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第十五章

悪い予感と躓き

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ガンドさんの言う超特急は本当に超特急だった。

超特急過ぎて目の前の景色が超特急で通り過ぎて行き、目が回りそうだったとは口が裂けてもいえない。

何て表現すればいいかわからないけど、ともかく超特急だったのは間違いない。

ちなみに乗り心地はあまり良くなかった。

あ、違う訂正します。

超絶良くなかった。

何度バウンドして尻をぶつけたことか。

それどころか左右にはねてシルビアの胸元に何度ダイブしたか・・・。

え、うらやましい?

そんなときに限って丈夫なハーフプレートを身に着けているわけですよ。

おかげでたんこぶがいくつかできてしまった。

「有難うございました。」

「俺は荷物を積んでまた戻らせてもらう、本当に助かった!」

「戻るのならばくれぐれも安全運転で頼むぞ。」

「街道が整備されたおかげで何とか今日中に終わりそうだ。さぁ、忙しくなるぞ。」

まるで子供のようにはしゃうガンドさんを乗せ、馬車は超特急で見えなくなってしまった。

そういえばガンドさんとジルさんの家ってどこにあるんだろう。

サンサトローズないだと思ったんだけど・・・。

ま、今後は住み込みになるしいいか。

「まさかこんな短時間で着くとは思わなかったな。」

「体感的に一刻ぐらいしかたってないと思います。」

「これもシュウイチが街道の整備を願い出てくれたおかげだ。これからはますます村も栄えることだろう。」

「定期便も毎便満員のようですから増便を考えていいかもしれません。」

「費用の問題があるから何とも言えんが、増便できれば冒険者は増える。そうすれば売上は増えシュウイチの目標に近づくわけか。」

「利便性が上がれば新たに移住しようとする人の選択肢が増えますし、村としても安定感が出ます。本当は前に話したチーズのような特産品があればそれだけで村に落ちるお金が増えるんですけど・・・そこに行きつくまでにはまだまだ時間もお金も足りません。私の目標なんておまけみたいなものですよ。」

元の世界でもよく言われていた名産品、特産品問題。

地場産業の無い地域では某納税事業で魅力を発信することが出来ず、結局名産品以外のものに手を出して行政の指導を受けるというあの負のスパイラル。

地元の焼肉屋さんに協力いただいてお肉と秘伝のタレを返礼品にしたのに、お肉が地元産じゃないからという理由で却下されたりとか。

そもそも返礼品欲しさに納税するってがおかしな話なんだよな。

最初は地元愛から始まった事業のはずなんだけどなぁ・・・。

って、それを今俺が考えても意味ないか。

「森に囲まれ目立った特産品の無い我が村にとって冒険者は数少ない外部のお客様だ。彼らをいかに満足させていくかが今後の課題だな。」

「でも、冒険者ばかり優遇すると静かに暮らしたい村の皆さんから反発は出るでしょう。良い所を取りながら焦らずゆっくりしていくしかありません。」

「そしてそうやって発展していくためにも金が必要なのか。世の中生きていくだけで一苦労だな。」

「ある所にはあるんですけどねぇ・・・。」

目の前を通り過ぎていく貴族と、その奥に見える貧しそうな人。

同じ街で暮らしているのにこれだけ差が出るのも、これまた元の世界と同じだ。

「さぁ、その未来の為に戦いましょうか。」

「そうだな。」

「と、言っても残額を確認するだけなので戦いではないんですけど・・・。」

「それでもフェリス様とは一戦交えねばならんのだろう?あの方と口で戦えるのは世界広しといえどお前ぐらいのものだ。」

「お誉めに預かり光栄です。」

「お願いだからあまり無茶だけはしないでくれよ?」

「多分大丈夫です。」

別に喧嘩しに行くわけじゃないからそこは問題ないと思う。

預けているお金を貸してもらうだけだし。

残ってれば、の話だけど。

最悪足りなければ村存続の危機と言ってププト様に借りるとしよう。

流石に領地の問題だからそれぐらいは何とかしてくれそうだ。

まてよ?

それなら先に話を持っていけば万事解決じゃないか?

村が危ないから緊急でお金を準備してもらって、それでおしまい。

後はシュリアン商店も一緒になってその融資を返していけば・・・。

うん、最後の手段としてとりあえず候補にしておこう。

まずは自分にできることから。

何事も地道にコツコツだ。

中央の噴水広場を抜け、魔術師ギルド前に到着する。

重厚な門はいつもと変わらず俺達を迎えてくれた。

さぁ、後はいつものように門を開けてっと・・・。

「シュリアン商店所属イナバシュウイチ、開門願います。」

「三種類の精霊波導を感知・・・異種の加護を感知したため本人と確認できません。」

な、なんだってー!

