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第十四章
勝者へのご褒美
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結局問題は49問まで出題され、大台50問を前にドラゴン娘のギブアップで幕を閉じた。
いや、敵ながらよく頑張った方だと思う。
俺にしかわからないであろう問題に果敢に挑んだ挑戦者をほめてあげたいです。
なんてインタビューで答えてしまいそうなぐらいによく戦った。
「私が、フォレストドラゴンであるこの私が負けるなんて・・・。」
「まだ勉強中の身なんだから仕方ないよ。」
「それでも憎らしい人間に負けたのよ?この私が!」
「相手がシュウちゃんだもん、仕方ないよ。」
悔しさで涙を流す姿には申し訳ない気もするが、それでも負けられないのは俺も同じだった。
勝てばダンジョンの権限が戻ってくる。
でも負ければ、全てが水の泡だ。
ここまで頑張ってきたのも、死にかけたのも全てなかったことになってしまう。
この一年弱、がむしゃらにみんなで頑張ってきた結晶であるこのダンジョンを手放すことなんて、俺には絶対にできない。
負けられない戦いがここにある。
いや、あった。
「仕方ないって言うけど、そもそもこいつは何者なのよ!」
「何者と言われましてもイナバ様はただの人間、になるのでしょうか。」
「そりゃあ勉強不足かもしれないけど、それでも私がただの人間に負けただなんて信じられるとおもう?」
「でも事実負けちゃったもんね。」
「うん。」
あ、あの勝者が言うのも何なんですがもう少し敗者をいたわってあげてですね・・・。
相変らず容赦ないなこの二人は。
その点ルシウス君は一応言葉を選んでいるようだけど・・・。
「ともかく、イナバ様が勝利されたのです約束は守って頂けますよね?」
あ、そうでもなかった。
ズバッと現実を突きつけて話を先に進めようとしている。
いや、このままだと上の二人が話をこじらせるので強制的に話を区切ろうとしたのかもしれない。
さすがルシウス君、出来る子だ。
「仕方ないわね。ママの悔しそうな顔が見れないのは残念だけど、約束を守らないのは私の信条に反するわ。ちょっと待って、今出すから。」
え、今出すの?
あれって結構おっきかったけど、どうやって?
ってか、普通に考えてその体の中に収まる大きさじゃなかったよね?
ま、まさか某大魔王みたいに吐き出すっていうんじゃ・・・。
なんてことを思ったのもつかの間、ズズンという大きな揺れがダンジョンを襲った。
全身が揺られ、慌ててバランスをとってしまうそれぐらい大きな揺れだ。
地震大国の住民が思わず身構えてしまう震度5以上な感じだろうか。
あれだよな、震度5ってかなりすごい地震なのにそれに慣れすぎて最近じゃ弱いように感じるけど本当はすごい地震なんだよな。
ってそうじゃない。
揺れが収まったと同時に今度は土煙が俺を襲う。
元々暗かったダンジョンがさらに暗くなり、指先すら見えなくなったしまった。
慌てて周りを見渡すもドリちゃん達の姿は見えない。
仕方ない土煙が収まるのを待って・・・。
と、見えないはずの正面。
ちょうどドラゴン娘のいた方向から明らかにさっきと違う圧力を感じた。
威圧感とかそういうんじゃない。
なんていうか、圧迫感?
空間が何かに占領されたような閉塞感のようなものが襲ってきた。
「シュウちゃん大丈夫?」
「大丈夫だけどいったい何がどうなったのか・・・。」
「えっとね、大きいだけだから、気にしないでね。」
「大きいとか言わないでよ!気にしてるんだから。」
「あ、気にしてたんだごめんね。」
「これでも貴女達よりも上の存在なのよ?もう少し敬うとかそういう気は起きないの?」
土煙が少しずつおさまり、暗い中でもある程度見えるようになってきた。
左前にドリちゃんとディーちゃん。
右前にルシウス君がいる。
そして、目の前には・・・。
「ドラ・・・ゴン?」
「そうよ。え、本当に信じてなかったの?」
ゲームや漫画ラノベも含め数々の作品の中で登場する偉大な存在。
竜とかドラゴンとか色々な言われ方をするんだけど、中国式と西洋式で元になった動物が違うんだよね。
確か前者が魚とか水神関係で、後者がトカゲだっけ。
どちらも種類は多いけどアジアンテイストの方は全体的に長いイメージだ。
ちなみに俺の目の前にいるのはもちろん西洋式。
暗闇の中に見える姿は何度もゲームで見た姿と同じだ。
「か、かっこいい・・・。」
「ちょっと、女の子に向かってカッコいいはないんじゃない?まぁ私の姿に見惚れてるのはわかるけどさ。」
「あ、ごめん。」
「だから敬語はどうしたのって言ってるのよ!」
ドラゴンが暴れる度にダンジョンがズンズンと揺れる。
でも何だろう、四足のドラゴンが目の前で地団駄踏むのってちょっと新鮮だなぁ。
「ほらほら、あんまり暴れるとダンジョンが壊れちゃうよ。」
「そんなに重くないわよ、失礼ね。」
「じゃあ、ペッ、しよっか。」
「子供じゃないんだからそんな言い方しないで!まったく、貴女達がそんなんだから人間になめられるのよ。」
「シュウちゃん、舐めるの?」
「舐めませんよ?」
「そう、残念。」
残念ってなにが?
