行してこられたという事は、他の冒険者も後からくるんですよね?」

「もう少ししたら来るんじゃないか?」

「あぁ、若いのは何人か文句を言っていたけど来ない理由はないしな。」

「それが分かっただけでも十分です、有難うございました。」

冒険者はくる。

なら『今』はそれでいい。

誰かが何かの理由で定期便を使用させなかったという事実は残るが、冒険者が来てくれるのならそれで十分だ。

「さぁ私達も準備をしましょう、今日は一日忙しいですよ!」

その後いつもの通り多くの冒険者が来店し、スタートが遅れたこともあって日暮れまで店は賑わった。

最初はどうなることかと思ったけど売り上げは上場、この分で行けば春節通じて想定以上の収益が見込めそうだ。

もっとも、それでも目標には遠く及ばないんだけど・・・。

でも、前に進んでいるという実感はある。

後は・・・。

「すまん、先に風呂を貰った。」

夕食後順番にお風呂に入り、今はちょうどシルビア様が出てきたところだ。

頬が上気していて湯上り姿はなんだか妖艶な感じがする。

今朝の件が無かったらそのまま寝室に誘いたい所ではあるけれど、まだ風呂にも入ってないんだよね。

「今日の撒き割当番は私でしたから。それに、体を動かしている方が考えがまとまります。」

「座っているよりも体を動かす方がいいのは皆同じか。」

「そういう事です。」

「それで、考えはまとまったか?」

「色々考えてはみましたが原因になりそうなものは思いつきませんでした。陰謀、悪戯、伝達不良、可能性はたくさんありますがどれも可能性の一つにすぎません。わかっているのは『誰かが冒険者を定期便に乗せなかった』それだけですから。」

「誰がそれをしたのか、何のために、どんな理由で。情報が無さすぎるな。」

「そうなんです。」

情報が少ないのでいくつも考えは思いつく。

でも、思いつくだけでどれにも信ぴょう性が無いんだよな。

「どうするつもりだ?」

「予定通り明日村に行ってニッカさんと話をしつつ情報を集めるつもりです。労働者の方が何か言っていたかもしれません。」

「直接街に行かないのか?」

「今日来てくださった皆さんが情報を集めてくださるそうです。私が行くと首謀者が隠れてしまうかもしれないので、様子をみようと思います。」

「なるほど。当事者に情報収集してもらうのか、確かにその方が効率がいいな。」

「仮に怪しい人物がいても泳がせるようにとお願いしてます。どういう意図がいるのか、後ろにだれがいるのか、今の所直接的な害はありませんので動きにくいというのが本音ですね。」