いやちょっと待って。

何で今まで確認できてたのにダメなのさ。

「開かないようだな。」

「そのようです。」

「異種の加護というのはあれか?先日フォレストドラゴンからもらったというやつか?」

「おそらくそうだと思いますが・・・、まさかそれで拒否されるとは思いませんでした。」

不気味な青色の建物の前で往生する二人。

その姿はさぞ不審に映るのだろう。

それが例えサンサトローズで知らない者が少ない二人だとしてもだ。

通り過ぎる人に不審な目を向けられながら何度か試したものの、答えは同じだった。

「どうする?これ以上は時間の無駄だと思うが。」

「私もそう思います。」

「なら先にコッペンの所へ向かい用事を終えてから戻ってくるとしよう。」

「致し方ありません。」

当初の計画からはくるってしまうが、元々コッペンの所にはいく予定だったんだから順番が前後するだけの話だ。

本当はギルドで確認した金額から足りない分を蜜玉で補うつもりだったので、こりゃコッペンとも一戦構えないといけないようだ。

安くでもいいなんて思っていたけれど、出来るだけ高く買ってもらわないとまずいなぁ。

と、諦めかけたその時。

「ちょっとアンタ何してるのよ。」

突然入り口の大扉が開き中からリュカさんが現れた。

さすが入り口の番人。

頼りになります。

「これはリュカ殿。入り口が空かず難儀していたところだ、礼を言う。」

「シ、シルビア様!喜んでもらって光栄です。」

「すみません助かりました。」

「何度も不正入場しようとする輩がいるって聞いて様子を見に来たけど、なんで入れないのよ。」

「さぁ・・・。」

理由はわかってるんだけどリュカさんに知られたらまたうるさいからなぁ。

「もう一回やってみなさいよ。」

「このまま入っちゃだめですか?」

「次来た時に同じようなことされると迷惑なのよ。ほら、さっさとする。」

僅かな抵抗もむなしく扉は閉められ開門を強要されてしまった。

しかたない、なるようになるか。

「シュリアン商店所属イナバシュウイチ、開門願います。」

「三種類の精霊波導を感知・・・異種の加護を感知したため本人と確認できません。」

この文言を聞くのはこれで何度目だろう。

三種類までは認識してくれてるんだからさ、もう一種類ぐらい別に構わないじゃないか。

ってか、前回二種類から三種類に増えても問題なく開門したぞ?

どういうことだよ。

「ちょっと異種の加護ってどういう事よ。」

「色々と事情がありまして・・・。」

「精霊の加護だけじゃ飽き足らず異種の加護って、アンタの周りはどうなってんの?」

「それに関しては何とも・・・。」

「ともかく事情を聴くまでは中に入れれないわ、さぁ白状しなさい!」

え、ダメなの?