一体何と勘違いしているんでしょうか。
ディーちゃんの発言には毎回どきっとさせられる。
とりあえずこのドラゴンが先ほどのドラゴン娘であることは分かった。
身体の割に出てくる声はさっきと変わらないんだから不思議だなぁ。
「そんなの念話で話しかけてるんだから当然でしょ?」
「え、そうなの?」
「当たり前じゃない。この大きな口でこんなにペラペラしゃべれると思ってるの?舌噛むじゃない。」
やっぱりそうなのか。
いや、口元の動きの割には言葉が流暢だなって思ったんだけどやっぱりそうなのね。
納得しました。
「それじゃあ返すわね。」
そう言うとドラゴンが少しだけ身震いし口から小さな塊を吐き出した。
それをディーちゃんが出した水塊で受け止めそれがフヨフヨと俺の手元まで降りてくる。
パチンとシャボン玉がはじけるように塊が壊れたかと思うと、大量の水と共にオーブが手の上に落ちてきた。
ズシリとした重さに慌てて抱き留める。
ふぅ、危なかった。
ここまでやっといて落として割りましたじゃ目も当てられない。
「これで返したからね。」
「はい、確かに。」
「返したんだからこの話はもうおしまい、この私が人間に負けただなんてママにチクったらただじゃおかないんだから。」
「私達は何も言わないよ、ねぇディーちゃん。」
「うん。ルシ君も言わないよね?」
「はい、僕達は何も言いません。」
なんでそこだけ強調するんだろうか。
まぁ、俺はこれさえ戻って来れば何の文句もない。
後は台座に戻してあげれば権限が復活する・・・はずだ。
「そう言えばドラゴンなのに火を噴かないんですね。」
「私は全知全能のフォレストドラゴンよ?なんであんな野蛮な奴らと同じことしなきゃいけないのよ。」
「じゃあ他のドラゴンなら火を噴くとか?」
「うーん、全部が全部火を噴くわけじゃないのよ?青竜や土龍はそもそも火を吐かないし、貴方の世界で言うワイバーンという種類もあぁ見えて火は吐かないわね。むしろ火を吐くのって火龍や赤龍だけなんじゃないかしら。」
俺の質問に答えたのは目の前にいるドラゴン・・・ではなく、何故か後ろから聞こえてきた声だった。
慌てて後ろを振り返ると、そこにいたのは俺と同い年ぐらいの女性。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる感じ、まるでエミリアとセレンさんを足して割ったような感じだ。
顔は美人だけど美人過ぎず、髪は肩口ぐらいまで。
うーん、黒髪っていうよりも深い別の色っぽいが暗くてよくわからない。
そしてなにより左目の下にある黒子が何とも言えない。
泣き黒子っていうんだっけ?
ちょっとエロティックな感じがするんだよなぁ。
「あら、そんなに褒めてもらえるなんて光栄だわ。せっかく娘がお世話になったんだからちゃんと御挨拶しないとダメよね。」
そう言いながら女性が右手を頭上に掲げると指先から白い光の玉が射出され、天井でパンとはじけた。
それと同時に暗闇で包まれていた最下層が光に溢れる。
あれだ、前にエミリアの使った明かりの魔法だ。
いや、あれ以上の明るさだな。
よく見ると女性の髪は深い緑色をしていた。
うん、益々好みだ。
っと、あくまでもこれは好みの問題であって浮気とかじゃないのであしからず。
「好みだなんて嬉しいわ。だけど私には心に決めた人がいるの、ごめんなさいね。」
「ママ!どうしてここに?」
「ママ?ってことはこの人はもしかして・・・。」
「お初にお目にかかります、私はリェース。フォレストドラゴンと言えばお分かりいただけるかしら。」
ってここでまさかのご本人登場ですか!
どうしよう正体を知ったのに見た目が普通だからか感動とかそう言うのが一切ない。
こんなこと言うとフェリス様に怒られるんだろうけど・・・。
「どうして?どうしてここにママがいるのよ!?」
「どうしても何も私はずっとここに居ましたよ?シルエがそのオーブを食べた時からずっと。」
「それ最初からじゃない!じゃあずっと見てたの?」
「もちろん。シルエがここで何をして何を言ったのかも全部見ていました。私の悔しそうな顔が見たいんですってね?でも、あれっぽっちの問題も答えられないようじゃまだまだよ。」
マジか。
あの50問全部聞かれてたのか。
やばい、自分にしかわからない知識でマウントを取りに行ったところを全部見られたなんて。
こ、殺されないだろうか。
ここは先手必勝、元の世界でお馴染みのジャンピング土下座で許しを請うしか・・・!