もしかしたら今日限りの悪戯なのかもしれない。

もちろんそうであってほしいけど、もしそうでないのなら明日以降も何かしらのアクションを見せるはずだ。

情報収集は捜査の基本。

自分が動けないのは悔しいけれど、ここは冒険者の皆さんを信じて待つしかない。

「皆はどうした?」

「エミリアとニケさんは先に部屋に戻りました。ユーリは夜の点検だそうです。」

「こんな時間にか。」

「今日はダンジョンに潜る人も多かったので罠の整備などに時間がかかっているみたいです。バッチさんもいるので遅くなることはないと思いますが・・・。」

「宿の方も盛況だそうだな。」

「えぇ、久々に満室です。今頃酒盛りでもしているんじゃないですかね。」

就職祝いとかで夕方からどんちゃん騒ぎが始まっていた。

朝まで騒ぐことはないと思うけど、あまりにひどいようであれば様子をみに行こう。

「二人が来てくれて本当に良かったな。」

「本当にそうですね。セレンさんにゆっくり休んでもらう為にも、商店の為にも最高の人材だと思います。」

「セレン殿の食事が楽しめるのもあとわずかか。」

「そうですね。でも、ジルさんのご飯も美味しくてびっくりしました。」

「自分で自信があるというだけの事はある。」

「もちろん、シルビアの料理も美味しいですよ?」

「愛する者に食べてもらえることが一番の喜びだ、もちろんそういってもらえるのもな。」

うちの女性陣は皆料理が出来るからなぁ。

逆に俺の当番の日が来ると申し訳なくなる。

頑張って練習しよう。

「さて、私もお風呂に行ってきます。シルビアも先に休んで構いませんよ?」

「せっかく二人っきりの時間だ、お前が上がってくるまで待っているよ。」

「風邪をひきますよ?」

「ひいたら看病してくれるんだろう?」

「もちろんです。」

「冗談だ、温かい香茶を淹れて待っているさ。」

のんびりつかろうかと思ったけれど、せっかくのお誘いだしササっと済ませてしまおう。

一度外に出て井戸から水を汲み風呂に次ぎだして薪を一本だけ追加する。

春になった途端に夜の冷え込みもましになったので少しぬるめでも大丈夫だろう。

家に戻り台所で準備をしているシルビアを横目に脱衣所で服を脱ぎ浴室へ入った。

「おや、ご主人様の番でしたか。これは失礼しました。」

と、そこにいたのは一糸纏わぬ姿のダンジョン妖精もとい人造生命体ホムンクルス

「ユーリ!」

まさかいるとは思わず大きな声が出てしまった。

「大きな声はお控えください、奥様方が起きてしまいます。」

「いつの間に戻って来たんですか?」

「ご主人様が水を継ぎ足しているときです。」

「声をかけてくれればよかったのに、すみませんすぐ出ます。」

いくら気心の知れた相手とはいえ素っ裸でいるのもなんだか気恥ずかしい。

ユーリが出てくるまで待つとしよう。

「私はご一緒でも構いませんが。」

「いや、流石にそれはまずいでしょう。」

「どうしてですか?別に知らない仲ではありませんよ?」」

「そりゃそうですけど・・・。」

いくらシルビア様がそういった事に理解があるとはいえ、一緒だと目のやり場に困ってしまう。

ダンジョン妖精とはいえ体は人間と同じように作られていて、出る所はそれなりに出ているし引っ込むところは引っ込んでいる。

何より元の主人がそういった機能まで追加してしまっているのでどうしてもそういう目で見てしまうんだよね。

「別にそういった目で見られても構いません。むしろお誘いしていると思っていただいて結構です。」

「いや、誘ってるって余計ダメでしょ。」

「どうしてですか?奥様の次はニケ様と私というお約束です、子作りまではいかないまでもその途中まででもお楽しみいただけますが。」

「途中までとかいうのはやめなさい。」

「ふむ、男性はそういった事が好きだと皆さん仰っておられますのに・・・。ご主人様はやはり普通とは違うようです。」

普通じゃないとは失礼な。

ちゃんと機能してますし性癖も普通ですよ普通!

色々小さくないとだめとかそういうの一切ありませんから。

大きくても小さくても問題ありません!

どこの話だって?

さぁ、どこでしょう。

「シュウイチ、どうかしたのか?」

騒ぎを聞きつけてシルビア様がやって来た。

まずい!

いや、まずくないんだけど、なんとなくまずい気がする。

「ユーリが際に入っていたようです、すぐに出ます。」

「ユーリが?」

「先ほど戻って参りました。よろしければシルビア様もいかがですか?」

「シルビアは先ほど入ったばかりですし・・・。」

「それもいいな。」

はい?

今何と?

いや、さっきいい湯だったって出てきたんじゃなかったでしたっけ。

それに香茶はどうするんです?

「シルビア?」

「冗談だ、ユーリの分も追加して待っているとしよう。あまり遅くなるなよ?」

「かしこまりました。」

「あ、いや、かしこまりましたって言われましても。」

「覚悟を決めてくださいご主人様。別に食べるわけではございません、背中をお流しするだけですよ。」

「本当にそれだけですからね。」

ここでひいては男が廃る。

その誘い乗ってやろうじゃないか。

極力ユーリの方を見ないようにしながらかけ湯をし、二人で湯船につかる。

横並びで風呂に入るのはなんだか新鮮だった。

こんなことなら薪をもう一本追加しておけばよかった。

そしたらのぼせそうだからとか言えたのに。

「ご主人様とこうやって過ごすのは初めてかもしれませんね。」

「そういえばそうですね。」

「お会いしてから約一年、まさかこんなにも楽しい日々を過ごさせていただけるとは思いもしませんでした。」

「ユーリはダンジョンの中しか知りませんでしたもんね。」

「もしご主人様に出会えなかったら今でもダンジョンの中であの人と共に過ごしていたことでしょう。」

ユーリを作った天才魔術師ユリウスト。

彼の亡骸とダンジョンを守る為に彼女はずっと地下で暮らしていた。

今思えば魔力を摂取すれば生きていられる彼女だからこそ出来た荒業だな。

それでも約150年ずっと地下にこもっていたんだ。

地上の世界はさぞ眩しく映ったことだろう。

「今更ですが連れ出して迷惑ではありませんでしたか?」

「迷惑だなんて思ったことはありません。むしろ新しい世界を教えていただき感謝しています。」

「本当ですか?」

「もちろんです。まさかそんなことを心配しておられたのですか?」

「いつか聞こう聞こうと思っているうちに一年たってしまいました。でも、よかったです。」

「これまでも、そしてこれからもお傍においてくださいますか?」

「もちろん、ニケさん同様シュリアン商店はユーリ無しでは回りませんからね。」

今ユーリにいなくなられると誰がダンジョンのメンテナンスをするんだろうか。

バッチさん?

俺?

いやいや、あのダンジョンを知り尽くしているユーリだからこそ出来る仕事だ。

居なくなられては困る。

「有難うございます、この身が尽きるその時まで私はシュリアン商店と共にあります。もちろんご主人様を看取った後もです。」

「ユーリは長生きですからね。でも、私達が死んだら自由になっていいんですよ?」

「いいえ、私は生涯ご主人様の大切なものを守ると今誓いました。例えご主人様の命が失われたとしても、新しい命が私を導いて下さいます。それが続く限り私が見守り続けましょう。」

「命続く限り。それまで子孫が続くといいですねぇ。」

「その為に今仕込みをしているのではありませんか?」

「いや、仕込みって・・・。まぁそうなんですけど。」

種を仕込む。

一体どこでそんな言葉を覚えてきたんだろうか。

あ、冒険者か!

口の悪い人も多いからなぁ。

「何でしたら私に仕込んで頂いても構いませんよ?そうですね、それがいいです。そうすればその子の成長を糧に生きていけます。」

「仮に子供が出来たとして、その子の寿命はどうなるんでしょうか。」

「おそらく普通の人間として生まれてきますので、ご主人様でしたらヒューリンになるのではないでしょうか。」

「自分の子供が先に死んでしまうんですね・・・。」

長命故の宿命だが、考えただけで辛いなぁ。

「ですがその子にも子が出来ているでしょう。そしてその先も、私はそれを見れるだけで幸せです。」

「ユーリがそれでいいのなら。」

「で、どうされます?今から仕込まれますか?」

「仕込みません!」

「そうですね、まずは奥様方からとの約束です。ですのでさっさと仕込んで頂いて順番を譲って頂くとしましょう。」

大事な話をしていたような気がするんだけど・・・。

まぁ、それ含めてのユーリか。

「ではまずは約束の通りお背中をお流ししましょう。さぁ、上がってください。」

「お手柔らかにお願いします。」

その後どうなったかは皆さんの想像に任せるとして・・・。

その夜なんとなくシルビアが積極的だったのは言うまでもない。
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