「リュカ殿、こちらにも事情があってだな急ぎフェリス様に会わねばならんのだ。」

「いくらシルビア様のお願いでも危険因子を中に入れることはできません。それにまた連絡なしで来たんでしょ?今日はもう先約があるから無理よ。」

「いえ、予約はとってきました。昨日エミリアから連絡してもらっています。」

「なんだアンタ達だったの・・・って駄目よ。さぁいったい誰の加護を貰ったか言いなさい。」

うぅむ。

致し方あるまい。

「フォレストドラゴン様より加護を頂戴しました。」

「はい?」

「ですからフォレストドラゴン様から・・・。」

「三精霊の加護だけじゃ飽き足らずドラゴンの加護までもらったの?」

「色々とありまして、ありがたいことに頂戴いたしました。」

ほんと色々あったんです。

まぁ加護を貰ったのは年甲斐もなく子供をコテンパンにしたからだとは口が裂けても言えない。

あ、子供って言っても俺よりも年上になるんだけど・・・。

ややこしいからいいや。

「なんていうか呆れて何も言えないわ。」

「毎度のことながらシュウイチが迷惑をかけるな。」

「仕方ない、ドラゴンの加護なら害するものでもないし断る理由もないわね。さっさと入りなさい。」

「すみません助かります。」

「別にあんたの為じゃないわ、フェリス様に怒られない為よ。」

ツンデレ発言をスルーしていつものようにギルドに入る。

世界樹のロビーを抜け、大回廊を通り、フェリス様のいる尖塔へと到着した。

「精霊師リュカよ、フェリス様のお客を連れてきたわ。」

「申し訳ありません。急な来客があり誰も入れるなと言われております、お待ちいただくか日を改めてお越しください。」

いつものように門番に話しかけてさぁ中に入ろうかと思ったらなぜか止められれてしまった。

「何でよ。エミリアを通じて予約してるのよ?」

「イナバ様が来ることは存じておりますが、先ほどの通りです。詳しくは申し上げられません。」

「私が聞いてもダメなの?」

「リュカ様とはいえお答えすることはできません。」

まじか。

入り口で躓き今度はここで躓くのか。

流石に明日また来るってのは無理があるしなぁ・・・。

「シュウイチどうする?」

「ここまで来てお会いできないのは悔しいですが、余程の事なのでしょう致し方ありません。」

「いいの?用事があるから来たんでしょ?」

「それはまぁそうなんですがお会いできるまで待つ時間もありませんので・・・。そうだ、ミド博士にはお会いできますか?」

「ミド博士?確か今日は研究室にいるはずだけど。」

「ではそちらにお願いします。もしかするとミド博士でもわかるかもしれません。」

「私は加護をどうやってもらったのか聞きたかったんだけど・・・、仕方ないわね。」

融合結晶に関わっているのはミド博士だ。

もしかしたら値段に関しても知っているかもしれない。

なんだったら三精霊の融合結晶を作ってもらってそれをミド博士に売却するという手もある。

そうか、その手があったか。

それならこんな苦労しなくてもお金を集めることが出来るじゃないか。

「シュウイチ、悪い事は言わんそれだけはやめておけ。」

「あ、やっぱりだめですか?」

「子供が生まれ何かとお金がかかる時期だろう。それにだ、新たな融合結晶なんて渡してしまったら大事な時期に家に帰らなくなるぞ。」

「あー、それはまずいですね。」

産後クライシスという言葉がある。

産後のメンタルがボロボロの時に旦那さんの力を借りることが出来ず、その後それが原因で夫婦関係が悪化するというやつだ。

あれはまずい。

一生言われ続ける。

その引き金を俺が引くというのはさすがに気が引けるなぁ。

やめておこう。

「ミド博士に事情を話しもしわからなければ日を改めるとしよう。最悪蜜玉のお金だけでも一節ぐらいは何とかなるのではないか?」

「そうですね。無理に今日中に集めなければいけないわけではありませんし。」

「なに?お金が欲しいの?」

「色々とありまして・・・。ともかくそれも踏まえてミド博士に相談します。」

「金策なんてアンタも大変ねぇ。」

「リュカ殿は困らないのか?」

「私?私はほら、貰った給金はすぐ使っちゃうんで・・・。」

宵越しの金は持たない方でしたか。

そうですか。

なら何も言うまい。

そういう生き方が悪いとは言わない。

結婚する相手がお金を持っていればまぁ、生活はできるし。

ってかこの人本当に結婚できるのか?

この間カムリとくっつけようって話もしてたけど結局あれはどうなったんだろう。

「そういえばシルビアは余りお金を使いませんね。」

「そうか?」

「えぇ、一緒に暮らしだしてアレを買うからお金を使いたいとかいうのを効いたことがありません。」

「今まで騎士団中心で生きてきたから余り物欲がないかもしれん。だが、今回の整備費用はちゃんと貰ってきたぞ?」

「それは必要経費ですから。自分用に欲しい物とかないんですか?」

「そういうのはシュウイチが買ってくれるからなぁ。」

そうだっけ?と思い返してみるとそういえばネムリの店でよく買い物をしている気がする。

それでも日々の生活で欲しい物って出てくると思うんだけど・・・。

そうか、雑誌とかネットとかがないから情報が入ってこないんだな。

街に住んでいるならともかく随分と離れた場所に住んでいるから情報が回ってこないんだ。

それに加えて余り自分から情報を仕入れようとしないので結果欲しい物が出てこないのか。

なるほどなるほど。

「えー、それなら私にも何か買って欲しいんだけど。春になったら新しい化粧品が発売されるって噂なのよね。」

「家族で無い人に買うのはちょっと・・・。」

「なによ知らない仲じゃないじゃない。」

「リュカ殿、シュウイチが良い男なのは分かるがあまり誑かさないでいただきたい。」

「誑かすだなんて、冗談ですよ。それにもう少しかっこいい人が好みなので。」

悪かったなイケメンじゃなくて。

なんて昔は思っただろうけど、今は美人の奥さん二人に囲まれているので何とも思わない。

これがリア充の勝利なのだよ!

とかなんとか話しているとミド博士の研究所前にたどり着いた。

重厚な石の扉のまえにはいつものように警備の人が・・・っていない?

「おかしいわね。誰もいないじゃない。」

「本当だな。」

「一体誰が中と取り次いでくれるんでしょうか。」

これで三度目の躓き。

まさかシルビアの言っていた悪い予感っていうのはこれのことなのか?

ってことはこのままコッペンのところにいっても不在でお金は回収できないとか・・・。

そんな事を考えていたら突然石の扉がゴゴゴゴと音をたてて回転を始めた。

「待ってください博士!まだ大丈夫です!」

「大丈夫なわけあるか!イラーナが苦しんでいるんだぞ、そんな状況で集中できるか!」

「ですから!まだ子供はお生まれになりません!」

「そんなはずがあるか!えぇい、離せ!行かせろぉぉぉぉ!」

石の扉からただならぬ形相で飛び出してきたミド博士。

「ミド博士どうしたんですか?」

「丁度いい所に!子供が、子供が生まれそうなんだ!研究所を頼む!」

警備員の腕を振り払いそれだけ言うとミド博士は飛んでいってしまった。

いや、研究所を頼むって・・・。

貴方に用事があるんですけどぉぉぉ。

悪い予感は的中する。

俺はあと何度躓けば良いんでしょうか。

そう、小さくなっていくミド博士の背中を見ながらため息をついた。
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