「す、すみませんあのような問題で大人げなく娘さんを言い負かしてしまいまして・・・。」
「あら、謝る必要なんてないわ。あの子が真剣勝負を挑んできたんですものそれを負かすのも大人の立派な仕事だと理解しています。むしろ、あの子に現実を見せるいい機会になったとお礼を言わなきゃいけないかしら。」
「そんな、恐縮です。」
「ちょっと、なんで私には普通だったのにママには敬語なのよ!」
「シルエ、口の利き方には気をつけなさいと教えなかったかしら?貴女はこの人に負けたのよ?どうして敗者が勝者に偉そうなのかしら。」
「だってそれは・・・!」
「なぁに?人間だからって甘く見てると痛い目見るわよ?まぁ、私もその人間にコロッとやられちゃったわけだけど。聞いてくださる?あの人ったら今度私と一緒に旅行に行きたいなんて言ってくださるのよ?こんな1000年も生きたおばさん相手に、なんだか恥ずかしいわ。ねぇ、私みたいなのが横を歩いて迷惑じゃないかしら。」
あの話の流れから唐突に惚気が始まってしまった。
1000年以上生きるすごいドラゴンに惚れられるってどんな凄い人間なんだろうか。
やっぱり勇者って奴ですか?
でも300年は出現していないって聞いてるけど、どうなんだろう。
「十分お美しいですから問題ないと思います。むしろ、男として嬉しいといいますか何と言いますか・・・。」
「そう、よかった。恋は盲目っていうのかしら?あの人私のことになると周りが見えなくなっちゃうから、でも第三者の意見が聞けて安心した。ありがとう、イナバシュウイチさん。」
「どうして名前を?」
「そりゃぁもう、この子達から聞かされていますから。今回もわがまま言ったみたいで、後できつく言っておきますから。」
「そんな、三人にはいつもお世話になっています。どうか叱らないで上げてください。」
「ですって、よかったわね。」
後ろで俺たちのやり取りを聞いていた三人がホッと息を吐くのが分かった。
あの三人でも緊張するぐらいの相手なんだよな。
フォレストドラゴン。
普段は聖域にいて人の目に触れることのない伝説の存在。
そういう意味では精霊も普段人前に姿を現さないんだけど・・・、まぁこの三人に関しては普通とちょっと違うという事で。
「えへへ、シュウちゃんありがとう。」
「こちらこそどうもありがとう。おかげでダンジョンを元通りにできそうだよ。」
「それも全部シルエが食べてしまったからよね?本当にごめんなさい。」
「あ、いえそれは・・・。」
「さぁ、シルエ。お勉強をさぼって逃げ出した件も含めてたっぷりとお話しましょうか。」
今目が光った。
間違いなく光った。
顔はニコニコと笑っているのに、目だけは笑っていない。
その目に睨まれてドラゴンの姿のまま震えがっている。
「い、いやよ!私は帰らない!ずっとここにいるんだから!」
「何を言っているの、フォレストドラゴンとして知識で負けるなんてあってはならないこと。これも全部貴女が勉強しなかったのが原因でしょ?」
「そ、そうだけど・・・。」
「立派に私の跡を継いでもらわないと困るんだから。さぁ、帰るわよ。」
「ちょ、ちょっと誰か!ねぇ助けてよ!」
巨大なドラゴンがイヤイヤと首を振りながら後ずさりをする。
こんな光景二度と拝むことはないだろう。
っていうかドラゴンにまた会うとか考えたくない。
「観念して帰った方がいいとおもうなー。」
「今ならきっと、許してもらえると思うの、たぶん・・・。」
「が、頑張ってください。」
「この薄情者ー!」
そう叫ぶと再び土煙が上がり巨大なドラゴンはドラゴン娘へと姿を変えて逃げ出そうとする。
だが目にもとまらぬ速さで母親がその首根っこをつかんで離さなかった。
「お願いママ許して!」
「ダメです。シルエが言うことを聞いてくれないからあの人とのデートに着ていく服を悩む時間が無くなってしまったわ。・・・覚悟してね?」
「うわぁぁぁぁん!!」
打ち上げられた光がだんだん消えていく。
深くなる闇に紛れるように親子の姿も見えなくなっていった。
もうドラゴン娘の泣き声も聞こえない。
静寂に包まれたダンジョン。
「はぁ・・・。」
怒涛の展開に思わず大きなため息が漏れてしまった。
「お疲れ、シュウちゃん。」
「緊張したの?」
「そりゃあ緊張するよ。」
「きつく言っておくって言われた時どうしようって思ってしまいました。」
「みんなもやっぱり緊張するの?」
「えへへ、だって私のお母さんみたいなものだもん。緊張するよ。」
そうか、森の精霊だからか。
ドリちゃんの言葉に共感するように二人もうんうんと頷いている。
まぁ色々とあるんだろう。
「さてっと、上で皆が待ってるし急いで終わらせないと。」
ドリちゃん達のお願いは達した。
後は本来の目的を達成すれば終了だ。
「これをどうするの?」
「確か部屋の真ん中にある台座にあったはずなんだけど・・・。」
光の魔法が消え、あたりは真っ暗になってしまい真ん中がどこかわからなくなってしまった。
「もしかしてあれの事ですか?」
と、思っていたら暗闇の向こうからルシウス君の声が聞こえてくる。
さすが、できる子!
声のする方へと走っていくと、見覚えのある台座がぽつんとたたずんでいた。
「これだよ、有難う。」
「ねぇ、見ててもいい?」
「いいけど面白い物じゃないかもよ?」
「いいの。」
まぁそれならいいけど・・・。
三人に見守られながらオーブを台座へと戻してみる。
すると、置いた瞬間に真っ赤に光ったかと思うと黄色や緑など様々な色に変化をしていき、そしていつもの青色へと落ち着いてくれた。
ふぅ、これでオッケーかな?
「終わりですか?」
「多分ね。」
オーブは戻したしこれでいいはずなんだけど、何か確認できることはないだろうか・・・ってそうだ!
俺は再びオーブの上に手を置き、例の部屋へ入れるよう意識を集中する。
すると、部屋のどこかでゴゴゴゴという響く音が聞こえてきた。
よし、あの部屋が開いたってことは権限は戻っているってことだ。
よかった安心した。
「ねぇ今のはなに?」
「ちょっと確認をね。さて、権限も戻ったしこれで全部完了かな。」
「お忙しいのにお手伝いいただきありがとうございました。」
「本当にありがとう!」
「お礼、しなくちゃいけないね。」
あー、そういえばそうだったね。
お願いをかなえたらお礼を貰う。
それが精霊のお願いを聞くという事だ。
と言われても何かしてもらいたいことがあるわけでもなく、急に思いつくことも無い。
はてさて困ったぞ。
「とりあえずそれは上に戻ってからかな。ゆっくり考えてもいい?」
「もちろん!何だって聞いちゃうよ!」
「できれば冬のうちに願いします、暖かくなると力が弱まっちゃうので・・・。」
あぁそうか、ルシウス君は雪の妖精だもんな、暖かいのは苦手か。
「大丈夫、その分私が、頑張るから。」
「じゃあ帰ろうか。」
さぁ、帰ろう!そう意気込んだその時だった。
最下層が再びパッと明るくなり、リェールさんが再び現れた。
どうしたんだろう。
「そうそう、一つ言い忘れてたの。」
「なんでしょうか。」
「さっきシルエに聞いていた質問だけどね、集団暴走の原因は私達にもわからないの、それと精霊になる妖精の選別は好みによるものが多いかしら、あと、魔法が使えないのは貴方が魔力の少ない世界で生まれているから。これでいいかしら。」
「それを言うために戻ってきてくださったんですか?」
「娘の尻ぬぐいをするのも母親の仕事、それと知らなかったで済ませるのはフォレストドラゴンとして許せなかったから、かな?」
「大変参考になりました、有難うございました。」
「また聞きたいことがあったら遠慮なくおっしゃいなさい、貴方あの人によく似た雰囲気がするから嫌いじゃないわよ。」
そ、それは喜んでいいんだろうか。
じゃあね、と手を振って再びリェールさんは姿を消した。
そうか、魔法はやっぱり難しいのか。
嬉しいような残念なような・・・。
でもまぁそれが分かっただけでもよしとするか。
「あ、それとね!」
ってまたまた姿を現すリェールさん。
どうやらかなりそそっかしい性格のようだ。
「これは娘を捕まえてくれたお礼。」
リェールさんは唇に手を当てると俺に向かって投げキッスをしてくる。
いったい何だろうか。
確かに美人だけど相手のいる人間に欲情するような趣味はないぞ。
「祝福を三つも持っているのなら必要ないと思うけど、おまけだと思って。」
「あ、ありがとうございます。」
いったい何を貰ったんだろうか。
さっぱりわからん。
リェールさんは先ほどと同様に手を振りながら今度こそ姿を消した。
「何だったんでしょう。」
「そっか、シュウちゃんにはわからないんだ。」
「何か頂いたんですか?」
「うん、すっごいもの、貰ったんだよ?」
「ドラゴンにまで認められるなんて流石イナバ様ですね!」
大興奮のルシウス君に嬉しそうなディーちゃん。
そしてうんうんとうなずくだけで答えを教えてくれないドリちゃん。
おーい、自己完結しないで教えておくれー。
「まぁまぁ悪い物じゃないから、それよりも上で奥さん達待ってるんじゃないの?早く行ってあげないと。」
「そうでした!明かりが消えないうちに急いで戻ります。」
「気を付けてね、シュウちゃん。」
「またお手伝いできることがあれば遠慮なく呼んでください!次からはお手伝いできますので。」
「ありがとうみんな、それじゃあね。」
三人に手を振って急ぎダンジョンの階段へと走る。
リェールさんの残した光はだんだんと力を失い、しばらくすればダンジョンは再び闇に閉ざされるだろう。
それまでに何とか皆のいる所まで向かわないと。
最初はどうなることかと思ったけど、これにて無事に解決できたのかな?
地上に戻ったら戻ったでダンジョンの掃除やら再配置やらで大急ぎだろうけど、今は権限が戻ったことを素直に喜ぶとしよう。
冬も次節で終わり、冬が終わればまた季節が変わり春が訪れる。
この世界に来て一年。
まだまだやることは盛りだくさんだ。
頑張ろう。
グッとガッツポーズをして、俺は皆の待つ十九階層へと向かう階段に飛び込んだのだった。
いや、敵ながらよく頑張った方だと思う。
俺にしかわからないであろう問題に果敢に挑んだ挑戦者をほめてあげたいです。
なんてインタビューで答えてしまいそうなぐらいによく戦った。
「私が、フォレストドラゴンであるこの私が負けるなんて・・・。」
「まだ勉強中の身なんだから仕方ないよ。」
「それでも憎らしい人間に負けたのよ?この私が!」
「相手がシュウちゃんだもん、仕方ないよ。」
悔しさで涙を流す姿には申し訳ない気もするが、それでも負けられないのは俺も同じだった。
勝てばダンジョンの権限が戻ってくる。
でも負ければ、全てが水の泡だ。
ここまで頑張ってきたのも、死にかけたのも全てなかったことになってしまう。
この一年弱、がむしゃらにみんなで頑張ってきた結晶であるこのダンジョンを手放すことなんて、俺には絶対にできない。
負けられない戦いがここにある。
いや、あった。
「仕方ないって言うけど、そもそもこいつは何者なのよ!」
「何者と言われましてもイナバ様はただの人間、になるのでしょうか。」
「そりゃあ勉強不足かもしれないけど、それでも私がただの人間に負けただなんて信じられるとおもう?」
「でも事実負けちゃったもんね。」
「うん。」
あ、あの勝者が言うのも何なんですがもう少し敗者をいたわってあげてですね・・・。
相変らず容赦ないなこの二人は。
その点ルシウス君は一応言葉を選んでいるようだけど・・・。
「ともかく、イナバ様が勝利されたのです約束は守って頂けますよね?」
あ、そうでもなかった。
ズバッと現実を突きつけて話を先に進めようとしている。
いや、このままだと上の二人が話をこじらせるので強制的に話を区切ろうとしたのかもしれない。
さすがルシウス君、出来る子だ。
「仕方ないわね。ママの悔しそうな顔が見れないのは残念だけど、約束を守らないのは私の信条に反するわ。ちょっと待って、今出すから。」
え、今出すの?
あれって結構おっきかったけど、どうやって?
ってか、普通に考えてその体の中に収まる大きさじゃなかったよね?
ま、まさか某大魔王みたいに吐き出すっていうんじゃ・・・。
なんてことを思ったのもつかの間、ズズンという大きな揺れがダンジョンを襲った。
全身が揺られ、慌ててバランスをとってしまうそれぐらい大きな揺れだ。
地震大国の住民が思わず身構えてしまう震度5以上な感じだろうか。
あれだよな、震度5ってかなりすごい地震なのにそれに慣れすぎて最近じゃ弱いように感じるけど本当はすごい地震なんだよな。
ってそうじゃない。
揺れが収まったと同時に今度は土煙が俺を襲う。
元々暗かったダンジョンがさらに暗くなり、指先すら見えなくなったしまった。
慌てて周りを見渡すもドリちゃん達の姿は見えない。
仕方ない土煙が収まるのを待って・・・。
と、見えないはずの正面。
ちょうどドラゴン娘のいた方向から明らかにさっきと違う圧力を感じた。
威圧感とかそういうんじゃない。
なんていうか、圧迫感?
空間が何かに占領されたような閉塞感のようなものが襲ってきた。
「シュウちゃん大丈夫?」
「大丈夫だけどいったい何がどうなったのか・・・。」
「えっとね、大きいだけだから、気にしないでね。」
「大きいとか言わないでよ!気にしてるんだから。」
「あ、気にしてたんだごめんね。」
「これでも貴女達よりも上の存在なのよ?もう少し敬うとかそういう気は起きないの?」
土煙が少しずつおさまり、暗い中でもある程度見えるようになってきた。
左前にドリちゃんとディーちゃん。
右前にルシウス君がいる。
そして、目の前には・・・。
「ドラ・・・ゴン?」
「そうよ。え、本当に信じてなかったの?」
ゲームや漫画ラノベも含め数々の作品の中で登場する偉大な存在。
竜とかドラゴンとか色々な言われ方をするんだけど、中国式と西洋式で元になった動物が違うんだよね。
確か前者が魚とか水神関係で、後者がトカゲだっけ。
どちらも種類は多いけどアジアンテイストの方は全体的に長いイメージだ。
ちなみに俺の目の前にいるのはもちろん西洋式。
暗闇の中に見える姿は何度もゲームで見た姿と同じだ。
「か、かっこいい・・・。」
「ちょっと、女の子に向かってカッコいいはないんじゃない?まぁ私の姿に見惚れてるのはわかるけどさ。」
「あ、ごめん。」
「だから敬語はどうしたのって言ってるのよ!」
ドラゴンが暴れる度にダンジョンがズンズンと揺れる。
でも何だろう、四足のドラゴンが目の前で地団駄踏むのってちょっと新鮮だなぁ。
「ほらほら、あんまり暴れるとダンジョンが壊れちゃうよ。」
「そんなに重くないわよ、失礼ね。」
「じゃあ、ペッ、しよっか。」
「子供じゃないんだからそんな言い方しないで!まったく、貴女達がそんなんだから人間になめられるのよ。」
「シュウちゃん、舐めるの?」
「舐めませんよ?」
「そう、残念。」
残念ってなにが?
一体何と勘違いしているんでしょうか。
ディーちゃんの発言には毎回どきっとさせられる。
とりあえずこのドラゴンが先ほどのドラゴン娘であることは分かった。
身体の割に出てくる声はさっきと変わらないんだから不思議だなぁ。
「そんなの念話で話しかけてるんだから当然でしょ?」
「え、そうなの?」
「当たり前じゃない。この大きな口でこんなにペラペラしゃべれると思ってるの?舌噛むじゃない。」
やっぱりそうなのか。
いや、口元の動きの割には言葉が流暢だなって思ったんだけどやっぱりそうなのね。
納得しました。
「それじゃあ返すわね。」
そう言うとドラゴンが少しだけ身震いし口から小さな塊を吐き出した。
それをディーちゃんが出した水塊で受け止めそれがフヨフヨと俺の手元まで降りてくる。
パチンとシャボン玉がはじけるように塊が壊れたかと思うと、大量の水と共にオーブが手の上に落ちてきた。
ズシリとした重さに慌てて抱き留める。
ふぅ、危なかった。
ここまでやっといて落として割りましたじゃ目も当てられない。
「これで返したからね。」
「はい、確かに。」
「返したんだからこの話はもうおしまい、この私が人間に負けただなんてママにチクったらただじゃおかないんだから。」
「私達は何も言わないよ、ねぇディーちゃん。」
「うん。ルシ君も言わないよね?」
「はい、僕達は何も言いません。」
なんでそこだけ強調するんだろうか。
まぁ、俺はこれさえ戻って来れば何の文句もない。
後は台座に戻してあげれば権限が復活する・・・はずだ。
「そう言えばドラゴンなのに火を噴かないんですね。」
「私は全知全能のフォレストドラゴンよ?なんであんな野蛮な奴らと同じことしなきゃいけないのよ。」
「じゃあ他のドラゴンなら火を噴くとか?」
「うーん、全部が全部火を噴くわけじゃないのよ?青竜や土龍はそもそも火を吐かないし、貴方の世界で言うワイバーンという種類もあぁ見えて火は吐かないわね。むしろ火を吐くのって火龍や赤龍だけなんじゃないかしら。」
俺の質問に答えたのは目の前にいるドラゴン・・・ではなく、何故か後ろから聞こえてきた声だった。
慌てて後ろを振り返ると、そこにいたのは俺と同い年ぐらいの女性。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる感じ、まるでエミリアとセレンさんを足して割ったような感じだ。
顔は美人だけど美人過ぎず、髪は肩口ぐらいまで。
うーん、黒髪っていうよりも深い別の色っぽいが暗くてよくわからない。
そしてなにより左目の下にある黒子が何とも言えない。
泣き黒子っていうんだっけ?
ちょっとエロティックな感じがするんだよなぁ。
「あら、そんなに褒めてもらえるなんて光栄だわ。せっかく娘がお世話になったんだからちゃんと御挨拶しないとダメよね。」
そう言いながら女性が右手を頭上に掲げると指先から白い光の玉が射出され、天井でパンとはじけた。
それと同時に暗闇で包まれていた最下層が光に溢れる。
あれだ、前にエミリアの使った明かりの魔法だ。
いや、あれ以上の明るさだな。
よく見ると女性の髪は深い緑色をしていた。
うん、益々好みだ。
っと、あくまでもこれは好みの問題であって浮気とかじゃないのであしからず。
「好みだなんて嬉しいわ。だけど私には心に決めた人がいるの、ごめんなさいね。」
「ママ!どうしてここに?」
「ママ?ってことはこの人はもしかして・・・。」
「お初にお目にかかります、私はリェース。フォレストドラゴンと言えばお分かりいただけるかしら。」
ってここでまさかのご本人登場ですか!
どうしよう正体を知ったのに見た目が普通だからか感動とかそう言うのが一切ない。
こんなこと言うとフェリス様に怒られるんだろうけど・・・。
「どうして?どうしてここにママがいるのよ!?」
「どうしても何も私はずっとここに居ましたよ?シルエがそのオーブを食べた時からずっと。」
「それ最初からじゃない!じゃあずっと見てたの?」
「もちろん。シルエがここで何をして何を言ったのかも全部見ていました。私の悔しそうな顔が見たいんですってね?でも、あれっぽっちの問題も答えられないようじゃまだまだよ。」
マジか。
あの50問全部聞かれてたのか。
やばい、自分にしかわからない知識でマウントを取りに行ったところを全部見られたなんて。
こ、殺されないだろうか。
ここは先手必勝、元の世界でお馴染みのジャンピング土下座で許しを請うしか・・・!
「す、すみませんあのような問題で大人げなく娘さんを言い負かしてしまいまして・・・。」
「あら、謝る必要なんてないわ。あの子が真剣勝負を挑んできたんですものそれを負かすのも大人の立派な仕事だと理解しています。むしろ、あの子に現実を見せるいい機会になったとお礼を言わなきゃいけないかしら。」
「そんな、恐縮です。」
「ちょっと、なんで私には普通だったのにママには敬語なのよ!」
「シルエ、口の利き方には気をつけなさいと教えなかったかしら?貴女はこの人に負けたのよ?どうして敗者が勝者に偉そうなのかしら。」
「だってそれは・・・!」
「なぁに?人間だからって甘く見てると痛い目見るわよ?まぁ、私もその人間にコロッとやられちゃったわけだけど。聞いてくださる?あの人ったら今度私と一緒に旅行に行きたいなんて言ってくださるのよ?こんな1000年も生きたおばさん相手に、なんだか恥ずかしいわ。ねぇ、私みたいなのが横を歩いて迷惑じゃないかしら。」
あの話の流れから唐突に惚気が始まってしまった。
1000年以上生きるすごいドラゴンに惚れられるってどんな凄い人間なんだろうか。
やっぱり勇者って奴ですか?
でも300年は出現していないって聞いてるけど、どうなんだろう。
「十分お美しいですから問題ないと思います。むしろ、男として嬉しいといいますか何と言いますか・・・。」
「そう、よかった。恋は盲目っていうのかしら?あの人私のことになると周りが見えなくなっちゃうから、でも第三者の意見が聞けて安心した。ありがとう、イナバシュウイチさん。」
「どうして名前を?」
「そりゃぁもう、この子達から聞かされていますから。今回もわがまま言ったみたいで、後できつく言っておきますから。」
「そんな、三人にはいつもお世話になっています。どうか叱らないで上げてください。」
「ですって、よかったわね。」
後ろで俺たちのやり取りを聞いていた三人がホッと息を吐くのが分かった。
あの三人でも緊張するぐらいの相手なんだよな。
フォレストドラゴン。
普段は聖域にいて人の目に触れることのない伝説の存在。
そういう意味では精霊も普段人前に姿を現さないんだけど・・・、まぁこの三人に関しては普通とちょっと違うという事で。
「えへへ、シュウちゃんありがとう。」
「こちらこそどうもありがとう。おかげでダンジョンを元通りにできそうだよ。」
「それも全部シルエが食べてしまったからよね?本当にごめんなさい。」
「あ、いえそれは・・・。」
「さぁ、シルエ。お勉強をさぼって逃げ出した件も含めてたっぷりとお話しましょうか。」
今目が光った。
間違いなく光った。
顔はニコニコと笑っているのに、目だけは笑っていない。
その目に睨まれてドラゴンの姿のまま震えがっている。
「い、いやよ!私は帰らない!ずっとここにいるんだから!」
「何を言っているの、フォレストドラゴンとして知識で負けるなんてあってはならないこと。これも全部貴女が勉強しなかったのが原因でしょ?」
「そ、そうだけど・・・。」
「立派に私の跡を継いでもらわないと困るんだから。さぁ、帰るわよ。」
「ちょ、ちょっと誰か!ねぇ助けてよ!」
巨大なドラゴンがイヤイヤと首を振りながら後ずさりをする。
こんな光景二度と拝むことはないだろう。
っていうかドラゴンにまた会うとか考えたくない。
「観念して帰った方がいいとおもうなー。」
「今ならきっと、許してもらえると思うの、たぶん・・・。」
「が、頑張ってください。」
「この薄情者ー!」
そう叫ぶと再び土煙が上がり巨大なドラゴンはドラゴン娘へと姿を変えて逃げ出そうとする。
だが目にもとまらぬ速さで母親がその首根っこをつかんで離さなかった。
「お願いママ許して!」
「ダメです。シルエが言うことを聞いてくれないからあの人とのデートに着ていく服を悩む時間が無くなってしまったわ。・・・覚悟してね?」
「うわぁぁぁぁん!!」
打ち上げられた光がだんだん消えていく。
深くなる闇に紛れるように親子の姿も見えなくなっていった。
もうドラゴン娘の泣き声も聞こえない。
静寂に包まれたダンジョン。
「はぁ・・・。」
怒涛の展開に思わず大きなため息が漏れてしまった。
「お疲れ、シュウちゃん。」
「緊張したの?」
「そりゃあ緊張するよ。」
「きつく言っておくって言われた時どうしようって思ってしまいました。」
「みんなもやっぱり緊張するの?」
「えへへ、だって私のお母さんみたいなものだもん。緊張するよ。」
そうか、森の精霊だからか。
ドリちゃんの言葉に共感するように二人もうんうんと頷いている。
まぁ色々とあるんだろう。
「さてっと、上で皆が待ってるし急いで終わらせないと。」
ドリちゃん達のお願いは達した。
後は本来の目的を達成すれば終了だ。
「これをどうするの?」
「確か部屋の真ん中にある台座にあったはずなんだけど・・・。」
光の魔法が消え、あたりは真っ暗になってしまい真ん中がどこかわからなくなってしまった。
「もしかしてあれの事ですか?」
と、思っていたら暗闇の向こうからルシウス君の声が聞こえてくる。
さすが、できる子!
声のする方へと走っていくと、見覚えのある台座がぽつんとたたずんでいた。
「これだよ、有難う。」
「ねぇ、見ててもいい?」
「いいけど面白い物じゃないかもよ?」
「いいの。」
まぁそれならいいけど・・・。
三人に見守られながらオーブを台座へと戻してみる。
すると、置いた瞬間に真っ赤に光ったかと思うと黄色や緑など様々な色に変化をしていき、そしていつもの青色へと落ち着いてくれた。
ふぅ、これでオッケーかな?
「終わりですか?」
「多分ね。」
オーブは戻したしこれでいいはずなんだけど、何か確認できることはないだろうか・・・ってそうだ!
俺は再びオーブの上に手を置き、例の部屋へ入れるよう意識を集中する。
すると、部屋のどこかでゴゴゴゴという響く音が聞こえてきた。
よし、あの部屋が開いたってことは権限は戻っているってことだ。
よかった安心した。
「ねぇ今のはなに?」
「ちょっと確認をね。さて、権限も戻ったしこれで全部完了かな。」
「お忙しいのにお手伝いいただきありがとうございました。」
「本当にありがとう!」
「お礼、しなくちゃいけないね。」
あー、そういえばそうだったね。
お願いをかなえたらお礼を貰う。
それが精霊のお願いを聞くという事だ。
と言われても何かしてもらいたいことがあるわけでもなく、急に思いつくことも無い。
はてさて困ったぞ。
「とりあえずそれは上に戻ってからかな。ゆっくり考えてもいい?」
「もちろん!何だって聞いちゃうよ!」
「できれば冬のうちに願いします、暖かくなると力が弱まっちゃうので・・・。」
あぁそうか、ルシウス君は雪の妖精だもんな、暖かいのは苦手か。
「大丈夫、その分私が、頑張るから。」
「じゃあ帰ろうか。」
さぁ、帰ろう!そう意気込んだその時だった。
最下層が再びパッと明るくなり、リェールさんが再び現れた。
どうしたんだろう。
「そうそう、一つ言い忘れてたの。」
「なんでしょうか。」
「さっきシルエに聞いていた質問だけどね、集団暴走の原因は私達にもわからないの、それと精霊になる妖精の選別は好みによるものが多いかしら、あと、魔法が使えないのは貴方が魔力の少ない世界で生まれているから。これでいいかしら。」
「それを言うために戻ってきてくださったんですか?」
「娘の尻ぬぐいをするのも母親の仕事、それと知らなかったで済ませるのはフォレストドラゴンとして許せなかったから、かな?」
「大変参考になりました、有難うございました。」
「また聞きたいことがあったら遠慮なくおっしゃいなさい、貴方あの人によく似た雰囲気がするから嫌いじゃないわよ。」
そ、それは喜んでいいんだろうか。
じゃあね、と手を振って再びリェールさんは姿を消した。
そうか、魔法はやっぱり難しいのか。
嬉しいような残念なような・・・。
でもまぁそれが分かっただけでもよしとするか。
「あ、それとね!」
ってまたまた姿を現すリェールさん。
どうやらかなりそそっかしい性格のようだ。
「これは娘を捕まえてくれたお礼。」
リェールさんは唇に手を当てると俺に向かって投げキッスをしてくる。
いったい何だろうか。
確かに美人だけど相手のいる人間に欲情するような趣味はないぞ。
「祝福を三つも持っているのなら必要ないと思うけど、おまけだと思って。」
「あ、ありがとうございます。」
いったい何を貰ったんだろうか。
さっぱりわからん。
リェールさんは先ほどと同様に手を振りながら今度こそ姿を消した。
「何だったんでしょう。」
「そっか、シュウちゃんにはわからないんだ。」
「何か頂いたんですか?」
「うん、すっごいもの、貰ったんだよ?」
「ドラゴンにまで認められるなんて流石イナバ様ですね!」
大興奮のルシウス君に嬉しそうなディーちゃん。
そしてうんうんとうなずくだけで答えを教えてくれないドリちゃん。
おーい、自己完結しないで教えておくれー。
「まぁまぁ悪い物じゃないから、それよりも上で奥さん達待ってるんじゃないの?早く行ってあげないと。」
「そうでした!明かりが消えないうちに急いで戻ります。」
「気を付けてね、シュウちゃん。」
「またお手伝いできることがあれば遠慮なく呼んでください!次からはお手伝いできますので。」
「ありがとうみんな、それじゃあね。」
三人に手を振って急ぎダンジョンの階段へと走る。
リェールさんの残した光はだんだんと力を失い、しばらくすればダンジョンは再び闇に閉ざされるだろう。
それまでに何とか皆のいる所まで向かわないと。
最初はどうなることかと思ったけど、これにて無事に解決できたのかな?
地上に戻ったら戻ったでダンジョンの掃除やら再配置やらで大急ぎだろうけど、今は権限が戻ったことを素直に喜ぶとしよう。
冬も次節で終わり、冬が終わればまた季節が変わり春が訪れる。
この世界に来て一年。
まだまだやることは盛りだくさんだ。
頑張ろう。
グッとガッツポーズをして、俺は皆の待つ十九階層へと向かう階段に飛び込んだのだった。
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